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【SS小説】憧れの営業部長

営業のJ部長は、仕事もできて優しいので、男女共に後輩から慕われている。
スタイルもよく、大人の色気もある部長は妻帯者であるものの、社外問わず女性に人気があった。

そのうちの一人、入社3年目のA子に彼女の同期のY田が話しかける。

「こないだ休みの日にたまたま商業施設ででJ部長を見かけてさ、」
「へぇ、珍しいー。」
「部長の私服、超ヨレヨレなの。なんかみすぼらしいって言うかなんというか。」
「マジ?えーイメージとちがーう!」
「なんかさ、部長の奥さん、ひどいらしいよ。自分ばっかブランドものとか買うタイプなんだって。」
「えー、超ひどくなぁい?」
「朝ごはんとか作らないんだって。」
「うそー。部長かわいそーう。」
「部長が惚れて結婚したけど、何度も続くとなぁって言ってたよ。」

密かにチャンスを伺っていたA子は、このタイミングだ!私が部長を支える!と
猛アプローチを試みる。
A子は一見派手に見えるが、見た目とは裏腹に家事が得意なため、家庭的な面を見せて奮闘するものの、玉砕。

部長は言った。
「妻を愛している」と。

・服がヨレヨレなのは、休日は子供と遊ぶために汚れてもいい服を着るため
・朝ごはんはもともと食べない主義
・妻の喜ぶ顔が見たくてついプレゼントをしてしまう

ということだった。

「何だか勘違いさせてしまったようですまない。」
「…いえ、部長が心配だっただけで…。」
「君の気持ちはありがたいが妻と別れる気はないし、君とも付き合えない。すまない。」
「いえ、私の方こそ…すみません…。」
「君にはきっと他に似合う人がいるさ。」

「…はぁ。」
非常階段で夕日の沈む様子を眺めながら落ち込んだ顔のA子。
飲み物を持ったY田が声をかける。

「はい。これ。ミルクティー好きでしょ。」
「Y田くん…。ありがとう。」
「まさか部長のことを好きだったなんて。なんか、誤解させるような事しちゃってごめんな。」
「ほんとだよ!勘違いして恥かいたじゃない。」

必死に強がってみせるA子。

「悪かったよ。だからミルクティー。」
「ミルクティーじゃ足りないわよ。」
「マジかー。よしっ!パーっと飲みに行くか?」
「お肉がいい。」
「ちゃっかりしてんな。」
「うるさい。」

~~🥓🥢~~

「ふーぅ!お腹いっぱい!ご馳走さま!」
「なぁ、…俺と…付き合わないか?」
「え…?」
「実は、入社したときからずっと好きだったんだ。最初はちょっとギャルっぽいのかな?とか思ってたけど、仕事も一生懸命で本当は家庭的で素敵な子で…。
あんな年上で既婚者の部長なんかじゃなくて、俺じゃ…ダメかな?」

戸惑うA子を抱き寄せるY田。

「Y田くん…。」

Y田の耳は真っ赤だった。
A子もゆっくりと腕をまわして気持ちに答えた。

~~♥️~~

翌日。

「部長、ありがとうございました。」
「いや、こちらこそ助かったよ、Y田。ああいうタイプは対処が難しくてな。仕事してもらわにゃならんし、あんまり無下にできなくてどうしようかと思ってたけど、うまくいったな。」
「俺も告白のきっかけができてよかったッス。」
「しかし、ああいう子がタイプとはな。」
「いいじゃないスか!あいつ可愛いんスよ、昨日だって、」
「はいはい、仕事に支障がないようにしてくれよ。」
「あざっす!頑張りまっす!」

缶コーヒーで祝杯をあげる二人。
Y田はぐびぐびっと飲み干すと、

「では次、M実ですね。」

と、ゴミ箱にシュートを決める。

「おう、慎重にたのむな。」

デスクに戻る部長の背中は、Y田にはかっこよく見えた。

Y田は、今度は新入社員のM実に話しかける。
「こないだ、休みの日にJ部長の家族とBBQに行ったんだけどさ、」
「いいですね、楽しそう。」
「部長、すげー奥さんとラブラブなんだよ。ちょっとこっちが恥ずかしいくらい。」
「部長優しいですもんね。奥さまも素敵な方でしょうね。」
「凄く感じのいい人だったよ。美人だし。」
「そうですか、そりゃ部長の選ぶ方ですし、」
「君に似てたよ。」
「…え?」
「部長に『奥様、M実ちゃんに似てません?』って聞いたら、入社した時、若い頃の奥さんにそっくりで驚いたって言ってた。」
「そうなんですか?初耳です。」
「いつも、M実ちゃんが可愛くてついつい目で追っちゃうって言ってたよ。」
「え、あ、本当…ですか…。」
「げっ!やべっ。内緒にって言われてたんだ!今聞いたことは内緒ね?」
「あ、はい…わかり…ました…。」
「ん?あ!あー、ダメだよーM実ちゃん、既婚者に好意もっちゃ。」
「な、何言ってるんですか!持ってませんよ!」
「顔赤いじゃーん。」
「ち、違います!もともと赤ら顔で…!」
「ならいいけどさー。おっと、今日は早く帰らなきゃいけないんだった!んじゃお疲れー。」
「お疲れ様です。」

帰り支度をしながらM実は思う。

いいなぁ、部長とBBQ。
部長、やっぱりおうちでも優しい人なんだ。
奥さんも大事にしてて、
いいなぁ。
私と似てるんだ、奥さん、
どんな人なんだろう。
私のこと、可愛いって…

「あれ、M実さん、帰るところ?」
「ぶ、部長!お疲れ様です!はい、もう帰るところです。」
「お疲れさま。」
「…こ、このあいだ、Y田さんとBBQやったんですね。さっき、お話聞きました。」
「あぁ、そうなんだよ。最近アウトドアにはまっててね。今度の休みにも家族でキャンプに行くんだ。」
「いいですね。私も、先月友達とキャンプしたんです。」
「M実さんキャンプ女子なの?アウトドア派なんだ!よかったら今度の休み一緒にどう?」
「そ、そんな、全然初心者です。先月もやる気マンマンで行ったんですけど、結局友達に任せっきりで私は食べてばっかりで。」
「はは、最初はみんなそんなものだよ。うちもまだアタフタしながらテント立ててる。」
「ふふっ。想像したら、なんか可愛いです、部長。」
「ふふ。…そうだ、奥さんがウエアを欲しがってて買いにいこうと思ってるんだけど、なかなか一緒に行けなくてね。だからプレゼントしようと思うんだけど。」
「ステキ、優しいんですね。」
「これからアウトドアショップに買い物に行くんだけど、よかったら一緒にどうだい?見立ててくれないかな?」
「え、私でいいんですか?」
「うちの奥さん、ちょうどM実さんくらいの背丈だから参考にさせてもらえたらと思っ…その…今のセクハラ発言だね。すみません。」
「いえ、大丈夫です。」
「もし、ご迷惑でなければ。どうかな?」
「はい、私は構いませんよ。」
「ありがとう、終わったら食事ご馳走するよ。」
「い、いえ、そんな!お構い無く!」
「そんなわけにも…じゃ、次のキャンプにいいお肉持っていくよ。一緒に食べよう。君のお友達も一緒に。」
「え、でも…」
「いいところだよ。近くを小川が流れてるんだ。朝も綺麗だよ。ね。」
「…行ってみたい…です。」
「よし、決まり!スタッフさんもいるから、困ったことがあっても平気だよ。」
「そうなんですね、よ、よろしくお願いします。」

柱の影から二人の様子を伺うY田。
「ここまで完璧、流石だなー。」

~~⛺💕~~

週が明けて月曜日。
「おはようございます、部長。」
「おお、Y田おはよう。」
「どうでした?」
「無事、息子が風邪を引きまして、妻が看病、予約も約束もしちゃったから僕一人でキャンプ作戦、成功です。」
「まったくもう、流石ッスねー。」

今朝の部長は一段と爽やかにかっこよく見えた。

「あそこのキャンプ場、やっぱり思った通りよかったよ。あそこはテントの間隔が広いから、やりたい放題だったよ。」
「やりたい放題って。」
「川の音もいいし、解放感がちがうよ。いやぁ、はまりそうだな。」
「よかったッスねー。部長ホント勉強熱心スね。わざわざキャンプ覚えるなんて。」
「流行ってるからな。キャンプとサウナは押さえとかなきゃ。取引先でも話せるぞ。」
「そうですけど。すっかりお気に入りみたいですね、M実ちゃん。ずっと狙ってましたもんね。」
「ああいうのが化けるとエロいんだよ。まぁ、外でしてみたかったっていうのもあるけど。」
「はー、勉強になりやーす。」
「お前は俺みたいになるなよー。」
「なーんで奥さんと別れないんスか?」
「『既婚者だから』、モテるんだよ。」
「ひゃー、ヤな男ッスねぇ。」
「うるせっ。家族サービスもしてるわ!」

へへっと笑いながら、Y田が手帳を広げる。

「んじゃ、次は社外の…、△△商事の受付の子ッスね。U香ちゃん。」
「いや、しばらくM実と付き合うからステイだな。先に大阪支社のN本にしよう。」
「N本さんスか?部長の同期の。でもN本さんてリストに入ってましたっけ?」
「入ってないけど、何か動きがあるみたいでな。今度の出張、頼む。」
「へぇ。プランはどうします?」
「同期だから話も早いだろうし、夜早めに二人っきりにしてくれればいいよ。」
「あ、するプランなんスね。」
「ま、大人同士だし、N本も慣れてる。」
「そーなんスね!わかりました!」

ボールペンをカチカチさせながら、ニヤニヤと手帳に書き込むY田。

「仕事の方も頼むぞ、Y田。」
「うっす!」

大阪でも営業スキルを勉強しようとする、Y田なのだった。

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こんばんは、つうめです。
ご覧いただきありがとうございました!
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