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YouTubeデータから韓国でのJ-POP人気を視覚化してみる

米津玄師さん楽曲の韓国での人気が急上昇しているとのことでデータを分析しているうちに、J-POP、J-ROCKそのものの人気が韓国で高まっているようであることが見えてきたのでまとめておきたいと思います。

まず米津玄師さん楽曲のYouTubeでの国別視聴回数推移を21年1月以降を対象として視覚化してみました。

オレンジ色の折れ線が日本での視聴回数数位です。

左の方で急激にスパイクしているのは、2022年2月6日の「POP SONG」のMVに伴うもの、

その次のスパイクは2022年5月13日の「M七八」の公開に伴うものだと考えられます。

そこから5ヶ月ほど経って、10月から11月にかけて三回ほどのスパイクがみられます。

その中でも最大のスパイクは10月25日と11月22日に起きています。それぞれアニメーション作品『チェンソーマン』の本人MVが公開された日と、同曲の常田大希さんとの共演ライブ映像が公開された日です。

その後の日本での視聴回数は以前と比べて全体が底上げされたような水準となり、緩やかに下降していきます。

一方で海外からの視聴回数は日本に比べると少ないまま続いてきた状況が、あるタイミングを機に変化を見せます。特に韓国です。

『チェンソーマン』公開を機にやや上昇を始め、その後の12月10日に小さなスパイクがみられます。日本での推移と異なるのは「スパイクがあって、その後ゆるやかに下降する」のではなく、「スパイクを機に視聴回数が高止まりする、ゆるやかに上昇していく」という動きがみられることです。

その結果、韓国からの視聴回数は、既に底上げされたような形の日本の視聴回数の半分の規模にまで達しています。

『死ぬのがいいわ』が世界中のヒットチャートでチャートインた藤井風さんのYouTube視聴回数推移をみても、日本の視聴回数の半分に達する国はそれほど多くありません。

このことから韓国では、米津玄師さんに対してじわじわと大きく注目を集めるような何かが起きている可能性が示唆されます。

まず鋭角的なスパイクが起きている12月9日に着目してみましょう。

このスパイクは少し前の『チェンソーマン』放送・配信開始のインパクトを凌駕しています。一体何が起きていたのでしょうか。

Twitterでこの疑問についてツイートしたところ、米津玄師に詳しいTwitterユーサーの皆さんが、12月9日に韓国語ベースのYouTubeチャンネル「쏘플 soso playlist」で「KICK BACK」の韓国語歌詞字幕付き動画が公開されたことを教えていただきました。ありがとうございました。

それがこちらの動画です。

こちらのチャンネル「쏘플 soso playlist」は他にも259本の翻訳歌詞字幕付き動画をアップしていて、2023年3月3日現在、99.6万人のチャンネル登録者数がいます。英語圏の楽曲の翻訳が多いようです。

このチャンネルの動画別の公開日と視聴回数の関係を散布図として視覚してみました。「KICK BACK」翻訳動画にハイライトしています。

ご覧のように「KICK BACK」は、公開日が最近の動画としては非常に多い視聴回数を獲得しており、2023年3月3日現在957万回に達しています。全体でも14位です。

米津玄師さんご本人のチャンネルでの「KICK BACK」には韓国語字幕がない一方で、このようなデータからは、韓国語で「KICK BACK」の歌詞を知りたい、という強いニーズが潜在していたことがうかがえます。

さてその後の韓国での視聴回数推移を追ってみましょう。日本でのようにスパイクの後下降線を辿るのではなく、ある時点を境にむしろ上昇してゆき、データ取得日の2023年2月28日時点で過去最高となっています。

この直近の上昇のきっかけとなったと思われるのが、2月2日行われた、BTSのメンバー、ジョングクさんによる「KICK BACK」の歌唱動画配信です。

TwitterでのBTSファンの方々のツイートを辿ると、韓国発のファンコミュニティプラットフォームWeverseで、下記のようなジョングクさんによる動画が2月2日前後に配信されていたことを知ることができます。

この動画配信は、BTSさんやK-POPアーティストのファンであるWeverseユーザーの方々が、米津玄師さんと「KICK BACK」に興味をもつ小さくないきっかけを提供したと考えられます。

昨年11月に藤井風さんの「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットをデータから分析した際にも、BTSさんファンの存在が浮かび上がってきました。非常に興味深く思います。

さてこうしたデータを分析しているうちに、どうやら米津玄師さんに限らず多くのJ-POP、J-ROCKアーティストが現在韓国で盛んに聴かれているようであることに気がつきました。

そこで、当研究室ではSpotifyのデータを使うことが多いですが、今回は韓国ではユーザー数が極端に少ないSpotifyではなくYouTubeの韓国でのTop Songs上位100位のデータを使って、韓国でのJ-POP、J-ROCKのランキング推移を視覚化してみました。対象は2021年以降の2年強の期間です。

まず対象期間の初期に着目してみましょう。J-POP、J-ROCKとみなせる楽曲にピンク色でハイライトしています。

J-POP、J-ROCKはランクインはしていますが、多くは50位以降の順位となっています。ちなみにこの期間にランクインしているのは下記の楽曲となります。

Ai Otsuka「さくらんぼ」
Ayumi Ishida「ブルー・ライト・ヨコハマ」
LiSA「炎」
YOASOBI「夜に駆ける」
Zutomayo「暗く黒く」

2003年リリースの大塚愛さん「さくらんぼ」に、1968年リリースのいしだあゆみさん「ブルー・ライト・ヨコハマ」…いったいどんなきっかけがあったのでしょうか。

その後は下記のように21年7月15日週から22年2月3日週、22年4月7日週から7月21日週は、J-POP、J-ROCKの楽曲が一曲も100位以内に入っていない期間が長く存在します。

ところが22年9月29日週以降は様子が変わります。今度は50位より上の順位へのランクインが増えていくのです。

この期間にランクインしているのは下記の楽曲です。

10-FEET「第ゼロ感」
Ado「新時代」
aimyon「愛を伝えたいだとか」
aimyon「君はロックを聴かない」
Fujii Kaze「死ぬのがいいわ」
Gen Hoshino「異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)」
Hikaru Utada「First Love」
HoneyWorks「可愛くてごめん (feat. capi)」
imase「NIGHT DANCER」
Kenshi Yonezu「KICK BACK」
Kenshi Yonezu「Lemon」
SEKAI NO OWARI「Dragon Night」
Yorushika「左右盲」
Yuuri「ベテルギウス」

同時期の日本のチャートでも人気の楽曲や、アニメーション映画、Netflixドラマだけでなく、2014年リリースのSEKAI NO OWARIさん「Dragon Night」がチャートインしているのが目をひきます。

【2023年4月16日 データ更新】
アクセスが伸びているのでデータを更新しました。引き続きJ-POPが上位にランクインしていることがわかります。

直近は100曲中12曲です。 RADWIMPS さん あいみょん さん、米津玄師さんの楽曲は2曲ずつランクインしています。

4月8日付韓国YouTube Top 100 SongsにおけるJ-POPの順位

5 NIGHT DANCER by imase
10 すずめ (feat. Toaka) by RADWIMPS
14 KICK BACK by Kenshi Yonezu
17 愛を伝えたいだとか by aimyon
22 Lemon by Kenshi Yonezu
26 ベテルギウス by Yuuri
51 オトナブルー by ATARASHII GAKKO!
53 第ゼロ感 by 10-FEET
59 君はロックを聴かない by aimyon
60 可愛くてごめん (feat. capi) by HoneyWorks
62 カナタハルカ by RADWIMPS
92 Overdose by natori

imaseさんの『NIGHT DANCER』が象徴的ですが、『チェンソーマン』『すずめの戸締まり』『THR FIRST  SLAMDUNK』といったアニメーション作品関連以外の楽曲も人気ですね。

さて、先月当研究室では全世界のSpotifyの一年分のチャートデータから「国同士のヒットチャート類似度」を分析しました。

下記は「韓国と他国とのチャート類似度」を、Spearmanの順位相関係数が大きい順にソートしたヒートマップです。

Spotifyデータから分析する限り「韓国と似ている国」上位3ヵ国は、台湾、香港、ニュージーランドです。一方日本は下から数えた方が早い64番目です。

つまり韓国のSpotiyチャートと日本のSpotifyチャートはほとんど似ていない、と言えます。

ただしこの結果は、韓国でのユーザー数が人口に比して極端に少ないSpotifyのデータを含んでいます。

YouTubeは、韓国ではSpotifyに比べてより一般的に広く聴かれている音楽メディアであると考えられます。

そこで世界中でも聴かれているK-POPだけではなく、J-POPも聴かれ始めているとしたら、韓国と日本のヒット曲は徐々に重なり始めているのかもしれません。

またなによりもそうした現象が、アーティストサイドの能動的な企画や情報発信というよりも、歌詞翻訳チャンネルやBTSさんのメンバーによる動画配信といった第三者の(場合によっては偶発的な)行動をきっかけに生まれているとすれば、非常に興味深く思います。引き続き研究したいと思います。

以上、徒然研究室でした。

Twitterでもオープンデータとプログラミングで関心あることを分析してツイートしております。どうぞご贔屓に。


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