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【超短編】(ノンファンタジー)ショートショート。のようなもの#12『薬指』

 その男は齢30過ぎにして、人生で初めて、軟膏を塗るときに“薬指”を使ってみた。
 
 結果、めちゃくちゃ塗りにくかった。

 “薬指”と名がついてるにも関わらず、塗りにくかった。

 なんなら、“薬指”と名がついてるから、薬を塗るときに他の指と比べて最適なんだと思い、使ってみたのに、めちゃくちゃ塗りにくかった。

 わざわざ、利き手の“右手”の“薬指”を使ったのにだ。

 いや~、塗りにくかった。
 というか、ほぼ塗れなかった。

 男は苛立った。
 
 それならと、試しに他の指を使って塗ってみた。

 まずは利き手じゃない方の、左手の親指を使って…次に人差し指…中指…小指…そして、薬指。

 さっきよりは、随分塗りやすかった。

 この調子でもう一度、挑戦だ!

 利き手の“右手”を使って、まずは親指…人差し指…中指…小指…と、やはり不思議と左手のほうが、随分と塗りやすい。

 ただ、塗れなくはないのだ。

 男は、少しホッとした。

 そして、いよいよ、気を取り直して、再び鬼門の“薬指”

 …………。

 あぁ…、やっぱり塗りにくい。
 いや、もはや塗りにくいの次元では片付かない程、全く塗れていないことに気がついた。

 何度、挑戦しても駄目だ…。

 ついに、男は諦めた──。

 その決断は、正しかったかもしれない。

 何せその男は、“右手”の“薬指”の甲に軟膏を塗ろうとしていたのだから…。


                ~Fin~






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