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絶望と信じる勇気

2020年1月22日執筆の愛息子タロウとジロウへの「タロジロラブレター」のリライトです。2017年12月8日から、親子離れ離れになっている私の子育て回想録を改めて振り返ります。コンテストによる人生の息継ぎ機会に感謝です。

タロジロ。
本当の優しさとともにすてきな仲間を作ってね。

子どもに会えない親や親に会えない子どもは、愛していると伝え続けてほしい。


自分を信じて、人と寄り添い、あきらめずに歩んでいこう!

・・・

7歳ジロウが珍しく真面目な顔してお母ちゃんに質問をする。

「なんで日本に帰ってきたん?」

ソファーに寝そべって小説を読んでいる11歳タロウは、コッソリ聞き耳を立てているようだ。

なんでに「なんで?」と返すお母ちゃん。

懇願するような眼差しで、幼いジロウは心を吐きだす。




「ずっとマレーシアにおったら、お母ちゃんと一緒におれたやん」




タロウは読みかけの小説をパタンと閉じて、ジロウを見つめるお母ちゃんの横顔に視線を移す。


帰国した私の判断はきっと間違っていない。

今の出来事全てを未来のタロジロと笑い飛ばしてやる!!

・・・

「元気か?」
 

2017年11月。

振り絞ったようなお父ちゃんの声が私の胸に突き刺さる。


マレーシアでの生活が2ヶ月を過ぎたころ、私はタロジロにお父ちゃんへのLINE通話を促した。


タロジロはお父ちゃんの質問に、「うん」か「ううん」を繰り返す。発展性の薄い質問に三人の会話はどんどん心もとなくなり、お父ちゃんの言葉だけが取り残され始める。


うまく会話できない三人に、私はやるせなくなったけど、言葉を取り持つ心の余裕はない。お父ちゃんのただの話し声が、未熟な私の心を再び突き刺したんだ。

・・・

タロジロの学校と住処が定まった12月。 
私は日本への一時帰国を決めた。

投げ出すように捨ててきた日常を清算し、タロジロが気兼ねなく、いつでも日本で暮らせる支度を整えたくなったからだ。 
 
マレーシアでも日本でも、心が豊かであれば住む場所なんてどこでもいい。

そして、タロジロの心を豊かにするには、お父ちゃんとの向き合いが大切だと私の心が訴える。夫婦の距離を置いた3ヶ月間、私は自問自答を繰り返し、これでもかと自分を見つめ続けた。



そして、お父ちゃんも自分の心と向かい合っていると信じたんだ。



私は帰国をお父ちゃんに伝え、タロジロをお父ちゃんに2~3日間預ける約束を交わし、あらゆる選択肢を胸に秘めた。

思いがけず早まった帰国にタロウは喜びジロウは戸惑う。  
 
ジロウは会う人会う人に「ビー ビャッキュ シューン !」と可愛らしく繰り返し、タロウはモジモジして「See you」を伝えていく。

・・・

2017年12月6日。

私とタロジロがお父ちゃんの元から突然姿を消してから3ヶ月後。
 
関空の小さな到着出口をくぐると、待っていたお父ちゃんが歩み寄ってくる。


タロジロと再会したお父ちゃんは、笑顔を見せず、喜びの言葉を発っさず、タロジロを抱きしめなかった。一言二言タロジロに声をかけ、ジロウの手を握りしめて駐車場へとせかせか歩く。



飛行機の到着時間が遅かったので、私とタロジロは最寄りのホテルに宿泊予定だ。

タロジロをお父ちゃんに預けるのは翌7日。だから、私は空港へのお迎えはいらないとLINEで伝えた。

でも、お父ちゃんはホテルの前で待っているときかない。タロジロのいとこに会ってからタロジロを預けたい申し出も却下されていた。

お父ちゃんはそれほどまでにタロジロに会いたいのだろうと、私は彼の意見を素直に汲んだ。



久しぶりの湯船をタロジロと楽しんで、私はホテルのベッドに潜り込む。

手を伸ばせばすぐ触れられるタロジロを、これでもかと抱きしめながら眠ればよかったな。

・・・

2017年12月7日。 

チェックアウトにフロントへ降りると、お父ちゃんが待ち構えていた。


昨日より様子がさらに妙だ。
一抹の不安を感じる私。 
 

でも、タロジロはもちろん、お父ちゃんも今日の日を楽しみにしているはずだ。

9日に自宅で親が入れ替わる予定だったから、大きなスーツケースを、お父ちゃんに預けようとするも何度も断られる。半ば強引に荷物を預けた私は、タロジロと別れて電車に乗った。


翌8日。
お父ちゃんからLINEがくる。





私は半狂乱に陥った。

・・・

さらに翌9日。

私は一睡もできないまま、日本を発つ前に相談していた市役所と警察に助けを求めた。 
 
市役所の担当責任者は責任者が不在と言い、顔見知りの警察官は記録がないと話す。そしてタロジロが預けられていたお父ちゃんの実家へ行くと、私は通報され警察がかけつけた。


一体何が起きているんだ??


食事も睡眠もとらぬまま数日後の週明けになる。私は「子の連れ去り」案件に精通した弁護士を探した。

子の連れ去り
正当な理由なく子どもを連れ出して別居する行為。日本以外の先進国や共同親権を採択する各国では「我が子の誘拐」と認識されている。

日本は先進国唯一の「(婚姻外)単独親権制」の国。例えば、親が離婚すると子は100%片親を失う。北朝鮮と同じ親権制である。
締結しているハーグ条約との矛盾が生じ、国際問題に発展している側面も持つ。

2021年6月現在、法務省にて家族法に関する法制審議会が進行中。


そして裁判所での話し合いが始まる。


逃げる時は誰一人非難の声をあげなかったのに、家族も友人も知人もみんな揃って、タロジロの手を離した私を咎めている錯覚に陥った。起きてしまった過去をどう変えろというんだ。

そして、弁護士と裁判所はおかしなことを当然のように言い放つ。


今これからタロジロのために何をすればいいのか、狂ったように必死になる私は完全に孤立する。
 

誰もがタロジロの幸せを無視して、大人の都合ばかりを正義として突き付けてきた。

・・・

裁判所に関わって約1年に近づいた2019年秋。
私は日本のシステムエラーを理解する。


社会に絶望した。


異国にてタロジロと何度も恋しんだ美しい日本は、とてつもなく醜い国だったんだ。


そして、改めて私の醜い心にも気づく。

愛する家族が突然姿を消した3ヶ月間、お父ちゃんはきっと絶望したはずだ。自分を見つめ直す余裕すらないほどに、私はお父ちゃんを傷つけたのだろう。




いつまでたっても私は自分本位でしか物事を見れていない。

やっぱり、神様が私に罰を与えたんだ。



タロジロの喪失で私の魂はヒキサカレ、
日本社会の常識に吐き気をモヨオシタ。

・・・

命を絶とうと頭によぎりだしたころ、私は西野亮廣氏の文章にふれ、導かれるようにオンラインサロンに入会する。

ダイバーシティの世界が拡がっていたんだ。

「西野さんの世界を」「プペルの世界を」共感できる人々であれば、社会にかき消されたこの声に耳を傾けてもらえるかもしれない。


タロジロを助けられるに違いない。




私は自分を信じる勇気を胸に生きることにした。

・・・

2021年6月現在。

自分を信じたらいつのまにか仲間ができた。 
嘘みたいに優しい世界で大切な人が増えていく。


タロジロと暮らせなくなって4年目。
 
4歳ジロウは今月9歳になり、別れた2017年のタロウより大きくなった。 
 
ジロウ誕生から抱っこした記憶のないタロウは、8歳~12歳の3年間はたびたび抱っこにおんぶして、会うときはいつもハグとキスをする。
 
 
只今、12歳タロウ34kg、9歳ジロウ33kgぐらいかな。

いつまで抱っこできるんだろう。
それよりもキスか!?




2021年の5月から、タロジロは私とまた会えなくなっている。


それでも私は今、なかなか幸せなんだ。

・・・

2021年1月20日。

「何年かかってもいいからお母ちゃんが親権もってほしい」

温厚なタロウが強い口調でお母ちゃんの言葉をかき消した。



お母ちゃんが欲しいのはタロジロの自由だ。
タロジロを苦しめる「親権」ではない。



でも、親権がないとお母ちゃんはタロジロを自由にできない。でも、親権を争うとお父ちゃんの心をどんどん歪めてしまう。そして、主たる監護者の心の歪みは子どもたちの自由を奪う


なんのために親権はあるんだろう。


タロジロは国によって、愛する父親から母親の愛を搾取され続けている。

そして、日本人の多くがこの愛の搾取を「善」と思い込み、個人の資質と勘違いし、今日も400人の子どもたちが親と生き別れになっている。明日も400人の子どもたちが親と生き別れになり、明後日も400人の子どもたちが親の愛を搾取されていく。


社会制度は私たちの価値観を創る。明治時代とたいして変わらない120年前の民法の下、当たり前を疑わずに生きるなんて死んでいるようなものだ。


両親がいるから子どもはこの世に生をうける。親子は何が起ころうとも親と子に変わりなく、婚姻状態などただのおまけである。日本の婚姻外単独親権制は、男女格差、貧困、虐待、DVなどにも深く関係するんだ。

時代錯誤のシステムに、数えきれない人々が心を痛め、ときに命を絶っている。
  
 
 
家族のカタチはもっともっと柔軟でいい。 
子どもは親の所有物ではない。



ひとりの人間なんだ。 



目の前の人を幸せにできれば、みんなで幸せになれるんだ。子どもたちが笑顔なら、それだけで世界は平和なんだから。


タロジロと美しい日本を恋しんだ、マレーシアでの数々の瞬間は嘘ではない。


2021年2月。
お母ちゃんは親権を手放した。 
でもタロジロは大丈夫。



私がタロジロに優しい世界を贈るんだ!!

・・・


ひとりでもたくさんの子どもたちが
親はもちろん、多くの大人から
愛を注いでもらえますように



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