存在しない、ない。

話題の本を読み話題の映画を観て、君は中身がないんだね。空っぽの脳みそで生きている。皮肉屋の君は口をとんがらせてそう言う。僕だって好みあるもん。そう思って部屋を見渡したら、元彼が聴いていたCD、友人から貰った服、ばあちゃんから譲られた植木。自分由来のものが何処にもない、ない。存在しない僕。

長い長い細い廊下にこだましていくローファーのコツコツする音。ひとりだ、静寂だ、生唾を飲む。ポワーンと1人ぼんやりしながら歩くのは自分が空っぽなことを忘れられるからいいね。きみがすきなことも心許せる友人がいたことも、みんな忘れた。僕はずっとひとりぼっちで世界に存在していたんだ......

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