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月の古民家ぼっちDIY(2): 出会いは「縁」だった

ぼちぼちのはずが・・・

第1回記事でお話ししたようにあくまで「ぼちぼち」のつもりでいた私の心を知ってか知らずか、カミさんのテンションは上昇中。知り合いの「蕎麦名人」の実家が古い茅葺の家だったから、話を聞きに行こうとなりました。その人はだいぶ前に他の人に譲ってしまってはいるのですが、色々教えてもらえるんじゃないかと。

早速週末に蕎麦名人の蕎麦畑に押しかけ、これこれしかじか、古民家を探してましてと。すると、「い〜よ〜、最近○○さんも来てないみたいだし、ちょっと覗いてみる?」おお、それはありがたい。家の中には入れませんが、あたりを見学することができました。

もとは茅葺の家ですが、ガルバニウム鋼板できちんと葺き替えてあります。建坪50〜60坪はあろうかという立派な家です。リフォームもちゃんとされているし、佇まいが美しい。土地も広大で、沢があり、小径が奥へ奥へと続き、梅畑があり、そして山がある。アスレチックができるほどの広さ!これぞ「田舎の古民家」のひとつの王道だと思いました。

売買したときの状況とか、この辺りの古民家状況とか、色々聞くことができました。「この辺りではなかなかないね〜。古民家ブームとやらで、いい物件はすぐ売れちゃうし結構高いみたいだよ」「古民家生活を満喫してる人を知ってるから今度連れてってやるよ」「カフェとかにするの?その気があるなら全面的に応援するぞ〜」なかなか心強い!ですが、いい物件を探し当てるのは簡単ではなさそうだと思いました。

まさに「ザ・古民家」だったわけですが、煩悩にまみれた私たちにはさらなる欲が出てきます。もうちょっと手ごろな値段だったらいいのになぁ。土地が広いのはいいけど、山や畑の管理は大変そうだなぁ。駐車スペースがもっとあればいいのになぁ(平地が意外に少なく、車は2〜3台しか停められない)、などなど。妄想としては、アートギャラリーとか、カフェとか、友人を招いたイベントとか、そういうイメージがあったので、何とか駐車場は確保したいなぁ・・・。

その後も、まずはともあれネット検索したり、あてもなく車であちこち走っては「あ、あの家いいよね!売りに出てたりはしてないよね・・」とか、まったく「あたり」のない日々が続きました。

巡り合い、のち悪夢

そんななか、第1回記事の「月はどうかね?」の出会い。これはまさに「縁」でした。「だめかな〜」と思い始めていた私たちは、かなり前のめりに「早速見せてください!何なら『買いまキープ』で」となりました。2022年の夏のことでした。

開放的な広い敷地

月の古民家は自宅から車で約40分。「遠からず近からず」の適度な「遠足感」があります。四方を山に囲まれた田舎の風景が広がっていて、ばあちゃん家に遊びにきたような懐かしい感覚があります。敷地は475坪となかなかの広さです。しかも、車がちゃんと停められます。まさに私の煩悩を満たすなかなかの立地条件です。

集落の雰囲気も良さげです。もう一つの心配として、私たちのようなよそ者を受け入れない雰囲気だったどうしようというのがありました。行き交うおばあちゃんたちはおだやかな感じがします。「最近見慣れんやつがちょくちょく来るのぅ」と絶対思われてたと思うんですが、何となく眼差しが優しい感じがします。

月の集落の近所にある二俣という街(あの二俣城のあったところです)は古い城下町です。クローバー通り商店街には、「きころ」という歴史のあるスーパーを中心に、古い旅館やお店屋さんに混じって、古い建物をリノベーションしたおしゃれなカフェやパン屋さんが軒を連ねています。この地区にある「活気」が月の集落にも息づいているような気がしました。

そして何より「月」という地名にカミさんは目がハートになってしまいました。「インスタで『私はいま月にいます』と投稿したら映えるよね〜」とか「これから私をかぐや姫と呼んで頂戴。今から月に帰るのよ〜」などとほくそ笑んでいます。ばかばかしいかもしれませんが、こういうことって意外に大事かもしれません。

立地条件的にはまさに奇跡のような出会いでした。ところが、すぐに踏ん切りのつかない事情もありました。20年近くも空き家だったことによる状態の悪さです。

生きた人間の侵入を拒む市松人形

そんな月の古民家をいよいよ見せてもらいました。不動産屋さんの案内でまぁどうぞと玄関を開けた瞬間、鼻をつく強烈なカビ臭。ふと壁に目をやるとご先祖の遺影写真が暗がりからのぞきます。そして、部屋という部屋を埋め尽くしている残置物の山。布団が衣服がそのままの姿で散乱しています。食器棚には茶碗や皿が雑然と残され、使いかけの調味料がこの家の時が長らく止まっていたことを物語っています。市松人形が「よそ者がこの家の秩序を乱すな」と言わんばかりにこっちを見ています。事件現場?ワケアリ物件?と思わずにはいられない惨状でした。

水回りも目を背けたくなる状態です。母屋にはトイレがありません。いわゆる「ぼっとん便所」が離れにあります。肥溜めから畑に撒いていたのだと思います。浴室はありますが、いびつな形に無理やり建て増ししたもので、床はなく地面のまま。ホーローらしき浴槽が入っていましたが、ぼろぼろに錆びてとても使えるものではありません。台所の床はふかふかで、床下は間違いなく腐っています。水道の蛇口はありますが、ちゃんと水が出るのかどうかも怪しい・・。

時が止まったままの台所

ロケーションは最高なのですが、これはちょっと・・・。微妙な気持ちのまま自宅に戻りました。「前のめりになって後悔しても知らないよ。きっとね、もっといい物件はあるよ」そういうささやきが頭を駆け巡ります。これは天使のささやき?それとも悪魔なんでしょうか?悶々としつつ、それでもどういうわけか「もういいや」とはならず、何かに取り憑かれたようにしつこく何度も通っているカミさんと私。

葛藤の果てに

何度通っても、このロケーションのよさは心から離れません。慣れというのは恐ろしいもので、次第にカビ臭さにも体が慣れてきました。冷静に考えれば、カビの原因を断てば何とかなるだろうし、残置物は片付ければいいし、腐った床は直せばいい。トイレも簡易水洗なら穴掘りを頑張ればなんとかなる。それにほら、DIYをする楽しみがあるじゃないですか!これで定年後に暇を持て余してボケる心配もない!

ときどき現れる家蜘蛛におののきながらも、カミさんのテンションは少しずつ回復に向かいます。「この部屋にはこういう可愛いランプが合うと思うの」とか言いつつ、ヤフオクでぽちり出しました。これで決まりかナ?古民家を持つということはこういうことなのだ。このような悟りの末、ついに「月の古民家」を譲り受けることになったわけです。

次回は、いよいよ「月の古民家ツアー」をお届けします!


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