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まずは「やってみる」今の私はスキと向き合った結果 ❘ 根本宗子

TSUTAYA CREATORS' PROGRAM(TCP)公式noteの企画「クリエイティブバトン」。ユーロスペース支配人・北條誠人さんに続く第2弾は劇団 月刊「根本宗子」の主宰である根本宗子さんに登場いただいた。

2015年に上演した舞台『もっと超越した所へ。』が前田敦子さん主演で映画化され(根本さんは脚本を担当。10月14日公開)、小説版も発売中。舞台『今、出来る、精一杯。』の劇場上映も今週末に控える等、活躍のフィールドを広げ続ける根本さんにこれまでの歩みを伺った。(聞き手:SYO)

映画『もっと超越した所へ。』脚本担当 根本宗子氏

SYO:根本さんは中学1年生のとき、大人計画の『ニンゲン御破算』(2003)を観賞し、演劇にのめり込んだと伺いました。

根本:はい。それ以前にも演劇は観てはいましたが、衝撃を受けて興味を持ったきっかけはそこでした。

いままで自分が観ていたような芝居と松尾スズキさんのものは全く違っていて、とにかく舞台上で起こっていることが3時間半ぐらいの時間ずっと衝撃的で驚きが多すぎてわけがわからなかったんですよ。そこから芝居を観ることが趣味になっていきました。その中で、自分でも書きたいという気持ちになっていった感じです。

SYO:高校時代は、年間120本くらい舞台をご覧になっていたそうですね。

根本:自分が小劇場を好きになった時代って、いまよりももっと劇団単位で動く時期だったんです。色々な劇団が東京で毎日芝居をやっていて、小さな劇団でも学割がありました。金銭的にもいまより観やすかったですね。

演劇界のお話をすると、いまは助成金でもない限り、なかなか劇団/演劇一本で続けていくバジェットは難しい。その結果プロデュース公演のほうが多くなり、劇団単位で動く若い劇団が本当に少なくなってしまいました。月刊「根本宗子」も劇団なのか?と言われるとプロデュースユニットに近いかなと思います。

いまは、役者も劇団に縛られずに、かつ演劇と映像の垣根を特に作らず活動している人のほうが多いですよね。劇団員ってどうしても特殊な仕事なので、生活の面でもいまの時代に合っていないかなとも思います。ただ自分は、野田秀樹さんたちの時代を経て、大人計画やナイロン100℃の演劇ブームの時代に芝居を観始めたこともあって、劇団に憧れたところが始まりでした。

でも自分が本格的に芝居を始める頃には入りたい劇団は劇団員を募集してなくて。だったら自分でやろうという方向にシフトしていきました。

SYO:なるほど。演劇界の形態の変遷もあったのですね。

根本:そうですね。月刊「根本宗子」も最初は劇団員がいましたが、劇団という形ならそのメンツがベストという人たちとやっていたため、離れるとなったときに「また新しい人を入れて劇団という形を続けよう」という気持ちにはならなくて。時代の流れもあり、現在のような一人ユニットが続いています。

SYO:劇団立ち上げ前には、ENBUゼミナール演劇コースも経験されていますね。

根本:いまはもう演劇コースがないので話しても意味がないかもしれませんが、やりたいことがはっきりしている人でないとあまり勧められない場所です。(苦笑)。入学当時は「演劇をやりたい人がいっぱいいるんだろう」と思っていたのですが、講師陣の演劇を生で演劇を観たことない人がほとんどで「なんでここに来たんだろう」って思ってました……。

SYO:熱意の差というか。

根本:そうそう、演劇へのモチベーションも熱量もあまりに自分が圧倒的だったので、「あ、これは続けたらいけるかも」ってある意味そこで思えたのはよかったかもしれないですね。もちろん地方出身で難しかった人もいるかなと思うのですが、ここに入るために上京してきたなら1本くらいは観ようよとは思っていました。ENBUは短大とも違っていて、毎日授業もないですし。色々な講師の方のワークショップを不定期に受けるという感じだからこそ、自分でしっかり目標を持っていないとただ1年終わっちゃう場所だと思います。

ただ、そんな中で得た気づきもありました。自分は足に持病があるため動きに制限があり、何の役でもできるわけではないんです。足のことを気にせず走り回ることはできませんし。ただ、仕事となると無名のぽっと出の役者が「これできません」とは言えないじゃないですか。だったら自分で書けば自分に無理な役は当てないなと思い、作家になりました。

SYO:なるほど、そういう経緯だったのですね……。『もっと超越した所へ。』もそうですが、根本さんの作品には生々しくも共感してしまうセリフと、熱量やエンタメ性が融合している部分があるかと思います。どのようにしてそのスタイルを確立されたのでしょう?

根本:書いていくうちに自然とこうなっていった感覚ですが、元々は日常会話劇が演劇のブームで「どれだけリアルなことができるか」が正義というムードがあって、そこへの反発心というか「それだけでいいのか?」という気持ちがありました。そんなにリアルなものを観たいなら、山手線を一周してどんな人が乗ってきて話してるのか観るのがリアルじゃないですか(笑)。「自分がお金を払ってそういうリアルは観たくない」と思い、そこにエンタメを入れられないかと考えていました。エンタメ、リアル、アカデミック、この3つの演劇の分断がすごいって印象なんですよね、わたしは。わたしはどれも好きなので欲張って全部のいいところを取り入れたいと思ったってのが今の作風が出来上がった原因かもしれないですね。

仰々しい演劇っぽいものは見づらい人がいるのはわかるので、演劇の中で起きているブームには乗りつつ、見たことのないところに連れていける要素を入れたものを作ろうとした結果、当時の作風は特にそうなっていったんだと思います。いま書いているものは全く違うので、どんどん変化してはいますね。

SYO:TCP公式noteの読者は、クリエイターを目指している方も多くいらっしゃいます。となると「食べていけるか」問題が気になるところだと思いますが、表現活動が軌道に乗るまではいかがでしたか?

根本:最初は全然食べていけなくて、毎日バイトするしかなかったですね。絵に描いた小劇場のイメージが皆さんあるかと思いますが、まさにそういう感じでした。「東京出身で実家に住んでるからできたんじゃない?」と思われがちなんですが、19・20歳くらいで実家を出ちゃっているので、月6万くらいの家賃をなんとか工面していました。結構いろんなバイトをやったんで、その経験しておいてよかったなと今となっては思ってますけど。

でもバイトをしている時間が芝居している時間より長くなるのがとにかく納得がいかなくて、「じゃあ365日芝居し続けたらバイトしなくてよくなるかも」と思い切ってバイトを全部やめて、毎月新作を上演するバー公演を始めました。1ヶ月通して、土日に1日3回公演くらいやり続けていたのですが、本公演より安く観られるからと試しで来てくださったお客さんが本公演にも来てくれて……という形でした。あとは「貯金が0円になってもなんとかなるだろう」という性格だったのでそこまで苦ではなかったかもしれません。日払いのバイトだけは保険で登録していたので、何回かマジでやばくなって洋服のセール会場とか物産展の派遣行きましたね。(笑)

SYO:いまのお話を伺っても相当多作だと思いますが、アイデアの泉は尽きないものですか?

根本:そうですね。基本的に演劇が好きでやっているだけなんです。自分ですごい才能があると思ったことはないのですが、人と違うところは多分人より演劇が好きなことですかね。

先ほど「なかなか踏み出せない」というお話がありましたが、どうしてもやりたかったら人間やるものなので、そこまで行けるかだと思うんです。ジャンルは色々あれど、周りの同世代のクリエイティブなことを続けている人たちを見ると、それが好きでやらずにはいられないからやっている人が残っている気がします。

SYO:観劇も積極的に行かれていますもんね。

根本:そうですね。いまは内側にいすぎて「演劇に熱狂している」というフェーズにはいないと思いますが、今後日本の演劇がどうなっていくかを見ていきたいと思っています。自分が中学生で演劇にハマって20年くらいで演劇シーンに色々な変化があり、そこには時代の流れもあって、それらを見ながら「じゃあ自分は何を作ろうか」と考えるのが好きなんです。

時代に合わせたいということじゃなくて、どっちかというとマジで合わないなと思っているときのほうが多いです。オファーが来るものを見ていても「こういうものを書いてほしいと思っているんだ。全然書きたくないな(笑)」と感じるほうが多いですし。でもそれでいつか仕事がなくなっても劇団は続けられるので、どういう形でも演劇を続けていきたいとは思っています。

SYO:「書く」という点だと、『もっと超越した所へ。』は演劇→映画→小説とメディアミックスしていきました。戯曲と脚本、小説では書き方・考え方はやっぱり異なるものでしょうか。

根本:何にせよ、そのジャンルにしたときに一番面白くないと意味がない。演劇でいちばんおもしろいものは主戦場なので自信がありますが、映画にしたときに果たしてどうなるんだろうという意味で、一緒に作るのが楽しめて信頼できる監督にしか渡せないと思っていて、山岸聖太さんが撮ってくれるんだったらぜひという感じでした。

映画脚本においては、2022年に公開される映画として意味がないといけない。ただ一方で、普遍的な話を描いていたから昔の作品であっても映画化の声をかけてくれたんだろうなとも感じていました。だからその普遍性をスクリーンで観たときにも感じられるように、あとは演劇って規制が緩いので固有名詞をバンバン使っているのですが、映画はそうはいかないのでどうセリフに変えていくかを考える作業でした。

演劇や映画だとセリフを発してくれる俳優が要るので「誰がやるんだろう?」と想像しながら書いていけますが、小説は完全に一人の作業なのでまた違いますね。全部私が書いているけど、それぞれがライバルなので何一つ劣っちゃいけないという気持ちで作りました。「演劇の人が書いた小説や撮った映画って面白くないね」と言われているのをさんざん見てきたので、そうならないように自分が映画や小説というジャンルにお邪魔する意味を俯瞰してめちゃくちゃ考えて書きました。「根本宗子節ってこんなんやで!」ってのを3つのジャンルでやるみたいなことに魂を使いました。

SYO:小説版だと、映画版のエピソード0的な部分も盛り込まれていますね。

根本:普段演出しているときに俳優に行っていることを小説では書いています。稽古場では俳優に役のバックボーンの話をするけど、舞台には乗りません。小説ではそこを生かしています。

SYO:先ほど「どうしてもやりたかったら踏み出すはず」というお話がありましたが、最後にクリエイターを目指す読者へのメッセージをお願いします。

根本:「クリエイターを目指している人たちの前で講義してください」という仕事を何回か受けたことがありますが、自分が思っている以上に「まだその段階なんだ……」みたいな人が多いと感じます。人より頭一つ抜けてからがスタートだと思いますし、そこの部分っていくら人から背中を押してもらっても意味がない。自分でなんとかしないと始められないから、クリエイターを目指す人に対して言葉にすると冷たいけど、「やりたいんならやろうよ!」という答えしか個人的にはないんです。

私自身も、右も左もわからないなかでとりあえず劇場を借りてホンを書いてやってみたというだけで。ただ、自分で決めてやったからこそ色々と発見があって、「これがダメなのか。こうやればいいのか」を繰り返してここまで来ました。自分の好きなジャンルとどれだけ根気強く向き合えるかだと思います。途中で心が折れちゃうんならそのジャンルは向いていないと思いますし、漠然と「何かが作りたい」みたいな人は、まず演劇に関わる色々な仕事を知るところから始めてもいいんじゃないでしょうか。作家と俳優以外も仕事はたくさんあって、全ての仕事がないと成り立たないのでどこのセクションが自分に向いているのかを考えるのが一番の近道かなと思います。目に見えないところでたくさんの人が関わって、すべての人の力で出来上がっているのが演劇なので。

(メイク:小夏 / スタイリスト:田中大資 / 衣装:tanakadaisuke)

映画『もっと超越した所へ。』10月14日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

ポスタービジュアル

配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『もっと超越した所へ。』製作委員会

<書誌情報>
【タイトル】もっと超越した所へ。
【著者】根本宗⼦
【予価】770円(税込)
【発売】2022年9⽉8⽇(⽊)
【仕様】徳間⽂庫、304ページ
【ISBN】978-4-19-894778-1
【出版社】徳間書店
【商品ページ】https://www.tokuma.jp/book/b610540.html