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30年前の恩返し

時間指定の配達が20分遅れたとき、あなたはどんな感情を抱くだろうか。
イライラするだろうか。それとも、あまり気にしないだろうか。
配達員さんは焦ってるだろうな、となぜが自分がハラハラするのが私である。

だから、ともきちさんの記事の一文を読んで、水飲み鳥のごとく頷きまくった。
その一文とは、

苛立ちよりも先に不安が押し寄せる理由は、遅れて持ってくる配達員さんの気持ちになってしまうからかもしれない。

私は人の感情に過敏で、怒りの感情の影響をすぐ受けて自分が消耗してしまう。いわゆるHSP、繊細さんである。だから、自分が誰かに怒られそうな場面では内心ガクガクブルブルする。
それだけに、怒られそうな立場にいる相手に対しては、意識的に優しく接する。かつて自分がそうされて、心を軽くしてもらったことがあるからだ。

今から約30年前、私は図書館で働いていた。貸し出し返却は、職員が本のバーコードをスキャンして処理していた。この図書館システム、たまに不具合を起こした。そうなると電源を落とさなければならない。
では、システムが落ちたとき、どうやってカウンター業務をしたと思う?

返却は本を受け取るだけ。予約は複写式の予約カードを受け取るだけ。
では、貸し出しは???


時は平成一桁時代。ポータブル端末などあるはずもなく、


紙に手書き あるのみ。

紙に8桁くらいの利用者コードと、本一冊ずつに付けられた10桁くらいのバーコードのナンバーをカウンターの職員がひたすらメモする。システムが復帰した後に、手入力するためである。
数字は読み間違えないようにきれいに書かねばならない。貸し出しは一人7冊まで、つまり一人当たり最大78個の数字を書く、書きまくる。当然、時間がかかる、利用者さんをお待たせしている。
私は冷や汗を書きながら、ひたすら数字を書いていた。
しかもシステムは繁忙期の週末によく落ちる。閉館間際など列ができてしまう。利用者さんがイライラしてるだろうな、怒られるんじゃないかという怖さと焦りは、今思い出してもガッチガチに肩を凝らせる。

しかし、利用者さんは優しかった。イライラを見せることなく待ってくれた。それどころか、「大変ですね」と声をかけてくださる方もいた。

あの一言で、どんなに救われたか、心が軽くなったか、怖くなくなったか。

怒鳴られても仕方ない状況で、だからこそ怯え切ってカウンターに座っていた私。対人恐怖症気味の社会人1年目の私がその後も勤め続けられたのは、あの一言があったからでもある。


今の私は店員さんに優しい。よほど酷い対応をされない限り、優しい。ファミレスで服に水をこぼされても、店員さんの態度が悪くない限り怒らない。店員さんがハラハラしているだろうな、と勝手に感情移入するから怒りが出てこないのである。かえって店員さんのメンタルを心配してしまう。

コンビニで「研修中」の名札をつけた店員さんが、チケット発行でもたついてもイライラしない。「お待たせしてすみません」と言われれば、「大丈夫ですよ」とにこちゃんマークの顔で返す。
ここで自分の後ろに誰かが並んだら、とたんに私が変な汗をかくことになるのだが…


私の一言で誰かの心が軽くなればいいな、と思う。私の優しさは、30年前にもらった優しさの恩返しなのだから。


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ともきちさん、書くきっかけをありがとうございました。

お読みくださりありがとうございます。これからも私独自の言葉を紡いでいきますので、見守ってくださると嬉しいです。 サポートでいただいたお金で花を買って、心の栄養補給をします。