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夢中で誘える世界が愛で人をつないでゆく

vol.53【ワタシノ子育てノセカイ

違いが日常をつくりだす。日々は選択の連続で、選択しない連続でもあるんだ。

どれだけ無意識で選んでいても、選ばれなかった何かがあるみたい。生きることはたぶん、違いを漂うことで、違いがないことはたぶん、生き残れないことなのかな。

違いを選んだ先が自己実現っぽいから、人は俗っぽくて愛おしいのかもしれない。

ところで私には「実子誘拐」で5年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

2023年10月21日。デンデンと太鼓の音がする。

地域の秋祭りで子ども神輿がでているらしく、音がだんだんと近づいてきた。そういえば先日の密会で、次男ジロウと秋祭りの話をしたけど、ジロウはお祭りの日を知らないようすだった。参加できているのかな。

2階の窓から覗いてみると、太鼓の横を陣取って、夢中で叩き鳴らすジロウが現れた。ハレとケを太鼓で入れ替えるかのように、一心不乱にバチを振るジロウの姿から、ジロウ2歳の秋祭りがなぜか私に蘇る。

形骸化してゆく社会の中で、風化しない思い出を抱きしめる時間は、揺るぎない変化を感じる瞬間でもあるんだな。

祭の力が衰えて、違いが薄まってゆく世界を、しなやかに包みこむように、太鼓の音が秋空に響き渡っていた。

2017年に実子誘拐に陥った私は、藁をもつかむ勢いで社会について学び始めた。賢い人がそろっているらしい裁判所にて、理解できないやり取りが続いたんだ。

疑問がわくたびに質問するんだけれど、だいたい答えは決まってて「そういうものだから」と返ってくる。議論にならない。

謎のはじまりは「単独親権者となれる条件は、子どもと一緒に住んでいる親」だった。もちろん法で定まってなどいない。

係争が始まると、小学生の口喧嘩みたいな意見がとんでくるようになる。町内で出会った子どもたちに声をかけるなら面会交流できないとか、子どもたちのいる場所に近づくなら警察に通報するとか。

小学生みたいといえども、意見はタロジロによる人質交渉や私の行動制限であり、総じて「いじめ」や「差別」というやつばかりだったんだ。その上さらに裁判所の大人たちは、興味深い口癖でいつも私を諭そうとした。

子どものためですよ、お母さん。

日常生活に注意深く耳を傾けると、聞こえのよい言葉が使われる時ほど、認知の歪みを私は感じる。悪意があるならまだ諦めがつくんだけれど、よかれと信じてやまない光景が、私にはなんだか透けて見える気がするんだ。

慣習に呑まれて、違いを失くして、自分を消して、怖い怖いと怯える光景。なんで自分の首を自分で絞めるのか、私の理解はなかなか追い付かなくて、とにかく人生でもっとも学びに貪欲になった。

結果、みんなして勘違いしていると気がつく。

そもそも、家族も、国家も、幻想なんだ。違いを統べて社会生活を集団で営むには、勘違いをしなくてはならず、最たるツールのひとつが法らしい。だけど今や、生きるために法を使わず、法に使われて生きているから、法を疑うことすらできない。

つまり幻想である虚構の世界に、人は呑み込まれつつあるんだ。

人間のあり方が捻じれた世界を信じきるから、心がカラッポになってゆく。

大人たちは自分を守るために、子どもを盾にせざるをえないんだ。

ジロウとの密会で最近、気になることがある。会話で言葉を使おうとしないんだ。このところは「おかえり」に「ん」が続いている。ただいまの四文字すらメンドクサイっぽい。

秋祭り前、密会するジロウをいつもの駐車場で待つ。八幡神社のある山腹のふもとが集合場所なんだ。秋祭りに向けてか、2週間ほど神輿蔵の扉が全開になっている。なんだか異世界への扉が開いているようで、ジロウを待ちながら左後ろにソワソワする私。

子どもたちの頭が山裾に現れて、ジロウが真っ直ぐと車の方へ歩いてくる。「おかえり」と迎えると、「ん」と小さく頬をあげた。

ジロウの「ん」は、私からすると「お母ちゃん大好き」レベル。私の元へテクテクと歩いてきて、呼びかけに反応してくれるだけで、私は幸せなんだけど、他者相手にはそうもいかなさそう。

漂う祭の空気感が、なんだか私を惑わせる。

車を降りてお茶してくつろぎ、密会を終えゆく車の中で、私はジロウに問いかけたみた。

「ジロウは”おかえり”に”ん”って言うやん?”ただいま”以外を使うんやったら、”お母ちゃん大好き”って言うてもええんやで?」

するとジロウは、ええんやで?に被せ気味で「ただいま」の連呼をはじめる。バイバイの時間だけど「おかえり」と「ただいま」が車の中で響き渡る。

「ん」が「ただいま」になったとて、私には「お母ちゃん大好き」にしか聞こえないんだ。だけど「ん」を続けたジロウのおかげで、私の心に引っかかりができて、おかえりとただいまに、意味が生まれた気がするんだな。

当たり障りなくつづく日常は、幸せの塊で、選択をちょっぴり違えるだけで、世界はきっとガラリと変わる。

大切な人をおかえりと迎える瞬間は、世界を変えるスイッチなのかもしれないな。



2014年秋祭り
2歳ジロウの神輿デビューに
5歳タロウがなぜか緊張

6:00くらいから10分強の説明を私がしています。10代の子ども向け資料の短縮バージョン。短縮しないと30分くらいの資料です。

子どもの連れ去り問題は、離婚家庭だけの問題ではありません。日本がなんで今こうなっているのか?という「国のあり方」を問う重大な社会問題です。

子どもたちに今より豊かな未来を贈れますように。

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