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居酒屋「閉業」をデータから視覚化してみる|港区・京都・福岡

Yahoo!さんとGoogleさんのデータを組み合わせて、東京港区、京都、福岡の居酒屋の閉業状況を視覚化してみました。厳しいビジネス環境とともに、都市による性格の違いも見えてきました。


原宿のブティックはたくさん閉業した?

コロナ禍で都心への外出機会が減り、久しぶりに出かけたりすると、「おや?こんなに人少なかったっけ」「あ、あの店が無くなってる!」と思ったりしないでしょうか。

先日も久しぶりに原宿周辺を歩いた時に、どことなく人気の少なさを感じました。日本を代表するファッションストリートでも、クローズした店舗が多いのかもしれない。

これは私の「肌感覚」に過ぎないのですが、それをデータから検証してみたくなり、Pythonでプログラムを組んでYahoo!さんとGoogleさんのデータを組み合わせて閉業情報を取得し、渋谷区で閉業したファッション関係の店舗を地図上に可視化してみることにしました。

試行錯誤した結果できあがったマップがこちらです。ピンクのマーカーが閉業店も、グレーは営業中の店舗です。

なるほど…確かに、恵比寿などに比べると原宿や渋谷は閉業店舗が多いように見えます。

渋谷、原宿拡大図。渋谷・公園通りや原宿・明治通り沿いに閉業マーカーが目立ちます。

渋谷や原宿は元々店舗数も多いと思うのですが、今回のデータで見る限り母数は恵比寿も多い。にもかかわらず渋谷、原宿の方に閉業店舗が目立つのは、テナント料の高さや顧客層、街としての性格によるものなのかもしれません。

実際このあたりのトレンドに詳しい専門家の方に話を聞いてみると、2020年後半から現在に至るまで、かなりたくさんのショップや複数階出店テナントが退店した様です。

他方、原宿駅第改築や明治神宮前交差点の再開発がありますから、歴史的に新陳代謝が加速している時期なのかもしれません。

注:上記「閉業」情報はGoogle Places APIから取得した「Business Status」というデータを用いています。もちろん完全なリアルタイム情報ではないと思われるので「実際は閉業しているのに、Google上はまだ営業になっている」というケースもあるかもしれません。
一方で分母となる全店舗リストはYahoo!ローカルサーチAPIより取得しています。このデータの中に例えば5年前に閉業した店舗も含まれている可能性もゼロではないので厳密に「コロナ禍以降に閉業し店舗」であるとは言えないことにご留意くださいまし。

閉業店舗が少ない恵比寿

恵比寿、代官山エリア拡大図。恵比寿よりは代官山の八幡通りに閉業マーカーが連なっています。

恵比寿にもそれなりに店舗が分布していますが、中心部に閉業店舗は目立ちませんね。

恵比寿で飲食以外の業態を営まれている方にコロナ禍以降の様子を聞いたところ「恵比寿は大人数で飲みに行くというより、二人だけでのデート需要が高い街だから、比較的マシだと思いますよ」とおっしゃっていました。

確かにそのような側面は読み取れるかもしれません。

他方、代官山エリアでは八幡通り沿い、つまりいわゆる代官山の中心部に閉業マーカーが並んでいますね。

こうした閉業店舗には、きっと今では新しい店舗が入っているのでしょうが、少なくともそれだけ新陳代謝が激しいエリアということなのかもしれません。

これらの閉業店舗がコロナ禍以降に閉業したのかどうかはわかりませんが、ひとつの参考にはなりそうです。

閉業居酒屋の多い新橋、赤坂、六本木

さてでは、ファッションよりもさらにコロナ禍の影響を受けたと考えられる「居酒屋」についてはどうでしょうか。

こちらも同じ手法で「港区×居酒屋」の閉業マップとして視覚化してみました。Yahoo!ローカルサーチAPIから取得した港区の「居酒屋、ビアホール 」の全店舗のデータをもとに、その営業状況をGoogle Places APIから取得しマッピングしています。

新橋、赤坂、六本木での閉業が目立ちますね。元々店舗が多いエリアと考えられますが、それぞれ駅近いエリアででの閉業が多いように見えます。

新橋、赤坂、六本木エリア拡大図

麻布は閉業耐性がある?

一方、同じ都心で、かつそれなりに店舗数も確認できる表参道や西麻布、麻布十番などでは、閉業店舗はそれほど目立っていません。

表参道、西麻布、麻布十番拡大図

どうやら都心で駅近だからといって、一様に閉業店舗が生ずるわけではなさそうです。

カジュアルなイメージのある新橋と、いわゆる業界なイメージある六本木のように、、街としてのイメージが異なっても同じように閉業が多いエリアもあれば、例えば六本木とすぐお隣の西麻布や麻布十番では影響の受け方が地がようです。

港区を観察するかぎり、ざっくり言って「都心でオフィス街」ほど閉業店舗が多いように見えますが、どうなのでしょうか。

港区と京都市を比較する

そこで今度はぐっとエリアを移動させて、港区と「京都市」を比較してみましょう。

新橋といえばサラリーマンのオアシス。京都でそのポジションに近いのは、地下鉄が通っていてオフィスビルが立ち並ぶ烏丸エリアです。

東京都港区、京都府京都市比較図

比べてみると、京都の烏丸には広い範囲に居酒屋が非常に多く分布しているのにも関わらず、閉業店舗は多くありません。

そうではなく、南北の細長いエリアに飲み屋が連なっている木屋町や先斗町に閉業が目立ちます。昔から学生さんたちが多いエリアです。

京都では新橋と違って、いわゆる社会人が飲みに行くエリアでの影響は少なく、学生さんが多いエリアのほうが影響が顕著なようです。

もともと京都市は人口に対する大学生人口の比率が11%ほどと、突出して多い都市です。

2020年は市内の大学も一斉にオンライン授業となり、大学に学生が通学しない期間が長く続きましたから、人口比率が6%ほどの東京23区などに比べて、街への影響も大きかったと考えられます。(訪日外国人観光客も一斉にいなくなったこともあるでしょう。)

最後に福岡を見てみる

最後にその京都と元々同規模の人口をもち、絶賛増加中(2022年現在160万人)の福岡市を見てみましょう。

こちらは京都のように特定のエリアに集中している様子は見てとれません。オフィス街が多い博多駅周辺や、歓楽街の中洲に閉業が目立ちますが、大名や、少し離れた西新にも閉業が出ていますね。

その中では、祇園や春吉のように、中心部から少しずれたエリアでは閉業があまり目立ちません。

このあたりは港区で麻布十番に閉業がなかったことと似ているかもしれません。

それにしてもこうして見ると、福岡市って広い範囲にかなり満遍なく居酒屋が分布してるんですね…あらためてすごい街です。

今回地図上に可視化してみて、近年のサービス業を取り巻く厳しい環境がひしひしと感じられたのとともに、東京、京都、福岡のそれぞれに異なる都市構造と、そのエリアでどんな人が、どのように行動していたのか、そしてそれがどう変化したのか、ということがが浮かび上がってたように感じました。

以上、徒然研究室でした。


Yahoo!とGoogleのデータを組み合わせた分析手法について

以下は、PythonとAPIを使った今回の分析手法に関するメモです。プログラミングやデータ分析にご興味ある方はよろしければご覧くださいまし。

今回の分析にあたってはデータの取得と整形がなかなか手強かったです。

まず最初に一番頼れそうなデータソースはGoogle Mapであるはずですが、これが一筋縄ではいきませんでした。

Googleさんは「その店舗が営業しているか閉業しているか」の情報を「Business_Status」というデータで持っているものの、APIを使って「渋谷区 衣料品店」のような「大きい網」でリクエストしても、閉業してしまっているお店自体があまり上がってこないのです。

おそらく閉業情報を優先的に返しても、一般的なユーザーにはメリットがないからでしょう。わざわざ閉業店舗を検索する人はいませんもの。

でも、特定の店舗を名指しして情報をリクエストすると、閉業店舗でもちゃんと閉業情報を含むデータが返ってくることが確認できました

ということは、営業しているか閉業してしまってるかはさておき、渋谷区のファッション系店舗の一覧があれば、そのリストの店舗をひとつひとつGoogle Places APIに紹介すればよい、ということになります。

そこでまず、GoogleではなくYahoo!ローカルサーチAPIから「渋谷区」「ファッション、アクセアリー、時計」という条件で該当する店舗一覧のデータを取得することにしました。

Yahoo!さんの営業中か閉業かの情報はありませんが、そこそこ網羅的な渋谷区内の該当店舗のリストが取得できます。

返ってきたJSONデータから「店舗名」と「住所」の要素を取り出し、これをスペースで繋げたリストを作ります。

今度はこの「店舗名+住所」リストを、Google Places APIに投げ、店舗情報のJSONデータを取得します。

この時、個別の店舗を一件一件名指しで検索して、連続的にデータを取得していくループのプログラムを組む必要があります。

そうして返ってくるJSONデータには、Business Statusと緯度経度情報が入っているので、これを使って地図上にプロットするわけです。

結果的には、予想していたのよりも多くの閉業店舗が現れました。

つまり「Yahooさんのデータでは存在してるはずの店舗だけど、Googleさんのデータ上では既に閉業している店舗」が結構あったということです。

この閉業情報は完全にリアルタイムで反映されているとは考えにくいですが、エリア別に閉業店舗を把握していくにはある程度目安になるかもしれません。


トップ画像はお絵かき人工知能Stable Diffusionで生成した画像に、当研究室作成のグラフを合成して作成したものです。

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