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《エピソード11・すれ違う2人と奪われる裸》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。

2人の生活。離れていく、心。

2人で始めた駆け落ちの後の生活。遠足に来たかのような楽しさもあっという間に消えてゆく。S子は鬱病を発症していた。始めた仕事を辞めてベッドから起きない日々が続いた。終わりの見えない日々に嘆くことしかなかった僕も、仕事をサボるようになった。2人の心の距離は、少しまた少しと離れていったんだ。そんな時、S子が夜の街へと繰り出してゆく。

夜に舞う蝶

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S子は仕事を辞めてからというもの、夕方まで起きてこない日々が続いた。僕は朝早く仕事に出かけて2つの仕事を掛け持ち日を跨いで帰る日々が続いた。S子はS子で、襲ってくる自己否定と絶望感と戦い、僕は僕でただただ繰り返される時間の切り売りの日々に目を塞ぎたくなっていて、S子は俯くことで、僕は無意味に空を見上げてため息をつくことでやり過ごしている。僕は

家に帰らなくなった。仕事も早く終わらせて掛け持ちもしなくなっていく。逃げたかったんだと思う。あまりにも辛くてどこにも喜びのない世界から逃げたかったんだと思う。車で過ごしたり、漫画喫茶に逃げ込んで時間を潰す日々が続く。時間を潰してから家に帰ってもS子との距離も離れていき、抱き合うことも減った。

僕たちの上の部屋には“夜の蝶“が住んでいて、かわるがわる男の人が訪問してきては、抱きしめあっていたんだと思う。繰り返し聞こえてくる女性のあえぎ声に慣れてしまうくらいだったから。S子と僕はそんな環境の中でまた、心の距離が離れていく。

S子が仕事を辞めてからどれくらい経っただろう。僕が家に帰るとS子の姿が見当たらなかった。そんな日が何日も続いて初めてその事情を僕は聞いた。

「具合はどう?最近夜いないみたいだけどどっか行ってるの?」

すぐに確認できなかったのはすれ違いを言い訳にしていたのかもしれない。一緒に住んでいるのに連絡すら取らない日々。「外に出られるならベッドで寝ているよりマシ」そう考えていた僕に、S子は普段見せない笑顔でこう言った。

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「夜、居酒屋でアルバイトすることにして働きに出てる」

鬱というものはどうやら夕方から夜にかけて元気になるらしい。夕方以降はベッドから出る。だから生活費や僕の借金のこともあって働きにでることにしたみたいだ。

「そっか。頑張ってね。」

そんな返事しかできない僕がいた。掛け持ちをしなくなっている事実を隠すことで精一杯でS子の体のことやこれからのことなんか考えられずにいた。とにかく、心の空白は自分のことで埋め尽くされていて人を思いやる気持ちとか優しさなんかも忘れていたんだ。

「あんたの優しさは、人を傷つける」

あの言葉を聞いてから優しさがなんなのかもわからなくて。ただただ状況を立ち尽くして見過ごすだけしかできない日々。答えを聞いたからって苦しさはなに1つ変わらなかった。

帰らない日々。もう一匹の蝶

居酒屋でアルバイトを始めたS子と僕は、さらにすれ違うことが増えていった。僕は昼から夜にかけて仕事に出かけ、S子は夕方から夜中にかけて仕事に出かける。もちろん、2人でどこかに出かけることや抱き合うこと、キスすることすらなくなっていった。相変わらず二階ではSEXをする2人の雑音が僕たちの部屋に響き渡っている。

S子の帰宅時間が日に日に遅くなっていったのは、あれからそう時間は経っていなかったと思う。寝ている僕はそれに気づかないくらい関心が薄れていたのかもしれないけど、いつのまにかそんな僕でも気にするくらいに帰りが遅くなっていた。日を跨ぐくらいだった時間は、明け方になりはじめる。

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いくら鈍感な僕でも、動物の本能なのか何か嫌な予感がした。なんだか体の奥深くからゾクッとする感覚だった。

「最近帰るの遅くなってきたけどどうしたの?」

離れたとはいえ一緒に住んでいる以上気にはなる。依存もある。「まさか」という疑いを少しでも早く消したくて、僕はS子にそうやって質問をした。

「居酒屋が忙しくて。最近終わるのが遅いんだよね。ごめんね」

信じたい気持ちと疑いの気持ちが僕の中でぶつかっていた。最後の「ごめんね」になにか引っかかりを感じたけどその時は信じる気持ちが勝った。勝ったと無理やり感じたんだけど。

「体、壊さないようにね」

疑った僕自身に対する後悔と、やっぱりどこかにある違和感の残像が複雑に混ざり合う心のままでまた同じような日々が繰り返された。

S子の帰りはまた遅くなった。僕の中の疑いも同じように湧き上がり、より深い疑念でS子を眺めるようになっていく。

「なんでだろう。なんでこんなに遅いんだろう」

その疑いが呆気なく正しいものに変わる出来事がまた起きたんだ。

続きはまた・・



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