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TCP独占インタビュー『水上のフライト』企画・脚本 / 土橋章宏さん

みなさん、こんにちは!

TCP公式 note 編集員のHikaruです。『ここでしか聞けない』映画の"ウラバナシ"をお伺いする TCP Interviewのお時間!今回は、第二弾となるインタビューを映画『水上のフライト』企画・脚本を担当 /  TCP2017審査員特別賞受賞でもある土橋章宏さんに行ってきました!

特に脚本家を目指す人・異業種への転身を考えておられる方々に読んでいただきたい内容となっています!

◆第一線で活躍中の脚本家が、あえてTCPに参加したワケ

――土橋さんは『超高速!参勤交代』(2014)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞されるなど、すでに第一線で活躍されています。なぜコンペティションに参加を?

土橋:映画製作の過程全体を把握したかったんです。脚本家は最初の段階しか普通参加しません。脚本には演出に関する部分は書きませんし、そうした部分を監督さんはどうやって演出されるのかなといったことにも興味がありましたし、完成までの製作過程を知ることで、脚本がもっと面白くなる工夫も勉強できると思いました。そんなことを考えているときに、TCPに応募したという脚本家の友達の話を聞いて、自分でも調べてみて、これはいいなと応募しました。

――2017年の審査員特別賞を受賞して、昨年、公開に至りました。実際、製作過程を感じることはできましたか?

土橋:そうですね。撮影現場に何度も見学に行きました。普通は1回か2回行ければいい方ですし、行ってもポツンと蚊帳の外ですが(笑)、今回は監督さんだけでなく、この方が照明さんだなとか、いろいろ分かっていて、ようやく製作チームの一員ぽくなれたなと感じました。衣装合わせなんかも行きましたし。あと役者さんのオーディションが勉強になりました。

――オーディションの場にもいらしたんですね。

土橋:立ち会いました。すごく上手い人もいるのですが、「この役のキャラには合ってない」ということで落とされたりしていて、こうやって役を選んでいくんだと実際に感じることができました。目の前でオーディションを見て、脚本でもすべてのキャラクターのことをきちんと考えてあげないと、オーディションに参加してくれる人に失礼だなとも感じました。映画のいろんな製作段階が分かって、非常に良かったです。チームプレーでいろんな人が携わっていくことを感じられました。

◆主演が中条あやみに決まってお祭り騒ぎ

★★確定ポスター

――そもそも『水上のフライト』を書こうと思ったきっかけは、土橋さんが普段釣りをしている川で、パラカヌーの選手が練習しているのを見かけたからだとか。

土橋:細い(競技用の)カヌーが、すごい速さで通っていったんです。異常に早かった(笑)。これは素人じゃないなと思って、地元の方に聞いたら「あれはパラリンピックのすごい選手だよ」と。それで「ええ!」となって、取材に行ったんです。そしたらそのアスリートの方がやたらに明るくて、さらにインパクトを受けました。すごく前向きに生きていて、ハンデがある人というイメージを覆されました。すげーな、これは映画にしたいと。

――土橋さんはかなりリサーチをされるとか。今回もかなり取材を重ねたそうですが、カヌーには実際に乗ってみましたか?

土橋:乗りましたよ。普通のカヌーですけど。競技用のカヌーはよっぽど運動神経がよくないと転覆してしまうと。浮かぶだけでひと苦労だそうです。その割には中条(あやみ)さんはすぐに乗れたそうですけど。

――本編でも中条さんご本人が乗られてますね。

土橋:才能があったみたいですね。女優を辞めてもカヌーで食べていけると言われてましたね(笑)。実は僕、もともと中条さんが好きなんです。ドラマですごく吹っ切れて演じられているのを見て、これは絶対いい女優さんになる人だなと。案の定、いま出演中のドラマ(『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』)でも輝いて花開いてますよね。『水上のフライト』で主演が中条さんに決まったときには、お祭り騒ぎでした(笑)。

◆一流会社の社員を辞めて、シナリオの勉強をスタート

土橋さん①

――土橋さんは大きなヒット作もありますし、キャリアの長いベテランというイメージを抱きがちですが、脚本家デビューは遅いですよね。

土橋:年を取ってるだけで、ぽっと出の新人ですよ。

――いやいや(笑)。大学で理系の学部を卒業されて、実際にエンジニアとして働かれたあとで、小説を書きたいと思って、シナリオの勉強を始めたとか。

土橋:いろいろ新しいことを考えるのが好きなんです。時代的なことですが、バブル崩壊があって、僕が勤めていたところも、新しい研究はやめて今までの技術で売っていこうと守りに入らざるをえなくなったんです。僕は有機ELディスプレイとか色々やりたかったんですけど出来なくなってしまった。じゃあ、自分で新しいことをやろうと。そのころはインターネットの黎明期だったので、10年くらいWEBサイトの構築などをしていました。面白かったのですが、それもだんだんみんながやるようになったので、そろそろまた違うことをしたいなと思ったときに、小説もいいなと。

――そこからシナリオへ。

土橋:いきなり小説を書こうとしても、どうやって書いたらいいのか分からなかったのですが、脚本はある程度のルールがあると聞いたんです。主役がいて目的があって、苦しいことを乗り越えて主人公が変化していくことで何かを伝える、みたいな。流れがあるということで、それを勉強しようと思いました。

◆小説も漫画も、ハマったものにとことん浸る!

――もともと小説は好きだったのですか?

土橋:本は大好きでした。暇に任せて片っ端から文学全集を読んだりしてました。手当たり次第に。あとは漫画が好きで、めちゃくちゃ読んでました。漫画喫茶に住んでるくらいの時もありましたよ。

――ええ? どういうことですか?

土橋:会社を辞めたとき、とりあえず失業手当が出ていたので、ひたすら漫画喫茶に行って寝泊まりしてたんです。好きな漫画を思う存分読むぞと。幸せな生活をして、半年くらいゴロゴロしてました。

――土橋さんの作品には時代劇ものが多い印象ですが、時代劇への素養はもともとあったのでしょうか?

土橋:「鬼平犯科帳」が好きで、テレビも小説も大好きだったんです。ひたすらハマって、26巻くらいの本を、何周も読んでいました。それで時代劇の言葉遣いとか、当時の様子なんかは知った感じですかね。好きなことをひたすらやるというのが一番いいと思います。

――好きでハマったものが色々と身になっているんですね。

土橋:脚本家仲間とか小説家仲間なんかに聞くと、みんな同じような時期がありますね。やっぱり本をすごく読んでいて、図書館にずっといた人とか。映画監督をやっている人は映画ばっかり観ていた人が多いですし、昔から好きなことに時間をかけてたくさん引き出しを持っている人がやっぱり強いかなと思います。若いときに何か根を詰めてやる。でも、30歳くらいからでも全然頭は回ると思いますし、好きならできると思いますよ。だいたい映画監督なんかは60歳くらいが旬らしいですし、30歳だったらあと30年もありますから、全然行けますよね(笑)。

◆あの有名な脚本術の本は、やっぱり役に立つ

土橋さん③

――映画に関しても観まくった時期はありますか?

土橋:大学のときにレンタルビデオ屋さんでアルバイトをしていて、店長がすごい映画好きで、「今日はこれを観ろ」とかいろいろ教えてくれるので、それを勧められるままに観てました。それも役に立っているかもしれません。

――シナリオで勉強したことで、いま役に立っていると感じていることはなんでしょう。

土橋:スクールで定石やルールをまず学ぶのは大切でしょうね。自分の伝えたいことをどう表現して伝えるのか、方法が分かっていないと空回りになってしまうので。あと、とても有名な本ですが、シド・フィールドの脚本術「映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと」は一番良かったです。いろんな映画が例として挙げられているのですが、出てくる作品を全部観るだけでも相当勉強になると思います。

◆TCP応募を考えている人へメッセージ

TCP簡易版

――昨年、芝居のワークショップを見学に行かれたとも聞きました。

土橋:はい。それで、自分が役者になってみれば、もっと気持ちが分かるかなと思って、今度は役者として参加しようと思ったのですが、コロナ禍で行けなくなってしまって。開けたら役者として勉強しに行こうと思っています。

――今度は役者業にハマってしまうかも。

土橋:それはそれで面白いですよね。ハマってテレビに出てるかも(笑)。

――それも楽しみにしています(笑)。最後にTCPに応募しようと思っている人たちにメッセージをお願いします。

土橋:映画を作るというのはなかなか実現性が低いことで、完成まで至らなかったり、お蔵入りすることもあります。でもTCPで賞を取った作品は実際にかなり映画になっています。勉強になるし夢も叶う。やりがいのある賞だと実感しています。今まで映像化されているものも、いい作品揃いですし、審査もすごく公平だと思います。イチ脚本家としてのメッセージは、恥ずかしがらず、赤裸々に自分の伝えたいことを表現することが大切だと思います。まずは自分の一番言いたいことを見つけること。それが個性になっていくと思います。(文・望月ふみ)

最後に一言

いかがでしたでしょうか? お話をお伺いする中で、土橋さんの何事にもチャレンジする気概圧倒的な好奇心は、何事にも通ずる大切なことだなと改めて感じました。脚本を書いていく中で、自分と向き合い、言いたいことを明確にしていく、世界に職業は様々ながら、唯一無二と言っても過言ではない脚本家の世界を垣間見ることができました。本日はありがとうございました!


■映画『水上のフライト』

Ⓒ2020 映画「水上のフライト」製作委員会

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□封入特典:ブックレット(12P)
□仕様:スリーブケース

土橋さん①

企画・脚本 土橋章宏
1969年生まれ、大阪府出身。2000年に日立製作所を退社後、WEB制作会社を立ち上げながら、脚本・小説・漫画原作を手掛ける。2009年に、「スマイリング」で函館港イルミナシオン映画祭第13回シナリオ大賞グランプリ受賞、「海煙」で第13回伊豆文学賞優秀作品賞受賞。2011年「超高速!参勤交代」で第37回城戸賞を受賞。映画『超高速!参勤交代』(14)で脚本を担当し、第38回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。その他、代表作に映画『引っ越し大名!』(19)、WOWOW連続テレビドラマ「大江戸グレートジャーニー~ザ・お伊勢参り~」などがある。

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