ep.5 酷いヤツら。
僕には学生時代にサッカーに関わる活動で知り合った仲間がいる。もともとはBBS(年代を感じる!)での繋がりだったけれど、特に気が合ったメンツとは社会人になってからも縁が続いた。2003年か2004年だったと思うけど、この仲間で飲んだときのことだ。僕はお気に入りの写真を何枚かプリントして持参していた。S原さんに見てもらいたかったのだ。
S原さんは某大手スポーツ新聞社のエースとして、フランスと日韓のワールドカップで活躍したバリバリのプロカメラマンだ。口は悪いけれど、頭の良い人でアホな僕らとも付き合ってくれる面倒見の良い兄貴的な存在だった。
いきなり写真を出すのは恥ずかしかったから、僕はタイミングを見計らっていた。お酒もまわり、みんなの声が大きくなり始めてきた。
今だッ! 僕はS原さんの前にファイルをスッと差し出した。
「おまがえが写真とかキモいぞ! ライター志望じゃなかったっけ? S原さん、こいつの写真なんか見る価値ないっすよ」(一同爆笑)
ぐぬぬぬぬ、タイミングを完全に見誤った、、。それまで他愛のない話題で盛り上がっていたはずなのに、中田ヒデばりの察知力を発動して、速攻でチャチャを入れてきた。しかし、次の瞬間、その場が凍りつく。
「うるさい! お前ら! 黙ってろ!!」
囃し立てる野次がとぶ中、写真を見ていたS原さんの怒号が飛んだ。
「おい、たかす。これ、本当にお前が撮ったのか? 本気でやるつもりあるなら雑誌の知り合い紹介してやる」
それまでS原さんが僕にいうセリフは決まっていた。
「ホント、お前はバカだな。お前なんて◯んでしまえ」
それがS原さんの口癖だ。いつものように一笑に付して、そう言われると思っていた。この場にいた全員がそう思っていたはずだ。しかし、そのS原さんが僕を褒めている。まさかの事態にみんな凍りついてしまったのだ。
そして、感慨深げにつぶやいた。
「誰にでもひとつくらいは取り柄ってあるんだなぁ」(一同爆笑)
それにしても友人の真剣な思いを笑うとは酷いヤツらだ。
僕はこのあと少しづつ現場に出るようになる。高校サッカーを皮切りにJリーグ、フィギュアスケート、そして、セパタクロー。今の僕のキャリアはここから派生して築き上げられた。
その機会をくれたのは、他でもないこの酷いヤツらだった。この飲み会には、今の僕を支えている根っこの部分がすべて揃っていた。
あれ? なんかいい話になってる、、、悔しい///
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