【観劇記録】宝塚花組・冬霞の巴里②アンブル

前回の記事で、思いの外オクターヴの事だけでかなり文字数が多くなってしまいました。
この作品の面白さはやはりオクターヴとアンブルの関係性にあると思っているので、今回の記事では、アンブル目線での"冬霞の巴里"を書いてみたいと思います。

アンブルはオクターヴの姉として、この物語を大きく突き動かしている人物といっても過言ではありません。
しかし、その心情は意外と描かれておらず、観客に委ねられている点が多い事に気付きました。
(その余白がこの作品の好きなところの1つです)

ですので、こちらも一個人の解釈としてご覧頂けますと嬉しいです。
ネタバレしてますのでご注意下さい!
また、オクターヴの解釈については前回の記事に書いた事に基づいているので、宜しければこちらの記事にも目を通して頂けると嬉しいです。

唯一の"全ての目撃者"

幼い頃の記憶が曖昧で、物語が進むにつれ自分の出生や父の知らなかった一面を知っていくオクターヴに対し、アンブルは幼い頃から記憶している事が多いです。

アンブルは、
・自分にはイネスという姉がいる
・自分の父がオーギュストではない
・オクターヴの母がクロエではない
=オクターヴと血が繋がっていない
・ギョームとクロエの不倫関係(?)
・イネスの死の真相
・オーギュストの死の真相
などの、物語の終盤までオクターヴが知らずにいた真実を、最初から知っていたのだと思います。

父親が死んでギョームやクロエ、ブノワの会話を聞いてしまった時、オクターヴが「何かきっと別の話だよ」と言うのに対し、アンブルは事の事態を察しているかのように見えたからです。
もしくは、幼い頃ははっきりとわからなくとも、イネスの死を知っている以上、成長するにつれ理解していったのかもしれません。

つまりアンブルはこの事実だけで考えると、この物語の対立構造でいうオクターヴ側ではなく、ギョーム・クロエ側に立つ事もあり得た人物でもあると考えました。

オクターヴという救い

そんなアンブルが、ギョームやクロエ、ブロワへの復讐の道を選んだのは、優しかった『父(オーギュスト)』の記憶もそうですが、やはりオクターヴの存在があったからだと思います。

幼い頃のオクターヴは、母親に愛されていないという自覚はあるものの、優しい父や姉達を愛するまっすぐな子供です。
大人達の汚れた部分を知ってしまった幼いアンブルにとって、オクターヴはそれらから守るべき存在であり、たった1つの救いだったのではと思います。
物語の最後、下宿の住人達とミッシェル、エルミーヌがが『綺麗事』の話をしますが、アンブルにとって1番綺麗で信じたいものがオクターヴだったのかと。

前の見出しに『唯一の全ての目撃者』と書いたのは、ギョームやクロエには見えていなかった、オクターヴの心情までアンブルには見えていたからです。

父の死によって泣き叫ぶオクターヴの悲しみ・憎しみを理解し、きっと彼以上に復讐心を持ったのは、初めはアンブルだったのだと考えています。

復讐と罪の意識

復讐心を持ったアンブルとオクターヴは、パリに戻ってきます。
アンブルにとっても復讐の目的は「優しかった父の恨みを晴らす」というのは表向きであって、真の目的は“救いであるオクターヴを守ること”でした。
オクターヴを守るために、彼に一緒に父の仇討ちをしようと持ちかけたのだと思います。

しかし作品を観ればわかるように、アンブルはブノワを利用した情報収集以外は、積極的に復讐に向けて動く事はありません。
発言も「殺すの?」「今度は私がやろうか」等、本気で復讐しようとしている人物のものとは考えにくいものが多いです。
そして最終的に、手を汚しません。

既に作品序盤から、アンブルには
“復讐の達成=綺麗なオクターヴを失う事”そして“自分がオクターヴを汚れた世界に落とした”という罪の意識が芽生え、膨らんでいっていたのだと思います。
自分が持ち出した『復讐』は、たった1つの救いである彼を自らの手で壊してしまう事に気づいたけれど、彼を止めるに止められなかったのだと考えました。

懺悔

1年の最後の日、食卓の場面で虚な眼で俯いているオクターヴに対し、真っ直ぐな力強い眼差しで前を見据えているアンブルの対比が、とても印象的でした。
何かを決意した、意志の強さを感じました。

今思うと、アンブルは、『復讐を果たす』『幕を下ろす』のどちらに向かうにせよ、オクターヴと共にいる事を決めていたのかなと思いました。

アンブルはオクターヴに
「もう、やめよう」「ごめんね、オクターヴ」
と諭し、復讐劇は幕を閉じます。
アンブルはオクターヴを止める事で、自分の罪を認めたのです。

そして、手を汚してしまったオクターヴを1人にせず、
『いつまでも一緒』『姉と弟』『永遠の共犯』
でいる事が、彼に対してできる唯一の償いでした。
オクターヴにそれ以上も以下も求めなかったのは、そのためだったと思います。

アンブルもオクターヴも、お互いに救い、そして赦しを求めていたのかな、と感じました。

これだけの人物を研3の子が演じていたのか、と思うと星空美咲ちゃんにはひたすらに脱帽です。
彼女だからこそできた、と思わせる力演でした。
彼女がこれからどんな役を演ずるのか、とても楽しみです!

冬霞、演出もかなり好みだからそれについても書きたいな〜と思っています。

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