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【脚本部門】二次審査:脚本とは何かをもう一度考える

2022年度のTSUTAYA CREATOR’S PROGRAM(以下:TCP)、先日行われた企画部門に続いて「監督部門」と「脚本部門」の二次審査が行われました。今回はその「脚本部門」についてご紹介します。

二次審査「企画部門」の様子についての記事はこちら

「監督部門」で自作映像の提出が必要であるのと同様に、「脚本部門」では実際に書かれた脚本の提出が求められます。私も含めた映画製作に直接携わったことのない人のほとんどは、映画の脚本がどの様なものか、なかなか想像しづらいと思います。

俳優さんへのインタビューなどで「夢中になって一気に脚本を読んでしまいました」といったコメントはよく聞きますが、このように文字・文章だけでぐんぐん世界観へ引き込む力が脚本にはあります。

小説ともまた違い、映画の脚本は書かれている物語に加えて、最終的に映像や音楽が足されて「映画」という最終形になるものですが、それ以外にもそこへ導くための「設計図」という役割を持っています。

▼脚本の構成要素

映画鑑賞をしていて「ストーリーが良いな」と思った時に、漠然と「良い脚本だな」と感じることが多いのではないでしょうか。その感覚も、もちろん間違いではありません。そこに加えて、脚本は「良い」と感じてもらうまでの見えないプロセスの中でも機能しています。

以下は、一般的な脚本の構成要素。

・柱書き:いつ・どこで・誰がを示す場面描写
・台詞:登場人物が発する言葉
・ト書き:台詞以外の登場人物の心情や行動を指示する文

例えば、主人公が育ての親に「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と説教されているシーンがあるとします。この素晴らしい台詞が感動を与えてくれるというのは、鑑賞者にとってシンプルで分かりやすいですが、

・時間は夜
・育ての親は、撃たれて今にも事切れそう
・主人公の手を握る育ての親
・事切れそうだがしっかりとした口調で強い眼差し

など、台詞以外の脚本が設定する条件によっても、そのシーンにおける感動は計算され、設計されているのです。

▼TCPの脚本部門

TCPの「脚本部門」では、冒頭述べたようにエントリー時に脚本も一緒に提出するので、ある意味では映画の完成形が一番イメージしやすい部門だとも考えられます。

「企画部門」は、そこからどう膨らませて面白いものにしていくかという将来性もある程度考慮されるのに対し、「脚本部門」は審査時点での脚本のクオリティが重要となるため、世界観の作り込みもより細かく深く考えておかなければなりません。

▼リアリティラインを引く

今回、二次審査に同席させてもらい、審査員であるプロデューサー陣の視点で、私が面白いと感じたものを1つご紹介します。

それは、どこにリアリティラインを引くのか、その物語をどこまで絵空事にするのか、というのが作品の方向性を決定付ける重要な要素の1つだということです。

「リアリティラインを引く」とは、どのくらい現実的かを示す基準の様なもの。例えば刑事モノでも、グラサンをかけた刑事がやたらと拳銃を打ちまくる非現実的な作品もあれば、地道な捜査によって少しずつ真相が明らかになっていくよりリアルな作品もあります。

私個人的には、前者はポップコーン片手にお気軽に、後者はじっくり集中して観てみたいなと感じてしまいます。なので、このリアリティラインがどの位置にあるかという基準が、鑑賞する際の姿勢をも決め得る可能性を持っているということです。このように考えると、エンターテインメントとして作品を楽しんでもらうために、脚本は様々な計算の元に書かれているのが分かります。

TCPで映像化された作品はもちろん、今までなんとなく「良い脚本だな」と思っていた映画では、なぜ良いと思ったのかを自分なりに深堀りすると、より深くその脚本を味わうことができそうです。

(文:芦田央(DJ GANDHI)