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【月刊ポップ・カルチャーの未来から/24年3月号】 得意分野を越えて、新しい世界に足を踏み出し続ける。

いつもは記事の中に書くことのない「自分のこと」について綴る月次連載「月刊ポップ・カルチャーの未来から」。昨年4月に始めまして、音楽ライター・映画ライターとして活動する日々の中で考えていることをその時々ごとに綴り続けて、今回で12回目となります。無事に丸一年続けることができました。いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。先日、「月刊ポップ・カルチャーの未来から」のマガジンを作りましたので、過去回をチェックする際はぜひご活用ください。

ライターの仕事をしていると、今まで知らなかったことを知る経験、今まで足を踏み入れたことのなかった世界に飛び込む経験をたくさん積み重ねることができます。もちろん、僕には僕の得意分野や専門領域があって、基本的には、僕に仕事を依頼してくださる方々はそれを踏まえた上で声をかけてくださることが多いです。だからこそ、ライターとして活動する上では自分の得意分野や専門領域を対外的にアピールすることがとても重要で、僕は、ポートフォリオとして執筆実績をまとめてX(Twitter)やnoteのトップに固定したり、その時々で興味を持っていることや関心があることをXや Instagramで発信したりしています。ただ、時には、僕の得意分野や興味関心を持つ領域以外の案件を依頼して頂くこともあります。僕は、こういう時こそ自分の視界を広めたり視座を高めたりするチャンスだと思っています。

予め僕なりにリサーチをして、自分が依頼者の期待に応えられそうであれば積極的に引き受けるようにしています。例えば、音楽ライターの仕事で言うと、今まで一度も楽曲を聴いたりライブを観たりしたことのなかったアーティストの案件です。その中にもいくつかパターンがあって、まず、これまで自分が積み重ねてきた経験や深めてきた知識を応用することで対応できる案件があります。例えばバンドの場合、バンドシーン全体の潮流や各ジャンルの界隈の動きを押さえていれば、比較的スムーズにキャッチアップできることができます。もちろんそのためには、毎日のように変容し続けるシーンの最前線の動きを正確に捉えるべく日々インプットし続ける必要があります。一方で、全く知らない世界に足を踏み出さないといけない案件もあります。ゼロからインプットをする必要があるため少しタフではありますが、その分自分の世界が広がることが多く、とてもライター冥利に尽きます。

例えば、初めてライブを観るアーティストのライブ会場に足を踏み入れた時、その会場に集まった観客の熱量に驚かされたり、また、実際にライブを観て、アーティストと観客の絆・信頼関係の深さに胸を打たれることがあります。それまで僕が知らなかっただけ、と言えばそれまでの話なのですが、そうした気付きや発見があるたびに否応もなく胸が熱くなります。すごいありきたりな言葉ですが、「音楽ってすごい!」と毎回ピュアな気持ちが込み上げてきます。そして、シーンの最前線を自分なりに必死に追いかけ続けていたつもりの僕の視野はまだまだ狭かったのだと痛感します。また、事前に情報を集めた上で最大限に理解度を深めてライブに臨んでも、実際のライブを観ることで、そのアーティストに対する印象が大きくひっくり返ることも非常に多いです。僕は前職で、「アーティストの本質はライブに宿る」と教わってきましたが、改めてそう強く思います。

こうした経験を積み重ねるたびに、もっともっといろいろなアーティストのことを知りたい、ライブを観たい、インタビューしたい、という気持ちが湧いてきます。ライターの仕事やメディアの仕事をしている人以外のほとんどの方たちは、基本的に、自分が好きな音楽を、自分が好きなタイミングで、自分の好きなペースで楽しんでいると思いますし、それこそが健全なカルチャーの楽しみ方だと思います。ただ、ライターの業のようなものなのか、僕は、少し世界が広がるたびにその先の世界をもっと見てみたいと思ってしまいます。いろいろなアーティストの創作やライブ活動に触れるたびに、自分の中の世界が広がっていく。そのプロセスを経ることによって、自分の中の点と点が線として繋がったり、一つの対象を相対化した上で多角的に見たりすることができるようになります。その積み重ねによって、ライターとして少しずつ成長していけるのだと思います。その意味でいうと、僕は諸先輩方と比べるとまだまだです。いつまでも瑞々しい好奇心を持ち続けたい。そして、その好奇心を大切にしながら手と足を動かして、自分の世界を広げ続けていきたい。大変なことも多いですが、そう強く思っています。

また来月!



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