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1.抱きしめたい/風街ロマン

イントロ

アコースティックギターが奏でるカントリーミュージック。「抱きしめたい」という熱烈なタイトルとは裏腹に牧歌的で穏やかな曲調で始まる。  

メインパート

ピアノが入りブルースの要素が足される

淡い光が吹き込む窓を
遠い田舎が飛んでゆきます

「田舎が飛んでゆく」という表現で車窓からの景色が描写されている。主人公は列車に乗っている状況。「遠い田舎」とあることから、ここでの田舎は"故郷"ではなく"都会の対義語"としての田舎であることが推測され、主人公は列車に乗って地方へやって来ているのだと分かる。

ぼくは烟草をくわえ
一服すると
きみのことを考えるんです

「一服すると」のあとにスーーッっという息が聞こえるのは煙草の演技だろう。大瀧詠一のお茶目ポイント。
この歌が「きみ」と主人公の物語であることがここで示される。
また大瀧詠一によってです/ます調が強く歌われている。

そして間奏に強めのエレキギターソロがきてロックの要素も足される。鈴木茂かっこいい。

黝い(くろい)煙を吐き出しながら
白い曠地(あれち)を切り裂いて
冬の機関車は走ります
きみの街はもうすぐなんです  

漢字がとても難しい。「黒い」や「荒地」という書き方では駄目だという松本隆のこだわりが伺える。ちなみに漢字ペディアによると「黝」は青黒い・薄暗いという意味で「曠」は広い・むなしいという意味を持つ。劇画風で切迫したイメージを筆者は感じた。雪国を突き進む列車がダイナミックに描かれており、主人公が列車に乗っている理由が明らかになる。

「きみ」に会いに来たのだ。  

間奏ではロック感強めのエレキギターソロの後、lowを切ったイコライジングで浮遊感のあるサウンドパートが続く  

ゴオゴオゴオと
雪の銀河をぼくは
まっしぐらなんです

ここまで現実的な表現の歌詞であったが急に「雪の銀河」という非現実的な表現へと切り替わる。間奏の浮遊感のあるサウンドも相まって主人公の頭は空想の世界へまっしぐらなのだとが分かる。

飴いろの雲に着いたら
浮かぶ驛(えき)の沈むホームに
とても素早く
飛び降りるので
きみを燃やしてしまうかもしれません

現実世界とは切り離された場所に主人公の頭は飛んでいく。そこでは駅が浮かびホームが沈むというように時空が歪んでいる。また文章の区切りも変則的であり「とても素早く飛/び降りるので」となっている。

そして「きみを燃やしてしまうかもしれません」と主人公の熱い想いが比喩的に描かれる。そこに「きみ」への思いやりはあまり無く自己本位に熱い感情をぶつけようとしている。主人公は幼い思考を持った人物なのだろうか。ここまで勝手に「きみ」を恋人だと思っていたが本当は違うのではないか。恋人でないならば誰に会いに行っているのか。アイドルに会いに行っているのか。などなど色々疑問が湧いてきて余韻を残す

※調べたところによると松本隆が東北へ宮沢賢治の聖地巡りに行った時に書いた歌詞のようです(ただしこの曲がきみ=宮沢賢治だけ指しているものではないとは思います)

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アウトロ

シュッシュッシュッ(ぽっぽぽーおー)としつこく繰り返されるがこれはダブルミーニングの洒落だ。
①汽車の排気音「シュッシュッポッポー」
②come together/The Beatlesのオマージュ「Shoot:撃て」
筆者は「日本語ロック」を印象付けるユーモアに感じた。  

まとめ

『風街ロマン』というアルバムの1曲目としてこれ以上ない曲。様々な音楽的要素を重ね合わせながらアルバムのコンセプトを主張しつつ、人々を現実世界から空想の世界へ引きずり込んでいる。

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