2015年最新リミックスで聴く『ザ・ビートルズ1』
2015年11月6日 ビートルズのベスト・アルバム『ザ・ビートルズ1』の最新版がCD+DVD(又はBlu-ray)にて発売されました。
夕方の渋谷駅では、朝日新聞の号外スタイルの広告が道行く人々に配られていました。
私もその号外を受け取り、その足でタワー・レコードへGO!
早速CD+DVD2枚組のデラックス・エディションを入手しましたので、まずは、CDから順番にレビューしていくことにしましょう!
今回のCDの最大の聴き所は、ジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンによる2015年最新リミックスが施されていることです。
2009年リマスターの音像が素晴らしいものだっただけに、過去の『イエロー・サブマリン・ソングトラック』のような改悪リミックスになっていないか、と一抹の不安を抱きながら聴いてみましたが、1曲目の『ラヴ・ミー・ドゥ』が流れてきた瞬間、その不安は杞憂に終わりました。
さあ、1億総ビートルズ・ファンの皆様!
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それぐらい、素晴らしいリミックスなのです。
まず、全体を通して、従来のCDに見られた、硬い音(独特の金属的な音)が消え、よりダイナミック・レンジの広い、どちらかというとハイレゾ音源に近い音になっているのが特徴です。
通して聴いてみて感じたのですが、技術革新の恩恵なのか、『随分とCDも音が良くなったなぁ…、』と妙に感心することしきり。
また、オリジナルの音像を踏襲している(大幅に変更していない)のも好感が持てます。
さあ、2015年版、ビートルズのNo.1ヒット集へようこそ!
1.ラヴ・ミー・ドゥ
まず、冒頭で驚かされるのが、ベース音がパワー・アップしている点。 全体の定位を変えずに、ベース音だけ目立たせた感じです。 もちろん、それは曲全体の力をパワー・アップさせる意味で成功しています。
2.フロム・ミー・トゥ・ユー
こちらも、ポールのベースがよく聴こえるようになりました。団子状の音像はそのままに、ポールのベースを思う存分堪能できます。
3.シー・ラブズ・ユー
イントロのドラムスの低音がパワー・アップ。 原曲の持つグルーヴ感と音像はそのままに、より現代的な音に生まれ変わっています。
4.抱きしめたい
ボーカルがよりくっきりとリアルに生まれ変わりました。 バックの団子状の演奏の音像は相変わらずですが、これが当時の音像なのでしょう。
5.キャント・バイ・ミー・ラヴ
2009年のステレオ・リマスターがどちらかというと音の分離が良い音像だったのに対し、この2015年リミックスは、良い意味で、音が真ん中から団子状に聴こえてくる、どちらかというと、アナログ・ライクな音像を目指しているように感じられます。
アナログ・レコードを散々聞き込んだ昔からのファンの方なら、思わずあの頃にタイム・スリップした感覚になるのではないでしょうか…。
6.ア・ハード・デイズ・ナイト
エンディングのエレクトリック・ギターの響きが半端ないです。今までのバージョンとは桁違いの迫力で響き渡ります。
7.アイ・フィール・ファイン
イントロのフィード・バックの音量の迫力。それが今回のリミックスで更に鮮明になっています。
8.エイト・デイズ・ア・ウィーク
エコー感が増して、全体的にダイナミック・レンジが広めになった音像は、よりクラシック的な響きになった感があります。個人的には、ロックのグルーヴ感溢れる旧ミックスの方が好みですが、それは人それぞれでしょう。
9.涙の乗車券
こちらもヘビーなドラムスをフィーチャーしていた旧ミックスと異なり、全体のバランスのとれた、よりアナログ・レコードに近い音像になっています。
10.ヘルプ!
今回の最初の驚きがこの曲です。2009年バージョンとは音像が大きく変わっています。一言で言って、アナログ・レコードに戻った感じがします。
2009年リマスターでは、1987年の初CD化の時のジョージ・マーティンのCD用リミックス音源を使用することを選択したこの曲を、今回、オリジナル・マスター・テープからリミックスし直す機会を得たことで、よりアナログ的な音像に回帰することが可能となりました。
今後のハイレゾ化に向け、大きな一歩を踏み出すことに成功したトラックだと言えるでしょう。
11.イエスタデイ
ハイレゾ・ライクな音像が効を奏したリミックスの1つ。 ポールのボーカル、弦楽四重奏の音色とも、まるでクラシックのコンサート・ホールで聴いているかのようです。
12.デイ・トリッパー
リンゴのドラムスのハイハットの細かな響きまでくっきりと聴こえるリミックスの音像は、よりハイレゾを意識したものだと私には思えてならないが気のせいでしょうか…。
13.恋を抱きしめよう
右チャンネルのボーカルとボーカルとハーモニウム、左チャンネルのベースとドラムスともにパワーアップ。
リミックスによってより立体的に浮き出てくるような音像に変化した本曲は、中期ビートルズの音楽的な進化を体感するのには最適な1曲です。
14.ペイパーバック・ライター
本アルバムの2曲目の驚きがこの曲。 イントロのコーラスは今まで耳にしたことのない深みのあるエコー。これは全く新しい感覚で蘇りました。
この曲を聴くためだけに本アルバムを買っても損はありません。 古くからのファンの方も、必聴です。
15.イエロー・サブマリン
途中のSEが驚くほどクッキリ聴こえます。この曲の魅力が伝わる、素晴らしいリミックス効果が発揮されています。
16.エリナー・リグビー
ポールのボーカルが本当に生々しい。
本アルバムのリミックスの特徴ですが、ボーカルはより近く、ストリングスはより深く、ギターやオルガンはよりリアルに響いてきます。
従来からのファンの方にも自信を持ってお勧めできる1枚です。
17.ペニー・レイン
本アルバムの最大の聴き所が本作です。
迫力あるベースの倍音に、スネアとハイハットの響き、そして、ポールのエコー感溢れるボーカル。全てが素晴らしい音像を形成しています。
それにしても、この低音は素晴らしいの一言!
18.愛こそはすべて
この曲も、「ラヴ・ミー・ドゥ」同様、全体の音像を変えずに、ポールのベースをよりパワー・アップしています。元々ベースが弱かった本曲ですが、このベースを強調したリミックスは成功したと言えるでしょう。ブラス・セクションの芳醇な音も聞き所です。
19.ハロー・グッドバイ
ピアノのアタック音がこれほどまでにクッキリと響く「ハロー・グッドバイ」を私は今まで聴いたことがありません。この曲の要が実はピアノだということを気づかせてくれたリミックスです。
このように、新たなリミックスによって、古くからのファンでも多くの新しい発見が出来るのが本アルバムの最大の利点だと思います。
20.レディ・マドンナ
リンゴの叩くドラムスが凄い迫力です。また、ハイハットの細やかな響きまで捉えるリミックスは、まるでハイレゾ音源を聴いているかのような錯覚を起こさせてくれます。
21.ヘイ・ジュード
この曲も「ハロー・グッドバイ」同様、ピアノのアタック音が旧リミックスと比べて生々しくなっています。ベース音も、従来の「ヘイ・ジュード」では、考えられないほどハッキリと聴こえます。リンゴのドラムスの多彩なテクニックも堪能できる素晴らしいリミックスの1曲。エンディングのブラス・セクションは只々圧巻です。
22.ゲット・バック
イントロのベースとエレクトリック・ギターの迫力。そして、ポールのボーカルの素晴らしいエコー感とスワンプ・ロック風のメロウなギター。サウンドの骨格を作り上げている倍音豊かなベース音。全てが広いダイナミック・レンジの中で活き活きと共鳴し合う、素晴らしい音像を堪能できます。
ビリー・プレストンによるエレピの間奏の直前のポールの掛け声「Get Back Jo!」のエコー感がもの凄いですね。
エンディングのギター音、今までのCDでは聴こえなかったのですが…?!
23.ジョンとヨーコのバラード
原曲の音像を踏襲しつつ、よりアナログ・ライクな倍音豊かな音像が楽しめます。ピアノのアタック音の残響音が、かってないほどのリアルさを持って迫ってきます。
24.サムシング
ハイレゾ・ライクな音像とダイナミック・レンジの広さから、本作のようなストリングス主体の曲はよりその輝きを増してきます。
旧ミックス(2009年)では、ポールのベースの独壇場だったのですが、全ての音が対等になり、バランスの良い音像になっています。(私個人としては、ポールの超絶ベースが堪能できる旧ミックスも捨てがたいのですが…)オルガンと、リズム・ギターの音色が映えるリミックスになっています。
25.カム・トゥゲザー
旧ミックスでは、ベース&ドラムスが暴れまくる非常にロック・テイストの強いミックスでしたが、これも、前曲の「サムシング」同様、よりバランスのとれたリミックスが施されており、ベースも、力強さというよりも豊かな倍音に重きが置かれた、よりハイレゾ・ライクな音像となっています。
それにしても、今回のリミックスでは本当にリズム・ギターがよく聴こえます。正に、新発見のビートルズ、という感じです。
27.レット・イット・ビー
ピアノのアタック音とポールのボーカルのリアルさに、思わずポールが目の前で歌っているかのような錯覚にとらわれます。 このような、音の近さもハイレゾ・ライクな音像だと言えるでしょう。
リンゴのバスドラの低音と、ビリー・プレストンのアーシーなオルガンの音色がよりリアルになっていて、本来のこの曲の持つ(ゴスペル・ソングとしての)世界観を見事に体現した素晴らしいリミックスとなっています。
エンディングのギター、これも初めて聴くことのできるとっておきの音です。
27.ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
まず、大変驚かされるのが、ストリングスのボリュームが下げられ、よりポールのボーカルが目立つ音像に変更されている点です。
もちろん、オリジナルの音像は踏襲されているものの、フィル・スペクターが目指した、アメリカ映画のサンドトラック的な世界観は薄まり、スタジオ・ライヴ感が増したこのリミックス。より当時のポールが意図したサウンドに一歩近づいたのではないでしょうか。
前述の「ゲット・バック」(スワンプ・ロック)、「レット・イット・ビー」(ゴスペル・ソング)、そして、この「ロング・アンド・ワインディング・ロード」もそうですが、今回のリミックスの特徴として、本来の楽曲の持つコンセプトを見事に体現したリミックスとなっているのが驚きです。
まるで、ジャイルズがポールにインタビューし、その制作意図を聞きこんだ上でリミックスしているかのよう…。
今回のリミックスの音像の変化が、こうしたアーティストが本来目指した音像を作り上げようとした結果であるならば、このプロデューサーのジャイルズ・マーティンは只者ではありません。
以上で本リミックス・アルバムの、2009年バージョンとの違いを中心に聴きこんできましたが、本盤を聴いて私は確信しました。おそらく、本音源を元にビートルズはハイレゾ配信を始めるでしょう。
(残念ながら、2017年9月時点で、ビートルズのハイレゾ配信は実現しておりません)
今回のリミックスで、オリジナル・アナログ・マスター・テープへと立ち戻ったことで、ハイレゾ配信への大きな一歩を踏み出したといえます。
そして、今回のリミックスをジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンに任せたところも、EMIの戦略勝ちだと思います。(合法的にジョージ・マーティンの『ヘルプ』、『ラバー・ソウル』収録曲の87年ステレオ・リミックス・バージョンを闇に葬ることに成功したという意味でも)
さて、いよいよ次は、オリジナル・アルバムむ含めたリミックス(※1)及びハイレゾ配信ですね。
是非その時は、今回同様、オリジナル・アナログ・マスター・テープまで遡った新たな驚きを聴かせて欲しいと思っています。
ビートルズを巡る新たな旅はまだまだ終わりを告げることはなさそうです。
※注1:実際に、この後、彼らのオリジナル・アルバムのうち、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(2017年)、『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』(2018年)、『アビイ・ロード』(2019年)がそれぞれ、50周年記念盤としてリミックス・バージョンにて再発売されています。
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