本当はいまでも

本当に好きなのは,なんて話しはじめてしまったら,
今に嘘をついているみたいになってしまうから

あの人に可愛いも好きも言われていない
だから確信なんかしちゃダメなんだけど
でも僕たちはわかってしまったんだと思う

互いが互いを忘れられず
でも何も起きていない

抱き合った
キスもした
無視もした

好きだった


そして今も好きなんだと思う。


手のひらをお皿にして俯いて気づいたら,手から涙が溢れていた。

なんだか最果タヒの詩が読みたくなって,
そうしてまた,あの人にたどり着く。

泣きたくなって感傷に浸りたくなって
江國香織の小説に手を伸ばして,またあの人を思い出す。

たった一人忘れられない人なんて
あの人にとっては私じゃないのはわかってる

けど終わらなかった恋を,未だにひきずってしまって


もう一度会ってみたら思い出した。

君とじゃうまくいかなかったこと
あの日の女の影
駅で泣いた夜

あの頃のことだけじゃない

今の君じゃダメなこと
好きだったところはもうないこと
君の気持ちなんて1ミリもわからないこと
私の気持ちも1ミリも伝わらないこと
伝えられないこと
分かり合えないこと

この人は運命だって思う直感はもうなくなっていて
ただそれは君の今のめんどくささに繋がっていて

見たくなかった。

けどどうしてももう,もう

あんなに引きずっていたのに
ずっと無視したまま"あの頃"が終わったことも
可愛いって遠回しの婉曲表現も
同じ温度だったって確かめた夜も
こんなことまで同じなんだねって隣で泣いた朝も

もう忘れてしまって

うまく思い出せなくなって

思い出そうとしないと思い出さないことになっていった

きっと君以外と付き合うってこういうことだったんだって

君を忘れたくないと思っても,本当に好きなのは君なんだと思っていても,
どうしても減っていって,思い出せなくなっていくんだって

本当は今でもなんて言えなくて
3年後は本当に本当のことをだなんて
今の本当もあの頃の本当とは違ってきているのに

いや,もうあの頃には縛られなくて良いんだけど
じゃあ今の自分で今の君を見た時,
またあの頃みたいに純粋に好きだと思えない気がして

もういなくなってしまった
好きだった君の笑顔も中身も
君の笑顔に全て持っていかれた16の私も
もういないんだ

でも君を好きな私が好きだった
君を好きでいるセンスの良い私が好きだった
君のセンスが好きだった
そんな君と似ている私でいたかった

もう変わってしまった
君も私ももういない

だけども未だ似ているってことがわかってしまって
そのことだけがどうしても
今ももしかしてって思わせてしまう

あの頃の全員がいなくなって
何もかもが変わってしまっても
それでもあの頃の気持ちは
形が変わっていたとしても
ずっとここにある,ずっとここに消えずにある。

君が好きな私を,私は辞める勇気がない。

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