【訳ありボツ話】『ギャンブルは好きじゃない』『小弁慶の八卦飛び』

今回もボツにした初期二話を理由付きでみていきます。


『ギャンブルは好きじゃない』1,732字


ギャンブルは好きじゃない。

ただやったことはある。大学時代に同じゼミの友人がパチンコ狂いだった。誘われて何度かやった。

初回で2万勝ったけどまあビギナーズラックってやつだろうなと冷静だった。うるさくて空気の悪い空間も好きじゃなかったし。

その友人が他の友人たちから金を借りてるのも知ってたしね。俺も数万貸した。まあ律儀なヤツだったんできっちり返してくれたけど。

待ち時間やちょっと暇な時に一人で行ったこともある。でもそれはあくまでも時間つぶし。30分くらい。多くても5千円くらいしか使わなかった。

それにパチンコは大学卒業してからやってない。本質的にギャンブルは好きじゃないから。

働くようになってからは仕送りもなくなって、学生の頃よりも使える金もなくなったしね。奨学金も返さなくちゃいけないし。

それに土日しか時間がない。

会社の先輩や上司を見ても希望がない。安月給のまま。

自分なりに調べた結果、投資がいいって気づいた。投機(ギャンブル)じゃなくて投資。

ギャンブルは嫌いだけど投資は違う。

運が頼りのギャンブルと違って、投資はデータ勝負。まあギャンブルもデータが重要、投資も運要素あるって言うかもしれないけど、でも本質的に違うでしょ。

投資っていったら株とかFXだよね。俺も最初はその気でいた。でもさ、あれは初心者には敷居が高いよ。ちょっと難しくてよくわからなかった。データを取るっていってもいろんな要素がありすぎてデータの取捨選択ができない。

それに元手が必要でしょ。出せて10万くらいの俺には株やFXは無理だと思った。

それで次に俺が目を付けたのは……自分でも天才だと思っちゃったんだけどね、競馬。

ギャンブルじゃんって思うのも無理はない。でも、競馬ってデータの上に成り立ってるんだよ。

馬の成績、騎手との相性、その日の天候や馬場状況、それに何レース目かっていうのも地味に重要。詳しくは秘密ね。

複雑そうに聞こえるかもしれないけど限られた情報だけを分析すればいいから、株なんかよりもずっと簡単なの。

1レースごとに結果がわかるのもいいよね。つまり、数分でリターンがあるわけ。複雑な手続きをしなくても数分後には大金が手に入る。

もちろん、絶対当たるわけじゃない。世の中には絶対は存在しない。言われるまでもなくわかってる。その辺も対策済み。

何とか法っていうのがあるんだけどね、名前は忘れたんだけど。倍々で掛け金を増やしていくの。つまり、1レース目で負けたら2レース目はその負けた額の倍の金額を投資するってやつ。

実際は倍の額じゃ利益は出ないから利益を出るように計算してその額をかけるの。1回目で当たればそれでよし。それでその日の投資は終了。でもつまらないかな、なんせ2レース目、3レース目を見越して少額しか賭けてないから。遊びの額で続けてやることもあるけどね(笑)

おいしいのは2レース目、3レース目で当たった時ね。結構な額になってる。

4レース目まで行くとちょっと怖い。ここまでいくと掛け金は数万じゃないからね。来ないかなと思ったらやめることもある。それまでの掛け金は無駄になるけど。まあ引くことも重要でしょ。もちろん、いくことの方が多いけどね。

言い忘れたけど競馬は土日だけだから会社勤めでもできる。それがいいよね。その日が終われば翌週に引っ張ることもない。後腐れないから。その点、常に動きを見てなくちゃいけない株やFXよりも気楽だよね。

さっきもいったけど、4レース目も負けちゃうと結構な額になる。月に土日が計8日間あるとして7日勝ってても1日負けたらプラマイゼロやマイナスになることもある。それが2日あったらきついよね。

どうしても苦しい時はお金を借りることもある。他人じゃないよ。身内にね。父親は厳しいからじーちゃんにこっそり借りるんだ。もちろん、大きく勝ったら返すつもり。

……実は今月もちょっと厳しいから今からじーちゃんに電話する。

「あ、じーちゃん? 俺、俺。ちょっと悪いんだけど金貸してくれない?20万でいいからさ……」

「……」

「じーちゃん? じーちゃん?」

「俺だ。父親だ。お前毎月じーちゃんに金をせびってるらしいな。もう200万超えてるらしいぞ。返す算段がつくまではじーちゃんに電話するな。家にも帰ってくるな」

2020年9月


なんでだっけ…?
noteは競馬ファンユーザーが多いから?
いや、たぶん、方法や数字の部分で目がすべると判断したからかもしれません。
頭空っぽで読んでも考察しながら読んでもわかるという二度おいしい話を目指していますので!

次は「わかる人いたらマジで教えてください……」という一文を付けた話。

話の謎、ボツにした理由がわかるでしょうか。
今は解決しているので考えながら読んでいってね!

愛用しているノートにあった走り書き。しかし、その意味が全くわからない……。男はインターネットを駆使して謎を解明していくことにした。


『小弁慶の八卦飛び』2,825字

れ、折れ、汚れだらけのノート。

仕事のことが中心だが趣味のことやちょっとしたメモ、思いついたポエムなんかも走り書きしている。誰にも見せたくないし、誰も見たいとも思わないような紙束。

ふと何気なしにパラパラめくっていると、まあヨレヨレでうまくめくれないのだけど、ある走り書きが目についた。

「小弁慶の八卦飛び」

小弁慶の八卦飛び……

小弁慶の八卦飛び。反芻はんすうしてみても全く意味がわからない。仕事に関することではない……とは思う。

私は開いたページに殴り書きする癖があり、いつ書かれたものかページ数から予測することはできない。ノートを使い始めたのは今年に入ってから。そのため一年以内に書かれたものであることは確かである。

何に関することか、いつ書いたものか、記憶の片鱗へんりんにすらない。

自分以外が書いたのだろうか……。確かに出来ないことはない。かつて同僚がメモに使うため破っていったこともある。

でも使っているペン、雑で汚い筆跡を見るに間違いなく私が書いたものだった。

仕事に関することでなければ同僚に聞くこともできない。

この謎は自分で解明するしかない。インターネットを駆使して解明してやる。

まずは「小弁慶の八卦飛び」を検索してみる。これで出てきたら終了。

完全に一致したページはなかった。なかったが、「弁慶 八艘はっそう飛び」が含まれているページが一番上に来た。読んでみる。

それは弁慶の話……ではなかった。弁慶の主である源義経の話。義経が壇ノ浦の戦いで次々と8艘の船に飛び移り難を逃れた出来事を八艘飛び伝説というらしい。

そういえば弁慶って壇ノ浦の時に何をしていたんだっけ?

橋での出会いのエピソードと壮絶な最期は有名だが、義経がイケイケだった頃弁慶が何をしていたかいまいち知らない。

今回の謎に関係があるかどうかはわからないが、「弁慶 壇ノ浦」で調べてみた。

同じような疑問を持った人が質問サイトで聞いていた。「弁慶は義経の部下だから一緒にいた」と答えていた人もいたが、そもそも弁慶の存在を裏付ける資料がないという回答もあった。

他のページも見てみた。壇ノ浦の前に食料調達をしたという逸話はあるようだったが、弁慶の壇ノ浦での活躍に言及したページは見つけられなかった。

そもそも、弁慶の存在が……いよいよ今回の謎「小弁慶の八卦飛び」と関係があるか不明になってきたので一端置いておく。

次に「八卦飛び」で調べてみることにした。前述した「八艘飛び」のように技名か逸話と予想する。

しかし、「八卦飛び」では目ぼしいページにヒットしなかった。

そもそも私は「八卦」というものを知らない。「八卦」を調べてみる。

「八卦(はっけ・はっか)」とは中国のえき(占い)の用語であり、自然界の物は全て「八卦」で表すことができるらしい。

別のサイトでは「八卦」とは占いの別称とある。易? 全て「八卦」? とポカン状態だった私だったが、「当たるも八卦当たらぬも八卦」という言い回しを見てようやくピンときた。

私の知ってる「八卦」はこの「当たるも八卦当たらぬも八卦」だ。

だが、私が知りたいのは「八卦」ではなく「八卦飛び」。

易における「八卦」が全てを表しているのだとしたら、「八卦飛び」は「森羅万象飛び」のような大げさな技?になる。

占いのことだとしたら、「占い飛び」というよくわからない言葉に。

易由来の「八卦飛び」の方がありえそうと思った。

試しに、「弁慶 八卦」で調べてみた。目ぼしいページはなかったが、ある「はっけよい」の由来について解説しているページがヒットした。

関係あるかどうかわからないが覗いてみることにする。

相撲の掛け声、「はっけよい」は「発揮揚々」で「気合いを入れて勝負せよ」 という意味の言葉らしかった。

残念ながら、「八卦」とは関係なかった。しかし、ここであることが頭をよぎる。

「八卦」が当て字だったら?

もしも、「はっけとび」と耳で聞いたものを私が勝手に「八卦飛び」と解釈してメモ書きしたのだとしたら……?

この可能性は大いにある。

そこで、「弁慶 はっけとび」「弁慶 はっけ」「はっけとび」で検索してみたが目ぼしい結果は得られなかった。

だが、「八卦飛び」は「八卦」ではないかもしれないという仮説は頭に入れておこう。

ここで行き詰ってしまった。「弁慶」でも「八卦」でもこれだという情報が得られない……。ん? 重大なことに気づく。

私が調べているのは「弁慶」のことではない。「弁慶」は「弁慶」でも「小弁慶」の話だ。

すぐさま、「小弁慶」で検索してみる。

「小弁慶(こべんけい)」とは模様の名前だった。簡単に言えばチェック柄。英語では「シェパード・チェック」というらしい。

ずっと「しょうべんけい」と読んでいたが「こべんけい」だったとは。とはいえ、私が耳で聞いたものを書き留めたとするとこれも意味がない思考になるが。

また、「小弁慶は弁慶縞べんけいじま弁慶格子べんけいごうし」をより細かくした柄だという。確かに「小弁慶」よりも目が大きい。

そして、この大きな弁慶縞を別名「ギンガムチェック」というらしい。ここに来てまたピンとくる単語。

アイドルの曲名にもあるギンガムチェックはデザイン系に疎い私でも知っている。……しかし、だから何だと言うのだ。結局謎は謎のまま。

「しょうべんけい」でも検索してみる。出ない。「こべんけい」出ない。「しょうべんけいはっけとび」出ない。「こべんけいはっけとび」出ない。

「しょうべんけい」で最悪の変換が頭に浮かんだ。「小べn……」やめよう。

いや、可能性は潰しておくべき。思い直して「小便刑」で検索してみた。

出るわけないと思っていたが、何と出た。

「小便刑(しょうべんけい・しょんべんけい)」とは、「短い懲役刑」を表すスラングらしい。

例文の「そんな小便刑じゃここではデカい面できねーぜ」を見て、犯罪系のストーリーで見聞きしたことがあるかもしれないと思った。

「小便刑 はっけ飛び」……「小便刑で飛ぶ」……「短い刑期だけど海外に逃亡する」……? あいにく犯罪には関わっていないし、推理小説を書こうと思ったこともない。さすがにこれは飛躍しすぎだ。「はっけ」も無視してるし。

「小弁慶」にもう一度着目してみる。弁慶に弟子はいなかったか、弁慶とは別に「弁慶」と呼ばれるような人はいなかったか。金沢が「小京都」と呼ばれるのと同じように。

自称弁慶の弟子はいるようだが、弁慶の弟子と広く認知されているような人物はいないようだった。また、「小弁慶」のような異名で呼ばれているような人も発見できなかった。

そうだ、昔取った杵柄で私は多少のタイ語の心得がある。そう言えばタイ語で島は「コ」もしくは「ゴ」と聞こえる。「コ弁慶」は「弁慶島」という意味だ。さっき「弁慶島」という島が検索に引っかかったのを思い出す。

検索し直すと、島根と鹿児島に弁慶島という名の島があるようだ。どちらも無人島。島根の方は暴れん坊だった弁慶を母がその島に閉じ込めたという逸話があるようだった。

だからどうなんだろう。

結局ここで力尽きた。「小弁慶の八卦飛び」は依然として謎のまま。私は過去の自分に敗北した。

2020年9月


これは実際にメモ帳に書いてあってとても悩んだもの。この時は結局なんだったのか答えは出なかったが、しばらくしておそらくそうだろうという答えに辿り着く。

「小弁慶の八卦飛び」に意味などなかったのだ。初めから私が意味のないワードを作ろうとして生み出したに過ぎない。

こういう嘘ワード解説記事用の存在しないワードだったと思う。
なぜ、ピンと来なかったか。「小弁慶の八卦飛び」をメモった段階ではまだ嘘解説は書いていなかったからである。構想すらしていなかったかもしれない。
上記の雨老人等の記事を書いた後、小弁慶を見直し、アッ…となった次第。
過去の自分にしてやられるとは……。

爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!