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ベトナム放浪記2


 3月15日。ベトナム2日目。
夜はGoogleマップでたまたま見つけた美味しいと有名なフォーの店へ行くことにした。

 バイクと人と車とでごった返した道をぐんぐん進む。今朝に比べたらこんな人まみれのマナーも何もない道路を歩くことにずいぶん慣れてきていた。
ふと、大股でずんずん進んでいく自分に気づく。逞しくなったじゃん、と心の中で鼻を鳴らす。

ハノイ市内の混沌とした街


 歩くこと20分、ようやく目当ての店を見つけた。
確かに賑わっているし注文する場所が少し並んでいた。(ベトナムに並ぶという概念は存在しない気もするが。)

並んでいるのか集まっているだけなのかよくわからないところに私も混じり、声をかけられるのを待つ。当然、注文の仕方も席の取り方もなんのメニューがあるのかすらもよくわからなかったがこんなものは全部見様見真似である。おどおどしている暇はない。

 周りを見れば揚げパンのようなものを浸して食べている人が多かったので私もそうすることにした。
フォー1つとこのパン1つください、と指をさして伝える。3分ほどで揚げパンとフォーが支給された。

熱々のフォーと揚げパン



 みんな次々とフォーを渡されてはすすり、お皿はそのまま、席を立ってお店を出ていく。お店の人が瞬時に片付ける。そんな様子で店内は回転率の良い日本のラーメン屋さんのように回っていた。


 私も空いている席に適当に座ればいいかと思いフォーの器とパンのお皿を持って移動しようとした。
しかしこのフォーの器が並々な上、とても熱い。
私は思わずアチチチとこぼしそうになる。
すると周りにいたお店の人が3人がかりで大丈夫か、大丈夫か、と手伝ってくれた。
全く世話好きな人達であるがこのお節介が1人で旅をする者の心にじんと沁みる。

そのお節介ぶりに思わず笑ってしまいながらもありがとうと伝えてフォーを席まで運んでもらった。

 さて食べましょうと座った時、前の外の席にいる親子らしき2人組が目に入る。その2人のうちのおばさんがなかなかに私の大叔母に似ているのだ。

おっとこれは気になるぞ、しかもどうせなら私も外で食べたい。小さな椅子とテーブルで、ベトナムの空気を感じながらフォーを食したい。この際2人の目の前の席へ移動してしまおうか。と迷いの心が出てきた。
迷う、ということはつまり心の中ではもう、席を移動する、という一択に絞られているということだ。

私もこんな風にフォーを食べたい!


 日本に居るのなら、さっきせっかく運んでもらったのにな、とか、今更移動すると変な目で見られるかな、とか一旦考え込んでしまうところだが、私は旅人だ。ここに私のことを知っている人は誰もいないし私のことなんてみんなどうでも良いのだ。ここのお店を去ればもう、一生会うことだってないだろう。
そうと決まれば移動するしかない。
私はすぐさま熱々なフォーの器を片手に移動した。

案の定、だーーれも私が移動したことを気にも留めてない。ただひたすらに腹を満たすためフォーを啜っている。

私は自分の意思の通りに行動できたことに満足し、私の大叔母、その名も「よしこおばさん」にそっくりなおばさんと一緒になってフォーを啜る。

確かに美味しい。
揚げパンも汁を吸って柔らかくなり、ほのかに油の香りがした。優しい味だった。

「よしこおばさん」とその息子(?)


 目の前の「よしこおばさん」を観察しながら、周りにある唐辛子やらを加えて黙々と食べていると、何やらぺちゃくちゃ話しながら「よしこおばさん」とその息子と思われる男の子はどこかへ消えていってしまった。


 しばらくすると、まるで日本のサラリーマンに見た目がそっくりな中性脂肪をたっぷりと蓄えたお腹のおじさんがバイクでやってきた。
もしかして日本人かなぁなんて考えていると彼は私の前の席、さっきまで「よしこおばさん」が座っていた席に座り、彼もまたフォーを食べ始めた。

ふと、彼のフォーに目をやればなんと、卵が2つものっているではないか!!!そんな技あったのかよ!!!と思わず目を丸くする。
この中性脂肪のおじさん、ただ者ではなさそうだ。もしかしたらこっちに長く住んでいる人なのかもしれない。さっきから何やらぶつぶつ独り言を言っているがそれが何語なのか聞き取れない。現地で働く日本人なのだろうか、。

 そんなことを考えているうちに私のフォーも最後の一口になった。


 私の1日はまだ終わっていない。
これからイエンヴィエン駅へ向かい、寝台列車に乗って中国との国境、ラオカイまで移動しなければならない。

 無事、寝台列車に乗ることができるのか、今朝預けたスーツケースはちゃんと受け取れるのか、今日最大のミッションがまだ残っている。

お腹いっぱいになったところで気合いを入れ直し、私はまた夜のハノイをずんずんと進んで行く。

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