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高校生の「とりあえず進学」と総合型選抜入試がもたらす変化を考える

今回は山口さん堀井さんの論文から、高校生の「とりあえず進学」を紐解き、入試方式との関係を考えてみました。

1分でわかる要約

  • 首都圏(神奈川)の高校生のとりあえず進学には「身分の保証」「目標探究」「モラトリアム」「他者依存」がある

  • 進路選択自己効力の高さは、次の目標を求めて進学するようになることと関連

    • ※進路選択自己効力:進路選択・決定に必要な行動を取ろうと計画し、遂行可能かどうか見ていく自己認知のこと

  • どの大学に行くか」を重視する一般入試から「大学で何を学ぶか」を重視する総合型選抜入試へシフト。「とりあえず進学」する高校生は徐々に減っていく。


論文の紹介

2017年発行のJournal of education design第8巻80-87ページの山口源さんと堀井俊章先生による論文「高校生の「とりあえず進学」と進路選択自己効力との関連に関する分析」です。

調査内容

目的

進路選択自己効力のスコープを用いながら「とりあえず進学」の構造を明らかにするとともに、

  • とりあえず進学理由には、大学や専門学校等に次の目標を求めて進学するものとそうではないものがある。

  • とりあえず進学に関して、進路選択自己効力の高さは、大学や専門学校等に次の目標を求めて進学することと関連を示す。

を検討すること。

結果

  • 首都圏(神奈川)の高校生にはとりあえず進学の理由には、「身分の保証」「目標探究」「モラトリアム」「他者依存」に分類

  • 進路選択自己効力の高さは、次の目標を求めて進学するようになることと関連

  • 進路選択自己効力の低さは、社会人として社会にでることを避けるために進学したり、自分の意志よりも他者からの影響によって進学したりすることと関連

調査内容①:予備調査

KJ法でカテゴリー分類すると、4つに分類された。
「就職」
「学び・出会い」
「とりあえず進学(働きたくない・親が喜ぶから・就職が難しくなる)」「将来・夢の実現」

とりあえず進学の中でもさらに4分類。
「目標探究」「受け身」「身分の保証」「社会的風潮」

神奈川県の公立高校3校(A校・B校・C校)に所属する高校3年生114名(大学や専門学校等への進学率はそれぞれ、50%未満・50-90%未満・90%以上)を対象に、10分程度の質問紙調査を実施。

調査内容②:本調査

これを踏まえて、とりあえず進学理由を測定する尺度の因子パターンを明らかにし、その結果を基に下位尺度化。下位尺度と自己選択自己効力を測定する尺度との関連を分析。

予備調査と同様の3つの高校の生徒704名を対象に質問紙調査を実施。有効回答は644名。

質問紙調査の結果で分散分析を実施。結果を基に、進路選択自己効力はとりあえず進学理由の「目標探究」と正の関連を、「身分の保証」「モラトリアム」「他社依存」と負の関連を示す仮説モデルを作成。

とりあえず進学理由と進路選択自己効力との関連に関する構造モデル
教育デザイン研究(8) 85ページ 山口,堀井作成のものを引用

作者の考察

  • 進学率が最も高いC校の女子の進路選択自己効力が男子に比べて有意に高い

  • 男子では、進学率が高いC校が、それよりも低いB校と一番低いA校よりも進路選択自己効力が低い

    • 進学率が高いと、周りが多く進学するため、自分自身で考えることなく進学を選択することが考えられる。

  • 進路選択自己効力の高さは、とりあえず進学する際に、明確な目的はないものの次の目標を求めて大学や専門学校等に進学することと関連を示した

まとめ

一般選抜から総合型選抜へ。その時代の変化を捉える。

高校生の「とりあえず大学進学」には、環境要因は去ることながら、受験方式も大きく作用していると考えます。
従来、最も割合が多かったいわゆるペーパーテスト(一般選抜)では、「大学で何を学ぶか」よりも「どの大学に行くか」で大学を測っていきました。
そこでは、インプット能力とアウトプット能力からなる学力が物差しで、高校生はもちろん大学も同時に格付けされながら選ばれるものでした。

一方、昨今では総合型選抜入試(旧AO)が全大学入試方式の枠のうち、5割を超えるなど、まさに「大学で何を学ぶか」で進路を選ぶ時代になってきています。そこでは中高の時代で「何に興味があり」「何をしてきたのか」が重視されます。学力に囚われすぎない進路選択の時代にシフトしてきていると言えます。

こういった時代の変化では、小学生のうちから「何が好きで、何が自分の得意で、どんな行動を取っているのか」が大事になっていきます。
進路選択に限らず、一度きりの人生、他人軸で進路を選ばず「これが好きで今はこれを学びたい!」と、学びを深めようとすることこそ、人生を豊かにしていきます。

インプットするものが決まっていて、いかに速く正確にアウトプットできるかの時代では、自分を押し殺して学ぶ
今後、ますます学びの在り方は変わっていくでしょう。


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