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第1章 12.公報の読み方

 調査の過程では、仮説を立て、想定力を発揮して公報のスクリーニング(選別)を行う。スクリーニングでは、公報の構造(構成)を理解した上で、調査の種別に応じて公報を読むことが重要である(図1.27)。

 特許公報は、全体的な構成として、書誌事項(願書)、特許請求の範囲、明細書、図面を備えている。そして、明細書は、発明の名称、技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、発明の効果、図面の簡単な説明、発明を実施するための形態、実施例の流れで記載されている。

 また、図面であれば、分野にもよるが、全体図、各構成の図、フロー図など、全体から詳細な構成の順番で登場する。

 この構成をイメージして、特許公報のどの部分を、何が記載されているかを意識して、どのように読み込むべきであるのか、想定力を発揮してスクリーニングを行うのである。

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図1.27 調査種別とスクリーニング


 侵害予防調査では、権利範囲(発明の技術的範囲)を定める「特許請求の範囲(クレーム)」が主なスクリーニング対象となるが、技術的思想全体の理解のために明細書や図面もスクリーニング対象となり得る。また、出願が継続中の公報については、審査の行方、補正や分割出願の可能性を考慮して、どのような技術的思想であるのか、その発明の本質を理解するように留意する。

 無効資料調査では、スクリーニング対象は特許請求の範囲に限定されるものではなく、明細書や図面を含む公報全体がスクリーニングの対象となる。化学・バイオ系など実験科学の分野では、技術的思想が具現化されている実施例が特に重要となる。進歩性の観点から、論理付けを行う際に有効となる記載、本願発明の課題にも着目をするとよい。

 また、段階的なスクリーニングも重要である。図1.28に示すように、ノイズ除去(1次)→関連広報ピックアップ(2次)→精読・報告書作成(3次)の順で進める。人間の集中力というのは、無限に持続するものではなく、複数の業務の間に断続的にスクリーニングを行うこともあるが、重要な2次・3次スクリーニングは、他の業務が入り込まない集中できる時間帯に行うことが有効である。

 公報のスクリーニングは、小説を文章表現や物語を楽しみながら読むこととは明確に目的が異なっている。スクリーニング対象を全て均等に一言一句読むことは非効率的である。

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図1.28 段階的なスクリーニングのプロセス 

 そこで、最初の1次スクリーニングでは、発明の名称や要約、請求の範囲、図面等を中心に明らかなノイズを除去する(ノイズ落とし)。

 次に、2次スクリーニングでは、公報全体を対象として、精読すべき文献を抽出する。

 最後に、3次スクリーニングでは、報告書を作成しながら、精読を行う。

 スクリーニング過程で、1次スクリーニング、2次スクリーニング完了の段階で随時、社内や、依頼者との間でダブルチェックを行い、ノイズ判定の基準などにズレが生じていないか確認することも重要である。

 また、適宜ファイル名を変更して保存するなどして、作業履歴を残しておくことで、途中からスクリーニングをやり直せるように備えておくことも忘れてはならない。 

 スクリーニングは、情報の篩掛けであり、篩目の粗さを徐々に細かくして情報を選抜する作業であるが、公報1件当たりのスクリーニング時間、集中力の発揮具合も、段階的に向上させていき、抽出漏れや判断ミスが無いように心がけるとよい。

  古い文献から新しい文献の順番でスクリーニングをすると、技術の流れ(進歩の変遷やトレンド)を抑えることができ、効率的かつ適切に文献を抽出できる可能性が高くなる。

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