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米国金融の潜在危機(1) リーマンショックに匹敵する地銀破綻とドルの力

(Yuppo)米国で相次いで地方銀行が破綻して、米国債もデフォルトか、なんて言う人もいますね。これから米国の金融はどうなるんでしょう?
(お玉)この問題、世界経済・国際政治的にこの現象を見ることが大事だと思うんだ。まず今回の破綻の規模は、3銀行合計で5352億ドル。リーマンショックでは6130億ドルだから、これに匹敵する規模になっている。

 ・シリコンバレーバンク(3月10日) 2120億ドル(2022年末資産総額)
 ・シグネチャーバンク(3月12日) 1106億ドル(2022年末資産総額)
 ・ファーストリパブリックバンク(5月1日) 2126億ドル(2022年末資産総額)

あの頃と今では、マネーの量が違う(マネーストックはリーマンショック直前の2.7倍)ので、直接的な比較はできないけれど、表経済にはまだ現れていない、大変に大きなインパクトがあると考えるのが自然だよね。

※1 米国のマネーストックの推移(https://fred.stlouisfed.org/series/M2SL より)
・リーマン前   2008.8  7兆7902億ドル
・リーマン後1年  2009.8  8兆4451億ドル
・史上MAX     2022.7 21兆7026億ドル
・直近        2023.3 20兆8411億ドル
※2 米国のマネタリーベースの推移(https://fred.stlouisfed.org/series/BOGMBASE より)
・リーマン前   2008.8      8476億ドル
・リーマン後1年  2009.8 1兆7108億ドル
・史上MAX     2021.12 6兆4131億ドル
・直近        2023.3 5兆5710億ドル

マネー供給はなぜこれほど膨大になったのか

(Yuppo)だいたい、こんなにマネーの量が増えているのはどうしてなんですか?
(お玉)そこから考えなきゃいけない。各国の中央銀行はまず、伝統的な考え方に従って、金利を下げればお金が市中に回っていくと考えて低金利政策をとった。それでもリーマンショックを抜け出すような景気浮揚効果が出なかったために、伝統的考え方では奥の手だったお金の印刷を増やす(マネタリーベースを激増させる)、という行動に出たんだよね。
(Yuppo)リーマン期に激増しているのはそういう意味だったんですね。ただ、もっと気になったのは、その後マネタリーベースは8倍増えているのに、マネーストックは3倍ほどにしか膨らんでいないんですね。
(お玉)そう、「流動性の罠」と言われる状況に入って久しいけど、中央銀行がお金を市中にばらまいても=流動性を増大させても、ゼロ金利の世界ではそれ以上金利が下がらず、市中がそれをありがたがって使ってくれない。こうなると、金融政策の効果が局限されてしまう。そこで異次元の量的緩和。主に金融市場を通じてお金がばら撒かれるが、そのお金は結局実体経済には向かわず、金融市場に回ることになり、株価や不動産やクラシックカーなどのバブルに繋がっている。私はクラシックカー好きだが、今の相場ではどうにもならんよ。。。
(Yupo)流動性の罠って、ドルや中央銀行への信用が下がっているってことの裏返しなのかもしれませんね。それでもお金を刷るのを止められないものなのかなぁ。株価や不動産バブルなら経済自体に成長期待があるから生じるんでしょうけど、クラシックカーバブルってもはや・・・ちょっとaddictiveな感じで怖いなぁ。

米ドルなぜそれでもが信用を失わないの?

(お玉)リーマン後の金融政策はパンドラの箱を開けてしまった感が強く、止めるには相当のネタが必要。米国が22年3月から金融引き締めに入ったが、これはインフレ対策という大義がある。世界中で起きているインフレの原因は、サプライチェーンの分断が主たる理由であり、低金利政策が原因ではない。それを分かっていながらも、底無しの金融緩和に終止符を打つために、インフレ悪人説にすり替えたようにも見える
(Yuppo)開けてしまった箱から厄災が飛び出す前に何とか閉めにかかったわけですね。それでもドルが暴落せず米国が息をしていられるのはなぜなんでしょう?例えば、それでも小麦とか原油とか鉄鋼といった基礎的な財を産出して、それで3億人もの人が自国通貨として米ドルで買い物してるし、それらの経済圏を世界一の武力でカバーしてるから、とか?
(お玉)それはあるかもしれないけど、このテーマになぞらえるなら他にも理由があると思う。それは今Yuppoが言ってくれたことが背景にもなって、米国債が買い支えられているからじゃないかな。米国債の発行総額は年々増えて今は約30兆ドル。その1/4の約7兆ドルを外国資本が保有している。なんだかんだ言って、米ドルはそれだけ信用されているってこと。この内1兆ドル以上・全体の約3%を保有している外国が日本だ。保有額は徐々に減少しているけど、それでも世界で一番米国債を買い支えているのが我々ってこと。

※3 米国債残高の推移
https://www.statista.com/statistics/187867/public-debt-of-the-united-states-since-1990/

これからのドルと日本(あり得るシナリオ)

(お玉)冒頭の議論にもどるけど、ドルがどうなるか?昨今の銀行破綻のあおりと折柄の流動性の罠、その時、中国元を除く、所謂主要通貨(ハードカレンシー)と呼ばれるものは、軒並み下落。でもみんな揃って下落するものだからそれに気づかないんじゃないかな。でも、他の途上国や資源を有している国の通貨(ソフトカレンシー)と比べると、先進国通貨の価値が下がっていた、といったことになるんだと思う。
(Yuppo)各国の中央銀行が軒並み同様のことをしたのだったら、発展途上国なんかとんでもないことにならないのかなと思うんですけど、途上国はどうして大丈夫なんですかね?
(お玉)大丈夫というか、経済の脆弱性からハイリスクの国からは資金逃避が起こり、まず大打撃を受ける。それでも、途上国はそもそも潜在的成長余地が大きい。先進国の景気後退のあおりを受けても回復力があって、実体経済がそれに追いついてくる。でも、基礎的な発展段階をクリアしてしまっている先進国では実体経済の成長余地が少ない。だからイノベーションをと騒ぐのだが、簡単な話ではなく、経済を牽引するほどのインパクトにはなりにくい。マネーストックとマネタリーベースに大きな差が出てしまう背景はこれで説明がつくんじゃないかな?
(Yuppo)ハードカレンシーとソフトカレンシーの格差の縮小によって、僕らには何が起きてしまうんでしょう?
(お玉)可能性の話だけど、変動相場制自体が見直され、管理相場制が復活するかもしれない。だいたい、為替相場で景気が浮沈するくらいならまだしも、食やエネルギーを海外に頼る国にとっては、下落した自国通貨で国民生活を支えることすらできなくなってしまうかも知れないしね。
(Yuppo)えっ、食やエネルギーを海外に頼る国って日本のこと!?!?

(お玉)ちょっと長いはなしになっちゃったね。この話、またやろうよ!


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