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#07 INTERVIEW アートディレクター/Kelvin Chen

アメリカ・台湾・中国。そして日本をまたぐ、マルチリンガルデザイナーが夢見る明日。


こんにちは。今回は台湾在住のアートディレクター兼グラフィックデザイナーのKelvin Chen(通称ケビン)にインタビュー。実は彼は、昨年まで弊社グランデザインに在籍していた。現在は帰国し、地元の台北でフリーで活動中である。今回は、その才能あふれる若き台湾人デザイナーの、今までとこれからについて。

さて、ケビンという人について簡単に。
現在30歳。彼はとても人懐っこく、誰にでも可愛がられるタイプ。いい意味で「人たらし」と言ってもいい。弊社グランドデザインに在籍していたときはムードメーカーで、彼がいると場が和むことは常だった。
そんな彼が、台湾へ帰国しその後どうしているんだろう、と思っていたのだが、聞くと、既にたくさんの功績を作り始めていた。その一部を紹介しつつ、これまでの彼の経緯もたどっていこうと思う。





お母さんの化粧品で絵を描いてた子供時代。
大学卒業後、デザインの道を歩み始める。


──こんにちは!ご無沙汰ですね。今回はzoomインタビューということで、話を少し伺えたらと思います!
「こんにちは。お久しぶりですね。日本語、話すの久々だけど・・ちゃんと喋れるかな?(笑)よろしくお願いします!」
──早速、デザイナーを目指すまでのお話を聞かせてもらえたらと思います。小さい頃は、どんな子供でしたか?
「そうですねー。勉強は苦手だったけど、とにかく絵が大好きだった子供でしたね。小さい頃、よく母にホームパーティーに連れられて行っていたのですが、会話してる母親の横で、黙々と絵を描いてるような感じでした。描くものがないときは、母の化粧品を使って、描いたりもしてました(笑)。」
──えっ!お母さんの化粧品で・・
「そうそう。きっと色がついたものが好きだったのかなあ。それを見た母は特にそれを怒ったりせず、僕を水族館や動物園に連れて行っては絵を描かせて、その上でそれを、たくさんの絵画コンクールに応募してくれました。」
──へ〜!そこで怒らず、“好き”を伸ばそうそとしてくれる、素敵なお母さんだったんですね。
「うん。そのおかげか、絵はもちろんアートにはずっと興味を持っていました。高校になって、進路を考えていたとき、仲のいい先生に相談したんです。すると、“ケビンがアートに興味あるのはわかるけど・・アーティストで食べていくことは難しいかもね。絵が好きならデザイン勉強したらどう?”って言われて。それで、大学はプロダクトデザインを勉強することにしたんです。」
──グラフィックではなく、プロダクトデザインを学んでたんですね。
「はい、車やプロダクトが好きだったこともあって。そして卒業した後、プロダクトデザインの会社で1年ほどインターンしました。」



国をいだグローバルな幼少時代が、言語に対する想いをつくる。
就職して1年後、更にもう1つ言語を勉強したいと思った。


──順調な社会人スタートですね。
「はい。でも、その会社でインターンしていたのですが、国の徴兵があって、入社して一年で軍隊へ入隊しました。」
──そうなんですか。それはどれくらいの期間だったんですか?
「それも一年ですね。軍に入隊してインターンをすこしお休みしたこの期間に、改めて自分の進路について考えたんです。」
──どう考えたんですか?もともとプロダクトデザインは、やはりやりたい事ではない、とかでしょうか。
「うーん、何というか、プロダクトデザインそのものについては興味深く、面白いと思っていたのですが、それよりも、台湾の中だけじゃなく、もっと世界で活躍できるような人になりたいという気持ちの方が強くなっていたんです。」
──そういえば、あなたは台湾人だけど、アメリカに住んでいたんですよね。
「そうなんです。小学校3年生くらいまでは、アメリカで過ごしました。その後、家庭の事情があって台湾へ戻りました。叔母は今でも向こうに住んでいて、コロナになる前は、定期的に遊びに行ったりしてました。」
──羨ましいー。サンフランシスコでしたっけ。
「はい。そうです。そのおかげで英語と中国語はもともと身にいていたから、もう1ヶ国語勉強するとしたら、フランスと日本語のどちらがいいかで考えていました。」
──そうなんですね。でもなぜ、フランス語か、日本語?
「その頃から、先程も言ったように、世界で活躍できる人になりたい思いがあったからですね。言葉が使えたらビジネスもできます。英語と中国語の次にくるとしたら、その2択だったんです。」
──それで、なぜ日本を選んだんですか?
「距離的に近かったことと、日本食が魅力的だったことですね(笑)」
──なるほど(笑)。


日本へ。そしてグラフィックデザインの道へ。


「兵役を終えて、早速日本へ行きました。そこで日本語学校へ通っている期間に、いろいろと日本のデザインを見る機会があったんです。そのときに、”グラフィックデザインって、すごくかっこいいな”と思うようになったんです。
──なるほど、広告とかですか?
「はい、そうですね。なので、日本語学校を出たあとに、グラフィックデザインの学校へ通い、卒業後に就職した、日本で初めての会社が『中野直樹広告事務所』です。」
──ここでも、ものすごく順調な流れですね!どれくらい務めたんですか?
「実は、僕はその会社の東京支社に就職したんですけど、なんと就職して1年でその東京支社を閉めることになってしまって・・辞めることになってしまったんですよ。」
──そうなんですか・・。順調と思いつつ、、そうでもありませんでしたね・・
「はい。でも、たった1年でしたが、とても大きい仕事をさせていただいたんです。Panasonicの100周年の案件でした。」
──へー!そんな大きな仕事を、新卒で任されるのはすごいですね。
「はい。そうなんです。撮影もその時初めて経験したんです。とても緊張して、皆に笑われたりして(笑)。更に言うと、その頃は今よりも日本語出来ていなかったし、、とても大変でしたが、でも周りに助けて頂いたりして、やれて良かったなと、本当に思える仕事でした。」

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Panasonic「ラムダッシュ5枚刃 リミテッドモデル」



日本での“お姉さん、石松かおりさんの紹介でグランデザインへ。

──そしてその後、グランドデザインにはどのような経緯で入社したんですか?
「日本ですごく仲良くしてもらった、コピーライターの石松かおりさんという方が、グランドデザインを紹介してくれたんです。それだけじゃなく、公私ともに本当にお世話になった方でした。僕にとっては、“日本のお姉さん”的な感じです。彼女にふられたときもお酒に誘ってくれたり、一緒に九州へ誘ってもらったり(笑)。ほんと、石松さんが日本での僕を支えてくれた人です。感謝しています。」
──なるほど。その方のご紹介でグランデザインへ入社が決まったのですね。
「はい。グランドデザインでも、本当にたくさんいろんな経験ができました。前の会社は広告がメインだったんですけど、グランドデザインはそうじゃない仕事もたくさんあって、勉強になりました。みなさんの指導があって、成長できたと思っています。」

『グランドデザイン』で行った主な仕事

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パッケージデザインした『伊利运动酸奶プロテインヨーグルト
(中国のブランド)。数ある中から、ケビンの案が採用された。
※下段2点のキービジュアルについては弊社にて制作。

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BRANDFREE
デザイナーとして参加。パッケージ内のコピーまで、ケビンが考えた。
(※クリックすると詳細が見れます)
JAICA
デザイナーとして参加。

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GIFコンテンツ『Men’s Biore One
デザイナーとしてアイデア出しを担当。
(※クリックすると詳細が見れます)




帰国。さらなるステップアップを目指して。


──グランドデザインを2年勤めて、台湾に帰国することを決意されたんですよね。
「はい。母の事業も助けたいとずっと思っていたこともあったので、まだまだやり足りない気もしていましたが、地元の台湾でステップアップをしていきたいと思ったんです。」
──いまの活動状況を教えてください。
「では、まずは実家の事業のことから話します。
もともと、実家はレストランの経営をしていただけだったんですが、『オンラインで販売する、オリジナル商品を作ろう』と、帰国してすぐにその提案したんです。」


帰国後のWORKS  01  “豐食

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企画からパッケージデザイン、WEBデザイン含め
ディレクションまで行った実家の新事業、『豐食』。
オンラインで買える冷凍食品。
(※クリックすると詳細が見れます)


──そんな時代ですもんね。でもオリジナルでイチからつくるというのは、なかなかできないことですが・・
「実家だからできたことですよね。今の時代、 WEBやっていないと取り残されるとと思うし、そこでオリジナルの商品を販売することに意味があると考えています。これは1つの取っ掛かりでしかなくて、まだまだ作っていく予定です。」
──へ〜!パッケージもすべて1人でデザインしたんですか?
「はい。僕的には、ちょっと日本っぽいデザインですね。友人たち含めいろんな方にデザイン調査して、ここに落ち着きました。グランドデザインでやっていたパッケージの経験がここで生きていますね。」
──ラップご飯の冷凍食品なんですね。化粧品ぽくて、かわいいですね。
「ありがとうございます。お陰様で、売れ行きも好調なんです。もともと経営してるレストランのほうは内装もHPもすべて改変している最中なので、完成したら、またアナウンスしますね!」

──ほかもあれば教えてください。
「あとは、アメリカの友人に誘われたプロジェクト『Qualcommのプロモーションビデオ』ですね。これは僕1人でやったものではありませんが、ディレクターの1人として参加しました。」

帰国後のWORKS  02  “Qualcommのプロモーションビデオ”

ディレクションに参加した『Qualcomm(クアルコム)
最新プロセッサ“Snapdragon 888”』のプロモーションビデオ


──グランドデザインにいた頃とは全く違う仕事をしてるんですね。あとはこちらのCDジャッケットですね。
「友人の紹介でいただいた仕事です。ミュージシャンTIMO 黃新峰の『太壞 / IMPERFECT』というNEW SIMGLEです。撮影ディレクションとジャケットデザインをしました。“古さと新しさの融合”をテーマにデザインしています。」

帰国後のWORKS  03  “CDジャケットのデザイン・ディレクション”

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ディレクション・デザインしたジャケット。
ミュージシャンTIMO 黃新峰のNEW SIMGLE『太壞 / IMPERFECT』
3/3発売。


「あと、まだ制作中なのですが、シアターのイベントのアートディレクションが進行しているところです」
──けっこう大きなイベントなんですね!すごい。勝ち取ったんですか?
「僕の作品を送って、ぜひやらせて欲しいと言ってみたんです。するとラッキーなことに、僕が今回のアートディレクションを担当することになりました。これは本当に嬉しくて、今年一番の仕事になりそうだと思っています」
──仕上がりが楽しみですね。

帰国後のWORKS  04(進行中)  “『TIFAのアートディレクション“

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『2021 Taiwan International Festival of Arts』
現在、年に1回のイベントのアートディレクションを進行している。(イメージは昨年のもの)




これからを担う、台湾の若者の1人として。
母への感謝とゆるぎない目標が彼の強さ。


我々はお隣の台湾をいう国をどこまで知っているだろうか?
言うまでもなく、観光大国(2019年時、訪台外国人客数は過去最高の1,186万人であった)。もちろん食文化についても日本でも台湾式かき氷やタピオカティーがブームになったことはまだ記憶に新しい。
さらに言うと、「アジア初」の脱原発や同性婚。掃除ロボット「HOBOT」を始めとした、「Kebbi Air」やライブ配信アプリ「17Live(イチナナ)」も台湾発祥のものとして有名だ。そのような台湾の先進性を支えているのが、若者の圧倒的な元気さだと言われている。
ケビンは、その期待されるべき若者の一人なのだ。
とどまることのない向上心はそれを象徴しているように思う。

インタビューの中で、彼は台湾の若者についてこうも語っている。
「台湾って、まだとても若くて110年くらいの歴史しかない国なんです。ほかの国に比べて歴史が浅い。そうなると、学校も一番古くても100年じゃないですか。だから若くて向上心のある人は、歴史ある厚みのある場所、つまり海外で勉強したいと思う人が多いんだと思います。」

ぱっと見、我々日本人と何も変わらない外見の彼。だが、我々とは全く違うものを抱えて生きている。それは彼自身が持つ未来への志と、出身である台湾への想い。そして育ててくれたお母さんへの感謝。

「母子家庭だったこともあって、家族のことがすごく大事。“お金のことはいいから、やりたいことに挑戦してください”と、いつでもフォローしてくれた母に、ずっと感謝してます。僕の根底にはいつもあるのはその感謝です。僕がやりたいことをやれるようにしてくれた。だからその恩を返すためにも、習得したこれらの言語を使って、国際的に活躍できる人間になっていきたいと思っています。」

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家族写真。(お母さんとお兄さん。)


いまや彼は、国際的に活躍したいという、もともとの夢を叶えつつある。それは、彼自身が持つ意思の強さの賜物なのだ。
きっとこれから台湾という国は、ケビンのような若者達がどんどん元気にしていく。国内の中だけで、過去の歴史の恩恵にあずかっているままではいけないのだ。彼らのような貪欲な若者が集まる台湾のような国に、勉強しにいく時代も近いのかもしれない。
台湾という国の未来への期待が見えつつ、我々日本も頑張らないといけないなと考えさせられたインタビューでした。
ありがとうございました。

才能あふれる、Kelvin Chenのこれからの活躍も楽しみ。お仕事のご依頼もぜひ。



Kelvin Chen PROFILE
instagram: https://www.instagram.com/kelvinchih/
佛光大学卒業、東京デザイナー学院卒業
出身 :台北/生まれ:1990年/好きな色:黄色/好きな匂い:新しい車の匂い/好きな音楽:the xx、Coldplay /好きな映画:バック・トゥ・ザ・フューチャー/本:最近はStranger Faces /生まれ変わったらなりたいもの:iPhone です 笑 /旅行などで行った、一番印象に残ってる場所や国:スリランカ /これに出会えてよかったと思う分野やジャンル、または人(人生を変えてくれた存在のようなもの):石松さん、お母さん



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