事業開発(BizDev)は何が面白い?
所属している10Xという会社での僕の役職は「事業開発」(英語でBusiness Development、略してBizDev)だ。「なにそれ?聞いたことない」という方が多いかもしれないが、僕も入社前までその一人だった。
この仕事を入社以来4ヶ月ほど続けてきて、「そもそも事業開発ってどんな仕事か?」や「10Xの事業開発の面白さってなにか?」が少しずつわかってきたので、今回はそれらについて書こうと思う。
そもそも事業開発ってどんな仕事か
事業開発という職種の人がやることの定義は、会社や人によってまちまちだが、僕が一言で表すなら「事業を創り大きくする為になんでもする(できる)人」だと思っている。ちなみに、Googleで「事業開発」と検索すると、上位にこんな記事が出てくる。
この記事の中に出てくるBCG Digital Ventures(元メルカリ )の小野直人さんと先日お会いした際、彼は「事業開発は総合格闘技」と言っていた。この表現も僕は好きだ。
あらゆるスキルや経験を組み合わせながら、社内外のリソースを活用して事業をより速く、大きく成長させる。これが事業開発という職種のミッションであり、魅力なのだと思う。
10Xの場合は、「消費者(ユーザー)がオンラインで便利に食料品を購入できる世界を創る」というミッションを達成するために、一番の近道を探索し手段を問わず実行する、それが僕(事業開発)に求められていることである。
なんでもするとは言え、僕は10Xで何をやっているのか
僕が今主に担当している業務は、10Xが開発する「Stailer」というネットスーパーのシステムを導入するパートナー候補企業へのフロントワークだ。
「Stailer」とは、小売事業者(主に食品スーパー)が自社でシステム開発することなくネットスーパー事業を立ち上げることのできるサービスだ。小売事業者が「Stailer」を導入することで、消費者(ユーザー)が使うネットスーパーのAppやWeb、また店舗側のオペレーションで必要なあらゆる機能が揃う。
更に、ネットスーパーのサービスを向上させ、事業を成長させるために、10Xが必要なサポートを行う。その対価として、ネットスーパーの売上の一部を10Xがいただくというビジネスモデルだ。第一号案件として、6月にイトーヨーカドーのネットスーパーアプリをリリースした。
その時取り上げられた記事も載せておこう。
僕はその「Stailer」を小売事業者に導入してもらうため、リード(候補企業)を増やし、商談を重ね、契約締結までフォローする。
「なんだ、事業開発と言いつつ営業じゃん」と思った方もいるのではないかと思う。僕も最初はそう思っていた。
たしかに、今やっていることだけを切り取ると、営業っぽい仕事に見えるし、実際そういう側面もある。ただ、事業開発という仕事を知れば知るほど、営業よりも仕事の幅が広く、異なる視点持って働く面白さがあるということがわかってきた。
そんな10Xの事業開発には、大きく分けて2つの面白さがあると感じている。
面白さその① 「売らない営業をする」
ある日、面談に同席した代表の矢本から、こんなフィードバックをもらった。
赤木くんは「機能」という言葉を使うのをやめた方が良い。 「機能を作るシステム屋さん」に置き換えられて「創ったものを売って使ってもらう」という認識を与えるので。「必ず、ユーザー/御社にとっての価値は」という説明の仕方をしてください。
これはどういうことだろうか?
「Stailer」の導入を決めるのは小売事業者であり、商談に臨めば自ずと「Stailerというシステムにはこんな素晴らしい機能があって・・・」というセールストークをしてしまいがちだ。
たくさんの会社と商談を重ねていると、無意識のうちに「契約を取り付けたい」という思いが先行し、「Stailer」を導入してもらうことがゴールになってしまっていたことに気づいた。しかし、前述の通り我々のミッションは「Stailer」を多くの小売事業者に導入することではなく、オンラインで便利に食料品を購入できる世界を創ることなのだ。
「Stailer」を小売事業者に導入してもらっても、最終的にユーザーが使い続けてくれるサービスでなければ何の意味もない。つまり、商談のゴールは「Stailer」の導入ではなく、ユーザーにとって便利なサービスを一緒に作っていくという合意形成をすることなのだ。これが10Xの事業開発としては最も重要なポイントであり、システムを売ることを目的にしてはいけない。
もちろん、商談のフェーズによっては、Stailer導入によってできることを具体的にわかりやすく説明することも必要だったりする。しかし、前提としてシステムを受発注する関係ではなく、オンラインチャネルを一緒に育てるパートナーの関係であることを、常に念頭に置かなくてはいけないということを学んだ。
このミッションの現れとして、小売事業者が「Stailer」を導入する際、システムの初期セットアップに係るコストは全て10X側が負担する。従来のシステムベンダーのやり方ではあり得ないことだ。これは、10Xも小売事業者と対等な立場でリスクを背負い、事業に長期的にコミットする姿勢を理解してもらいたい狙いがある。
つまり、我々にとっては、パートナー候補企業のネットスーパー事業に対する考え方が重要となる。先方社内でネットスーパー事業に対する優先度が低かったり、長期的にデジタル化に投資していく経営方針が見えない場合、両社にとって「Stailer」の導入は進めない方が良い。
従来、小売事業者が何らかのシステムを導入する際は、ベンダーに発注するのが当たり前だった世界を少しずつほぐしながら、経営陣と深い信頼関係を構築し、長期的なゴールに向かって最適な座組みで事業を一緒に創っていきましょう、という話を進めていく。これは言うほど簡単ではなく、実際かなり難しいが、これがとても面白い。
一朝一夕では大きな会社は動かないし、こちらが一辺倒な説明をしてもダメ。先方が抱えている課題の本質に目を向けて、深く議論できる関係を築くことが求められる。
長期的に同じ目的に向かっていくためには、短期的な利益は必ずしも優先事項ではない。直近1〜2年でいくら稼ぐかを見るよりも、10年後にその事業をどうしたいかというビジョンを共有し、そこから逆算して意思決定をしている。(「これって本質的だよな、でも商社にいた時はこれができていなかったな」としみじみ思うので、それについてはまた別の機会に書きたいと思う)
面白さその② 「仕事の範囲が無限大」
2つ目はとても単純だ。我々が掲げているミッションである「消費者(ユーザー)がオンラインで便利に食料品を購入できる世界を創る」を達成するために、仕事の範囲は無限大である、ということが言いたい。
例えば「食品をオンラインで売りたいなら、自社でECサイトを立ち上げれば良いじゃないか」と思う方もいるだろう。まさに我々も同じことを考え、昨年自社でゼロからネットスーパーを立ち上げる挑戦をした。
僕は当時、少し会社を手伝わせてもらっていたのだが、ラストマイルの仕組みを学ぶために朝2時から牛乳屋さんの牛乳配達に同行したり(世の中で1時間あたりの食品配達件数が最も多いは間違いなく牛乳屋さんだ)、大田市場や豊洲市場に出向いて生鮮食品を卸してくれる業者を一つ一つあたったりした。これらもまた、事業開発の仕事だ。
残念ながら、この挑戦は失敗に終わった。「タベクル」と名付けられた自社ネットスーパー事業は、数ヶ月に及ぶ努力も虚しく、1件もオーダーが入ることなくクローズとなった。
リアル店舗を持つ小売事業者には、確立されたサプライチェーン(鮮度の良い商品が毎日確実に届く物流網を作るのはものすごく大変)があり、長い間店舗を通じて構築してきた消費者からの信頼がある。我々にはそれらがなかった。
だが、失敗の本質そこではなかった。サプライチェーンの構築が難しく、そこに気を取られ過ぎたがために「ユーザーが求めるもの」に向き合ってサービスを創るという大前提を見失ったことが本当の問題だった。
例えば「配送効率を上げるためには、対面での受渡しではなく生協のように玄関前に置配するべきだけど、ユーザーが不在の時はどうやってマンションの二重ロックを突破するか」や「冷蔵品の温度管理を確実に行うために保冷剤の質や個数はどうするか」など、オペレーションにばかり気を取られ、ユーザーが既存のネットスーパーで不便に感じていることや、生活の中で食料品を購入する際のペインポイントに向き合わずサービスを作ってしまった。本来、この「ユーザーに向き合う」は10Xが最も大切にしている価値観であるにもかかわらず、だ。
この失敗を経て、サプライチェーンや顧客からの信頼という強みをを持つ小売事業者と、元来ユーザー起点でプロダクトを創ることに強みがあり、オンラインチャネルの構築に関する技術やノウハウを持つ10Xがパートナーシップを組むことで、オンラインで便利に食料品を購入できる世界を創るというミッションを最短で達成できるのでは、という結論に至った。
だから今僕は、小売事業者とのフロントワークを担っている。今後事業のフェーズに合わせ、やるべきことは変わっていくと思う。事業の成長速度を高めるために外部との業務提携を調整したり、必要に応じて企業買収なども視野に入ってくるかもしれない。その時々で事業を成長させるために必要なことをやる、その無限大な守備範囲がとても魅力的だ。
おわりに
事業開発という仕事とその面白さについて、少しは伝わっただろうか。僕のようにインターネット業界もスタートアップ業界も経験がなく、社会人になってからずっと商社で車を売っていた人間が、ポッとTech系スタートアップで事業開発をやるのは、当然のことながら簡単ではない。
知識不足はもちろん、old Industry的な考え方が抜けないことによって、苦労することは多い。ただ、少しずつできることは増えてきている。そのスピードを絶やさず、事業の成長速度を最大化することが、いまの僕のチャレンジだ。