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『「答えは出さない」という見識』(平川克美・著)

 紹介が遅くなってしましたが、7月の成幸読書で届いた図書で、清水店長が

「悩み相談に答える形なんだけど、答えは書かないっていう。(これがもう平川さん流ですよね。)そう。内容的にほとんど納得だよね。現代人に多いのは、知識で何かを解決しようとすること。でも、知識だと何かを解決しようとして、良いとか悪いとか決めつけて…(略) そういう功利的な思考じゃなくて、体験したこと。実相と言って、今、目の前に起きている出来事、体験を通して出てきたものが大事で、それこそが本当の知恵なんだよと。(略)」

と述べていた『「答えは出さない」という見識』(夜間飛行・刊)です。

 本書は、さまざまな“人生相談”があり、その一つ一つに著者が“応える”形になっています。
 最初の相談は、帯にも載っています。

   どうしても許せない人がいます。
 同じ職場にいた頃、数年にわたって嫌がらせを受けました。
 互いに転職した後も、仕事上のつきあいで顔を合わせる機会があるとき、嫌な気持ちになります。
 事情を知っている元同僚からは「もう水に流しなよ」と言われますが、どうしても許す気持ちになりません。
 平川さんには「許せない」人がいますか。
 また過去にトラブルがあった人を「許すべき」だと思いますか?
  (30代・女性)

 こうした人生相談を受けたら、あなたなら、どのように答えますか。

 著者は、題名にあるように“答えは出さない”と言います。

 ところが、私の人生相談の回答には、質問者が期待するような救いや、正しい答えを期待しても見つけることはできません。むしろ、「唯一の正しい答えなどどこにもない」ということを繰り返し述べています。

 こう言う著者が、それぞれの人生相談に対して“答え”を述べていきます。

 先の30代・女性の相談については

・時間だけが解決してくれる
・性格とは何か
・“君子危うきに近寄らす”
・時間以外に解決してくれるもの
・自分のなかにある“相手と同じもの”に気づく
・解決できない問題をどうするか
・「そのままでいいじゃん」

との項をあげ、21ページで語っています。答えの最後を

 人生には解決できない問題というものがある。そのことを知ることで、人間は少しだけ成長することができる。私はそう思っています。

で終えています。

 本書を読み進めていくと、「ふっと心が軽く」なり、これからを生きる「勇気と指針」がもらえます。
 あなたのこれからにお薦めの一冊です。あなたから相談は…。


 読書メモより

○ 人生は、問題解決のためにあるわけではない。ですから私は、質問者ご自身においても、容易に答えを出すことをせずに、問いを抱えながら生きてゆく術を学んでほしいと思うのです。
○ まず、思考の出発点として、人生は無目的であり、人間は無力であり、無責任であると考えていただきたいのです。(略) 無意味ではありません。無・意味なんです。意味の前に、すでにそこにある。つらかろうが、楽しかろうが、肯定しようが、否定しようが、そこにある
人生の意味というのは、その人が責任を引き受けたときに、事後的に立ち上がってくるものです。
 つまり、人生に悩み、誰かに相談しようとするとき、人はまさに、何らかの形で、責任を引き受け、人生に意味を見出そうと葛藤しているのだと考えられるわけです。
○ 自分の人生を自分で選び取ることの大切さ、自立した人生の選択と、生活者として普通に生き抜くことの難しさ、尊さを知る、この二つの視点を持つことがとても重要なことだと思います。
○ 人間は、自分が何を求めているのか知らないのです。欲望とはすべて、自分が何を欲望しているのかわからないままに欲望しているものなのです。
○ (略)……

  目次

人生には答えがないということについて
どうしても許せない人がいます
尊敬していた先輩の衰えた姿を目にしてしまった
不倫は許されますか
子どもの進路に親はどこまで口を出すべきか
制度を限界まで使い切ろうとする人にモヤモヤする
「冷たい男」ではダメですか?
余計な延命治療はやめるべき
夢を諦めきれません
大人になるってどういうことですか?
あとがき

【関連】
  ◇平川克美 (@hirakawamaru)(Twitter)



 図書と一緒に届いた冊子『清水克衛の成幸読書』の解説にある「読み合わせにおススメの本」は次の本でした。

  ◇『闘争の倫理-スポーツの本源を問う』(大西戴之祐・著/鉄筆・刊)
  ◇『世間と人間』(三淵忠彦・著/鉄筆・刊)
 今回は、100年後も読まれる本作りを目指す出版社「鉄筆」から復刻された二冊です。著者の大西鍵之祐氏、三淵忠彦氏は、どちらも戦争の経験者で、生き方の“本質”が詰まっています。
 一冊目は「戦争をしないために、ラグビーをするのだ!」とする、著者の倫理観から、深い哲学が学べます。
 二冊目は、初代最高裁判所長官の随筆で、食ぺ物、動物、自然、裁判など、様々な内容から、生き様が見えてきます。人としてどうあるペきか、何を大切にするべきか、「答えを出さない」見識を深める書としてお読みください。

【読書のすすめ「成幸読書」】
 ☆最近紹介した本
  ◇『続・宇宙のカケラ 物理学者の詩的人生案内』(佐治晴夫・著)(2023/09/10)
  ◇『旅の作法』(高萩徳宗・著)(2023/07/09)
  ◇『高校生と考える21世紀の突破口』( 安藤宏 他・著)(2023/06/14)
  ◇『不思議の国 ニッポン』(ヤマザキマリ・豊田有恒・著)(2023/03/29)
 *これまでに紹介した本は、カテゴリー「読書のすすめ」から

  ◇成幸読書選定本
  ◇成幸読書頒布会お申込ページ
  ◇読書のすすめ
  ◇読書のすすめ(YouTube)
  ◇読書のすすめ(@dokusume)(Twitter)


【参考】
  ◇平川克美『「答えは出さない」という見識』(夜間飛行)書評(内田樹の研究室)

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