短歌連作「日輪」
辞書の背を右手で受けて身体にもまばたきという外函がある
暴力はあかるい きみが日輪と言えばきこえてしまう風鈴
他人の金で購う他人の誕生日ケーキこうしてまで生きるのだ
さっき挨拶した先生とすれ違うときの会釈のように降る雨
お持ち歩きの時間を訊かれ腐るのはケーキであってわたしではない
かなしみを唇で探し当てながら机間巡視の顔をしたんだ
居心地の悪い愛には勝てないと蛇腹ファイルをぐわっと開く
たまにきみの机になった 空論がわたしを少しだけ猫背にした
⚪️あとがき
歌人の千原こはぎさんが発行する短歌誌「うたそら」に初めて参加しました。フォームに投稿した短歌や短歌評はすべて掲載していただける、ありがたい場です。(「うたそら」はこちらから! http://kohagiuta.com/utasora/15/index.html)
この連作は、家族の誕生日ケーキを予約してから食べるまでの数時間で詠みました。
わたし、過去を携帯してしまう時間が長いのは夏だけだと確信しています。確信はケーキを取りに行く道すがら、事務用品や風鈴を伴ってやってきました。
きみの空論に付き合った日々がまるごとわたしの机の上に在り、「机上の机上の空論」という入れ子構造を持ち歩いています。暑さに溶けるのはマトリョーシカの外側からで、それならばわたしの中にいるきみよりも、きみを思っているわたしが先に溶けるのだと思います。
一生忘れていたいことを思い出してしまうきっかけになりたくて、外函をはずしたままにしたんです。
めっちゃ暑いですね〜、殺人級も災害級も比喩であってほしいですね〜、ご自愛ください〜。
2023/08/02 ツマモヨコ
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