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まとう美しさに勇気があると今が希望で満ちあふれる

vol.68【ワタシノ子育てノセカイ

巧言令色、すくなし仁。見目美しそうな言葉ほど、ゆっくりじっくり世界を蝕んでゆく。

捻じれきった世界では、美しさを求めるのか、綺麗でいたいのか、まっ平にしたいのか。煌びやかなハリボテにしがみつきたくなるらしい。仁を渇望するのに、仁のない言葉に惑わされるんだ。

自分の捻じれがただ、世界の捻じれでしかないから。

ところで私には「実子誘拐」で6年間離れて暮らす、10代のふたりの息子がいる。

記事の紹介を御影石 千夏さんにしていただきました。お子さんたちと離れて暮らしていた時期の娘さんとのエピソードが描かれています。子どもたちの逞しさと繊細さが、溢れでてくるようなお話です。納得しがたい局面に、悩み闘うあなたにおすすめの記事です!

itsumoarigatougozaimasu!!

2024年1月最後の月曜日。4日前の次男ジロウとの密会から、私は落ち着かない日々を過ごしていた。

ジロウから久しくオファーをもらったんだ。「マクドいきたい」って。田舎暮らしの子どもにとっては、テーマパークの一種かもしれない。むしろ興奮してるのは私ですが。

なにはともあれ25日、外でのお茶タイムをジロウが提案したから、親子時間の中身をふたりで話しあうことになった。

ジロウは中身ではなく「時間」を気にした意見ばかりを述べる。ドライブスルーして、移動しながら食べようというんだ。

想像とズレていくジロウの発言に、私たち母子の歪んだ日常が覆いかぶさってくる。ただでさえ、タイパやコスパが善とされがちな現代。効率や秩序という社会の営みは、人間の心をしずかにゆくっりと蝕んでゆく。

わずかな親子時間を、流れるのではなく、流されるように使ってしまうのではないだろうか。

マクドさんが、いやいやいや、気軽にきておくれやすぅって、苦笑いしてそうだ。

月曜日はマクド、だけを約束して密会を終え、週末に突入し、私たちは月曜日を迎える。

いつもと変わらず密会の集合場所にやってきたジロウは、助手席に滑り込みながら珍しく私のようすをうかがう。ジロウの目がマクドマクドと喋ってる。

「マクドの約束してたから、お母ちゃんは行く予定にしてるけど、ジロウはどうしたい?」と尋ねると「うん!はよいこ!」と頬が弾けるジロウさま。

あまりに可愛いのでそそくさと出発したかったけど、どうやって時間を過ごすかについて、私の意見をジロウに伝えた。とにかく早く行きたいモードのジロウは、右手でギアを小刻みに上下させながら、店内での飲食を所望する。

時間に対する安心感がジロウには必要で、とはいえ前回では早すぎて、だけど数時間後も翌日も私たちにはなくて、中4日でようやく母子の対話が完結した。

日本が平和で、私たちが元気で、だから再会できて、しかもマクドが開いていて、私はとっても幸せです。

1月30日、親権制度を軸とした家族法制の要綱案がまとまり、法改正の局面が動く。法制審にて実に3年も議論が交わされたが、胸が詰まるような進行で、日本の今が透けて見えるようだった。

私たちの国は、根っこが腐ってしまっている。でてきた要綱案は、現行をさらに悪化させ、国民の分断を深める内容だった。想像はついてたけど、落胆した。

実子誘拐問題に陥っていなければ、自らわざわざ沈み込むように、日本社会の闇を見つめることはなかったと思う。

2018年におかしさに気づいて、絡まる違和感をほどきたくて、時間の限り暗中模索。2年経つころ、全容がなんとなく見えてきて、ひとりで震えだし、絶望感に苛まれた。

絶望する私をよそに、息子たちは、逞しく育っていく。

誰かに伝えなきゃと声をあげはじめると、おかしい社会は私をおかしい母親だと笑った。共感で私をくるめようとする周囲の声は、ほとんどが同情でしかなかったんだ。

そらそうだ。天動説を信じる民に、地動説を唱えたって、誰が信じてくれるものか。同情を発しているつもりなど、先方にはさらさらなく、共感だと信じ込んでいる。

私の心が醜く腐っているかのような錯覚を味わう。

単独親権制度から共同親権制度への転換は、世界観が一変するできごとなんだ。だからこそ日本は、世界で唯一無二の独特な文化を持っている。

世界各国は半世紀ほど前から、日本が2024年の今している、社会構造の転換を次々に始めた。人間が人間らしく生きるために。たぶんこの人間の豊かさを求める動きを、近代化というんだろう。

そして日本は、ハリボテの近代化で、心を育て忘れた。

日常会話のすべてが歪んで聞こえるようになった私は、人生ではじめて学問にのめり込む。問うては学び、問うては学び、問うては学ぶ。

だけど答えは見つからない。学ぶほどにわからないことばかりになってゆく。それでも今の最適解は見えてしまうから、どうにかしなきゃともがくんだ。

親権問題は現代日本を体現する社会問題。親権制度は親子のシステムで、親子は国そのもだから。失った母子の時間を、意味ある時間と勘違いしたい、私のエゴでしかないんだけど。

人間は、ひとりだと、ちっぽけだ。だから握って繋がる、手と心があるのかな。

マクドでゆるやかな母子時間が流れる。

空想話「もしもお母ちゃんと暮らしていたら」がはじまった。お母ちゃんは怒るのか?のトピックにて、タロジロの日常生活が垣間見える。

「ケンカしたら怒るんちゃう?」とジロウ。「なんでそう思うん?お母ちゃんがケンカしてるんとちゃうやろ?」と私が返すと、ジロウはキョトンとしたあと気を取り直し、意見を述べた。

弱い方が負けてしまうやん。

どうやら負け越しているらしい。怒るのではなく、味方がほしいのかもしれないな。弱いとなんで負けるのかをジロウに尋ねてみた。

世界は弱肉強食やで!

なるほど。たしかに。ぶどう味のファンタを飲みながら、ジロウはつづける。

弱い人を強い人は守ってあげなあかんやろ。強いねんから。

母は知っています。それはジロウのことです。自分のことだから、言葉にして伝えられるんです。

弱さを知って包みこむ、強さというマントを、ジロウはまとっているんやで。それを俗には「勇気」というらしいです。

ドライブスルーを改めて、今を味わう時間をくれた、ジロウの勇気に、ただ感謝。



いろいろ味わえるマクドにて
レタスと闘う11歳ジロウさま
大量ポテトは一緒に山分け

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