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2020年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

新型コロナ・ウイルスの感染爆発。そして、世界各国における長期間のロック・ダウン。まさに、未曾有の事態が立て続けに起きた2020年。こうした厳しい現実の中で、衣食住に与さない「音楽」は、その在り方をシビアに問われることになった。

それでも、いつものように、いや、いつも以上に、アーティストたちは新しい作品を次々と生み出し、そして僕たちリスナーはそれを強く求めた。このステイホーム期間中に、より深く「音楽」と向き合うようになったという人も多いかもしれない。

コロナ禍だからこそ生まれた作品もあれば、特に上半期の作品の多くがそうであるように、コロナの影響を受けていない(背景として設定されていない)作品もある。その意味で、2021年こそが、ポップ・ミュージック史における「ウィズ・コロナ時代」の真の幕開けになる、とも言えるだろう。

今回は、時代の転換点である2020年の洋楽の中から、 僕が特に心を震わせられた10曲をランキング形式で紹介していきたい。このリストが、あなたが新しい音楽と出会うきっかけとなったら嬉しい。


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【10位】
The Plan/Travis Scott

ポップ・ミュージック・シーンの覇権を握るトラヴィス・スコットと、現行の映画界において唯一無二の存在となったクリストファー・ノーラン監督。映画『TENET/テネット』を通して、両者による破格級のコラボレーションが実現した事実に、ただただ圧倒された。不穏な「未知性」を帯びた楽曲それ自体も、やはり非の打ち所がない。また、《Last time I live reverse》など、映画の物語を象徴する要素が全編にわたって散りばめられており、「主題歌」としての完成度の高さも卓越していると言える。


【9位】
The Steps/Haim

現行のポップ・ミュージック・シーンを俯瞰して見ると、ポジティブな意味で、ジャンルや国境をはじめとする様々な壁が無化されつつある。その中でも特筆すべきは、ジェンダーの壁が無効化され始めていることで、2010年代から「女性」であることに強い自覚と覚悟を持ちながら、そのエンパワーメントのために活動を続けてきたハイムの努力が、新作アルバム『Woman In Music Pt. Ⅲ』において一つの結実を見せていると言える。2020年代という新たなディケイドが、アーティストにとってもリスナーにとっても、本当の意味でニュートラルでフラットな時代になることを信じたい。


【8位】
Describe/Perfume Genius

2010年代、作品を重ねるごとに、自らのセクシャル・マイノリティとしての本心を、少しずつ世に打ち明け続けてきたパフューム・ジーニアス。ついに時代が追いついた、とも言うべきか、新作『Set My Heart On Fire Immediately』(今すぐ、私の心に火をつけて)は、鮮やかな解放感に満ちた傑作であった。それまでのインディー・ポップという既存のジャンルには収まりきらないほどの多様な音楽的要素を内包していて、それはそのまま、彼の押さえきれないエモーションの高まりを表しているのだと思う。グランジ/シューゲイザーの前半から、アンビエントな後半へと展開する冒険作"Describe"は、その中でも特に象徴的な一曲であった。


【7位】
Can I Believe You/Fleet Foxes

崖から大海へ。新作アルバム『Shore』のジャケットが示しているように、とてつもないスケール感を誇る作品である。祝祭的なコーラスワークは、世の中の閉塞感に立ち向かう「覚悟」と、そして同時に、穏やかで安らかな未来へ向けた「祈り」を表しているようだ。コロナ禍において一つの共通フォーマットと化したフォーク・ミュージックとの親和性も相まって、この2020年に鳴るべき確かな必然が、全編から感じ取れる。2010年代に隆盛を見せたUSインディーシーンにとって、次のディケイドへの橋渡しを果たす作品になると思う。


【6位】
Video Game/Sufjan Stevens

2020年、何重もの意味で「分断」が進んだ「アメリカ」への失望、幻滅、諦念。長いキャリアを通して自国について歌い続けてきたスフィアンは、今、憂うことを超えて、怒っている。新作『The Ascension』は、静かに、しかし確かに、彼の切実な激情を迸らせる作品だったように思う。極めてパーソナルなフォーク・ミュージックから、一気にエレクトロ・ポップへと舵を切った彼の決断は、こうした背景を踏まえると、とても重い。よく「音楽は時代を映す鏡である」と言われるが、その意味で彼の音楽は信頼に値する。


【5位】
Care/Beabadoobee

まさに新時代のロック・プリンセス。Tik Tokをきっかけに、一気にシーン最前線へ躍り出た彼女は、まだ20歳を迎えたばかりだ。1stアルバム『Fake It Flowers』の楽曲は、語弊を恐れずに言えば、まさに90年代のグランジ/オルタナ直系のサウンドデザインそのもの。このローファイ&ノイジーな音像は、何周かまわって逆に新鮮であるが、だからこそビーバドゥービーの鮮烈な登場は、ロック黄金期の再来を思わせてくれる。事実、イギリスの音楽シーンでは、少しずつロックバンドの復権が進んでおり、彼女がその騎手としてこのムーブメントを牽引していくことを期待したい。


【4位】
Swill/Jonsi

シガー・ロスのフロントマン・ヨンシーによる、10年ぶり2作目のソロ作『Shiver』が素晴らしい。前作『Go』は、カラフルな躍動感に満ちたポップ・アルバムであったが、対照的に今作は、本来のシガー・ロスの音楽スタイルに接近している。(2013年以降、シガー・ロスは新作スタジオアルバムを発表していないことを踏まえると、今作をバンドの一つの新作と位置付けることもできるかもしれない。)鳥肌が立つほどに美しくて、言葉を失うほどに広大、そうした音像風景の極北へと誘われるかのような音楽体験は、もはや、ヨンシーにしか描けないものだ。


【3位】
Before/James Blake

10年近くにわたってブレイクの音楽的変革を追い続けている僕にとって、彼の新作はいつだって最高の驚きをもたらしてくれるけれど、今年リリースされたEP『Before』は特に凄かった。タイトル曲"Before"は、音響的な意匠が細部まで施されていて、同時に、クラブ・ミュージックとしての高揚感もある。長い音楽的旅路を経て、彼がここに回帰してきた感動も大きい。ちなみに、年の瀬にリリースされたばかりのカバーアルバム『Covers』も素晴らしくて、彼が丁寧に育んできた「歌心」の本質に、ダイレクトに触れられる仕上がりになっている。


【2位】
exile(feat. Bon Iver)/Taylor Swift

2020年、ロック・ダウンの影響をダイレクトに受けた作品が数々リリースされたが、その中でも、最も象徴的な役割を担ったのが、彼女の新作『folklore』だ。ポップ・ミュージック界の頂点に君臨しながらクリティカルヒットを放ち続ける彼女が、今回タッグを組んだのは、ザ・ナショナルのアーロン・デスナー。今作において実現した「USインディー」との見事なマリアージュは、時代の歌姫としてシーンの中心で闘い続けてきた彼女が、ついに至った静謐な新境地だ。「自分語り」から解放され、より自由な表現の形を手に入れた彼女は、立て続けに姉妹作『evermore』を世に送り出した。時代の変化を追い風としながら、自ら変化し続けることができるポップ・スターは、強い。


【1位】
Me & You Together Song/The 1975

これまでThe 1975は、ロックバンドの形態を保ちながら、「ロック」と慎重に距離をとってきた。今年リリースされた新作において、その批評的なスタンスが失われたわけではないし、全22曲にわたって多様な音楽ジャンルを意欲的に往来しているが、その中でも、衒いなく「ロック」を鳴らすこの曲に、僕は強く心を震わせられた。この曲の歌詞に耳を傾ければ分かるが、ここで歌われているのは「青春」の輝きである。世の中に目を向ければ、告発すべき社会的なイシューで満ち溢れているし、事実、今回の新作にはそうしたテーマの楽曲も多い。しかし、「青春」の輝きを「ロック」と重ね合わせたこの曲は、混迷の2020年を生きる僕たちの日々のリアルを、まるで、絶対的に肯定してくれているかのようである。The 1975は、やっぱり最高のロックバンドだ。


2020年、僕の心を震わせた「洋楽」ベスト10

【1位】Me & You Together Song/The 1975
【2位】exile(feat. Bon Iver)/Taylor Swift
【3位】Before/James Blake
【4位】Swill/Jonsi
【5位】Care/Beabadoobee
【6位】Video Game/Sufjan Stevens
【7位】Can I Believe You/Fleet Foxes
【8位】Describe/Perfume Genius
【9位】The Steps/Haim
【10位】The Plan/Travis Scott



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