私たちは親と自然につながっている。だから子は、息するように親を愛してくれるんだ
vol.36【ワタシノ子育てノセカイ】
自然に逆らえば万物は自然と淘汰されてゆく。
ありのままを歪めた現在をつづけると、未来でありのままの歪みが大きくなって、ありのままで生きられない世界に呑み込まれてしまうから。
ありのまま、自然のまま生きていれば、人と人には愛がみちて、世界は自然と持続してゆくんだろうな。
◇
ところで私には「実子誘拐」で5年以上離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。
◇
2012年6月22日、次男ジロウが誕生する。2021年から2年間、私たち親子は誕生日を一緒に祝っていない。さて、2023年は?
結論からいうと、前日の21日にお祝いできた。もちろん長男タロウも一緒。4-5時間も親子で過ごせるミラクルが起きる。21日の朝、息子らに勅命が舞い降りたらしい。
21の密会交流日。いつもと同じ時間にいつもと同じ場所で待っていると、いつもとちょっと違う表情でジロウがやってきた。
助手席に滑り込んだジロウはひと言大きな声でもの申し、私からの回答にご満悦なそぶりをみせる。そして「お母ちゃんとこ行くで!誕生日やで!」となんだかすごい勢い。
私はだんだん事情が呑み込めてくる。どうやら密会後の予定が「お母ちゃんとこ」で、密会交流ではなく「誕生日公開交流」らしい。
10歳最終日。いつもの10倍以上の親子時間を、ジロウは自分で交渉して運んできた。
◇
6月上旬のとある密会日にて。ジロウは誕生日の計画を練っていた。私と過ごせるよう、父親に頼んでみようと画策。
ちなみに誕生日作戦を企てて、もれなく実行してきたのは長男タロウだ。2017年の実子誘拐後から、6年間で4回も成功している。もちろんジロウも便乗して。
私たち親子にとって「誕生日」は七夕みたいなんだな。年に一回、愛する者を別つ世界に、橋をかけられる、かもしれない日。
かもしれないので、ジロウの誕生日の橋は、2022年と2021年にはかからなかった。だけどプレゼントやケーキの思い出はばっちりのジロウ。ゆえに誕生日に会えてる記憶になっているみたい。
誕生日より、誰と何をしたか、をジロウは心にちゃんと留めているんだ。そらそうか。思い出は日付と照らし合わせるものじゃない。
画策するジロウに「誕生日に会えたらうれしいなぁ」と想像する私。するとジロウは「誕生日やったら、さすがにいけるやろ~」と笑いつつ、「別の日でも、誕生日してるから、まぁええやん」と朗らかに過去を振り返った。
ジロウを産んだ日にジロウの誕生を祝いたいと願う、私の器のちっちゃさよ。
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結果、22日の誕生日会は来年のお楽しみになった。だけどジロウは交渉を粘ったらしく、21日にこぎつける。
交渉にて「誕生日やからお母ちゃんとこ行きたい」と伝えられただけで充分だろう。自分の気持ちを親に吐き出せないと、子は心を歪めて育つ。たとえ結果がそぐわなくても、とりあえず自分の意見を声にする体験が大切なんだ。
私にはふつうの子育てができないけれど、最低限の子育てはしようと努めている。社会の荒波で闘うタロジロの、絶対的な居場所でありたいんだ。とはいえたまに、母が荒波。
密会交流から公開交流への狭間。ジロウをお父ちゃんの家に送り、車内でジロウを待っていると、猛スピードの自転車が通りすぎてゆく。タロウだった。車にも私にも見向きせずに、家の中へ消えてゆく。
ほどなくしてジロウが家から出てくる。続いて猛スピードで準備したらしいタロウが、いそいそと車に駆け寄ってくる。エクボへこませて、後部座席に座るやいなや、私に大きな声をかける。タロウの言葉に、助手席ではジロウが笑ってる。
今日は、いい日だ。タロウも、ジロウも、私も、いる。
◇
誕生日会の大枠を決めた時点で16時。残り4時間。ド平日なので、宿題という使命がジロウにはある。タロウは帰宅後に片付く量らしく、ジロウ待ちになった。
待ち時間でタロウと私は、タロウの修学旅行の写真選び。ふたりでタロウを探しながら、タロウは改めて思い出を熱弁し、こそこそとジロウの背後で盛り上がる。
一方でジロウは宿題がはかどらないようすだった。8歳くらいまではじきに「お母ちゃん!お母ちゃん!ジロウの勉強こっちでみてて!」と召喚されていたのを思い出す。そういやジロウが宿題する姿は、いつぶりの光景なんだ?
翌日11歳になる大きな背中に、共に暮らした幼い姿も重なってくる。
奇跡みたいな親子時間を、なんで宿題に奪われなあかんねん、とよぎりつつ、宿題してるジロウに感動して、大きくなった姿に思い煩う。
親子の時間は、とにかく心がよく動く。
◇
ジロウが宿題をやっつけると、なんでか17時になっていた。残り3時間。「間に合うかな?」とタロジロ。したいことがたくさんあるらしい。意地でも全部、叶えようじゃないか。
まずは最寄りのケーキ屋さんへ。ジロウご所望のチョコレートがあった。サイズもばっちり。だけどなぜかジロウは決めかねている。「お母ちゃんはどれがいい?」「お母ちゃんも選んだら?」としきりにくり返すんだ。
続いて焼肉屋さんへ。タロウがサクサク注文して、ジロウは黙々とたれを準備。飲み物がきて乾杯して、お肉がやってくると、タロジロが焼いてくれた。タロウは焼けるたびに私にサーブしてくれて、ジロウは「お母ちゃんはもっといっぱい食べなさい!」と私をつつく。
お次はデザートタイムへ。お家へ戻る。タロジロはマッチで小騒ぎして、母は紅茶を用意して、ジロウが電気を消して、タロウがケーキを運ぶ。いつものように台所から登場するケーキ。歌の合唱。撮影確認の「ろうそく消していい?」。消えたろうそくを合図に拍手しようとしたら、撮影で三人とも手がふさがっていて、笑い声に包まれた。
ジロウの「紅茶おいしいなぁ~」に浸っていると、タイムリミットまで20分に。私たちはドンジャラをしなくてはならない。本日は是が非でもジロウさまに勝っていただきたい。1回戦、ジロウが勝つ。ええ感じ。2回戦、私がちゃっかり最高得点たたきだし、残分ほぼ0。いろいろマズイ?
タロウが焦りだす。帰宅時間に1分も遅れたくないんだ。
でも過ぎちゃった。
親と子が過ごす時間に、時間制限なんているのかな。友達と遊んだ後の帰宅時間に、1分1秒、気にするのかな?
遅刻を成功体験にして、どうか、自然な親子のあり方を。1秒でも、ありのままで、父と母と過ごせますように。
◇
ジロウ誕生日会の21日は、私の誕生日だった。
車にてジロウもタロウも、開口一番の言葉は母に宛ててくれた。密会の乗車で「今日はお母ちゃんの誕生日やで!」とジロウ。公開の乗車で「お母ちゃん、誕生日おめでとう!」とタロウ。
降ってわいた親子時間はツッコミ合戦でもあった。タロウはジロウに「いや、今日はお母ちゃんの誕生日やから」。ジロウは自分に「お母ちゃんは?」。ジロウと私の誕生を行き来するたび、三人で、コロコロ笑う、4-5時間。
お母ちゃんはタロジロがいるだけで幸せです。お父ちゃんも幸せだといいな。
2023年の夏至は、命が、ずっとよろこんでいた。
親と子が親子であれる国を
子どもたちの未来に贈れますように