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『ゴットファーザーⅠ』(ネタバレ注意)

オススメ度⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️(5つ星中5つ)

1972年製作のアメリカの映画です。

【あらすじ】イタリア出身のマフィア「コルレオーネ・ファミリー」は様々な分野の人から相談を持ちかけられ、権力と暴力を持って相談者を支援し、ニューヨークで最大勢力を保っていた。しかし、ファミリーの長が他勢力のマフィアに襲撃されたことをきっかけに、状況が一変。息子達が、ファミリーの名誉と父親の仇のために報復をしていく。

175分(約3時間)の映画ですが、映画によくある「中だるみ」というものは全くなく、全てのシーンが必要なもので、俊作でした。重要人物が容赦なく死んでいくので、「え...死んじゃうの!?」と圧倒されるシーンがたくさんあり、目が離せなくなります。また、殺し合いのシーンはリアルで迫力がありますが、タランティーノ監督の作品のようなやりすぎ感はなくて、ある意味上品でした。

ただし、ストーリーが複雑なのと、人物が多いので、登場人物の相関図を頭に入れた上で鑑賞した方がより作品を楽しめると思います。


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ここで、筆者がこの映画を観て想うこと2点。だいぶ話を深堀りしすぎかもしれませんが、あくまで個人の一見解ということで、何卒ご容赦ください。

1.DVの実態を表現。暴力夫は制裁を受け、一件落着のようだが、そう思うのは視聴者だけで、被害者の心は整理されない。

長女は、結婚後に夫から家庭暴力(DV)を受けます。たまたま家に立ち寄り、妹の顔にあざができていることを知った長男は、妹に事実を問いただしますが、「私が悪かったの。あの人は悪くない」と夫を必死で庇おうとします。この被害者が加害者をかばう行動、本当によくあることで、リアルなDVの実態を描いているなと思いました。筆者は、米国留学時代にルームメイトがDV被害を受けていることを経験しました。加害者の彼氏は外面はよく、一見爽やかなKポップ系イケメン。柔和な印象の人でしたが、極度の束縛と暴力男で、被害者の彼女は四六時中監視されて、彼女の手首にはあざがありました。周りが別れを提案しても、いつも彼女は「彼は悪くない、本当はいい人なの」と言って別れようとせず、事態は改善されませんでした。筆者は米国でDVに関する講義を受講してましたが、心理的に言うと、DV被害者は日々の精神的肉体的暴力から「自分が弱いから相手が怒るんだ」と自責の念に駆られ、相手から離れるのではなく、自分の意思を殺して、相手の意向に沿った行動をするとのこと。そして、被害者を救済できる唯一の方法は、被害者自身が「別れたい」と意思を持つことだそうです。その意思が生まれない限りは、周りがどんなに援助しても、無理やり別れさせても、結局は加害者の元へ帰ります。映画ではそこまで細かくDVが描かれていない(というかそこが主の話ではない)ですが、「彼は悪くない」という被害者の主張と、彼女が「離れる」と決意する前に夫が兄に殺害されたことで、憎しみの念に駆られ、パート2まで続く兄に対する確執とキャラの変容(放蕩ぶり)は、被害者の心の傷を表現していると思いました。(深読みしすぎ?)

2.「闇のドン」という役割が、その人をそれらしくする。

三男が父親の後を継ぎ、「ゴットファーザー」として君臨することになりますが、元々当の本人は闇世界での仕事は断固拒否し、堅気として表舞台で生きていこうとしてました。恋人にも、自身のファミリーのことを暴露していますが、あくまでも自分は別、とファミリーとは一線を画す発言をしています。ところが、父親への襲撃を受けてから、報復として、他勢力を一掃し、ファミリーのトップらしい威厳さと大物感が出てきます。ここで筆者が想うことは、彼の行動の変容は、彼の性格ではなく役割によってなされたということです。スタンフォード監獄実験では、囚人と看守に役割を分けた被験者が徐々にそれぞれの役割らしく行動を振舞っていくことを証明しました。筆者は三男はまさに枠割にはまっていったのではないかと。ゴットファーザーは三部作を通して、冷酷な三男と周りから慕われていた父親が対比されます。確かに、父親は人望が厚く、若い頃から近所の「困った」を解決するマフィアながら人情味がある人柄でしたが、自分の日常の犯罪行動から段々と組織を拡大し、マフィアの長になる父親と、絶対的な権威を持つ父親の地位を不本意ながら引き継ぎ、敵にも味方にもなめられないように強く見せようとする息子とでは、成り立ちがまるで違うのです。よって、一言に、父親と息子の対比を、お互いの性格や資質による違いだったというのは、違うのかとも思います。


以上です。ゴットファーザーはパート3まで続くギャング・クライム映画というジャンルですが、パート3まで鑑賞して振り返ると、筆者はヒューマン映画なのではないかと思います。一人の人間の青年時代から晩年までを見事に表現した作品ですので、1はもちろん、続編も鑑賞してみてください。