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リサーチレポート作成のワナ①

最近、自分が文責者となってリサーチレポートを公表する機会があったので、棚卸の意味も込めてそこで得た学びや気付きを文字に残しておきたい。

テーマは「作成者が陥りがちなワナ」。

この記事は、今後随時追記・修正しながら完成度を高めていきたいと考えている。書いていて長くなったので、今回はリサーチ編として情報収集における「陥りがちなワナ」を中心に書き、別の機会で「レポート作成編」も書きたいと思っている。

ちなみに、公表したリサーチレポートのテーマは『ネットスーパーでの店頭/ドライブスルー受取 「Click&Collect」海外事例』。タイトルが長いが、簡単に言うと「スーパーは店内で買い物するのが当たり前の時代は終わるよ〜」ということを示唆している。興味のある方は是非、チラッと見て頂けたら嬉しいです。

ワナ1:ストーリーがない

読み手の立場に立ったレポートは、内容がスッと入っきて納得感がある。納得感のあるレポートには必ずストーリーが存在する。特に重要なのが背景や歴史などの導入部分。読者はここでつまずいてしまうと早々に離脱してしまい、一番言いたいことまで辿りつかない。

例えば、背景・歴史・現状の整理→他国・他業界の先行事例→そこから読み取れる考察→結論といったストーリーをでレポートを作るとしたら、ストーリーに沿って言いたいことを箇条書きで簡潔にまとめておく。理想はその箇条書きがそのまま各スライドのタイトルとなり、それを裏付ける「なぜ」がスライドの中身となれば良い。ストーリーがある程度できてしまえば、余計なリサーチに時間を費やす必要がなくなるり、効率がアップする。

元マッキンゼーの伊賀泰代さん著『生産性』でも、同様のことが「アウトプットイメージをもつ」という言葉でわかりやすく説明されている。

“アウトプットイメージを持たずに仕事に着手するのは、マラソンランナーが走りながらゴールを探す様なものです。ゴールの正確な位置を知らず、だいたいあっちの方向だろうと行った方向感だけで走り始めては最短ルートでゴールすることはできません”

ワナ2:とりあえずGoogle

例えば、ネットスーパーについてリサーチを開始する際、取り敢えずGoogleに「アメリカ 食品EC 市場規模」などと入れて検索する。すると、それらしいサイトや記事が幾つか出てきて、ついつい見入ってしまう。気がづくと1時間くらい経過していて「あれ、何を調べようと思っていたんだっけ?」となる。

リサーチを始める前にまずやるべきことは、PCに向かうよりも先に紙とペンを用意して、以下3点を整理する。

① そのリサーチで一番言いたい結論=仮説の明確化
② わかる範囲でテーマ周辺の背景や歴史、現状の整理
③ 仮説の裏付けとなる「なぜ」をわかる範囲で列挙

なんとなく「アメリカ 食品EC 市場規模」とGoogle検索したのは、上記の3つの中の「②現状の整理」に当てはまる。しかし、なぜその情報が必要で、どう使われるのかを掴んでいないまま現状認識をしても「で何?」となってしまう。時間に余裕があればこれでも良いのだが、限られた時間で効率的にリサーチするためには、上記の整理が欠かせない。

ワナ3:ディテールに入りすぎる

「あとこの情報さえ取れれば、この仮説を裏付けできる」という段階で、なかなか思ったようなファクトを得られずどんどんディテールにハマっていくパターン。

そうでなくても、リサーチ自体に没頭すると、ハッとして「何を調べてたんだっけ?」となることがある。それは全体感を見失っているサインであり、迷子状態。

探していた情報の重要度が全体感からするとそこまで高くないのに、変な意地が働いて時間を費やしてしまうのはもったいない。リサーチしながらも、常に全体感を見失わないこと。ある程度調べて出てこない情報は、一旦メモとして残しておき、全体構成においてどうしても欠かせない場合は時間を置いてリサーチする方が良い。その方が後でスッと良い情報に出会えたりする。

ワナ4:数字ばかり追ってしまう

リサーチをする過程では、大量の文献や記事に目を通す。効率的に進めるために必要な箇所に絞って文献を読んでいくことはとても大切。ただ、ついつい文中の数字ばかり追うようになってしまう。数字は動かぬファクトとして重要なインサイトだが、リサーチは数字だけを集めれば良いわけではない。

ある企業の戦略について調べるときなどは、その企業の経営層のインタビュー記事などから定性的な有益情報が拾えることが多い。Youtubeでインタビュー動画を見るのも良い。また、数字だけでは表せない顧客のニーズやペインの源泉を拾うために、SNSでユーザーの声を拾うのも効果的だったりする。

ワナ5:データを都合良く解釈してしまう

仮説を裏付けるファクトを探す過程で、データを都合よく解釈してしまうことがある。A=BかつB=Cであって初めてA=Cと言えるはずが、B=Cを裏付けるファクトがない or 薄いにもかかわらず、曖昧なままA=Cと断定してしまう。

こうやって文章で書くと「そんなバカなことしないよ」と思うのだが、結構ハマりがちなワナなので気をつけたい。なんでこのワナにハマるのかを考えてみると、自分が作ったストーリーを正しいと思い込んでいたり、それまで積み上げてきたリサーチがサンクコストとなるのを避けたいというエゴが働いているのだと思う。

例を挙げる。ドライブスルー型のネットスーパーで全米No.1のWalmartという大手スーパーについて調べていたときのこと。

A:WalmartのEC化率
B:上昇している
C:Walmartのネットスーパーの内、「ドライブスルー型」の売上が「配送型」に比べてどうか

A=B:WalmartのEC化率が上昇している
B=C:Walmartのネットスーパーの内、「ドライブスルー型」の売上が「配送型」に比べ上昇している

上記のA=B、B=Cが真であれば、

A=C:WalmartのEC化率上昇は「ドライブスルー型」が牽引している

これも真と言える。実際、WalmartのEC化率が上昇している(A=B)のデータは存在したが、ネットスーパーの内訳データは公表されていないので、B=Cを真ということができなかった。

その代わり、ドライブスルー型によって顧客単価が上昇したことや、新規顧客の獲得に成功したことなどの周辺情報は入手できた。これらの情報もファクトとしては十分有益なのだが、これらはB=Cを補完する情報であって、B=Cそのものを表しているわけではない。

十分な情報が得られないまま、自分の仮説が正しいと言いたいがために、「ドライブスルー型を導入したことによって、顧客単価も新規顧客も上昇しているなら、きっとWalmartのEC化率上昇はドライブスルー型のおかげだ」と断定するのはとても危険。

必ずしも仮説通りの結論を導けなかったとしても、その周辺に有益な情報が転がっているのであれば、それらをわかりやすく示してあげることでも価値は出る。危険なのは、仮説に固執して推察・考察したことを断定的に書いてしまうこと。

ワナ6:デスクトップ調査に固執してしまう

インターネットで手に入る情報は、全て二次・三次情報であることを忘れてはいけない。情報が溢れかえっている世の中で、得られたデータがファクトとして使えるものなのか、信頼できるソースなのかを判断するのは難しい。一方、自分の目で見て体験した一次情報は、それがそのまま揺るがぬ事実として認識できるので、リサーチを行う上で強力な武器となる。

例えば、最近は新型コロナウィルスの感染拡大によって非接触購買のニーズが急激に上昇している。そんな中、食品小売大手のイオンが「ドライブスルー型」のオンライン販売を開始したというニュースを出た。

そこで、実際にイオンネットスーパーで食材を注文し、ドライブスルーを体験してきた。到着から受け取りまでの所要時間わずか5分、その間に得られたインサイトは山ほどあった。自分で体験することは、一見時間も掛かるし面倒に感じられるが、得られるインサイトの量と質を考えればROIは高い。

ワナ7:出典がわからなくなってしまう

大量の文献を読んで、取り敢えずURLをコピーして貯め込んでいくと、後から振り返った時にそのURLが何なのか分からず、結局全て見返さなくてはいけないという事態に陥ることがある。これ、めちゃくちゃ時間の無駄。

また、「これどっかで読んだけど、どこだったけなー」という状態や、「あれ?どこかでは成長率10%と書いてあったのに、ここでは8%になっているな」という様に、似たような情報が複数のサイトで見られた時に混乱することもある。

URLの横にそのサイトで得られたインサイトを一言書く、参考になった部分のスクリーンショットを取ってURLと一緒に貼っておく、得られたファクトのリストを作って、その横にURLを貼っていくなど、色々とやり方はあると思う。折角時間を使って大量の情報をインプットした後、その情報がどこにあるかを探す時間は本当に勿体無いので、体系的に出典管理をできるようになると良い。

最後に、リサーチの基礎的なhowはこの記事が参考になるので一応載せておく。
http://techhack.hatenablog.jp/entry/2019/06/22/140710


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