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風景をつくる3つのシコウ力


まちの風景をつくる学校(森山円香 晶文社)

本を読んでいて気持ちがいいのは「圧倒的敗北感」を感じられる本に出会ったとき。

この本もそんな一冊となりました。徳島県の山奥にある小さな農業高校、徳島県立城西高等学校神山校で起こったこと。
高校魅力化界隈では発売当初から話題になっておりましたがようやく読み終えました。

~~~ここから引用
4つの試み P26~
1 神山創造学
  ⇒高校の「学校設定科目」(1~3年で全10単位)で地域プロジェクトを行う。
2 どんぐりプロジェクト
  ⇒山に入って種(どんぐり)を拾い、木を育て、建物を整備する。
3 孫の手プロジェクト
  ⇒学校で習った造園などの技術を活かして、有償ボランティアを行う。
4 まめのくぼプロジェクト
  ⇒耕作放棄地を耕し、野菜を育て、弁当をつくる

あゆハウス(寮)
・2019年スタート
・定員18名
・食事は自分たちでつくる
・夕食後に話し合いをして自治する

「まちづくり」ではなく「まちが生えてくる」

P218 問いを変えてみる
「このまちで3年間を過ごすことが将来にどうつながるか」から、
「神山で3年間暮らすことで何を得られるか」へのシフト
1 出会うつもりのなかった世界との出会い
  ⇒「知っている」選択肢の数と「直接関われる」選択肢の数
2 身体感覚を伴う体験
  ⇒映像や言葉でわかったつもりになってしまえることを、各々の身体と感性を拠り所に獲得していく
3 社会は手づくりという感覚
  ⇒自分の言動が周囲に影響を及ぼす経験、つくる側になる経験の積み重ねの先に自己有用感の醸成がある
~~~

印象に残ったのは、寮生の3年次の下宿について。2年間寮で過ごした後に3年次は町の人のところにお世話になるという子が2人現れたということ。ああ、そういうのいいなって。

最後に、森山さんが、学校と地域、子どもと大人。異なる存在がともに育っていく環境をつくることはいかにして可能か。
という問いをふりかえります。

1 フェアな関係性
2 試みへの寛容性
3 自分自身を満たす

なんか、重みがありますね。
ホントそうだなあと。

僕自身のキーワードは、3つのシコウ力、かなあと。
1 試行する力
2 思考する力
3 志向する力

仕事と暮らしの関係、とか、
学校と地域の関係ってこのグラデーションなのではないかって。
名付けて「やってミズム」なんですけど。(笑)

神山のキーマン、大南信也さんの
「まちが生えてくる」っていう言葉に代表されるように、

種まき(試行)を繰り返し、
いつぞや蒔いた種が、あるいはどこからか吹いてきた種が、
そこの土壌に合っていればそれぞれのタイミングで芽を出す。

たぶんそれが「まち」であり、「風景」なのだろうなと。

「学校(授業)」と「地域(活動)」の関係もきっとそういう感じで、
「志向」と「思考」に寄っているのが授業で、
「思考」と「試行」に寄っているのが活動なのだろうと思う。

おそらくは人生(キャリア)もそんな感じで。

目標を持って、そこに向けてスキルを磨いて、実現していくみたいなフェーズと、なんでもやってみて、いつかつながるかもしれないから、みたいなフェーズと、その両方が必要なのだろうなと。

VUCAな社会の到来だとか言って、ひとりひとりが予測不可能な時代を生き抜く力を持たないと、だとか脅してくるけど、それはあくまでグラデーションの話で、

工業社会の時は、(特に仕事においては)「予測可能」な目的達成的な部分が多かっただけで、人生的には偶然の連続を積み重ねている人もかなりいただろうし。

これからもひとりひとりは、その人生フェーズによって、そのグラデーションを変えていくのだろうと。そのひとりひとりの人生が重なる場所として、神山という町がとても魅力的なのだろうと思った。

「3年間」をその後の将来にどう生かすか?
ではなく、
「3年間」で(機会として)何が得られるか?
を訴えていくこと。

3つのシコウ力「試行」「思考」「志向」を意識し、グラデーションを創造していくこと。その繰り返しこそが、風景がつくるのだと。

読み終え、あらためて表紙を見てハッとした。

「まちの風景をつくる学校」にはサブタイトルがあった。
小さなフォントで書かれた「神山の小さな高校が試したこと」。

そう。この本はサクセスストーリーではなく試みの記録。
あなたも、あなたの地域も「やってみないか?」と誘いかける1冊。

心に風が通り抜けるようなさわやかな1冊となりました。
ありがとうございました。

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