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ピンクのランドセル


「先生、ランドセルの色決めた!」

昨夜、年長の子が嬉しそうに話してくれた。黒と黄色のランドセル。小学生の姉がいるその子は、バス送迎の際、いつも姉のランドセルを背負わせて欲しいとねだっていた。とうとう自分の番がやってくるのだと瞳をキラキラさせて話す姿は本当に可愛くて、「4月、ランドセル姿見るの楽しみにしてるね」と答えた。

そんな話をしながらふと、思い出したことがある。
小学校6年間使った、ビビットピンクのランドセル。大嫌いだったわたしのランドセル。ずっとずっと取り替えたかったわたしのランドセルのことだ。



記憶をたどった時、一番最初に「女」を意識したのは、ぼんやりとした概念だったと思うけれど、「青いランドセルが欲しかった」ってことだったと思う。卒園式が迫って、両親が持ってきたのか、はたまた学生用品を扱う店を経営している親戚からもらったのか、ランドセルのカタログがいくつも家に届いた。

「青色のランドセルがいい。」そう言った私に、母は「女の子はみんな赤だよ。みんなと違うからやめなさい」と言った。
納得がいかなかった私は、ならばと妥協をして紫のランドセルを選んだ。数日後、家に届いたのはピンクのランドセルだった。


なんで。ちゃんと頼んだのに。
ピンクなんて好きじゃない。


それでも、「もう変えられないから」と言われて諦めた記憶がある。


勿論今は、母は周りから浮いてしまうことを心配してたのだとわかる。確かに私たちの周りは、赤かピンクの子がほとんどだったから。でも、私はピンクが嫌だった。少数でも紫やオレンジのランドセルを持ってる子はいたし、見るたびにいいなあって思ってた。それから、どんどんどんどんピンク色が嫌いになっていった。小学生の頃の写真を見れば、青や黒の洋服ばかりをきて、ピンクのランドセルを背負っている自分。似合わない、好きじゃないピンクを背負って毎日通っている自分がいる。

だから今、毎年春のカラフルなランドセルのCMを見るたびに嬉しくなる。

ランドセルだけじゃない。
全ての女の子たちが、好きな色を選べるような。もちろんそれだけじゃなくて、全てにおいて心に従った選択ができる世界にしたい。ピンクが好きでも、青が好きでも、「相応しくない」なんて言われない、ような。

赤と黒しかなかったランドセルがカラフルになっていったように。ピンクの子がいつも真ん中にいた女児アニメのメインキャラクターにも、男の子がなった。女性が主人公のスーパーヒーロー映画だっていくつも生まれた。毎日面倒を見ている子どもたちだって、ピンクの上履きを履いている男の子もいるし水色の上履きを履いている子もいる。

「なんで男の子なのにピンクなの?」

「なんで女の子なのに青なの?」

それでもそう聞く子たちはいる。その質問に他意はない。ただ純粋にピンクは女の子の色、青は男の子の色だと、そう思っているからだ。たった数年しか生きていない子どもたちにすらそう思わせる社会に暗い気持ちになるけれど、いつもこう問いかけ返す。

「なんでだと思う?」

そう、理由なんてない。好きだから。それだけ。

「ピンクも青も素敵な色だから、先生はみんなが好きになっちゃう気持ちわかるなぁ。」

そっと、少しだけ。聞いた子には考える時間を、聞かれた子には肯定を。そうして考えて、理解しようとしてほしい。どんな色も素敵で、誰だって好きな色を選べるということ。そこに性別は関係ないということを。

「女の子だから赤、女の子だからピンク」

"Because I am a girl" 

そんな言葉で女の子を縛る時代は、もうここで終わりにしたい。私は女として生きていくことを選んだだけの、ひとりの人間。そして、青色が好き。

何か大きく世界を変える力はないけれど、いち教育者として伝えていきたいと思う。







国際ガールズデーによせて。

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