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桃農家、これからの雇用

昨今、どの業界でも人手不足が叫ばれています。働き方改革が進み、より労働生産性を高めていかなければいけない中で、条件を良くしても人が集まらず生産性がなかなか上がらないと、同業種だけでなく、周りの異業種の経営者からもよく聞きます。

農業界においては、高齢化が進む中で、次世代にうまくバトンタッチできておらず、人手どころか経営が続かない、という悪循環になっています。

ではなぜそもそも働く人が集まらないのでしょうか?

①人口が減少しているから

②稼げない仕事だと思われているから

③業界に魅力がない、もしくは魅力を伝えきれていないから


①日本の人口の減少は止まりません。この原因で引き起こされている人手不足はそう簡単には防げません。少子化に終止符を打つか、省力化をした生産体制を整えるしかないです。現実的には後者の方法を実行していく他ないと思います。

②稼げない仕事だと思われているのは複合的な要因があるので難しいところですが、農業において実際に稼げないのは、「価格が上がらない」「経費が上がる」の2点が大きな要因なのではないかと思います。生産量を上げる、付加価値を高めるといったような経営努力だけではなく、抜本的な仕組みの改変も必要です。

③業界の魅力は、業界全体で伝えようとしているところや目立つところでは伝わりやすいと思います。YouTuber、漫画家、芸能人、先生などは特に子どものころから接する機会が多いため、子どものなりたい職業ランキングの上位にきています。
農業に於いては、近年のSNSの普及により全国各地の農家が自園の魅力を伝える様々な取組をしているのを見受けられますが、それでもまだまだ農業との距離は遠く、魅力や価値を伝えきれていないのではないかと感じます。

法人化して気づいた事

つむぎ果樹園は元々60年以上前に兼業から始まり、ずっと個人事業でやってきました。個人事業は比較的自由で自分が結果を出した分しっかり稼げると思います。しかしこれからの業界の動向や地域の現状を踏まえたときに、必ずしも個人事業のまま行くのが正解とは思えず、法人化し経営を強化していくことにしました。
個人事業として経営している場合は身動きが取りやすいことが大きなメリットですが、法人化している場合と比べて雇用される側としての不安が大きいと思います。家族中心の経営により、雇用される側がただ使われるだけになっている経営体もよく見受けられます。それでは雇用される側や次世代にとっては農業の魅力を感じづらいのではないかと思います。

家族だけで果樹園を経営していた状況から、正社員を雇用して改めて、大切なのは「」だと認識しました。自分自身で考えて行動できる人も大切ですし、単純作業を坦々とこなす人も大切です。商売においてお客様や取引先ももちろん大事ですが、一緒に働く「仲間」が何より重要だと考えています。

本当に良い仲間に巡り合うことができてありがたい限りなのですが、このメンバーが今後も続けてくれるにはどうしたらよいか、これから更に新たな働き手が入ってくれるにはどうしたらよいだろうかと、考えてきました。そこで浮かんできたことが、仲間の夢や実現したいことを応援する、そしてそれを叶えてもらう、そんなことができる企業の形を目指すのはどうかということでした。

二人の移住者、先代や地域のベテラン

現在、つむぎ果樹園では建設系や食品開発、スポーツ関係から転職してきた従業員などが働いています。それぞれ得意を持ったスタッフが桃栽培や商品開発に携わっています。他にも桃に携わりたいと、地域内外から相談を受け、大変ありがたい状況です。

名古屋出身で食品開発をしていて飛騨に移住してきたY君は、自分が作っていたものがお客さんの口に入ることが喜びでした。しかし社内で管理する立場になるにつれてそこから少しずつ遠ざかっているのを感じていたようです。「お客さんのもっと近くで生産や食品開発に携わりたい」、そんな思いから各地の野菜や果物の生産現場を見て、体験して周り、最終的に「」でつむぎ果樹園を選んだといいます。
彼の実現したいことは、自分の好きなことで生計を立てて生きていくことで、現状でもすでに半分叶っていると教えてくれました。

長野出身でスキー活動をしているM君は、元々スキーメーカーに勤めた後、結婚を機に妻の地元である飛騨地方に移り住んできました。移住後はスポーツ施設で勤めながらスキー活動をしていましたが、良くしてくれていた人の定年退職や施設までの移動距離(片道1時間半)、体を動かすことが少ない事務仕事が多いことなどから、農業をしながら雪国である飛騨の農閑期にスキー活動ができないかと考えていたようです。私自身も冬にスキー場で勤務していたことから繋がり、2年ほどの相談の後、働いてもらうことになりました。
彼のやりたいことは出来る限り現役でスキー活動を続ける事、そして彼の夢は自分の好きな車で出勤すること。車種を聞いて思わず笑ってしまいましたが、その夢のためには最低でも農業を儲かる職業にしなきゃいけないなと感じました。

つむぎ果樹園は現在3代目です。先代が63歳の時に経営継承しましたが、私がまだ26歳の頃でした。今はパートとして現場での作業はもちろん、若手の育成に力を注いでくれています。先代はからはとにかく「お前が考えろ」と言われてきました。先代が作ってくれた基盤はあったものの、その言葉から自分自身の農業経営を考えて作っていかねばならないと常々感じていたと思います。

繁忙期に働きに来てくださる方々は定年した近所の方や果樹サークルの仲間です。果樹サークルは元々先代が高校生の活動のために作ったサークルですが、高校生が卒業し、残った親たちがそのまま継続しているものです。60~70代の人たちが月に2回集まり草刈りや管理作業を行いながら、収穫期は適宜集まって収穫を行います。りんごや梨に始まり、桃、ぶどう、ラズベリー、柿など、様々な果物を育てています。そこである程度知識を持っていて、つむぎ果樹園で働きたい人がいたらスカウトしています。

このように同じ農業者であっても、今置かれている状況、自分自身が持っている夢や実現したいことは違います。桃に携わることで少しでも現状が豊かになり、もし夢を実現させることが出来るのであれば農業をやめる理由は無いと思いますし、自分のやりたいことが叶えられるのであれば共に歩んでいきやすくなると思います。
現状はたくさんの人を受け入れるほどの経営力はなく、人手不足というよりは桃不足が続いていますが、新たな園地の確保や苗木の育成や定植などを積極的に行い、少しずつ未来の形を創っていこうと思っています。

桃農家としての雇用のカタチ

上で述べたような雇用の方法は零細農家だからこそできるのかもしれませんし、経営者として考えが甘いと思われるかもしれません。
しかし今の世の中、自分が仕事を通して何を成し得たいかを考える機会が多いですし、人生の中で自己実現を図っていく時代だと思います。
働き手をただの使い捨ての駒のように扱い経営者の利益だけを増やすのではなく、共に歩む仲間として受け入れ、共に夢を共有し、同じベクトルで進んでいくことが今後の雇用においても最も重要なことになってくるのではないかと思います。

つむぎ果樹園ではそれぞれの夢や実現させたいことを共有するためのコミュニケーションの機会をつくっています。果樹園内ではもちろん、つむぎ果樹園に外部から関わる人、他品目や他産地の農業者、異業種の人などに少しずつその輪を拡げていっています。いろんな人の声を聞き、それぞれの想いを共有し、同じベクトルであった際には共に歩んでいく、そんな雇用のカタチがあるのではないかと日々模索しています。

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