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似たもの従姉妹

従姉と二人で祖母と大叔母のお墓参りをして、スーパー銭湯でポテトフライを食べていたときのことである。
思い出話にふけっていたら、突然彼女が言った。

たぬパンっていたじゃない?実は二回、Sに売り込んだんだよね」

Sは、とある大手のキャラクター会社だ。
そして「たぬパン」とは、私たちが小学生のころに従姉が作ったキャラクターである。
たぬきとパンダを掛け合わせた生きもので、「たぬパーン たぬパーン たぬパーンー物語~♪」という短いテーマソングまである(作詞作曲、従姉)。
子どものころお店屋さんごっこをしたときには、たぬパンのシールやたぬパンカード、その他もろもろのたぬパングッズをたくさん買わされた記憶がある。
いとこたちの間で数年間流行ったものの、その後はすっかり忘れていた。

そのたぬパンが、Sからのデビューを目論んでいたなんて。
話の続きを促すと、彼女は中学生のころに一度「たぬパンというキャラクターを考えたのですが、キャラクターの募集はしていますか」とSに電話をかけたことがあるという。勇猛果敢にもほどがある。

特に募集していないと断られてから、十数年後の去年の冬。
地元で飲んでいた彼女は、友だちから「昔Sに電話かけていたよね。あの会社って、キャラクターへのファンレターを書くと必ず返事がもらえるらしいよ」という情報を得る。

「マジで運命感じたんだよね。それで、やるっきゃない!って思ってさ」
風呂上がりの顔をピカピカに輝かせながら、従姉はスマホから一枚の写真を見せてきた。
Sに送った、ファンレターの体裁を取ったたぬパンの売り込みレターの写真だった。

初めまして、こんにちは。
私は、都内に住んでいる31歳の〇〇と言います。
Sさんにお手紙を送らせていただくのは初めてになります。
私には小学生のころから、「いつかSから、自分で考えたキャラクターをデビューさせる!」という夢があります!

従姉の許可を得て一部掲載

そんな書き出しで始まった手紙は、その後中学生のころにSに電話をかけたこと、断られて15年以上経ってもその気持ちが消えなかったこと、たぬパンにはテーマソングがあり、今でも歌えると続いていた。

どっからどう読んでも、ファンレターじゃなかった。

たぬパンへの思いだけはものすごい熱量で伝わってくるけれど、どうしてSからデビューさせたいのかとか、たぬパンがSのキャラクターとしてふさわしいと思った理由とか、そういう志望動機を書かなきゃダメなんじゃないかな。

これが「たぬパン」だ!!

返事は来たのかと聞いたら、まだ来てないんだよねと従姉は笑った。
先方も返事に困っているのだろう。

突然、従姉が慌ててスマホをいじり始めた。
私が知らないうちに、こっそりデビューしてたらどうしよう
んなわけ、あるかい。

従姉の突拍子もない行動に爆笑しながら「もうちょっと詳しく聞かせてもらったら、デビューを検討してもらえるような依頼文に書き直せるかも」と提案すると、彼女は「さすが参謀、頼もしいわ」とニヤリと笑った。

子どものころ、従姉は勇敢な隊長で、私はその参謀だった。
運動が得意で直情型の従姉と、勉強が得意でどちらかというと慎重な私は、夏休みや冬休みに祖母の家でさまざまな計画を練って、実行に移したものだった。
従姉が「バレエ部」だと勘違いして練習が過酷なバレー部に入ってからは一緒になっていたずらをする機会はなくなってしまったけれど、この役割分担は大人になってからもなんだかんだ続いている。

あいかわらず、従姉は思い切ったことをするなぁ。
そんな話を家に帰ってから夫にすると、彼は「あんただって似たようなことしたやん」と呆れたように言った。
まったく身に覚えがなかった。
すると夫は、「この町にもスーパーBがあったらいいのに!ってこの間いきなり言い出して、スーパーに熱烈なメール送ってたじゃない」と鼻で笑った。

そういえば、そうだった。
私はあいかわらずこの町のスーパーに不満を持っていて、少し前にスーパーBのお問い合わせフォームに「私は〇〇町に住んでいるのですが、この町に出店する予定はありますか?」とメールしたのだった。

埼玉にあった、あのスーパーが恋しい。
プライベートブランドが充実していて、お惣菜やパンが安くって。
この町にBができたらお高くとまっている駅前のスーパーも焦りだすと思うし、町の物価も大きく変わると思うのだけれど。

そんなメール文を見せたら、夫は「お前は区長か。なにスーパー誘致しようとしてんねん」とドン引きしていた。
翌日先方からは「新店舗のご要望は大変嬉しいけれど、その町に出店する予定は今のところありません」という旨の返事がきた。

望む未来に向けて突発的に情熱をほとばしらせるという点において、私たち従姉妹は似ているのかもしれない。
たぬパンはデビューの兆しは見えないし、私の町にスーパーBが出店する日もきっとかなり遠い。

祖母と大叔母のひろ子おばさんが今の私たちを見たら、なんて言うだろう。

そう従姉にLINEしたら、彼女は「誇るに決まってんじゃん!」と即答した。
決まってるんだ。
「だって二人とも、そういう人たちだったよ」
そういえばそうだ。

二人が眠る巣鴨の共同墓地はもともと、「この墓地いい!お墓参りついでにみんなに商店街を楽しんでもらえるわ!」と巣鴨を愛する祖母が夢中になり、「じゃあ、私も!」と大叔母が一緒に申し込み、その勢いに引きずられるようにして二人の夫も申し込んだものだった。
おかげで商店街で豆大福や煎餅、団子を買い込んでから墓参りに行くことが、すっかり定番になっている。

二人の巣鴨愛は、今も変わらず私たちを包んでいる。
私たちがお墓参りに行くときはいつだって晴れているのが、その証拠だ。

***
祖母と大叔母のひろ子おばさんの別の話はこちら。


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