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【SYO's Show】私がTCPを好きな理由

人にはそれぞれ、好きなファッションブランドやセレクトショップがあるだろう。一つひとつの服はもちろんだが、周辺アイテムだったり、或いはバイヤーが選んだ別ブランドのものでもなんだか馴染む。映画もそういう楽しみ方があって、キャストやスタッフだけでなく配給会社やレーベルで観ていくと好みの作品に行き当たることが多い。

たとえば海外の作品であれば、国内の配給会社のバイヤーたちが買い付けて日本公開をするわけで、まさにセレクトショップ的。それぞれの“色”が出るため、自分の感性と合う会社のラインナップを過去から現在までさらってみると面白い。ギャガやファントム・フィルム(現ハピネット・ファントム・スタジオ)、クロックワークス、ビターズ・エンドにロングライド、トランスフォーマー等々、面白い会社は日本に数多くある

レーベルで観ていくというのは、いま現在であればA24のような存在。買い付けもすればオリジナルの作品も作る彼らは、トガッた作品を次々と世に放ってきた。FOXサーチライトの作品もそうだし、解釈を広げるとNEONやIFC Films、Bleecker Streetなど、掘っていくと無限に楽しい。国内であれば、やはりスターサンズは外せない。

…といった感じで日々映画ライフを送っているのだが、数年前から新たに気になる存在ができた。それがTSUTAYA CREATORS’ PROGRAM(TCP)である。これは、TSUTAYAが2015年に立ち上げたクリエイター発掘プログラム。プロ・アマ問わず広く企画の募集を行い、企画書や脚本、プレゼン等々の審査を経て、グランプリを選出。受賞者はTSUTAYAが総製作費・制作体制をバックアップしたうえで作品を制作できる、というものだ。この受賞作、かなりの頻度でトガッた作品が多く、非常に面白い。

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たとえば、2021年の初めに公開された『哀愁しんでれら』(渡部亮平監督)。土屋太鳳・田中圭が壊れていく夫婦を怪演した超・問題作だ。不幸が重なり、一夜にして恋人も家も失ってしまった主人公が、白馬の王子様に出会い……というシンデレラストーリーに始まり、その後は衝撃展開に突入。甘い結婚生活が始まるかと思いきや、夫の連れ子はなかなかに性格が歪んでおり、妻VS連れ子のドロドロバトルが勃発。だが、複雑な過去から娘を溺愛している夫は、妻を罵倒し……(焼肉を食べようとするシーンの田中の「肉食うことしか脳にねぇのかよ!」とブチ切れてからの「残念です」が強烈!!)。

哀愁しんでれら_サブ1_s

その後の物語には、唖然とさせられっぱなし。ラストシーンは倫理的・独特的に完全にアウトで、土屋の変貌っぷりにはほれぼれとさせられる(元来彼女は『鈴木先生』『赤々煉恋』などのダークなキャラクターも得意としていたが、『累~かさね~』や本作で強烈な演技を披露。今後の活躍に期待が高まる)。

ブルーアワー

夏帆×シム・ウンギョンのシスターフッドムービー『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(箱田優子監督)は、映画的な仕掛けもさることながら、従来の映画ではなかなか観られない強烈なセリフ回しが楽しめる。「ちゃんと仕事しろよって伝えていただいても良いですか」や飲み会での猥談(だが目は死んでいる)、「やっべー、だっせぇ」等々、毒舌を通り越し、映画用のセリフとして入れ込まないようなむき出し&原液のことばが全編でのたうっている(牧場を言い表す際の言葉のチョイスがすさまじい)。初めて観る方は面食らうかもしれないが、言葉尻は過激であっても、嘘が全くない感情の発露=吐露としての言葉は、下手につくろった綺麗めなものに比べて、何百倍も突き刺さる。

ゴーストマスター

三浦貴大×成海璃子の『ゴーストマスター』(ヤング・ポール監督)は、キラキラ映画の撮影現場がスプラッターと化すというマッドなホラーファンタジーで、その異常な熱量に笑ってしまう。なかなか映画を撮らせてもらえない助監督の怨念が脚本に宿り、撮影現場が大混乱になるというストーリーは、「映画ファンほど、ぐっとくる。」の言葉通り、ゲラゲラ笑いながらも血潮がたぎるような、心の奥から何かがせり上がってくるような、創作衝動にあてられた感覚にさせられる。B級感を存分に追求しており、眼球が破裂して吹き飛んでくるシーンなど、あっけらかんとした血しぶき演出も楽しい。映画の“自由さ”が、全編にわたって描かれているのだ。

公開日入りポスター

公開されたばかりの黒木華×柄本佑共演作『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(堀江貴大監督)は、設定が何とも上手い。結婚5年目の漫画家夫婦は、平和な日々を過ごしていた。だがある日、妻は夫が不倫していることを知ってしまう……。その後彼女は、「新作」として不倫漫画を描き始めるのだった。夫は、自分の不貞がバレているのではないかとおびえ……という筋書き。いわば「漫画による復讐」が描かれるわけだが、なかなかお目にかかれないタイプのエンタメで、物語展開の上手さでぐいぐい引っ張っていく。実力派キャストの絶妙な掛け合いや、ヒッチコック作品へのオマージュが込められた演出の数々など、ライト層からコア層まで楽しめるつくりになっているのも大きな特長だ。

TCP作品

他にも『嘘を愛する女』『ルームロンダリング』『水上のフライト』『裏アカ』『マイ・ダディ』など、現在までに9本の映画が公開された。爽快な作品もあるのだが、基本的には「監督発掘」の名に恥じぬ、キレッキレのラインナップとなっている。こういった攻めの姿勢が堪能できるのは、やはりオリジナル作品ならではであり、「発掘良品」や「TSUTAYAだけ!」などインディペンデントやメジャーの垣根なく、国内外の良作を多数我々に届けてきたTSUTAYAならではだろう。

“目利き”の彼らがクリエイターの選定やオリジナル作品に乗り出すとき、「既存の枠にはまらない才能」を見出すのは必然。故に、「これは新しい!」と観る者が素直に思えるような作品が生まれてくる。新人クリエイターにとっても、理想的なパートナーといえるのではないだろうか。

また、TSUTAYAという誰もが知っているブランドの「安心感」も間違いなくあるだろう。俳優個人の出演欲をそそるような斬新な企画と、事務所などが安心して送り出せる盤石の座組――つまり、“演目”と“場”の両方が整った状態が出来上がっているのだ。

それもあって、人気俳優×エッジーな物語の関係性が生まれているのだ。つまり、日本映画界を広く見渡しても、非常に貴重な存在といえる。ちなみに、TCP作品の配給会社はファントム・フィルムやクロックワークス、ビターズ・エンド等々、確固たるカラーを持っている面々。そうしたコラボレーションも嬉しい限り。

近年、お隣の韓国との映画制作・文化における“格差”が問題視されているように、日本国内の映画市場は決してブルーオーシャンとはいえず、予算が削られる中で作品を作らなければならない状況は続いている(コロナ禍でさらにひどくなった部分も……)。そんななか、創作の灯が消えてしまっては本末転倒だ。TCPの存在に感謝しつつ、彼らの良きライバルが続々と台頭し、日本映画がもっともっと多様な面白さを追求できるようになる未来を、願ってやまない。

(映画ライターSYO)

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映画ライターSYO
1987年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画ニュースWEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画やドラマ、アニメを中心に雑誌・WEB等でインタビューを寄稿するほか、複数作品にオフィシャルライターとして参加。映画番組のMC出演も行う。