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ふかふか羽毛布団【掌編】(974字)

うぅ、寒い、寒い、寒い、寒い。

明け方5時。起床時間にはまだ早い。

ふかふかであったかい羽毛布団の中、俺はしばし目を覚ました。レースのカーテンからうかがえる外はまだ暗い。夜明け前だ。

隣の妻もよく眠っている。新婚。俺は半身を起こして妻の額にキスをした。

再び柔らかなマットレスに身を沈める。優しいアロマの香り。もう一度眠りにつく前にふと考える。

俺はとても幸せだ。

幸せだが、刺激がないように思える。

もし、仮に俺が牢獄にいるとしたらどうだ。幸せか?

幸せではないだろう。しかし、刺激的に違いない。

物語の中やドキュメンタリー番組でしか知らないが――。

チャイムが鳴ったら、すぐさま起きて、うっすいセンベイ布団を畳む。当然二度寝など許されない。

そして、おりの中で看守に呼ばれるのを待つ。当然、私語は許されない。看守が号令したら、自分を表す番号を言う。

それが一日の始まり。

おはようも、おはようのキスもない。だが、ピリッとした空気、雰囲気、とても刺激的だ。

それから味気のない食事を摂って、作業へ向かう。作業中は私語はもちろん、勝手に席を立つことも許されない。床に落とした道具を拾うのにもいちいち看守の許可がいる。ピリピリとした雰囲気。

単純作業に手を動かしながら、永遠とも思える沈黙の時間を過ごす。ただただ自分が犯した罪と向き合う時間。

作業を終えて檻に戻ってからは比較的自由に過ごせる。

しかし、その分、他の囚人たちとの人間関係に気を揉まねばならない。どいつもこいつも罪を犯してここに来たやつらばかり。人間性に難がある奴が多い。

特に、大村。あいつは口は悪いし、掃除は雑だし、便所は綺麗に使わない。同じ檻の俺たちの身にもなってみろって言うんだ。連帯責任で罰を受けたこともある。あいつだけは気にくわない……なんつって。

そうやって、一日を終え、便所前のセンベイ布団で眠りにつく――。

監獄での暮らしは刺激的かもしれないけど、精神が持たなそう。平穏だけど幸せなこの暮らしが俺には合ってる。

もう一度、妻にキスをして二度目の眠りについた。

うぅ、寒い、寒い、寒い、寒い。

うっすいセンベイ布団で目が覚める。便所からはアンモニア臭。もう慣れた。

ふかふかの羽毛布団で目覚めた夢を見ていた。くだらない。

足の先がもげるほど冷たい。

もうすぐ朝のチャイムが鳴る。二度寝する時間はなさそうだ。

刺激的な一日が始まる。


***


2020年12月

爪に火を灯すような生活をしております。いよいよ毛に火を灯さなくてはいけないかもしれません。いえ、先祖代々フサの家系ではあるのですが……。え? 私めにサポートいただけるんで? 「瓜に爪あり爪に爪なし」とはこのことですね!