#沖縄妄想滞在記 「恋する小浜島(前編)」
石垣島からフェリーで20分。今回の目的地、小浜島が見えてきた。
人並みに楽しんだ大学生活が終わり、中堅のIT企業に就職するも「なんかちがうな~」というただそれだけの理由で退職。その後は、中途半端なプログラミングのスキルを活かし、派遣のシステムエンジニアとして食いつないでいる俺。
けれど最近は、日々進化し続けるテクノロジーを追うのに疲れ、仕事のやりがいも見失っている。俺は誰かの役に立っているのだろうか?
そんな、28歳なのに58歳独身くらいのテンションの俺が、派遣先がリモートワークを推進しはじめたのを機に、ワーケーションを敢行。偶然テレビで見かけたこの島へ、4泊5日の旅にやってきたという訳だ。
■1日目■
フェリーを降りると、え、噓でしょ。赤いアロハシャツを着た永野芽郁ちゃん似の可愛い女の子が目に止まった。驚いたのは、その子持っている画用紙に俺の名前があること。あ、そうか、民宿の子だ。
「こんにちは、これ僕です」
よく見ると漢字が微妙に間違っている名前を指して話しかける。
「めんそーれ!ようこそ」
そう言いながら、慣れた手つきで、俺のキャリーケースをライトバンに運ぶ彼女。横顔もめちゃくちゃ可愛い。きっと民宿の看板娘に違いない。
「もう1人来るので待っててください、って言ってたら来た!」
彼女の目線の先には、え、マジ?今度は石原さとみ風の、お姉さん系美人が立っているではないか!
「久しぶりー!みさき、元気だった?」と、永野芽郁ちゃん、いや、みさきちゃんに言いながら、同じ車に乗り込んできた石原さとみさん。どうやら宿の常連客のようだ。
「どうも、よろしくお願いします」と挨拶する俺。
「同じ船でしたねー!晴れてよかったですね」
そう笑顔で返してくれた石原さとみさんに思わず見ととれてしまう。
それを察したのか、みさきちゃんが畳みかける。
「美人でしょー!石原さとみに似てますよね!ゆりなさん」
「おねがいやめて!ハードル上げすぎ!」
と恥ずかしそうに返す石原さとみ、いや、ゆりなさん。僕も似てると思います!
名将、野村監督は言った「人生には3つの坂がある、上り坂、下り坂、まさか、や」と。まさか小浜島で2人の可愛い女の子に出会えるとは。たまには神も粋なことをする。サンキュー神!
民宿に到着し、2階に荷物を運び込みむと、観光する間もなく俺は仕事を開始する。宿のネット環境は事前に調べておいたので万全だ。デバッグ業者からのレポートを確認しつつ、夜中までに3人のエンジニアとリモートでやりとりをする。やってることは東京と変わらない、結局仕事なんかどこでもできるもんだな。窓から吹き込む島の秋風が心地いい。
階下からは、みさきちゃんとゆりなさんの笑い声が聞こえてくる。
いつもは地味で退屈な作業も、明日からの小浜島ライフを考えると妙にはかどった。
■2日目■
前日に通常の10倍の速さで仕事を終わらせた俺、おかげで今日は1日フリーだ。
「昨日は夜中までお仕事してましたか?お疲れ様ですね~。Wi-Fi大丈夫でしたか?」
と、朝食をテーブルに運びながら朝から元気なみさきちゃん。
「回線はバッチリでした。おかげで今日は自由です」と答える俺。
良かった!と嬉しそうな彼女。
正直に言おう、俺は完全に恋をしてしまいました。
そこへ「おはよー」と外から入ってきのは、ゆりなさんだ。
朝から島の散歩に行ってたらしい。長い髪が朝日に輝いている。
す、素敵だ。どうやら俺は、こちらのお方にも恋をしてしまいました。
「うちはお母さんも私もパソコンとか全然ダメで、宿のホームページもダサダサなんですよねー」
朝食のさなか、民宿の公式サイトをスマホの画面に出して見せるみさきちゃん。ダサいとは思わないが、放置されてる感は否めない。
俺はとっさにこう言った。
「任せてください!」
結局、その日は観光もせず深夜まで部屋にこもり、民宿のサイトをオシャレに作り替える作業に没頭してしまった。
俺は誰かの役に立っているのか?
例の問いに対する挑戦だったのかもしれない。
東京のWebデザイナーの友達の助けもあり、たった一日で今風のインスタ系女子が好むサイトに作り替えることが出来た。サンキュー友!
■3日目(午前)■
「あい!でーじ可愛くなってるー!お母さん見てー!」
朝から看板娘のご機嫌な声が民宿、いや島中に響き渡った。
「あい、じょ~と~!これで、お客さん増えて忙しくなったらどうしようかね~」と、厨房から出てきたお母さんも嬉しそうだ。「僕がここで娘さんと一緒に経営します!」と冗談を言おうとしたが、本気が混じって場が寒くなりそうなのでやめた。
思えば、自分の仕事でクライアントからここまで喜ばれたのは初めてかもしれない。どんなに頑張って開発したプログラムも、その後、何がどうなったのか、よく分からないのが日常だ。
「あの、お金はどうしたらいいですか」とみさきちゃん。
「あ、僕が勝手にやっただけですから。大丈夫です。朝ごはんも美味しいし」ほんと、あなたの笑顔で十分です。
「じゃぁ、お礼に島を案内しますよ!今日は、ゆりなさんも一緒に島めぐり観光に行くので、良かったらどうですか!」
こんなに晴れた日に美女2人とデート?神様、野村監督!ありがとうございます!と心の底から思っていた矢先、俺のスマホが鳴った。
保守を請け負っているクライアントの社内でシステムエラーが発生し、緊急で対応してほしいとのこと。
こんな時に、まじかよ!どうする、俺!
つづく
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