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Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』箱田優子監督TCP独占インタビュー

 『ここでしか聞けない』映画の"ウラバナシ"をお伺いする TCP Interviewのお時間!今回は、第四弾となる受賞者インタビューをTCP映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』監督であり、Netflixがテレビ東京と共に企画・製作したNetflixシリーズ「ヒヤマケンタロウの妊娠」のメガホンをとる箱田優子氏に実施。

ドラマでは、自分が妊娠するとは思ってもいなかった男性も妊娠・出産するようになった世界で、広告代理店の第一線で活躍するハイスペック独身男子がある日、自らの思いがけない妊娠に気付くというストーリーになっています。妊娠する桧山健太郎を斎藤工さんが、パートナーのフリーライター・瀬戸亜季を上野樹里さんが演じています!

ドラマが気になっている視聴者の方はもちろん、TCPに応募を考えている方々にもぜひ読んでいただきたい内容となっています!

◆今の日本で女性が妊娠出産するとは、どういう状況なのか

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――以前にインタビューで、面白い映画とは「観終わった後に、世界が変わって見える作品」だとコメントされていました。まさに『ヒヤマケンタロウの妊娠』はそうしたドラマです。

箱田:そうですね。今回は頂いた企画からスタートしていますが、妊娠・出産という、普段の生活にあるものを、それこそ自分が妊娠するとは全く考えていなかった桧山のような男性が当事者になることによって、周りの人も巻き込んで物事への見え方が変わっていく。そうした作品としてできたかなと思います。

――Netflix作品ということで、世界へも発信されます。

箱田:今の日本で、女性が妊娠出産するとは、どういう状況にあるのかということを意識しています。桧山が働いている広告会社は、いわゆる”マッチョ志向”な人を多めに設定していますが、でも、こと日本の社会においては、実はそこまで珍しいことではないというか、こういう会社ってなくはないんですよね。「こんな前時代的な会社大丈夫か?」と心配になることもあるかもしれませんが、そこを含めていい意味で世の中に投げられるかなと思います。

――「ジェンダーギャップ指数2021」で、日本は156カ国中120位でしたし。

箱田:『ブルーアワーにぶっ飛ばす』が出来たとき、いくつか国際映画祭に招待していただきました。その際の感触にしても、日本と海外での反応は違いました。日本では取材でも「”働く女性として”どう思われますか?」みたいなことをまず多く聞かれます。でも海外で最初にそうしたことはあまり聞かれないですし、“働く女性として”という言葉自体がナンセンスだったりします。そうした経験からも、逆に、今の日本はこう受け取るんだということを肌で感じることができました。『ヒヤマケンタロウの妊娠』も、いろんな部分で議論になるだろうと思いますが、議論が生まれること自体が、このドラマとしていいことかなと思っています。

◆桧山健太郎に斎藤工、パートナーの瀬戸亜季に上野樹里

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――桧山健太郎を斎藤工さんが、パートナーの瀬戸亜季を上野樹里さんが演じています。おふたりはどんな方でしたか?

箱田:斎藤さんはご自身で監督もされるということもあって、作品のことをとても俯瞰で考えてくださる方です。自分の役だけじゃなく、「みなさんはどう思われますか?」と俳優、各所スタッフ問わずいろんな方の意見を取り入れながら、物事を進めて行こうと考えてくださる。さらには妊娠・出産に関しても、この作品の以前からご自身の監督作品の現場に託児所を作っていましたし、本作の現場でも希望されて、実際に対応可能な時には作りました。実際にそうしたことをされている方ですから、この作品にもとても精力的に向き合ってくださっていました。

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亜季は、いったい誰に演じていただいたら形になるだろうという、すごく悩ましい難しい役柄でした。仕事での自己確立に必死な彼女は、作中で「パートナーが妊娠してくれるなんてラッキー」なんて言ってしまう人ですが、いざパートナーである桧山が実際に妊娠したときに、その予期せぬ現実に戸惑うわけです。さらに女性の身体を持つ彼女は、桧山の身体や社会的な立場が変わっていくのを目の当たりにするすることで、自分が妊娠・出産に対してどう捉え、どう考えているのか、自身と向き合い言葉にして言わなければならなくなる。そうしたことを、上野さんは自問自答して、自分のなかにインストールしながら、いろんなグラデーションを付けて形にしていってくださいました。

そんな斎藤さん上野さんが、桧山として亜季として、異種格闘技戦のようにぶつかり合う様を見るのは、単純に楽しかったです。

◆TCPの最終審査のプレゼンショーには自信があった

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――箱田監督は2016年のTCPで審査員特別賞を受賞して『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(2019)で映画監督デビューしました。そこまで自主映画も撮られた経験がなかったと。

箱田:当時、企画を審査して映画を製作するといったコンペはあまりありませんでした。コンペとして、すでに作り上げた作品で判断されるというのは、結局広がりが薄いんじゃないかと思い続けていたこともあり、企画からコンペするってすごく健全だと感じました。そしてTCPの最終審査は、プレゼンショー。誰かしらに見せるという行為で最終決定するってすごく面白いと思います。

映画自体、人に見せるエンターテインメントですからね。私はもともと広告畑の人間だったので、与えられた時間の中でどう人に興味を持ってもらうかみたいなことは、割と場数を踏んでいました。だから最終審査のプレゼンは、実はめっちゃ自信がありました(笑)。それにTCPの「本当に観たい映画作品企画」を募集するというコンセプトも素晴らしいと思いました。それで「私はこういう映画が観たい」とプレゼンしました。

――映画監督としては新人だったわけですが、キャスティングにもタッチできたんですよね。

箱田:脚本の書き方から始めた感じなのですが(苦笑)、いろんな人が助けてくれて、面白がって乗っかってくれました。『ブルーアワーにぶっ飛ばす』は、私の私小説的な部分が大きく脚本ににじみ出ていましたが、より私に寄せていったほうがエンタメ的にも楽しいんじゃないかと、私の意見を割と採用していただける場が多かったと思います。キャスティングについても、私が関わることにこそオリジナリティがあると信じて下さっている感じがありました。通常と同じ作り方をしたら、最後まで結局今まで通りじゃないかと。腹が据わっているんだろうなと感じましたね。

◆「やりたい」と言ったら、付いてきてくれる人や引っ張り上げてくれる人がいた

――実際に映画監督デビューをしてから、箱田監督の人生は変わりましたか?

箱田:だいぶ変わったと思いますよ。今回の配信ドラマもそうですが、選択肢が増えることによって、来る仕事の内容も変わるし、自分自身も捉え方が変わる。「箱田さんって、今何してる人なんですか?」と聞かれたとき、「自分でもちょっとわからなくなってきた」みたいな感じがすごく良かったと思っています。

――選択肢が増えてよかった。

箱田:自分にこうした可能性があったのかということにも、気づけなかったかもしれませんよね。自分には映画は撮れないとか、ドラマは撮れないとか。それこそTCPの流れから『ブルーアワーにぶっ飛ばす』の漫画版も描きましたが、そんな人生なんてありえないと思っていました。でも「やりたい」と言ったら、付いてきてくれる人や引っ張り上げてくれる人がいて、自分が思っていた自分じゃなくなっていく感覚になれた。TCPがあったからこそできた、広がったことだと思っています。やってみるもんですよ、本当に。

◆妊娠・出産に関するして話題が上ること自体に意義がある

――ありがとうございます。最後に改めて『ヒヤマケンタロウの妊娠』の視聴者へメッセージをお願いします。

箱田:妊娠・出産って、身近なことなのに、なかなか人に話せないナイーブな部分をはらんでいます。妊娠を望む人、望まない人、思い悩む人……現実社会にもいろんな立場の人がいるなかで、ドラマというエンターテインメントのなかに、様々な考えを持っている人たちが登場して喧々諤々言い合っています。

言葉にされることで救われることも、私はあると思っています。「俺はこう思う」「私はそうは思わない」とか、共感するとかしないとか、いろんな思いが去来すると思いますが、そもそも話題に上がること自体に意義がある。観た後に、誰かと話してみてもいいし、自分と向き合うのもいいかもしれない。最初の話に戻りますが、それこそ今自分の周りにある世界ってどんななんだろうと、もう一度考えられるような内容になっているといいなと思います。(文・望月ふみ)


■「ヒヤマケンタロウの妊娠」

4月21日Netflixにて全世界独占配信