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【TCP一次審査分析】2022年の傾向、審査内容、二次審査へ向けて

クリエイターの「発掘と育成」を目的とした「本当に観たい映画企画」の募集から映画化までバックアップを行うコンペティション「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM(以下:TCP)」の一次審査が現在、絶賛進行中。来る二次審査を前に今回は、一次審査の中核を担っている3名の担当者の方にTCP公式ライターがインタビューを行いました。

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右から匂坂(さぎさか)さん、小林さん、北川さん
匂坂:TCP運営の全体統括
小林:TCP及びTCP作品の宣伝担当、昨年まで受賞作品の製作にも従事
北川:TCP及びTCP作品の宣伝担当、SNS運用・イベント企画運営

ー 改めましてよろしくお願い致します。今回の私のような、noteで記事のコンペを実施して「公式ライター」を選任するという試みは初めてだと聞きました。

匂坂:そうなんです。2021年度にTCPの企画募集を一旦お休みしたというのもあり、その充電期間中にどんどん新しい事にも挑戦していこう、やり方も変えて良くしていこうという事で始めた施策の1つです。審査の内容について言及するのも、実は今回が初めてになります。

ー それは楽しみです、知りたい方も多くいらっしゃると思います。早速なんですが、今年の応募数はどのくらいありましたか?

小林:企画部門、脚本部門、監督部門を合わせて571件のご応募をいただきました。内訳で言うと、4割くらいが企画部門、脚本と監督部門が3割ずつくらいです。今年は企画部門が少し多めだった印象ですね。

ー かなり多いですね。おひとりで複数の応募をされる方もいるんですか?

小林:いらっしゃいますよ。TCPでは、企画が異なれば1部門で2企画、3部門あるので最大で6企画の応募が可能です。年度によっては6企画応募される方もいます。監督部門に応募される方の中には、脚本も書けるという方が少なくないというのもありますね。

ー 確かに、映像化された作品を拝見していても”監督・脚本”でクレジットされている方が多いです。

匂坂:今でこそ、TCPの応募部門は企画・脚本・監督に分かれていますが、2018年度までは現在のような部門制ではなかったんです。けれど、受賞をされた方がたまたま監督も脚本も兼任できる方が多く、映画化の際には両方で携わっていただく機会が多かったです。

ー 応募はどういった方々がされているのでしょうか?

北川:今年も幅広い年代の方からご応募いただきまして、最年少が15歳、最年長が90歳の方です。30代の方からの応募が最も多く、男女比は、男性7割:女性3割くらい。ご応募いただく方の年齢・性別の割合は毎年大体同じくらいです。

匂坂:ご応募の割合としては少ないですが、歴代の受賞者には女性が結構多いんですよ。

ー みなさん、やはり映像関係の方が多いんですか?

小林:半分行かないくらいが、やはり業界の方です。それ以外は学生さんや主婦の方、全く違う業種の方など、かなり幅広い層からご応募いただいています。色々な方々に届いているのは、素直にとても嬉しいです。

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ー 審査について詳しくお話うかがっていければと思います。そもそもなんですが、1次審査ってどのように進められてるんですか?

小林:みなさんの企画書を、かなりの人数の担当者で見させてもらっています。しかも1回ではなく何回も何回も。審査人数はホントに多くて、3桁はいます。

匂坂:いろんな目線・角度から作品を評価したいと考えて、そのような形式をとっています。CCCグループには、書籍や音楽、もちろん映像など、様々なコンテンツの最前線に、それも日常的に触れているメンバーがたくさんいます。そういったメンバーは「お客さまがいかに楽しめるか」を普段の業務でも考えているので、お客さま目線で作品が面白いかどうかという視点を、審査に役立ててもらっています。

ー 571作品を1つ1つじっくり何回も読むとなると、審査にはかなり時間がかかりそうですね。

北川:5月末が応募締め切りだったんですが、6月と7月はずっとこの審査でした(笑)

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小林:ついこないだ読み終わったくらいなんです。時間をかけて、じっくり読ませてもらっています。

ー そういった狭き門を通過してきているからか、いま映像化されているTCP作品はどれもエッジが効いていて、物語にひと捻りあってとても面白いです。

小林:そういう風に言っていただける方が多くてとてもありがたいです。

匂坂:色んな角度から色んな人が審査しているので、やはり「面白いと思わせる何か」がある作品が次に進んでいきます。

ー 今年の応募作品の多くに共通する、何か特徴のようなものはありましたか?

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匂坂:例年、その年を象徴するような世相が反映されている作品というのは多くなる傾向にあります。今年で言うと、コロナの問題から、それを乗り越えようとする「人の思い」に触れた作品が多い印象でした。こういった特徴は例年、割としっかり出るので面白いです。

小林:難しいのは、いま現在の事をピンポイントで書いても、映画化が決定して世に出るまでに数年かかってしまうので、公開時には古くなってしまうという事です。より根源的な、普遍的な要素を作品に反映して、公開時にお客さまへちゃんとメッセージが届くようにする、という視点が大切です。世の中にどう受け入れられるかという話はとても重要なので、プロデューサー陣とも話して評価していきます。

ー 「作品自体の良さ」に加えて、それをどのように伝えるかという視点で、企画書がきれいに整っているかといった要素もやはり重要ですか?

小林:企画書に限らずなんですが、お客さまの心が掴めるかどうかが非常に大切なポイントですので、そもそも企画の意図が伝わりづらい企画書になっていると、作品もそうなってしまうのではという懸念を与えてしまいます。

匂坂:整ってないといけない、という訳ではないです。でも、過去の受賞者の方にお話を伺っても、「読んで欲しい」という気持ちが大前提としてあって、じゃあ「読んでもらうためにはどのような表現にするか」という点はよく考えたそうです。見せ方による説得力や、工夫された読み手への優しさは企画書に求められる要素だと思います。

ー お話を聞いていると「こうすればもっと良くなるのに!」と読みながら思うような企画書も、きっとたくさんあるんだろうなと想像しました。

匂坂:それに関してお伝えしたいことがあるんです。実は、脚本部門の企画書のあらすじに、起承転結を書かれていない方が結構多くて。これが凄くもったいないんです。脚本家の方の「読んで欲しい」という熱意は凄く伝わっているんですが、「この続きは脚本で!」とはしないで、企画書は企画書だけで起承転結が伝わるよう完成度を上げていただきたいなと思っています。

北川:この話は、公式HPや応募説明会等、色々な場所でお伝えしているのですが、なかなか全体に伝えきれておらず、多くの方に知っていただきたいポイントです。

ー 映像化が決まった後も、何回も議論を繰り返して最終的な作品の形に仕上げていくと思いますが「こうするともっと良くなるよね」といった将来性も、審査の段階で加味されるのですか?

小林:もちろんされますし、よく議論にも上がります。企画の核となるアイディアに光るものがあるかどうか、将来的な可能性があるかどうかも、ちゃんと見させていただいています。

匂坂:企画部門については、むしろそれを見越した可能性の部分を強く見ています。さすがに監督や脚本部門になってくると、ご応募者の力量が、審査の通過に必要不可欠な要素になりますけど。

ー 監督の力量というお話が出ましたが、それはどのように審査しているのでしょうか?

北川:監督部門ではエントリー時に、15分間の映像も一緒に提出していただいているので、その映像を審査しています。

匂坂:その映像の審査では、その監督の演出力が「長編商業映画で通用するかどうか」を見ておりますが、この点については、さすがに誰にでも判断できる訳ではないので、弊社の映画プロデューサーたちが見て審査をしています。

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ー 作品が映像化された時の、メディアミックスやグッズ化も含め、宣伝に関する方向性も審査で見られたりするんですか?

小林:一次審査の段階ではあまり見ないですね。一次審査はとにかく作品が面白いかどうかが重要で、そこから厳選された作品を、プロデューサーに見てもらうのが二次審査になります。

匂坂:とはいえ、そういった点が弊社の強みでもあると思っているので、色んな展開ができる作品にしたいよね、というエンタメの要素は追々の話し合いで重要視されていきます。

ー その二次審査へは、例年どのくらいの作品が通過するのでしょうか?

北川:各部門で10作品ずつくらいが二次へ進みます。

ー 今年でいうと571から、約30。かなり狭き門ですね。次の二次審査はどういった内容になりますか?

小林:面接・面談のような形で行っていきます。具体的にどのような質問をするかは公表していませんが、自身の企画について、良さやアピールポイントをお話しいただく場なので、企画についてより深く、細かい部分までご自身が理解できているかが非常に重要になります。

北川:今まさに映画を製作しているプロのプロデューサーとの面談、質疑応答なんです。その場しのぎの回答ではなく、自分の企画はこうだからこうという指針をしっかり持っているかどうか、そして質問にどのように答えられるかという柔軟性が見られます。

匂坂:二次審査のプロデューサー達は、資料をしっかり読み込んだ上で、自分ならどう映像化できるかという視点で審査に臨んでいます。映画を良くするために何ができるか、どうするべきか、様々な角度から質問をし、どのよう答えるのかという”人となり”の部分もしっかり見ています。映像化が決まれば、その方とはお付き合いも長くなる訳ですし。

ー ありがとうございました。想像以上の人数と時間をかけて、じっくり審査をされているのが印象的でした。私がエントリーしている訳ではないのに、二次審査が今からドキドキします。

匂坂:過去の受賞者さんでも、二次審査が一番緊張したとおっしゃる方が多いですね。プロデューサー陣が、様々な見方・考え方を与えていく場でもありますので、作品がより映画に近づいていく様を目の当たりにできるんです。この続報も、また楽しみに待っていていただけると嬉しいです。

(文:芦田央(DJ GANDHI)