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「おいしい」を入り口に、本物を伝えたい/チーズ&オリーブオイル専門店「La Cachette」

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2019年10月、「ごまかしのない、本物を売る店」をコンセプトに掲げた「La Cachette」が、東山梨駅近くにオープンしました。ブランドショップのようなおしゃれさがありながらも、大阪出身ご夫婦の明るい笑顔が咲く空間に、堅苦しさは一切感じません。

チーズとオリーブオイルの世界に浸る

「La Cachette」はチーズとオリーブオイルの専門店で、中に入ると、ショーケースにずらりと並ぶチーズの姿に圧倒されます。

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主に販売を担当するのは、チーズプロフェッショナルやオリーブオイルソムリエの資格を持つ、店長の上江洲由美さんです。牛のチーズ・ヤギのチーズ、ハード系・ソフト系、青カビ系・白カビ系……話しながらその人の嗜好を把握し、何種類かのチーズを選んで「食べてみますか?」と試食をすすめてくださいます。(社会情勢を鑑み、現在は3種類のみ)

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カマンベールなどはスーパーで見かけることも多いですが、ここで売られているのはまったくの別物です。干し椎茸を彷彿とさせるような面白い風味があり、その違いに驚きます。無添加のクリームチーズは、まるでムースのような口溶け。その他には見たことも聞いたこともないチーズがたくさんあります。

「チーズはそのまま切ってサラダにしたり、においの強いものは加熱することで旨みに変わったりもします」

また、オリーブオイルの飲み比べをすることもでき、家で使っているオリーブオイルがいかに酸化していたかに気付かされます。ピリッと辛みを感じるものや、草っぽい香りがするものなど、知らなかったオリーブオイルの一面を知ることができます。

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「喉が痛くなるのは、ポリフェノールが含まれている証拠です。上質なオリーブオイルには抗酸化作用があるので、体にもいいんですよ」

日常に役立つ豆知識を交えながらの説明で、どんどん奥深い世界にひきこまれていきました。時には目を背けたくなるような、ドキッとする情報も包み隠さず教えてくれます。しかし、私たち消費者はそういう事実を知った上で、日々の買い物での選択・判断をしなければならないことを実感させられました。

「本物」を伝える使命感

由美さんがチーズに没頭した最初のきっかけは、たまたまもらった1本の白ワインでした。ワインに合わせるためのチーズを買いに行き、店員に勧められたヤギのチーズをよく分からぬままに購入したところ、そのおいしさに感激したのだそうです。

その後に旅行で訪れたグアムでは、売られていたカマンベールの種類の多さに感動し、少しずつチーズへの興味が強くなっていきました。

「本で世界のチーズを知り始めていた時、友達が『チーズのことなら任せて』と言って、国内大手乳業メーカーの名前だけを挙げたんです。そこで私の心に火がついたというか、この子に任せといたらあかんと思って(笑)」

そこから何年間か、毎月5種類ほどのチーズを取り寄せて食べ比べる日々が始まりました。そしてバラエティの豊かさを実感するうちに、趣味から資格を取るまでに没頭していきます。

「オリーブオイルも、最初は体に良さそうという理由で生活に取り入れ始めたら、ものによって油臭かったりフレッシュだったりすることに気づいたんです。風味の違いなどに疑問を持って調べていたら、だんだん夢中になっていきました」

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知るほどに気づく、チーズとオリーブオイルの奥深さ。しかし、それと同時に、世に出回っている商品に対する不信感も募ったようです。

「オリーブオイルはあちこちで買って試しましたが、ほとんどがすでに酸化していました。産地偽装などごまかされたものも多く、本物を伝えることへの使命感が芽生えました。店を始めるときは、一軒くらい正直な店があってもいいのではないかという思いがありました」

最初は一消費者として始めた食べ比べが、今や仕事に繋がっています。仕入れは国内外の信頼できるところから、由美さん独自の基準を満たしたものを取り寄せています。国内の生産者にはできるだけ会いにいき、職人のこだわりや生産背景に直接触れることを大切にしているようです。

仕入れてからの品質管理も怠らず、特に保存環境に左右されやすいチーズは、良い状態で熟成させられるよう心掛けています。

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「食べて本当のおいしさに気づいてもらえると、やりがいがあります。決して安くはない嗜好品ですが、少しずつ本物の良さを伝えていきたいです」

今後はチーズセミナーなども開催し、発信の機会を広げていくそうです。

おいしさに包み込まれたシェフの想い

売られているのは、チーズとオリーブオイルだけではありません。フレンチシェフの考昭さんが作る、「当たり前のように無添加」なお菓子やお惣菜なども並んでいます。

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「ほうれん草のブールドネージュ」「イチゴとビーツのマカロン」など、野菜ソムリエとしての腕を存分に発揮した、野菜のお菓子が特徴的です。

「香料などに頼らず素材の旨みを生かして、しっかりと野菜の味がするお菓子を作っています。無添加がすべてとは思いませんが、添加物だらけの毎日だと、体が疲れてしまいます。たまには意識的に、無添加のものを取り入れてほしいですね」

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夜には予約制で「貸し切りディナー」という名のフレンチディナーコースをいただくことができます。考昭さんは印象に残る味を追求し、砂糖を使わず野菜の甘みだけで料理を仕上げるようにしているそうです。メインはその時々で変化し、希望があればジビエやウズラ、カエルなどの珍食材を提供することもあるのだとか。

「オイルにまで気を遣っているレストランはあまりないと思いますが、オイルひとつで仕上がりが大きく変わります。一番大切なのは、食べておいしいと思えること。おいしいと思って食べていたら、実は体に優しいものだった、というのを目指しています」

伝えたいことは多々あれど、それを押し付けることはありません。メッセージはやんわりと、おいしさのオブラートに包まれています。そんな着飾らないおいしさを求めて何度か通ううちに、自然と日常の食を見直している自分の姿があるのかもしれません。

山梨の宝に気づいてほしい

山梨には、県外出身だからこそ気づける魅力があるようです。富士山・果物・ワイナリーなど、当たり前のように存在するものも、お二人にとっては宝の山。それにも関わらず、地元民が口を揃えて「山梨にはなにもない」と言うことに対し、不思議そうにこう語っていました。

「自分の住む街に、もっと自信と誇りを持って欲しいです。何もないと言ってしまうのは、単に宝の存在を知らないだけではないでしょうか。県外への発信も大事ですが、まずは地元の方が地元に目を向けるきっかけを作りたいです」

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気づいていない宝の存在を知ってもらうために、お店ではお二人の角度から捉えた山梨の魅力を発信するようにしています。こだわり溢れる県内事業者の商品を集めて販売したり、果物の新たな食べ方を提案したり、県内産ワインのおいしさを語ってみたり……。さまざまな要素が重なり合うこの場は、単なるお店以上の機能を持ち合わせ、まるで地域の案内所のようです。

「もし、本当になにもないなら、作ってしまえばいい。ゼロから始めるのは大変ですが、誰もやってないからこそ、やりがいもありますよね」

お二人が正直なのは、周りに対してだけではありません。自分の気持ちにも嘘をつかず、こだわりを貫きながら、やりたいことを実践しているようでした。

「こだわる部分が違うから、しょっちゅう喧嘩になるけれど(笑) お互いに凝り性なんですよね、きっと。これからもマニアックさを極めて、どんどんマイワールドを展開していきたいです」

そう言って、笑い合うお二人。彼らの”好き”が反映された空間は心地よく、”好き”を仕事にしているお二人の姿を見ていると、こちらまで生き生きとした気持ちになってきます。

La Cachette
営業時間/11:00〜19:00(貸し切りディナーがある日は17:30まで)
定休日/水曜
所在地/〒405-0005 山梨県山梨市小原東72−6
電話番号/0553-34-8262

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文・写真=おがたきりこ

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