【訳ありボツ話】『嚢中の月長石』『告白』
今回も他サイトには載せたものの、noteに転載するに当たり、ボツにした話を敢えて読んでいただきたいと思います。
多くは書き始めてから1、2か月の物が多いです。
『嚢中の月長石』723字
「はい、これ」
ブルーのストライプ柄の袋を手渡す。
ミキはそれを嬉しそうに受け取り素朴な笑顔を俺に向ける。チェーンのカフェでバイトをしている大学一年の女の子。俺と出会ったのもそのカフェだ。
「ごめんな、安物で悪いんだけど」
口ではそう言うが、ミキが喜ぶことは知っている。ミキだけじゃない、たいていの女の子は喜ぶ。
楊枝《ようじ》の先ほどの赤い石。イヤリングを顔に近づけて嬉しそうにしているミキの姿は予想と寸分《すんぶん》も違《たが》わない。
「ミキの誕生日もうすぐだろ?その石はミキの誕生石なんだって。ミキを守ってくれる」
ストライブ柄の袋を手渡す。「それ、ナナミの誕生石」
ストライプ柄の袋を手渡す。「レイナの誕生日の石。世界に一つだけのお守り」
ストライプ柄の袋を手渡す。「ユウカのためを思って選んだんだ」
薄い緑の石のイヤリングを手にユウカも顔をほころばせる。
さすがに何股もしていると一人一人にかける金は限られてくる。
おぉーい!童貞ども。これがモテる男のやり方よ(笑)
誕生石はいいぞ。安くてスペシャル感が演出できる。おめーらももし、来世でモテることがあったら参考にしてみてもいいぜ。
なんてな、今の俺は違う。確かに今までの俺は軽かった。
でも、それは運命の相手に出会っていなかったからだと思う。
少し前に出会ったサイカは最高の女だ。見た目も完璧だし、頭もいい。会話してて楽しいのなんてサイカぐらいだ。
こうして、俺は他の女らとは全て縁を切りサイカ一筋になった。これが男のケジメっしょ。
今日もサイカの店に通う。
「タカちゃんのためを思って選んだの。何だと思う?特別だよ。先週誕生日だって言ってたからさ」きらびやかなドレスの裏から青と白の線が入った袋が見える。
なぜだか俺は中身が白濁色の石だと予想できた。
2020年10月
好きな人、業界の人が読んだらいい気はしないかなとボツにしました。
『告白』757字
バレンタインの前、クリスマスの前、学祭の後、運動会の後、修学旅行中……イベントの前中後。
憂鬱《ゆううつ》になる。
告白が集中する時期。
男子に呼び出されそれが愛の告白だとわかると私は虚空《こくう》を見つめ口を半開きにする。
それが私の抵抗であり切り替えスイッチである。
相手はだいたいうつむき加減なので問題ない。
死んだ目の私を前に、男子は頬を赤らめ愛の言葉を並べ立てる。
戯言《ざれごと》が終わったと判断したら、用意していたセリフ。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど付き合えません。また今まで通り話しかけてね」そういって小走りで去る。
面識のない奴が告ってくることもある。
関係性のないところに一方的に感情を押し売りしてくるなんてレイプと変わらねーんだよと内心悪態をつくが、虚ろな目でなるべく相手が傷つかないように対応する。
別に恋愛に興味がないわけではない。彼らの恋愛に対するスタンスが気に入らないのだ。
ある時駅前でナンパされた。ナンパは初めてではない。初めてではないが彼のようにいきなりホテルに誘ってきた男は初めてだった。
恋愛感情がなくあからさまに身体目的というのに好感を持った。
その痩せた貧祖《ひんそ》な男が私の初めてになった。
何回か逢瀬《おうせ》を重ねるうちに彼が好きになっている自分に気が付いた。いや、初めから好きだったのかもしれない。セックスから始まる恋こそ本当の恋愛ではないかと思った。
クリスマスの前に唐突に別れを切り出された。別れと言っても、お互い付き合っているとは口にしなかった。その痩せぎす男が言うには私は重いらしい。
「そうなんだ、わかった。ごめんね。今までありがとう」そういって初恋の男に別れを告げた。
まあ一通りやることはやったしいい経験になったかなと笑顔で男の後ろ姿を見送る。
虚空を見つめる目からは涙が、半開きの口からは嗚咽が漏れていることには気づかなかった。
2020年10月
こういうR的なものがnoteでどこまでOKなのかわからなかったので。
note的によくても私的にどうなのかなって。ゆりかごから墓場までの読者を想定しているもので。
爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!