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ジャケ買いだっていいじゃない 【Blue Note Records編】①

 noteを初めて1ヶ月が経ちました。
まだまだ力不足と感じることの方が多いですが、これからもささやかだけれど日々の糧になるような'Small, Good Thing(s)'をおすそ分けできれば幸いです。

 今日は私の職業分野「グラフィックデザイン」の観点から音楽を見てみようと思います。自分の職業分野について語ることは、他の分野よりもさらにずっしりと責任を伴うような気がして、noteではもう少し気楽に文章作りを楽しみたいという思いがあり、あえて避けていました。けれどやはり音楽×グラフィックの愉しみやその歴史は掘り下げ甲斐のあるテーマですので、拙文ながらも綴ってみたいと思います。

 第一回目は(シリーズ化するつもり笑)「Blue Note Records ブルーノートレコード」編 vol.1。言わずと知れたアメリカの老舗ジャズレーベルです。ジャズをあまり聴かない方でも、このレーベルから出ている妙にカッコいいアルバムのジャケットをどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか。
 美大生だった頃の私は、ブルーノートのアルバムデザインで課外授業を受けていたようなものでした。大学の図書館にあったブルーノートレコードのアルバム集を穴が開くように見ていた記憶があります。

 そのブルーノートのアルバムデザインの注目を集める作品の多くは、Reid Miles  リード・マイルスというデザイナーによるものです。(ポートレイトを見てびっくり、ウディ・アレンにそっくり!)NYでエスクワィア誌のデザインに従事していたのですが、1956年頃から同レーベルのアルバムデザインを手がけ始め、その数は400枚にも及びます。では彼のお仕事拝見しましょう。

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Eric Dolphy / Out to Lunch! (1964)

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 このジャケットに出会った時の感動は今でも覚えています。まずタイトルのヘヴィなゴシック体にシングルクォーテーション「'」のタイポグラフィがなんとも絶妙でシビれます。配置もさすがのうまさ。目をひく美しいクールなブルーに施された"昼食休憩中"の時計札をかけた店のドアの写真。でもおかしいのは「○時に戻ります」を指す時計の針が7本もあること。ブルーノートジャケット写真はフランシス・ウルフという写真家によるものが多いのですが、このジャケット写真はマイルス自身が撮影したものだそうです。
 偶然なのでしょうか、写真の中央に走るラインがいい意味で邪魔にならなず、ちょっとノーマルでない世界感が気に入っています。

"Out to lunch"は 直訳以外にもいくつかの意味があるそうです。

out to lunch
-昼食のため外出中で
-〔頭が〕からっぽの、正常でない、ぼんやりして
-〔言動が〕おかしい、異常な
-〔酒・麻薬で〕正気を失った

 他の訳を知ると、時計の針が7本もあることにもなんとなく合点がいきます。
 音はかなり奔放で抽象的、力強さと精密さの同居する一枚で、まさに'out to lunch' している感じです。言葉遊びをかけて、それを示すためのシングルクォーテーションだということもわかります。ちなみにドルフィーは当時のジャズマンにしては珍しく、煙草も薬を飲まない禁酒主義者だったそう。
 そして皮肉にもリード・マイルスはジャズはほとんど興味を示さず、クラシック音楽を好んでいたそうです(笑)。興味のない音楽の方が素直に体に入ってきて、アウトプットも雑音なくピュアな状態なのかもなぁ、と思ったりしました。

 以上ジャケットで楽しむ名盤紹介でした。それではまた次回。



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