見出し画像

読了本980冊以上のTwitterでの呟き感想の一覧です!(適宜更新します)

僕は2021年11月から「正式な記録」として、
現在までに980冊以上を読んでおります。
そして読了本は必ずTwitterで感想を呟いてます。
この記事ではそれらの呟きを一括で掲載します。
面白そうな本があれば、ぜひ読んでみて下さい。


こちらは姉妹編の記事です。
著者名とタイトルだけの一覧です。シンプルです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



984.水原涼『蹴爪』 講談社 2018
悪魔が入らぬように建てる祠の責任者でもあり闘鶏場の胴元も務める父を持つベニグノが兄から暴力を受けて友達のグレースが育てた鶏が死んでハクジンが島で殺人をして地震が起こり日常が崩れる表題作と、地元のサッカーチームを応援する仲間の話を併録。マジで凄まじい文学だった!





983.十文字実香『狐寝入夢虜』 講談社 2005
21歳の怠け者・鳥子は行ったことのない道を歩いて神社を抜けると同じような住宅地から抜け出せなくなり狐の仕業かと思うと金木犀の香りがして謎の古本屋に青年の橘がいて友達になる表題作と、鳥子がプールに行くと監視員に恋をする「水酔日記」の2篇。文体が落語的だ。





982.入間人間『多摩湖さんと黄鶏くん』 アスキー・メディアワークス 2010
高校生の多摩湖さんと黄鶏くんが非公認のカードゲーム研究会でイチャイチャするだけの話。脱衣ポーカーで秘密を賭けたり、キスババ抜きで眼球を舐めたり、写真の歳並べで胸を見たり、花札のたまこいこいで肩を揉んだりする。バカップルではなく変態カップルだ。





981.米倉あきら『インテリぶる推理少女とハメたいせんせい』 ホビージャパン 2013
島に赴任してきた先生の僕は文芸部16人中15人を犯した連続強姦魔。最後の比良坂れいはミステリ脳であり、過去に姉を僕に殺されたと主張するが覚えていない。彼女は野球やバスケを頭脳戦で勝つが…。叙述トリック、どんでん返し、倫理崩壊。





980.浅井ラボ『Strange Strange』 ホビージャパン 2010
3人の女子大生が都市伝説のふくろおんなに惨殺される話や、太った男子高校生が監禁されて猫や見知らぬ男を殺すように要求される話や、カニバリズムの女と恋人である男が怖くなって殲滅部隊に入る話や、人間世界が怪物どもに蹂躙される話など4篇。救いのないラノベ。





979.西村亨『自分以外全員他人』 筑摩書房 2023
マッサージ店に勤める柳田譲は文句を言う客や同僚や老いた両親に腹が立ち、そして自分が悪いと鬱になる。気分転換に自転車を購入するが駐輪場で自分のスペースを侵害され、自分が罪を犯す前に不食し自殺することにするが…。真っ当な人が損しない社会になってほしい。





978.鈴木涼美『YUKARI』 徳間書店 2024
歌舞伎町のホステスだった紫が男たちに7つの手紙を出す書簡体小説。源氏物語を教えた高校の先生、パイロットの婚約者、仲の良かった先輩の夫、コリアンタウンのダンサー。歌舞伎町で繰り広げられる裏話、そして相手によって輪郭を変える主人公のイメージ。1人だけど多情の女。





977.寺村朋輝『死せる魂の幻想』 講談社 2002
祖母と暮らしている大学生の千秋は遠いスーパーで働く同じアパートの春菜と仲良くなるが、同時に幼馴染の恭一と久しぶりに出会う。彼女は恭一に惹かれるが、なんと恭一は春菜と仲良い関係らしい。千秋は毎日3人で帰ろうと提案するが…。後半は狂っていく感じがある。





976.萩原亨『蚤の心臓ファンクラブ』 講談社 2001
美智は山中で死のうとするが失敗し、夫と姑のいる家を捨てて離れた場所で生活をする。糸屑のような物体が人から生えているのを見れるようになり、自分のそれが抜かれると気分が良くなった。それを蚤の心臓と名付けて研究するが…。人の感情は外的に操られている。





975.九段理江『しをかくうま』 文藝春秋 2024
馬を愛する競馬実況アナの男は登録馬名の文字数が9から10になることを知るが、誰にもその重要性がわからない。そこに現れる遺伝子マッチング会社の根安堂太陽子、根安堂千日紅、ネアンドウターレンシス。そして男は太古から未来までの馬の秘密を知る。人類史こそ馬だ!





974.江波光則『ストレンジボイス』 小学館 2010
中3の水葉のいるクラスには虐めの天才の日々希がいる。過去に遼介が対象となり今は不登校しているが、水葉が彼に会うと遼介は卒業式に金属バットで日々希を殺してやると言った。しかし日々希は親の借金のせいで連絡不通となり…。予想を裏切る展開に僕は鬱になる。





973.間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』 早川書房 2024
2123年に自分の家族史を書く女性。彼女は機械との融合手術により不老不死となる100年前の、父親と浩太と万里香と沙耶の家族のこと、永瀬拓矢の電脳戦、アスノヨゾラ哨戒班、甥のシンちゃん、等の記憶を語る。そして地球は崩壊寸前で…。人類ナラティブ系。





972.稲庭淳『ラン・オーバー』 講談社 2015
スリが得意な高校生・伊園のクラスでは文芸部の原がイジメられていた。しかし転校生の湊里香がその主犯格をボコボコにし、彼女は伊園や原とも協力して更にいじめっ子に対する暴力はエスカレート。目標は皆殺しだと言う。そして教室に破局が訪れる。これは凄すぎですよ!





971.町田康『きれぎれ』 文藝春秋 2000
ランパブ狂いの道楽息子が金持ち娘との見合いを破談させて知人の絵描きである吉原が世界的にも評価されて嫉妬し自分は嬢のサトエと結婚するも家に穴が空いて金もないから吉原に無心するとハムをもらう表題作と脳が透けて見える頭の話などの「人生の聖」の2篇。00年代の狂気。





970.喜多ふあり『糞神』 河出書房新社 2009
高校の入学式当日に担任の佐竹恵一は世界を救うと言って教師を辞職し、それを見た楠本と工藤丸男は彼が面白いことを起こすと考え佐竹を尾けていくと謎の男にロッカーの鍵を渡された佐竹がおり謎のホームレスも現れて金が絡んで2人も介入することに…。傍観者よりネ申になれ。





969.村田沙耶香『授乳』 講談社 2005
家庭教師の男性に好き勝手して授乳させる女の子の表題作と、ホシオというぬいぐるみに世界の全てを内包させる女性の前に人形との子供を作りたい小学生が現れる「コイビト」と、全てを演技する関口要二とごっこ遊びをする女性の「御伽の部屋」の3篇。現実界を拒絶してもいい。





968.李琴峰『独り舞』 講談社 2018
趙紀恵は今は日本で働いているが、元々は台湾で生まれ、同級生の死を経験し、文学を通じて楊皓雪と出会い、自身が同性愛であることを認識する。のちに大学に入るが、男に乱暴をされて全てを捨てるために日本にやって来た。しかし過去の自分を知る人が現れ…。死と救いのダンス。





967.望月あんね『グルメな女と優しい男』 講談社 2005
全国の食べ物を取り寄せるOL三船りん子は仕事をサボり精米所で銀杏を焼いていたら真心一郎という飢えた男が来たので銀杏をあげることに。一郎は生物が愛おしく肉や魚が食べられず普通の生活ができないので湖の物置に住んでいる。2人の恋の行方は…。愛と欲。





966.森健『火薬と愛の星』 講談社 2003
予備校講師のタケシは嘘をつき数多の女をナンパしてヤリまくる。ヒカリから最低と言われ、ミサキと海を見に行き、ミカと茶漬けを食べ、イノウエタエと書店で出会い、アツミにからかわれ、ヨウコとキスをし、リナとメールをする。そして君への本当の愛を見つけたタケシは…。





965.内村薫風『MとΣ』 新潮社 2015
偽の手紙でドイツを騙す作戦やピクニックと称してオーストリア国境を渡る作戦や上司を失職させる作戦が繋がる「2とZ」や、謎の軍隊が日本に攻めて人々を殺戮する「パレード」や、ネルソン・マンデラとドラクエⅣとマイク・タイソンが繋がる表題作の3篇。謎の作家・内村薫風だ!





964.中山咲『ヘンリエッタ』 河出書房新社 2006
高校を辞めて昼間は外に出られないまなみはヘンリエッタという家に三輪車を盗んでしまうあきえと恋をするたびに魚を飼うみーさんと住んでいる。まなみは親と関係が悪いが、朝に牛乳配達の青年がなぜ早く移動できるのかに疑問を持ったりする。懸命に生きる女達の友情もの。





963.木村友祐『幼な子の聖戦』 集英社 2020
東京に挫折し故郷である青森・慈縁郷の村議をする史郎が村長選挙で幼馴染の仁吾が出馬するので応援するが過去に乱交パーティに参加したことをネタに脅されて敵陣に回る表題作や、ビルの窓拭き職人を描く「天空の絵描きたち」の2篇。主人公の駄目さ加減がめちゃ面白い!





962.畠山丑雄『地の底の記憶』 河出書房新社 2015
宇津茂平に住む小学生の晴男と井内は水車小屋で青田という男に会う。彼は人形を妻と呼んでおり、過去に友人2人を謎の電波により狂わされていた。そして100年前にロシア商人のウォロンツォーフも同じ場所で同じ電波に侵されており…。いわゆる土地そのものが主人公もの。





961.原田ひ香『はじまらないティータイム』 集英社 2008
人の家に侵入する癖がある佐智子、佐智子から夫を略奪婚した里美、佐智子を助けたい伯母ミツエ、不妊で悩むミツエの娘の奈都子。この4人の関係性とそれぞれの悩みを描く。登場する男はダメなやつばかりで、4人の女たちは自分の人生を築くために友情を結ぶ。





960.木村紅美『月食の日』 文藝春秋 2009
盲目の有山隆と17年ぶりに会う津田幸正とその妻の詩織が隆を家での会食に誘って指で月食を教える表題作と、老婆のくららが昔の知人である顕と取り壊すアパートの社交室で二村定一を歌う「たそがれ刻はにぎやかに」の2篇。木村紅美の描く人間関係って凄く臆病で良いんだよ。





959.髙橋陽子『黄金の庭』 集英社 2013
夫の那津男と黄金町に来た青奈は働くために千ちゃんという女たらしにDTPの仕事を紹介してもらう。町ではアーちゃんという神の子供が悪戯したり、質屋で喋り出すオパールの指輪を買ったり、蓮からお釈迦様が現れたりする。青奈は千ちゃんと仲良くなり…。不思議な日常もの。





958.栗田有起『マルコの夢』 集英社 2005
就活に失敗した奥村一馬は姉の紹介でパリの三つ星レストランで働くことに。そこではマルコという特殊なキノコの担当になるが、マルコが少なくなったので買い付けに行くように言われ、日本に向かうとマルコのヤバい正体と自分の一族の謎を知ることになる。茸って文学的だ。





957.白岩玄『野ブタ。をプロデュース』 河出書房新社 2004
高2の桐谷修二は自らのキャラを作ることで教室内での人気を得てきた。ある日、デブの小谷信太が編入するが速攻で虐められる。修二はそんな彼を人気者にするために立ち上がる。だがある事件が起こり、修二は自らの立ち位置が危うくなり…。学校は見た目が9割か。





956.三木三奈『アイスネルワイゼン』 文藝春秋 2024
32歳のピアノ講師である琴音がクリスマスイブに歌手のよし子の伴奏ののちに弱視の友達に会って夜行バスに乗りたぶん不倫相手に会いに行く表題作と、小5のミッカーがアキちゃんに憎しみを抱く叙述トリック的な「アキちゃん」の2篇。女子女子した交流がエグすぎる。





955.甫木元空『はだかのゆめ』 新潮社 2023
ホキモトソラは高知県に帰ってくる。そこには祖父と余命少ない母シズがいる。父ノブルは6年前に亡くなった。四万十川、土佐弁はツが言えない、日常が綴られる。本書は小説に加えて同名映画のシナリオも収録されており、そちらの主人公はノロであり、幽霊かもしれない。



954.大田ステファニー歓人『みどりいせき』 集英社 2024
不登校気味の高校生・桃瀬は過去に野球のバッテリーを組んでいた春と再会。ギャルになった春は謎のクスリ入りクッキーやペンを組織的に売っており、彼もそれに加担するが、次第に暴力沙汰に巻き込まれ…。ドラッグの表現がマジ宇宙的。愛はバイブスっすね。





953.伊良刹那『海を覗く』 新潮社 2024
高2の速水圭一は北条司の美しさを知り、その美を描こうと彼を美術室に誘うが、次第に北条に幻滅していく速水はある計画を立てる。同時に美術部の部長である矢谷始は恋人である七瀬唯が大嫌いな棚橋美穂と付き合うことになるが…。哲学的な論考が多くて好きだ。退廃こそ美。





952.山下澄人『砂漠ダンス』 河出書房新社 2013
北国に住む自称タカハシは急に砂漠に行き、たまにバーで働く女を誘えばいいと思って、砂漠の湖で幼い自分の裸の姿を見て、コヨーテになり、クイウイを釣り、気づくと本当のタカハシの身体に取り憑いており、その男が女と会い、自分の姿を見て、隣のノグチは病院で話す話。





951.水原紫苑『えぴすとれー』 本阿弥書店 2017
紫式部文学賞受賞の歌集。「星の女男知りがたきかもシリウスは男裝したる處女にやあらむ」「獨裁者の末路はつねに慘たるをわらへわらへわらへわれらを」「詩を識るは永遠の問ひたましひの殺人消えずわれこそあなた」古典的仮名遣いの美しさ。昔からの和歌を勉強したい。





950.道浦母都子『無援の抒情』 雁書館 1980
現代歌人協会賞受賞の歌集。「迫りくる盾怯えつつ怯えつつ確かめている私の実在」「炎あげ地に舞い落ちる赤旗にわが青春の落日を見る」「どこかさめて生きているようなやましさはわれらの世代の悲しみなりき」全共闘世代の自叙伝的な短歌。学生運動に青春を見出す抒情。





949.内山晶太『窓、その他』 六花書林 2012
現代歌人協会賞受賞の歌集。「貝の剝き身のようなこころはありながら傘さしての行方不明うつくし」「かなしめる昨日もなかば透きとおり一万枚の窓、われに見ゆ」「薄紙がみずに吸いつくときのまを何処の死者か肉を離るる」私たちの目は世界に対しての窓となり内外を見る。





948.岡本真帆『水上バス浅草行き』 ナナロク社 2022
歌集。「3、2、1、ぱちんでぜんぶ忘れるよって今のは説明だから泣くなよ」「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」「夢じゃないよねってうれしくなって聞く きみは夢でもうそがへただね」気軽に短歌の世界に入れます。例えば犬とか。





947.枡野浩一『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである』 左右社 2022
良すぎる歌集。「無駄だろう? 意味ないだろう? 馬鹿だろう? 今さらだろう? でもやるんだよ!」「書くことは呼吸だだからいつだってただただ呼吸困難だった」「ハッピーじゃないエンドでも面白い映画みたいに よい人生を」





946.正岡豊『四月の魚』 まろうど社 1990
歌集。「きみがこの世でなしとげられぬことのためやさしくもえさかる舟がある」「マリーセレスト号の遭難 地下鉄が灯もつけずわがまなこつきぬけ」「シュタルンベルンガ・ゼー湖、ウンベルト・エーコ 記号論めく夏の別離は」理系な感じ。現代短歌クラシックスは全て読みたい。





945.渡辺松男『寒気氾濫』 本阿弥書店 1997
現代歌人協会賞受賞の歌集。「ふりむけば死者恒河沙の目のひかりうつそみは静止しておれぬなり」「無といわず無無ともいわず黒き樹よ樹内にゾシマ長老ぞ病む」「一のわれ欲情しつつ山を行く百のわれ千のわれを従え」心がなければ言葉はないので心に重きと。木になりたい歌。





944.井辻朱美『コリオリの風』 河出書房新社 1993
歌集。「雪の降る惑星ひとつめぐらせてすきとおりゆく宇宙のみぞおち」「ビッグバンの光ほろほろ海に降りぼくらは終わりをだけ待っていた」「あたたかき毛をそよがせる恋人ら 見よ帝王竜の亡霊とおる」いわゆるSF短歌。宇宙や神話や古代へのロマンなどを詠っています。





943.石川美南『砂の降る教室』 風媒社 2003
歌集。「おまへなんか最低だつて泣きながら言はれてみたし(我も泣きたし)」「ああ鬼がもうすぐここに来るここに来る地底、脚、腸、胃を抜けて」「ネロ帝の生写真など交ざりをり少女のコレクションを覗けば」老朽化した教室に砂が積もったり、茨海書店の店主と会ったり。





942.小島なお『乱反射』 角川書店 2007
現代短歌新人賞・駿河梅花文学賞受賞の歌集。「噴水に乱反射する光あり性愛をまだ知らないわたし」「日記には本当のことは書けなくて海の底までわが影落とす」「時計店なかをのぞけばあまりにも小さな強がりこわれてしまう」シンプルゆえに凄く良い。実は映画化もされました。





941.飯田有子『林檎貫通式』 BookPark 2001
再評価されて復刊した歌集。「たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔」「なぜ涙が砂糖味に設定されなかったかそんなの知ってる蟻がたかるからよ」「玉ねぎの芯だめな人手ぇあげてーって包丁でさして数える紀美ちゃん」フェミニズムの観点で。





940.佐藤モニカ『夏の領域』 本阿弥書店 2017
現代歌人協会賞受賞の歌集。「先割れスプーンで西瓜の種を落とすときましろき皿に五線譜の見ゆ」「酔ひ深き夫がそこのみ繰り返す沖縄を返せ沖縄を返せ」「いづこまで旅してきたか目覚めたる子にうつすらと葉のにほひせり」夫の故郷である沖縄、そして妊娠のテーマが多し。





939.林あまり『マース・エンジェル』 沖積舎 1986
歌集。「生理中のFUCKは熱し血の海をふたりつくづく眺めてしまう」「雷のいとしき今宵のやるせなさ あんたなしでは生きてゆけ…ぬ?る?」「死にはしない、狂いもしないと ふかくふかく信用される女ではある」大胆な性描写を多く歌う。夜桜お七の作詞家でもある。





938.谷川電話『深呼吸広場』 書肆侃侃房 2022
なんかすごい歌集。「国かいの生ちゅう継がぐにゃぐにゃでこわいあいしていんふるえんざ」「海水をめがねケースで持ち帰り別れ際にだれも欲しがらない」「一昨日は男子、昨日は女子だった 今日はパンケーキとして生きる」なんだこの世界観⁈ってなる不思議な短歌が多い。





937.犬養楓『前線』 書肆侃侃房 2021
救命救急医である歌人の歌集。「マスクでも感謝でもなくお金でもないただ普通の日常が欲し」「朝飯は食べてきたんか防護服三時過ぎまで脱げへんからな」「「し」と打てば「新型」と出る電カルの予測を超えて「信じる」と打つ」コロナ禍の第1波〜第3波を詠む。医療従事者は偉すぎ!





936.服部真里子『行け広野へと』 本阿弥書店 2014
現代歌人協会賞受賞の歌集。「三月の真っただ中を落ちてゆく雲雀、あるいは光の溺死」「夜の渡河 美しいものの掌が私の耳を塞いでくれる」「たとえば火事の記憶 たとえば水仙の切り花 少し痩せたね君は」自然の中から現れる君と私のきれいな印象。光る滅びの優しさ。





935.田村穂隆『湖とファルセット』 現代短歌社 2022
現代歌人協会賞受賞の歌集。「そうか、僕は怒りたかったのだ、ずっと。樹を切り倒すように話した」「祖父は父を父はわたしをわたしはわたしを殴って許されてきた」「ゆるすこと(ぼくの首を絞めようとする力を少しゆるくすること)」強くなること。湖に体を浸らせて。





934.鈴木加成太『うすがみの銀河』 KADOKAWA 2023
現代歌人協会賞受賞の歌集。「浜辺に置く椅子には死者が座るという白詰草の冠をかむりて」「身体という水瓶に泳がせる鬱の金魚はいま夢のなか」「椅子高き深夜のカフェに睡りゆく銀河監視員の孤独を真似て」宇宙のロマンと孤独の味わいという感じ。繊細な風が吹く。






933.寺井奈緒美『アーのようなカー』 書肆侃侃房 2019
歌集。「怒りというパワーは便利キッチンもトイレ掃除もとてもはかどる」「世界中のバトンを落とすひとたちを誰もが否定しませんように」「ぼくたちの関係に名を付けるなら無題と付けて大事にしよう」全体的に優しい感じが漂っています。世界はまだ明るいみたい。





932.加藤千恵『ハッピー・アイスクリーム』 マーブルトロン 2001
高校生歌人の歌集。「どうしようどうしていいかわかんないどうしようあたしあの人が好き」「泣くくらい好きだからって泣きそうに好かれるわけじゃなかったんだわ」「まっピンクのカバンを持って走ってる 楽しい方があたしの道だ」文庫は5つの短編も併録。





931.萩原慎一郎『滑走路』 KADOKAWA 2017
32歳で命を絶った歌人の歌集。「抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ」「理解者はひとりかふたり でも理解者がいたことはしあわせだった」「ぼくたちはほのおを抱いて生きている 誰かのためのほのおであれよ」苦しくとも生きることへのエールだ。





930.永井祐『広い世界と2や8や7』 左右社 2020
口語系のヤバい歌集。「冷房つけたいな冷房つけたい贅沢かもな冷房つけたい」「ゴミ箱が家には二つ 細長いのと丸いのと 自分で買った」「友人のあだ名はリズム 友人の名前はまさし まさしのリズム」驚くほどオチのない短歌もありなんだ!日記のようで凄く良かった。





929.荻原裕幸『永遠よりも少し短い日常』 書肆侃侃房 2022
ニューウェーブ歌人の歌集。「三十三間堂あらたまのああこれは市川春子の線だとおもふ」「理想の女子は戦場ヶ原ひたぎだと言ひかける妻だと言ふ二度言ふ」「暁美ほむらが眼鏡をやめた経緯ほど寂しくもなく咲く桐の花」別にアニメ系だけじゃないよ。全て良い!





928.黒瀬珂瀾『蓮喰ひ人の日記』 短歌研究社 2015
歌人が1年ほど英国を滞在した歌日記。「顔の無き死者の疑問を響かせて老ヒーニーの指の震へは」「幼児殉教者の日の吾児スクルージ老人に唾まみれでわらふ」「道とは創らるるものなるか ねえドリー、君の旅路の終はりつてここ?」滞在中に3.11発生、そして子供が誕生。





927.九螺ささら『ゆめのほとり鳥』 書肆侃侃房 2018
ドゥマゴ賞を受賞した歌人の歌集。「あす死ぬとして冷蔵庫の中の一本のきゅうりをどうしようか」「とつとつと赤裸々半生語り出す海沿いのラブホテル『ドルフィン』」「夢の中で書き続けている日記ありわたしが読めるのは永眠のあと」日常に溢れる不思議な寓話宇宙。





926.笹川諒『水の聖歌隊』 書肆侃侃房 2021
歌集。「クリムトの絵画、メーテル、暗がりの杏子酒(ながれるよるはやさしい)」「答えのない問いばかりあり這わせればきみは鼠径部から冷えている」「誰にでも言葉が溜まりやすい場所があるから僕は手首のあたり」ナイーブ系の短歌って好き。新鋭短歌シリーズ全て読みたい。





925.工藤玲音『水中で口笛』 左右社 2021
作家でもある歌人の歌集。「青春にへんな音する砂利がありその砂利を踏むわざと、いつでも」「東京で恋することは無いと思う 溶けない雪を好きなだけ蹴る」「ふたり乗りにふたりで乗るとちょうどいいふたりになったんだねほんとうに」歌集って様々な物語が内包される本。





924.谷川由里子『サワーマッシュ』 左右社 2021
歌集。「ずっと月みてるとまるで月になる ドゥッカ・ドゥ・ドゥ・ドゥッカ・ドゥ・ドゥ」「風に、ついてこいって言う。ちゃんとついてきた風にも、もう一度言う。」「土間土間がいちばんすきな居酒屋だ。土間もすきだ。土間土間に行った思い出も好きだ。」良すぎ!





923.上篠翔『エモーショナルきりん大全』 書肆侃侃房 2021
速すぎて凄い歌集。「能あるきりんは首を隠す んなわけねーだろ剥きだして生きていくんだ光の荒野」「あのちゃんもねむきゅんもいない過去になる時間の端でアネモネを摘む」「もう二度とやってこない平成の夏、好きに生きて好きに死のうな」病みが心を刺す。





922.東直子『春原さんのリコーダー』 本阿弥書店 1996
作家でもある歌人の歌集。「廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て」「とてもだめついていけない坂道に座っていれば何だか楽し」「卵黄のゆるゆる流れてゆくようにあなたの恋ははじまっている」深くて心地よい。短歌の文庫本って増えてほしい。





921.榊原紘『koro』 書肆侃侃房 2023
笹井宏之賞を受賞した歌人の第二歌集。「眼の奥に錆びた秤が一つあり泣けばわずかに揺れる音する」「落ちてからさらに重たくなる椿 ぼくを潰せるのはきみだけで」「または都市。たゆたったまま透ける星、プラセボ、霜夜、ラーゲルレーヴ」宇宙と言葉が繋がる美意識があると思う。





920.初谷むい『わたしの嫌いな桃源郷』 書肆侃侃房 2022
歌集。「あたしたちこんな小さなたましいでぶつかり合ったりしてばかみたい…」「メールを送るのがこわい人のためにメールを送るマークが紙飛行機になったって ま?」「ベッドの下に誰かがいるよ うっそぴょ〜ん ベッドの上にきみがいる部屋」君とのメルヘン。





919.岡野大嗣『うれしい近況』 太田出版 2023
人気のある歌人の歌集。「住んでいた町での夏を思い出す2番の歌詞で歌う感じに」「ああ好きでよかったなっていうライブ 今から帰路が待ち遠しいよ」「曲名がわからないままCMへ そういうさよならっていくつある?」音楽的な短歌が多くて、短歌と音楽の親和性を感じる。





918.上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』 書肆侃侃房 2022
壮絶な人生の歌集。「手を握らないで人間にしないで ここが地獄だと気づいてしまう」「感情は自由 ほんとにつらいときおよげたいやきくんで泣いてる」「残念でした!!!わたし、わたしはしあわせです!!!!!!!!!道にゴミとかあったら拾うし」





917.笹井宏之『ひとさらい』 Book Park 2008
夭折の歌人の第1歌集。「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」「はさみで切って使いきられたねりからしチューブみたいな俺を愛せ」「うしなったことばがひざをまるくして(ことばのひざはまるいんですよ)」イノセンスな短歌って遠い場所まで行けた。





916.木下龍也『あなたのための短歌集』 ナナロク社 2021
個人販売された短歌を100首集めた本。「そのラブレターに足りないのは勇気という唯一買えない切手」「人間へ 食べものよりもきみが好きな日もたまにはあるよ。 犬より」「君という火種で燃えるべきつらくさみしい薪があるんだ、おいで。」お題で作れるの凄い。





915.雪舟えま『たんぽるぽる』 短歌研究社 2011
作家でもある歌人の歌集。「目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき」「その国でわたしは炎と呼ばれてて通貨単位も炎だったのよ」「逢えばくるうこころ逢わなければくるうこころ愛に友だちはいない」ゆるふわ系の柔らかい歌が多い。恋の感じかな。





914.鈴木ちはね『予言』 書肆侃侃房 2020
第2回笹井宏之賞大賞受賞の歌集。「万物の起源のように明るかったオリジン弁当 無くなっていた」「アプリでもらえる遅延証明書みたいな人生 それの二十九年目だ」「信じてくれないかもしれないけど櫻井翔です 僕の話し相手になってください」気が抜けるような短歌もあるんだ。





913.大森静佳『てのひらを燃やす』 角川学芸出版 2013
現代歌人協会賞受賞の歌集。「その靴の踵を染める草の色もうずっと忙しい人である」「君の死後、われの死後にも青々とねこじゃらし見ゆ まだ揺れている」「冬の夜のジャングルジムに手をかける悦び 手には生涯がある」人のする美しい・醜いことは手が関わると言う。





912.千葉聡『グラウンドを駆けるモーツァルト』 KADOKAWA 2021
教師でもある歌人の歌集。「現れない正義のヒーローをからかうSMAPセカンドシングルを買う」「俺が歌集二冊出しても「よし次は芥川賞だ」と言った先生」「水道は水をかけあうためにある カノ、ユウ、ユキナ、サエにとっては」学校を題材にした歌など。





911.佐佐木定綱『月を食う』 KADOKAWA 2019
現代歌人協会賞受賞の歌集。「ダークモカフラペチーノを読むおれの目線の先でキレる老人」「興味ないテレビを見ながら食う飯のように若さを消費していた」「生ビールねぎとろぶっかけこぼれ寿司おしぼりお通しセブンスター」まずは飯を食べること。生活の基盤を作ること。





910.笹公人『抒情の奇妙な冒険』 早川書房 2008
爆笑できるユニーク歌集。「看板の飛び出し坊やが永遠に轢かれ続ける琵琶湖のほとり」「タケカワユキヒデコンサート会場熟女率高し 外は夕虹」「放射能の赤が世界を染める頃もムーピー・ゲームにふける人々」ポップカルチャーの中の哀愁を描く。短歌のスタンド能力。





909.平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』 本阿弥書店 2021
現代歌人協会賞受賞の歌集。「三越のライオン見つけられなくて悲しいだった 悲しいだった」「(東京タワーを見える範囲)今誓う(東京タワーから見える範囲)」「貼って、と湿布を渡し背を向けたきみをそれきり見つけられない」短歌の深淵を垣間見た気がします。





908.千種創一『砂丘律』 青磁社 2015
中東在住の歌人の第1歌集。日本歌人クラブ新人賞受賞作。「抒情とは裏切りだからあれは櫓だ櫻ではない咲かせない」「手に負えない白馬のような感情がそっちへ駆けていった、すまない」「幸せにもいくつかあって、待て、これは塩湖のように渇きの水だ」戦争系の辛い歌もある。





907.穂村弘『シンジケート』 沖積舎 1990
90年代の伝説的な歌集。「彗星をつかんだからさマネキンが左手首を失くした理由は」「『クローバーが摘まれるように眠りかけたときにどこかがピクッとしない?』」「夏の終わりに恐ろしき誓いありキューピーマヨネーズのふたの赤」キャンディの包み紙が入っていて嬉しい。





906.車谷長吉『愚か者 畸篇小説集』 KADOKAWA 2004
蜘蛛のタツーキが会議の席であくびをした罪で死刑になる話や、鼻を憎む男には性的挫折者が多い話や、美味しい桃の木を伐り倒す話や、恐山で狐が泣いていた話や、母の色香に迷う話や、ミッション系の幼稚園に入る話や、勉強しないと車谷さんみたいになっちゃうよ。





905.島田潤一郎『電車のなかで本を読む』 青春出版社 2023
夏葉社を作った著者の読者エッセイ。33歳で出版社を立ち上げ、上林暁を好きになり、小説と文学の違いを考え、高知から東京に行き、移動図書館の歴史を知り、20年ほど本を読み続け、本は地図であり、子育てをし、我が子のために本を作る。何があっても大丈夫。





904.荻野アンナ『背負い水』 文藝春秋 1991
同棲中の男ジュリーは何百万円も海外にいる女に振り込んでいて主人公の女がこのまま一緒にいるか別れた方がいいのか悩む表題作や、ダイエットがSFになる話や、ドトールで謎のおばさんに絡まれる話や、週刊誌の裏側を描く話など4篇。現実を笑ったパロディって凄いと思う。





903.吉本ばなな『キッチン』 福武書店 1988
祖母が亡くなり家族が誰もいなくなったみかげは田辺雄一の家に泊まることになり、雄一と彼の父でもあり母でもあるえり子さんとの3人暮らしで孤独を癒される表題作や、えり子さんが亡くなる「満月」や、死んだ恋人に会う「ムーンライト・シャドウ」の3篇。夜が深い物語だ。





902.藤原智美『運転士』 講談社 1992
地下鉄の運転士が正確無比な世界で生きていたが、夢の中で女の入った鞄を見つけ、地下に捨てられた巨大なコピー機に同情してから狂い出す表題作と、豚のファクトリーに自分の王国を作ろうとする「王を撃て」の2篇。秩序的な世界はいずれ限界を迎える破滅的な妄想に過ぎない。





901.南木佳士『ダイヤモンドダスト』 文藝春秋 1989
看護士である和夫は父が脳梗塞となり、入院した自身の勤める病院の同室に末期癌の宣教師マイクが入り、小さな電車の運転手と飛行士だった2人は水車を作ろうと約束する表題作や、同級生の死に立ち会う話や、カンボジアに難民医療活動に向かう話など4篇。死ぬ人々。





900.大江健三郎『親密な手紙』 岩波書店 2023
サイードから励まされたり、新訳の『嘔吐』を読んだり、ガスカールも読んだり、武満徹と『フィネガンズ・ウェイク』の話をしたり、竹西寛子の新刊をもらったり、大岡昇平に会ったり、渡辺一夫の古い本をもらったり、大江賞について語ったりするエッセイ集。文学的凄さ!





899.柚原季之『ひまわりスタンダード』(上・下) マイクロマガジン社 2000
ジュブナイルポルノ三大奇書の1つ。義妹のような存在である森沢向日葵が自殺未遂をしたと聞いて帰郷した哲太。向日葵には猫又の皐月や二嶋由岐雄や渡辺貞子や夕霧という人格が宿っていた。彼は地獄虫に取り憑かれたブスと死闘することになるのだが…。





898.柳美里『フルハウス』 文藝春秋 1996
家族が崩壊しているのに父が家族のために高すぎる家を買ったが家族の誰もが寄らないので駅で見つけたホームレス家族を家に招くと家を乗っ取られる話と、浮気相手の妻からモラハラを受ける主人公が知的障害の男の人と結婚させられそうになる「もやし」の2篇。家族の狂気系。





897.九段理江『東京都同情塔』 新潮社 2024
犯罪者をホモ・ミゼラビリスと呼ぶ新しい刑務所となるタワーを建築した牧名沙羅、容姿が美しすぎる拓人、レイシストとされる記者のマックス・クライン。この3人をめぐる、2020年に五輪が開催された並行世界での共感による言葉狩りというド偉いディストピアに震えます。





896.川野芽生『Blue』 集英社 2024
姫を好きになる人魚姫という劇を上演する高校の演劇部。性は男だが女として生きたい真砂は人魚姫の役をする。数年後にその劇を再演することになるのだが、真砂は大学で好きな女子ができ、その不幸な彼女のために男でいることを考えるのだが…。トランスジェンダーの現実と幻想。





895.又吉直樹・田中象雨『新・四字熟語』 幻冬舎 2012
又吉先生が新しい四字熟語とその意味を120個作り、それを様々な書体で書いた本。神様嘔吐、構内抱擁、無駄目撃、絶望歌集、懲役二秒、登場黙殺、素人八段、返事天才、備品窃盗、憶測致死、年配後輩、絶望茫々、絶命読書、満塁無視、神聖遊戯、奇妙狂気など。





894.ヨン・フォッセ『だれか、来る』 白水社 2023
2023年ノーベル文学賞受賞者の戯曲。彼と彼女は海に面した入江に家を買った。せっかく他の人たちから離れて2人きりになったのに、ある男が家を訪れる。男はこの家の前の持ち主だった。彼は彼女を男に取られるのではないかと訝しみ…。不安から逃れられない現代。





893.佐藤究『サージウスの死神』 講談社 2005
仕事後に飛び降り自殺を見た華田は知人から地下カジノに誘われ、ルーレットにハマって預金をなくしたが、頭蓋骨の中に目当ての数字が見えるようになり、それで金儲けをして手に宝石を埋め込み、闇の人物とガス室に入り、金は目に見える神と悟る。純粋賭博者処刑装置。





892.小砂川チト『猿の戴冠式』 講談社 2024
競歩の選手であるしふみはある事件を起こして謹慎中。動物園にいる猿のシネノは言葉を話せるように実験された過去を持つ。この2つの動物は互いにシンクロして個ではなく母に戻ることで双方の傷を埋めていく。しかし台風の日にシネノが脱走して…。対象関係論的な世界。





891.館山緑『終ノ空』 ムービック 1999
電波ゲームのノベライズ。同級生の高島ざくろが屋上から飛び降りて死んだ後、その友達だった若槻琴美を心配する水上行人が屋上で会った不思議ちゃんの音無彩名。そして虐められていた間宮卓司は狂った世界が見え始め、7月20日に世界が終わるという宗教を作り、そして134人が…。





890.金月龍之介『雫〜しずく〜』 ムービック 1997
電波ゲームのノベライズ。授業中に淫らな言葉を叫んで発狂した太田香奈子のことを調査せよと叔父から命じられた長瀬祐介は屋上で月島瑠璃子と出会う。彼女は「私の感じる電波を君も感じているでしょ」と言うが、確かに長瀬は1000人の男女が交わる映像を幻視していた。





889.矢森惨太郎『好き好き大好き!』 ベストセラーズ 1998
電波ゲームのノベライズ。大学生の長瀬渡は電車で会った天城穂乃菜を拉致監禁し、自身の趣味であるラバースーツを着させるのだが、彼女からは嫌われるだけ。その一方で大学の先生・後輩・幼馴染などからは謎に好かれる長瀬の向かう結末とは…。狂気と陰鬱の芸術。





888.筒井康隆『驚愕の曠野』 河出書房新社 1988
水もなく塩肉しかない岩と砂の世界で影二や小清や蒲生やマンタなどの男たちが巨大な蚊に刺されて狂ったり腐竜に殺されたり十八神将や十四尊仏が登場したり生き返って輪廻したりそれはお姉さんが読む本の中の物語だったりそれは唆界や爛界や訣界や批界の魔物だったりする。





887.伏見憲明『魔女の息子』 河出書房新社 2003
ライターである40代の和紀はゲイであり、同居する母は酒癖の悪かった夫が死んで他の男と恋をする。知り合った活動家の滝ノ川銀子は戦争より性を叫び、和紀の元カレもゲイ解放運動の旗手となり、上司である編集者のかおりは文化人の恋人がいるが…。意外と自分探し系かも。





886.楊逸『ワンちゃん』 文藝春秋 2008
中国人の仕事好きなワンちゃんが金をせびる夫と縁を切るために適当な日本人と結婚して日本と中国を繋ぐ国際合コンを開く表題作と、44歳の中国人の万さんが研究一直線で恋愛をしたことなく日本で同じ大学の助教授に惚れる「老処女」の2篇。良い異性と縁のない人っているよね。





885.鈴木清剛『ラジオ デイズ』 河出書房新社 1998
子供の頃に偉そうだった友達のサキヤが大人になって自分の部屋に居候してきた。カズヤは最初は嫌だったが、彼女のチカもいて3人でデニーズに行ったり酒を飲んだりする。サキヤは夢があるらしく古墳などの太古にロマンを抱いている。俺は?近くのパン工場の匂いがする。





884.松尾依子『子守唄しか聞こえない』 講談社 2008
同級生のタイラ君と付き合う高校生の美里は他にたっちゃんとオカと峰の5人で遊んでいる。自分以外は男子だが、そこに真沙子という女子が「女王様みたいで羨ましい」と付き纏う。美里は自分の居場所を無くし干支婆の元に通うのだが…。暗き青春が成長に繋がる。





883.樋口直哉『さよならアメリカ』  講談社 2005
SAYONARAアメリカと書かれた紙袋を被って生活する僕の元に義理の弟と名乗る男がやってくる。さらに同じ袋族の少女も家に居候する。街では放火事件が多発し、そして身体がゴムになる少女も現れて…。引きこもり文学ってゼロ年代に多い。だんだん幻想性に閉じこもれ。





882.生田紗代『オアシス』 河出書房新社 2003
芽衣子はお気に入りの青い自転車を盗まれた。自宅では鬱状態で家事を放棄した母がいて、姉のサキもいて、叔父の和美がたまに来てくれる。彼女は自転車を探しながら家を出るために貯金をし、家族とハッとする瞬間や料理の味を共有する。人生の歯痒さは音楽にぶつけてもいい。





881.綿矢りさ『パッキパキ北京』 集英社 2023
元ホステスの菖蒲は犬のペイペイちゃんと20歳も年上の夫の勤務先であるコロナ真っ只中の北京に行く。謎のポジティブ思考でコロナに罹っても買い物したり中華を食べたり滞在地で男を見つけたり座るスケートをしたり正月を迎えたりする。僕も精神勝利法を身に付けたい。





880.寺山修司『寺山修司少女詩集』 角川書店 1981
海やマザーグースや猫や男の子などをテーマにした詩集。涙は人間の作ることができる1番小さな海です。鉛筆になった女の子は自分が書いた「恋」の字を読むことができませんでした。昔この詩集が好きすぎた時代があった。そういう本を大人になっても覚えておきたい。





879.山下澄人『FICTION』 新潮社 2023
FICTIONは作者の劇団であり、半身が不随になった人もいた。ラボでは即興の人間関係を作る研究をし、当人が気づかない演技を超と呼び、アイヌの兎が肉片になる話をし、保坂和志と出会い、死者を登場させたりする。つまり演劇論と現実を混ぜた小説なんです。思索が物語となる。





878.横尾忠則『ぶるうらんど』 文藝春秋 2008
作家の男が妻といる自宅は実は死後の世界で、自分たちの想像によって周りのものは出来ている。だが突然妻がいなくなり、彼は散歩中に出会った老画家と美しい女性と話し込む。そして自身の故郷である長野県で1人の少女と会うのだが…。芸術家は天国でも悩むのだろうか。





877.鹿島田真希『ハルモニア』 新潮社 2013
音楽大学に入ったトンボという青年は、日本人とロシア人のハーフであるナジャに恋をする。ゲイのルツ子や韓国人のキムと友達になり、ナジャとも付き合うことになるが、ナジャは自分の音楽のために自分と恋しているようだった。お互いに理解できるようになるシーンは神。





876.堀江敏幸『熊の敷石』 講談社 2001
フランス滞在中にペタンクで知り合ったヤンに会うことになる。辞書を作ったリトレで有名なアヴランシュに行き、缶詰を万引きし、モン・サン・ミシェルの見える崖、ユダヤの収容所、大家さんの盲目の少年、カマンベール投げ、要らぬおせっかいを結びつけて…。知的な小説だ。





875.ファビアン『きょうも芸の夢をみる』 ワニブックス 2023
芸人がテーマの短編集。おっぱいを揉める禁断のコントや大腸と小腸の漫才や満席の解散ライブや芸名がんんんんんんや構造のみの掛け合いやドッキリの連続やトランポリンや意思のあるマイクやM-1など11篇。めっちゃ面白い。芸は魔の道。涙の裏には笑いがある。





874.永井みみ『ジョニ黒』 集英社 2023
1975年の横浜。少年アキラは自分の父を海に流された過去を持ち、母のマチ子はヒモの日出男とイチャつくようになった。犬のヤマトとテレパシーができたり、友達のモリシゲは芸能界に入ったし、川からバラバラ死体が流れてくるしでアキラの日常は忙しい。程よい切なさがある。





873.桜井晴也『世界泥棒』 河出書房新社 2013
子供たちが銃で決闘をして死んだことを真山くんから聞いた中学生のあやは百瀬くんと意味ちゃんと柊くんの4人で隣国に行く。真山くんが国境近くでバラバラ死体で見つかったからだ。喧嘩をし、妹が充電器を探してくれ、世界は夕暮れ以外が消えてしまった。文学史に残る痛み。





872.中西智佐乃『狭間の者たちへ』 新潮社 2023
保険の営業が上手くいかない40歳の藤原は通勤電車で近くにいる特定の女子高生の匂いを嗅いで元気をもらって、さらに同乗する痴漢男と仲良くなる表題作と、介護職に就く小沢が89と呼ぶ老人を虐待する「尾を喰う蛇」の2篇。現実をヘイトすることが正しいのだろうか?





871.干刈あがた『ウホッホ探険隊』 福武書店 1984
太郎と次郎の母である友江は他の女を作った自分の夫の徹郎と別れた。しかし彼女が考えるに子供たちは夫との関係をなくさないようにしたい。子供たちは親の離婚に動揺して兄は弟をいじめたり弟はゲーセンに通ったりする。親子も人生も探険だ。幸せになってほしいな。





870.平出隆『猫の客』 河出書房新社 2001
1988年、道がジグザグしている稲妻小路にある大家のお婆さんが持つ離れ一戸を借りて住む主人公夫婦。隣家の坊やが飼うことに決めた仔猫がよく主人公の家にやってくるようになる。その別嬪の猫の名はチビ。他の猫と喧嘩したり、シャコを食べたりするのだが…。季節が過ぎていく。





869.小池昌代『タタド』 新潮社 2007
4人の男女の友人が海辺の家で酸っぱい夏みかんを食べながら官能にまみれる話や、夫が沖でサーフィンをする間に妻と子供が浜辺で物思いに耽る話や、陸上競技の選手だった男が絵画作品に45文字でキャプションを付ける仕事をする話など3篇。ふと日常が決壊する感じがすごく良い。





868.ピストジャム『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』 新潮社 2022
芸歴20年の芸人のバイトにまつわるエッセイ集。片道3時間半のバーのバイト、自転車屋での女子からの無視、マンションの管理人の血の体験、ピザ屋3社を掛け持ち、金髪NGはヅラをかぶれ、オアシスのMVに出演など。芸人の生き様って面白い!





867.辻原登『抱擁』 新潮社 2009
2.26事件直後の前田侯爵邸で5歳の緑子さまの小間使いとして働くことになった18歳の私。緑子さまには何か見えないものが見えている様子で、アメリカ人の家庭教師曰く、過去に自殺したゆきのという小間使いの霊にポゼス(憑依)されているというが…。興奮して心が熱くなる魂の官能。





866.江國香織『犬とハモニカ』 新潮社 2012
空港のロビーに集まる老若男女を描く話や、不倫相手と別れて妻の顔を見る話や、好きな男の皮膚を食べる話や、外で物を食べることが好きな女の話や、源氏物語の夕顔の話や、ポルトガルの同性愛カップルの話など6篇。登場する風変わりな女子が凄く素敵に怖い感じもある。





865.今村友紀『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』 河出書房新社 2011
眩い閃光と轟音を女子高で体験したマユミ。全校生徒は外に避難するが、そこに戦闘機が飛んできて生徒を撃ち出し、さらに人型のドロドロした化け物が人々を殺戮し始める。彼女は並行世界の自分達がガラスに映るのを発見して…。純文学の漂流教室。





864.川端康成『美しい日本の私』 講談社 1969
ノーベル文学賞の記念公演の全文。道元や明恵といった過去の僧などの和歌を引用しつつ日本における四季や雪月花の美の魅力を伝える。そこに仏教的な無や空の概念も現れるのが面白い。仏に逢えば仏を殺し、祖に逢えば祖を殺せ。仏界入り易く、魔界入り難しの厳しさも。





863.岡崎祥久『ctの深い川の町』 講談社 2008
何もかもが嫌になり故郷に戻ってタクシー運転手になった40代の中田洋一は、愛取り外し機械を作った発明家の同僚、自分の子供をクソ豚と呼ぶ同級生だった女、先輩になる20代の河村勢津子、比喩が得意ではない数学者の客に会う。遠くに行かなくてはならないと彼は言う。





862.新庄耕『狭小邸宅』 集英社 2013
不動産会社に就職した松尾。そこは家を売って数字を出さないと暴言を吐かれ暴力も振るわれるブラック会社だった。松尾は結果を出せず、しかし会社を辞めることもできなかったが、ある日ペンシルハウスが売れたことから仕事が面白くなるのだが…。君たちは何のために働くのか。





861.宮崎誉子『女子虫』 幻冬舎 2012
小学校教師の東は頼りにされたり死ねと言われたりして憔悴中。その妻のサユリは韓流アイドルにハマり、そのお金のために治療院で働くことに。今は中学生になったアヤメ姫は男子に好かれて女子に嫌われる。3人の驚きの軽さは唯一無二の文体だ。宮崎誉子はポップ小説の神様だ。





860.中原昌也『悲惨すぎる家なき子の死』 河出書房新社 2012
動物たちの肉塊がぶちまけられた絨毯や、前世が動物だったと思い込んだ人たちが引き起こした悲惨な事件や、使用禁止の仮設トイレを見張る男や、頭部が身体のどこにあるかわからない女や、金は欲しいが小説を書きたくない作者など7篇。アンチノベルの最高峰。





859.柴崎友香『その街の今は』 新潮社 2006
喫茶店で働く28歳の歌ちゃんは昔の大阪の写真を集めている。初めて参加した合コンで会った年下の良太郎は消費者金融で働いており、2人は友達のような関係になるのだが…。四天王寺の縁日で8ミリを買ったり、心斎橋筋を歩いたりと大阪愛に溢れた作風がとても嬉しくなる。





858.吉田篤弘『おるもすと』 講談社 2018
祖父の代わりに炭鉱で働く「こうもり」と呼ばれる青年は下に墓地が並ぶ崖っぷちの家に住む。彼は噂のパン屋に入って枕のように大きなパンを買い、謎の言葉「おるもすと」を聞く。本書にはなぜこの物語が12年間も書き終えられず、なぜ当初は活版印刷されたのかも書かれる。





857.高尾長良『影媛』 新潮社 2015
物部家の巫女である影媛は翡翠となって遠い場所を幻視することができる。そこに映った平群家の臣である志毘に恋するのだが、影媛は皇太子から求婚された身であり、平群家も天皇家に逆らう態度を取っていて…。会話が歴史的仮名遣いで書かれ、変わった漢字も多く出るので面白い。





856.小池水音『小説 こんにちは、母さん』 講談社 2023
大会社の人事部長である昭夫は業績の面から親友の同僚の首を切らなければならず、また別居中の妻と娘から悪く思われていることに悩んでいる。久しぶりに帰った実家には母の福江がいるが、ボランティアをしたり恋をしたりしていて忙しそうだ…。再生の物語。





855.廣木隆一『彼女の人生は間違いじゃない』 河出書房新社 2015
趣味の菜園が放射能でダメになって毎日パチンコ通いをする父と同居するみゆきは役所に勤めながら週末には東京にデリヘルをするために福島から通っている。2つの町で生活しながら元カレや風俗店のスタッフと交流しながら自分を見つめる。映画版も見たい。





854.白井智之『少女を殺す100の方法』 光文社 2018
教室で20人の生徒が銃殺される話や、巨大ミキサーに入れられた3人の話や、怪獣が来る大学での謎の作中作や、冷蔵庫内の猿の肉を食わせた後に殺す話や、空から20人の少女が墜落して死ぬ話などエログロ・ミステリ短編集。この悪趣味感がどこか懐かしい匂いがした。





853.高山羽根子『オブジェクタム』 朝日新聞出版 2018
祖父が秘密基地で壁新聞を作っていたことを思い出す主人公の話や、戦争時の往復書簡に載る生死の境がない島と縮んでいく敵兵の話や、妻の飼っていた犬を探す話など3篇。移動遊園地や謎の姉妹やホレスリコードや石のオブジェが出てきて冒険のようにワクワクします。





852.波多野陸『鶏が鳴く』 講談社 2013
バンド仲間の健吾が不登校の引きこもりになったから夜中に勝手に健吾の部屋に入った伸太。2人はさっそく喧嘩モードになるが、しかし彼らはお互い本音を言うことにする。健吾には精神が疲弊した兄と弟がいるのがわかり、話は深い信仰について移っていく。これぞ対話だねえ。





851.長井短『内緒にしといて』 晶文社 2020
モデルと女優と作家である作者のエッセイ集。逆にモテる方法、ホテルに行くムードor効率、自称エロい人の罠、匂わせ地獄、恋愛はジジ抜き、私たちのSNS史、ナイトプールに行ってみた、奢る奢らないは死んだ呪い、生理で2時間は話せる。同時代の感覚が研ぎ澄まされます!





850.図野象『おわりのそこみえ』 河出書房新社 2023
25歳の美帆は買い物依存症のために多額の借金をしている。親と関係は良くなく、常に死にたがっている。適当に作った恋人のアメ、ベトナム料理店のナムちゃん、ストーカーの宇津木、そしてラブホで4P中に死んだ加代子。そして衝撃の最後へ。詰んだ人生をどうにかして。





849.古市憲寿『百の夜は跳ねて』 新潮社 2019
高層ビルの外側の窓を拭く仕事をする翔太は、3706号室の部屋の中にいるお婆さんに呼ばれ、彼女から色んな部屋の中をカメラで撮ってほしいと言われる。翔太は50〜100万円をもらえることになるが、半年前にビルから落ちて死んだ先輩の声が聞こえてもいる。死と生と街。





848.町屋良平『ショパンゾンビ・コンテスタント』 新潮社 2019
ピアノを諦めて小説を書き始めた僕。ショパンのコンテストのために頑張っている友達の源元には潮里という恋人がいるが、僕は彼女に恋をした。バイト先の寺田くんにもチカという許嫁がいて、この悶々とした気持ちを小説として描く二重構造が音楽的だ。





847.九段理江「東京都同情塔」 (in「新潮」2023年12月号)
犯罪者をホモ・ミゼラビリスと呼ぶ新しい刑務所となるタワーを建築した牧名沙羅、容姿が美しすぎる拓人、レイシストとされる記者のマックス・クライン。この3人をめぐる、2020年に五輪が開催された並行世界での共感による言葉狩りというド偉いディストピアに震えたよ。





846.小砂川チト「猿の戴冠式」 (in「群像」2023年12月号)
競歩の選手であるしふみはある事件を起こして謹慎中。動物園にいる猿のシネノは言葉を話せるように実験された過去を持つ。この2つの動物は互いにシンクロして個ではなく母に戻ることで双方の傷を埋めていく。しかし豪雨の日にシネノが脱走して…。対象関係論的な世界。





845.山下紘加『煩悩』 河出書房新社 2023
涼子は中学時代からの知人の安奈のことが気になる。安奈は少し頭が抜けているので自分が何でも助言しなくてはいけない。今まではそうしてきた。だが安奈は自分の相談なしに彼氏を作ってしまった。しかもその彼氏が悪い男らしい。涼子は膀胱炎になる話。束縛と依存は愚かなのか。





844.西加奈子『舞台』 講談社 2014
29歳の葉太は初めての1人旅でニューヨークに来た。公園で「舞台」という小説を読んでいると財布やパスポートの入った鞄を盗まれる。しかし羞恥心から周りに助けを求められず浮浪者のような生活に。そして嫌いだった作家の父を思い出して…。亡霊に見られて自らの生と向き合う。





843.阿部和重『ニッポニアニッポン』 講談社 2001
17歳の引きこもりの鴇谷春生は国内のトキのことを考える。最終解決策として佐渡トキ保護センターに行って飼育・解放・密殺のどれかを実行しようとする。その裏で過去にストーカーをしていた本木桜を思い出す。果たして彼は達成できるのか…。国家叛逆こじらせ系。





842.川野芽生「Blue」(in「すばる」2023年8月号)
姫を好きになる人魚姫という劇を上演する高校の演劇部。性は男だが女として生きたい真砂は人魚姫の役をする。数年後にその劇を再演することになるのだが、真砂は大学で好きな女子ができ、その不幸な彼女のために男でいることを考えるのだが…。トランスジェンダーの現実と幻想。





841.三木三奈「アイスネルワイゼン」(in「文學界」2023年10月号)
32歳の琴音は子供向けのピアノ講師をしている。今も母と衝突があり、1日だけの伴奏の仕事で歌手のオバさんにキツく言われ、友達と喧嘩し、久しぶりに会った弱視の知人宅で優しくされ、遠距離恋愛の彼氏からは素っ気なくされる。我々も善意と悪意のバランスを見直そう。





840.福井県立図書館『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』 講談社 2021
福井県立図書館のリファレンスの一環で集められた人々の本の覚え違いを集めた本。「おい桐島、お前部活やめるのか」「下町のロボット」「そば屋再襲撃」「年だから解雇よ」「俺がいて俺だけだった」「ねじ曲がったクロマニョン人」など。





839.斉藤倫『ポエトリー・ドッグス』 講談社 2022
男がたまたま入ったバーはふさふさの犬がマスターだった。そこでは酒と詩を出される。エリオットや大岡信や吉岡実や阪田寛夫や萩原朔太郎やボードレールや杉本真維子や川田絢音や藤井貞和やランボーなどの詩から人間の不思議さを語らっていく2人の永遠さが尊い。





838.田中慎弥『孤独論』 徳間書店 2017
15年近く引きこもりを経験した孤高の小説家が孤独について語る。主体的な営みを放棄した奴隷からの脱却を目指せ。生きるために逃げよ。価値のある何かを探せ。非効率でもいい。独りの時間が思考を強化する。言葉を枯渇させるな。読書は可能性を広げる。仕事で相手を黙らせよ。





837.村木嵐『まいまいつぶろ』 幻冬舎 2023
江戸幕府9代将軍の徳川家重は生まれつき口が回らず言葉が不明瞭で、体にも麻痺があり頻尿のために漏らしてしまっていた。そこに大岡忠光という唯一家重の言葉を聞き取れる男が現れる。この2人の生涯を追う歴史小説。正室の比宮や田沼意次なども登場。シンプルに涙した。





836.加藤シゲアキ『なれのはて』 講談社 2023
テレビ局員の守谷は同僚の吾妻から自分の持つ1枚の絵で展覧会がしたいと言われる。その画家は無名だが調べると秋田にある石油会社と関係があるらしい。かつて殺人事件があり、正体不明の自閉症の子供がいたという。彼らは謎が解けるのか。完成度が高くて泣けました。





835.宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』 朝日新聞出版 2023
1977年のエストニアに生まれたラウリ・クースクはコンピュータでゲームを作る才能があり、イヴァンというソ連の友達もできる。しかし祖国の独立運動に巻き込まれ、離れ離れになる。ラウリもプログラミングを辞めて工場に勤めるが…。歴史に翻弄された青春。





834.嶋津輝『襷がけの二人』 文藝春秋 2023
大正の時代に親同士の繋がりから製缶工場の家に嫁入りした千代。しかし夫の態度は素っ気なく、彼女は料理などを通して女中頭の初衣と仲良くなる。千代の身体にはある秘密があり、彼女は夫と別れようとするが、時代は戦争に入り家族は離れ離れに…。再会ものは泣けるなあ。





833.万城目学『八月の御所グラウンド』 文藝春秋 2023
女子全国高校駅伝に出場する方向音痴の1年生が見た新撰組の格好で並走する人々の「十二月の都大路上下ル」と、大学4年生の朽木くんが参加する謎の草野球大会で沢村栄治に似た男の正体を探る表題作の2篇。京都が舞台なのが良い。青春とスポーツの熱さが伝わる。





832.河﨑秋子『ともぐい』 新潮社 2023
明治後期の北海道で町から離れて暮らす猟師の熊爪。仲間は相棒の犬だけ。獲ったものを町で金に変えるが町のことは嫌いだ。彼は山で血塗れの男を助ける。穴持たずの熊を追いかけてきたらしい。熊爪はその熊を殺そうとするのだが…。盲目の少女とのエロスとタナトスがヤバい。





831.佐佐木陸『解答者は走ってください』 河出書房新社 2023
パパ上に監禁されていた27歳の怜王鳴門は本当のパパが書いた文章を見つける。幼き自分がサッちゃんとクイズ王になり、犬のベリアルを育て、水族館に行き、日本を独裁政治したことが書かれていた。そして作者自身も現れ…。俺たち、こんなとこにも行けたんか。





830.井戸川射子『共に明るい』 講談社 2023
バスの中でかつて息子の指が飛んだと独り言をする女の話や、野鳥園で会った2人のエレクトーンの話や、ヤモリを飼育する男に浮気される女の話や、台風が来た修学旅行の話や、電池の箱を作るバイトで地震が起こる話など5篇の短編集。日常の中のほんの瞬間の救いを集める。





829.和智正喜『消えちゃえばいいのに』 富士見書房 2012
ラノベ奇書。高校生の朝倉一樹が巴真澄・岸川乙女・蒼井さくら・遠野奈緒子の4人から同時に告白された夜、唯一の家族である祖母が死んだ。そして急に現れた死神から「ここに書いてある100人が死ぬ」と紙を渡される。それは僕のために死ぬと。マジで面白すぎる!





828.日比野コレコ『モモ100%』 河出書房新社 2023
変態にパンツを売る中学生のモモは剽軽な★野と付き合う。婚姻届を既に書いておいて18歳になったら提出し、足の小指を捻り切る。大学では蜜という男に生き延びるための性行為を用いて、その相手の気持ち悪さを好きになるような恋愛をするモモは令和の太宰治だよ。拍手!





827.村西とおる『村西とおる語録集 どんな失敗の中にも希望はあるのでございます』 パルコ 2017
前科7犯、借金50億円、求刑懲役370年の、全裸監督で有名な男の言葉。「大儲けをしてみればいい、尊敬など決してされないから」「世の中というのは実力でやっていけるんだ」「ガマンの後に天国がやってくるSEXと人生」





826.中村文則『列』 講談社 2023
記憶を持たないまま何の列かわからない、けれどそこから抜け出せずにいる男。舌打ちをする後ろの人や欲情して性行為をしてしまった前の女性などと交流しながら空を飛ぶ赤い鳥を見ると自分が猿の研究をしていたことを思い出すのである。他人は嫌いなのに他人より前に立ちたい君へ。





825.小谷野敦『ヌエのいた家』 文藝春秋 2015
父をヌエと呼ぶ主人公。母が亡くなり、母の遺体の前で酒を飲みすぎて歩けなくなる父。彼は時計修理の職人だった。今は一人で暮らし、民生委員も来るが、だんだんボケてきたので施設に入り、そして亡くなる。主人公は葬儀を避ける。僕は父を憎み足りないのかもしれない。





824.小泉綾子『無敵の犬の夜』 河出書房新社 2023
九州の片田舎に住む中学生の界は右手の小指と薬指の半分がない。そして夢も情熱もない。そこに高校生の橘が現れ、自分のことを侮辱した担任をボコしてくれたので懐くが、ある事情から界は東京のラッパーを殺しに行くことになる。令和の大江健三郎。名作すぎて泣けます。





823.本谷有希子『生きてるだけで、愛。』 新潮社 2006
25歳の寧子は躁鬱から来る過眠などで引きこもり気味で、津奈木という味のない男と同棲しているが、津奈木の元恋人が別れさせるために知り合いのイタリア料理店で働かせようとする。そこはウェイウェイ系のヤンキー店長が営んでいた。僕もメンヘラなので効く。





822.藤原京『陰陽師は式神を使わない』 集英社 2006
ラノベ奇書。陰陽師の家系である馬神太一郎はサイコロを6つ振って自分の振る舞いを決める。これは卜筮である。そもそも占いとは命と相と卜の3種類がある。彼は弓道少女の胡桃沢さんを家に招いて陰陽道や占いについての講義を始める。本書は易経の解説本である。





821.藤枝静男『田紳有楽』 講談社 1976
骨董屋の池には3つの陶器が沈んでいる。それぞれに意思があり、志野筒形グイ呑みは金魚のC子と交わり子を生み、柿の蔕という抹茶茶碗は人間に化けて骨董屋に自己流処世術を語り、最古参の丹波焼きは実はチベットの僧の弟子であって触手を出して空を飛ぶ。不生不滅不増不滅。





820.仙田学『ツルツルちゃん』 オークラ出版 2013
幼なじみの先斗町未来はモデルをしているが実はかなりの潔癖症だ。彼女が親友の兎実ふらの手帳を拾って見てしまうとメイドカフェで怪しい交際を繰り返しているのが発覚。未来は兎実さんの髪を剃ることにするが…。髪を媒介した青春もの。瓶底メガネの羊歯灰汁美が好き。





819.大澤めぐみ『おにぎりスタッバー』  KADOKAWA 2016
ラノベ奇書。女子高生のアズは援交で男を食っているという噂がある。彼女の前に素敵な穂高先輩が現れる。そして唯一の友達のサワメグは魔法少女だし、松川さんは人を支配できるし、モデルのネジくんは仲介者だ。そしてエクスカリバー。青春ノンストップ饒舌体。





818.木ノ歌詠『幽霊列車とこんぺい糖』 富士見書房 2007
映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」が好きな有賀海幸は廃線でリガヤと名乗る少女と出会う。リガヤは若き芸術家で、放置された列車の中にマネキンを置くアートを作りたいと言う。それは過去にあった事故を模していて…。伝説の百合ラノベ。最後のシーンが神だ。





817.上田次郎『日本科学技術大学教授上田次郎のなぜベストを尽くさないのか』 学習研究社 2004
ドラマ「TRICK」のファンブック。上田次郎が今まで尽くしてきた食事中、睡眠中、通学中、片思い中などのベストを紹介。あとドラマの登場人物から相談を受けたり、年表があったりする。阿部寛の若い頃の写真も。なぜベス。





816.伊藤なむあひ『天使についての試論』人格OverDrive 2022
世界共通語がクリンゴン語になる話や、良い物語の中に現れる鏡子を探す話や、北海道に天使がたくさん降りてくる話や、足の裏を舐める占いをするおじさんの話や、光を飼う話や、リロがトロッコに乗って死者の世界に行く話など14篇の奇想短編集。幻視の密猟者。





815.谷川流『絶望系』メディアワークス 2005
ラノベ3大奇書の1つ。烏衣ミワと性的関係にある杵築は友人の建御から助けを求められる。杵築の家に美人の天使とゲームをする悪魔と幼女の死神と同世代の幽霊が出現したのだ。町では連続猟奇殺人事件が起こる。ミワの姉であるカミナの計画とは…。狂気とは実は希望なのか。うふ?





814.十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』 早川書房 2020
ヴィンダウス症という動かないものが見えなくなる病気を罹患した韓国の青年であるキム・テフンは寛解して超能力を得た。そして中国の成都でAIと協力して街を良くする仕事を任されるが、同じく寛解した男が街を乗っ取る計画を考え…。セリフ回しがオシャレだ。





813.吉村萬壱『生きていくうえで、かけがえのないこと』 亜紀書房 2016
25のエッセイ集。眠るとは異界と繋がること。食べるとは本来は切羽詰まったもの。休むことは生きる上で欠かせない。100冊近くの日記を書いた。仔犬を投げ捨てた。耐える時こそ人は美しい。憎むことは誠実だ。一度壊さないと価値はわからない。





812.大藪春彦『餓狼の弾痕』 角川書店 1994
本書は同じ描写を50回以上繰り返すヤバめの奇書。権力者から汚れた金を強奪する秘密組織の世見月明が永野玄というゴルフ会員権を乱発した男から裏金をもらった政治家30人以上の家に侵入して人を殺しまくって体内に爆弾を埋め込み1900億円以上を奪う話。なんじゃこりゃー。





811.佐藤智加『肉触』 河出書房新社 2001
今は子持ちの姉と幼い時に家出をしたことのある弟は父が死んだのちにどこか遠い場所に行きたいと思い、列車に乗って田舎の旅館に辿り着くが、そこで喋る猫に友達である池に住むオタマジャクシが成長した話を聞かされる表題作と、友と一緒にODをする1篇が所収。死のメタファー。





810.青柳菜摘『そだつのをやめる』 thoasa 2022年
2023年の中原中也賞受賞の詩集。アリジゴクが待つ「メロンソーダの巣」や、ユキちゃんが話す時に近くに寄る「鍵あなのドジョウ」や、観察しすぎの「夕日を見ない」や、僕も蝶も誰もいない「夜の箱」や、生き物の殻を飛ばす「さがしもの」などの37篇。多層的な構造。





809.竹中優子『冬が終わるとき』 思潮社 2022
2023年の中原中也賞候補の詩集。詩を書く時間を削って働くようになる「草冠」や、ちゃんと帰るだけで人間は偉い「攫う」や、失踪した妹が見つかった「昨日」や、父の友人の山ちゃんの「なぞる」や、父の骨はほかほかと温かい「骨壷」などの20篇。家族や友人との関係。





808.小野絵里華『エリカについて』 左右社 2022
2023年のH氏賞受賞の詩集。集合的に王子に恋する「現代の恋愛」や、南仏で浮浪者に会う「広場」や、詩人が運命の人にメールを送る女子会の「焼き鳥を食べる会」や、たった一粒の胃薬を求める「胃痛の夜」や、絵理華と間違われる表題作などの17篇。女子力と睡眠力。





807.リービ英雄『星条旗の聞こえない部屋』 講談社 1992
1967年の横浜で17歳のベン・アイザックはアメリカ領事館で働く父とともに暮らしている。W大学で日本語を学ぶが、日本人から安保やベトナム戦争について聞かれて嫌になり、そこで出会った安藤の部屋に行き、父とアメリカを捨てる決意をする。元祖越境文学。





806.岡崎祥久『秒速10センチの越冬』 講談社 1997
広告会社を辞めた田中はバイクのスピード違反で免停となり、金に困って書籍の仕分けのバイトを始める。厳しい仕事だが慣れていき、仲間と交流しながら美術系の学校に行きたいと思い始める。そこに警察からの出頭命令ハガキが来る…。人生うまいこと行かないねえ。





805.鈴木いづみ『いづみ語録』 文遊社 2001
伝説の作家の語録集。愛や女や狂気や孤独や美意識などのテーマで抜粋。「男は優しくてもいいから心底は冷たくなくちゃいけません」「感受性が鋭くてしかも元気でいる、というのは難しいもんだね」鈴木いづみの娘である鈴木あづさと荒木経惟と末井昭と町田康との対談も。





804.東山紘久『プロカウンセラーの聞く技術』 創元社 2000
僕の師匠の人の話を聞くコツ31個が紹介。聞き上手は話さない、話を深める相槌と深めない相槌、人は他人に口出ししたくなる、聞かれたことしか話さない、逆接の「でも」を使わない、ASKするなLISTENせよ、評論家にならない、沈黙と寡黙。実践していくぞ。





803.小島信夫『残光』 新潮社 2006
90歳の小島信夫が二十世紀文学研究会に参加したり保坂和志と対話したり妻が施設に入ったり大庭みな子に功労賞をもらったり小児麻痺でアル中の息子が亡くなったり過去作の『菅野満子の手紙』と『寓話』を長く引用したりする。引用した文章も自分の話なので多重にメタ化する遺作。





802.三浦恵『音符』 河出書房新社 1993
高3の女性主人公は隣のクラスの女の子が気になる。彼女は放課後に音楽室で歌っており、音大を目指しているという。そしてその男友達がいて、絵のモデルになってほしいと主人公にお願いする。美大を受けるらしい。この3人の卒業までの1年間が描かれる。それぞれの道を選ぶ青春よ。





801.青山七恵『窓の灯』 河出書房新社 2005
大学を辞めたまりもは喫茶店で働く。そこには店長のミカド姉さんがいて、複数の男を部屋に招いている。まりもの趣味は向かいの部屋の窓を覗くこと。掃除のおばちゃんと仲良くなり、後輩が好きな人に振られる「ムラサキさんのパリ」も併録。まりもは姉さんが好きなんだろうな。





800.赤染晶子『うつつ・うつら』 文藝春秋 2007
パン屋に下宿する洋裁職人である初子さんに結納屋に下宿する美根子が夏用スカートを依頼する「初子さん」と、京都の舞台で漫談するマドモアゼル鶴子や夢うつつ・気もそぞろが下の階にある映画館のセリフに惑わされたり九官鳥に真似される表題作の2篇。ほっちっちー。





799.山崎ナオコーラ『ニキの屈辱』 河出書房新社 2011
若い女性写真家のニキのアシスタントになった加賀美和臣。そもそもファンだったので気まぐれの命令形ばかりのニキに従えることが嬉しい。ニキも徐々に心を開いて2人は恋人になる。しかし和臣も写真家として有名になるほどに関係がギクシャクしてきて…。甘々の恋。





798.町田康『土間の四十八滝』 メディアファクトリー 2001
2001年の萩原朔太郎賞受賞の詩集。 遍路で民家に入ると布で作った猿があったり、言わぬが花だったり、爺がコンビニの朝飯で喧嘩したり、山にハムが落ちていたり、腸のクリスマスだったり、その俺は重役だったり、中華料理で舞ったり、古池に入水したりする。パンク詩。





797.山田詠美『ジェシーの背骨』 河出書房新社 1986
ココは飲んだくれのリックが好きで家によく行く。そこにはリックの前妻との子供の11歳の男子ジェシーがいる。リックは用事で10日ほど実家に帰る間、ココはジェシーの面倒を見ることに。しかしジェシーはココに意地悪ばかりして…。男と女の肉体的関係からそれ以外へ。





796.戌井昭人『ぴんぞろ』 講談社 2011
ピンゾロ賭博に参加するが、知人がイカサマを仕掛けるもののバレ、そのまま倒れて死に、その男の代わりに地方の温泉街のヌード劇場の司会をすることに。三味線弾きの婆さんとその孫のリッちゃんと暮らすのだが…。指が落ちた男がUFOのいる浜に行く話も併録。転がる人生よ。





795.島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』 福武書店 1983
大学生の千鳥姫彦は左翼サークルに所属しつつ、美少女みどりのことが好きなのでアタックするが、軽く流される。サークルではソ連の政治家になって粛清ごっこをしたり、機関誌を作ったり、男娼になって資金を得たりする。君は政治と恋愛のどっちを取るか?





794.穂村弘『求愛瞳孔反射』 新潮社 2002
歌人の詩集。デニーズでの愛や、獣姦爆撃機や、スクランブル交差点を持ち上げたや、天使の舌に無数のシャチハタや、海に2人の頭文字を覚えてもらうや、冷蔵庫に目覚まし時計や、海の砂が入ってくるや、給水塔でオナニーなどの34篇。似ている恋人と似ていない恋人がいる。





793.吉田隼人『忘却のための試論』 書肆侃侃房 2015
現代歌人協会賞受賞の歌集。表紙は「さよならを教えて」の長岡建蔵。「冥福の冥とはいづこ葉あぢさゐ月のうらがは愛のうらがは」「交接ののちこひびとを愛づるごと闇あをき夜の虚無を抱き締む」「うすき胸 なほうすき呼気 自慰のときにんげんでなくなることがある」





792.小野正嗣『にぎやかな湾に背負われた船』 朝日新聞社 2002
父は海辺の集落「浦」の駐在である。その湾に無人の船が迷い込んできた。アル中のミツグアザムイ、議員選挙の義兄弟、川野先生、トシコ婆、珪肺四人組の老人、戦争の記憶、シェイ兄、外国人を逃した過去、ハマチの脱走、そして大量の屍体。時空が滲む海。





791.日日日『のばらセックス』 講談社 2011
今まで女性が存在しなかった近未来の世界で2000年ぶりに生まれた女性の坂本のばら様。その子供である主人公・坂本おちばも女性だが、その性を隠している。彼女は人工差別民のエルフに犯されたり、のばら様の兄に犯されたり、首を斬られたりする。凌辱系えろぐちょ小説。





790.三並夏『平成マシンガンズ』 河出書房新社 2005
素っ気ない父と新しい母のいる家族が気持ち悪い中学1年生の朋美は、次第に学校でも虐められるようになる。夢の中では死神がマシンガンを渡してきて「全員平等に撃て」と言ってくる。苦しい彼女は別居中の母に会いに行くが…。家族以外の居場所を作れたらいいのにな。





789.おおつやすたか『まるくすタン 学園の階級闘争』 サンデー社 2005
まるくすタンが入学した学校でえんげるすタンと共に生徒会長の周辺だけが恋愛のパートナーを独占している構造を発見していく1部と、れーにんタンととろつきータンとすたーりんタンが津在さんを打倒する2部から成る。百合的共産パラレルワールド。





788.小中千昭『稀人』 角川書店 2004
映像カメラマンの増岡は自らの眼球に包丁を刺して死んだ男を見た。現場には地下に続く階段があり、化け物のいるクトゥルフ的な世界が広がっていた。そこに1人の少女がいて、地上まで連れて帰るが、彼女は動物の血しか飲めないことがわかり…。人間社会を拒む人のためのホラー。





787.長島有里枝『去年の今日』 講談社 2023
5篇の連作短編集。母の未土里、母の恋人の睦、息子の樹木、そして犬のPBちゃん。愛するPBちゃんが病気で亡くなり、悲嘆に暮れる家族。その喪の1年を描く。未土里は習い事のバレエで愛犬の魂を見た。普通に泣けてくる。ペットでも家族として愛されたから幸せだったよ私。





786.岡田睦『明日なき身』 講談社 2006
生活保護を受けながら執筆する老作家の日日。金がないから5日連続で何も食えず、ガスも引いておらず、自殺を図ったためヘルパーが来るが仲良くできず、壊れたトイレも修理できず、3回離婚し、鬱になり、薬物依存になり、寒いから紙を燃やしたら家が燃えた。それでも作家だ。





785.安達瑶『世界最終美少女戦争』 KKベストセラーズ 1998
中2のワタルは幼なじみの瑠璃が好きで、伯父の諸尾博士が謎のマシンで瑠璃を巨乳にし、2人はヤリまくる関係に。すると謎の半魚人が瑠璃のアソコをヨグ=ソトートを復活させる扉としたため、彼らは巨大ロボットに乗って最終決戦を行うが…。エヴァ的クトゥルフ神話。





784.鷺沢萠『帰れぬ人びと』 文藝春秋 1989
別れた父に生活費をもらいにいく弟の「川べりの道」や、飲み屋を任された青年と客たちの関係を描く「かもめ家ものがたり」や、塾で働く男が焼けたメッキの匂いを嗅ぐ「朽ちる町」や、父を騙して家をぶんどった男の親族が主人公の職場に来る表題作の4篇。昔ながらの文学。





783.華早漏曇『イックーさん』 KADOKAWA 2017
ラノベ奇書。夢漏町時代のイックーさんというイキやすい小坊主をめぐる掌編集。橋や虎の屏風の話も下ネタ風に。足嗅義満公に呼ばれたり、町の店でTENGUや倍櫓を使ったり、とらいアスろんに参加したり、春画絵師の官能正信の悩みを解決したりする。ぬきたし的な想像力。





782.高山羽根子『如何様』 朝日新聞出版 2019
終戦後に帰ってきた画家・平泉貫一は出征前と同じ人物なのか、という依頼を受けた探偵は関係者に聞き込みをし、貫一が国の仕事として絵の贋作や偽札を作っていたことがわかる表題作や、駅伝を外国に教えにいく「ラピード・レチェ」の2篇。色気のある絵と色気のある文章と。





781.伊藤ヒロ・満月照子『家畜人ヤプーAgain』 鉄人社 2017
高2の瀬部麟はオメガ熱という不治の病にかかり、両親と幼馴染の木下くららを殺害するが、謎の宗教団体によってドラム缶に詰められ、気がつくと遙か未来のイース国にいた。麟はポーリーンお嬢様の犬となるが…。無限にヤプーのスピンオフが出てほしいな。





780.夢野寧子『ジューンドロップ』 講談社 2023
偏頭痛の前触れとして現れる閃輝暗点に悩んでいるしずくは母の不妊治療の失敗を自分のせいだと思っている。彼女が縛られ地蔵の前で出会ったのは同じ女子高生のタマキで、彼女は何かを隠しているようだった…。コロナ禍における家族とキャンディと6月の雨と祈りと。





779.赤坂真理『ミューズ』 文藝春秋 2000
モデルの仕事をしている高校生の美緒は自身の歯列矯正をする歯科医と不倫の関係にある。歯科医院で逢瀬を重ねたり、歯科医の持つ船で海に出かけたりするが、実は美緒の母は宗教にハマっていて彼女自身も謎の儀式を受けたことがある。性に溺れることで過去を洗う女神と石鹸。





778.しんかいちさとみ『ヒ・ミ・ツの処女探偵日記』 フランス書院 1997
ジュブナイルポルノ三大奇書の1つ。高校生の上津京平は森のペンションで働くことに。幼馴染の金田一流の所属する護身術クラブが来て、奇妙な密室連続レイプ事件が起こる。男は京介しかいないのに。謎が完全に解決されないオチがむしろ清々しいゾ。





777.中村航『ぐるぐるまわるすべり台』 文藝春秋 2004
大学を中退した小林が塾の屋上部屋でヨシモクという生徒に勉強を教えながらネットで集めたメンバーでバンドを組んでヘルタースケルターを演奏する表題作と、工場で働く哲郎がロックンロールを考えながら仕事の効率化を図る「月に吠える」の2篇。人生は音楽だ。





776.本谷有希子『ぬるい毒』 新潮社 2011
電話で同級生と名乗った向伊に心をズタボロにされる熊田の話。自分の心が他人から侵襲されやすい熊田はカリスマ的な心理掌握術を持つ向伊とお互いに嘘をつきながら交際することに。廃墟のホテルに行ったり、東京に行くため親を説得したりする。見下す人しか愛せない人へ。





775.瀬戸口廉也『CARNIVAL』 キルタイムコミュニケーション 2004
電波ゲーのノベライズ。死体にのみ性欲が湧く九条洋一は義父に監禁され性虐待を受けていたサオリと出会う。洋一は自分の姉が巻き込まれた事件を追う。それは姉の友人である男が殺人・強姦・傷害を犯して姉と逃げたのだ。そして姉から電話がかかり…。5章目が狂気じみて。





774.加藤秀行『海亀たち』 新潮社 2018
ベトナムでゲストハウスを始めた坂井だったが、客がほとんど来ずに半年で閉めた。その失敗を元手に今度はゲーム会社に特化した広告代理店の社長に取り入り、なんとベトナム支店を持たせてもらうことに。その一方でマッチングアプリで女を見定めていき…。僕も成功したいな。





773.宮内勝典『金色の象』 河出書房新社 1981
世界を放浪したのちに、日本で旅行会社に就職し、家出少女と付き合い、子供ができるのだが、7ヶ月で出産し、臓器がないので子供が亡くなる表題作と、ある漁師町に来た行者の男についていく子供の「行者シン」の2篇。インド等の異文化から見た若者の心と、小さな子への葬送。





772.綿貫梓『インモラル古書店 近代エロ文学をもっといやらしく読む方法』 オークス 2013
絶版のサンリオSF文庫を探していた城一郎は小口綴子が営む古書店で働くことに。綴子は「チャタレイ夫人の恋人」や「四畳半襖の下張」などで自慰する趣味が…。某ミステリを模した作品だが、発禁文学について勉強になるよ。





771.鳥居『キリンの子』 KADOKAWA 2016
現代歌人協会賞受賞の歌集。母が自死し、児童養護施設で虐待され、友の死も見た、壮絶な人生における絶望と救い。「強すぎる薬で狂う頭持ち上げて前視る授業を受ける」「児童相談所で食べし赤飯を最後に止まった我の月経」「友達の破片が線路に落ちていて私とおなじ紺の制服」





770.古井由吉『われもまた天に』 新潮社 2020
手術のために入院したのち雛人形のことを考える話や、改元の祝いから疫病と五行を思って街を歩く話や、梅雨に次兄が亡くなり6人兄弟は自分だけになる話や、9月に台風が来てから再び病院にいる話の4篇。未完の遺稿を含む作者最後の小説集。濃すぎる文体で圧倒される。





769.最果タヒ『十代に共感する奴はみんな嘘つき』 文藝春秋 2017
JKの和葉は同級生の沢くんに告白したが、適当に返事されたので好きじゃなくなる。そのことで近くにいたハブられている初岡さんとも絡むことに。家では兄がビッチと結婚するので、反対するが…。感情はサブカル、現象はエンタメ。ディスコミュの鬼才。





768.俵万智『サラダ記念日』 河出書房新社 1987
現代歌人協会賞受賞の歌集。故郷と中国旅行と学校と恋のエモさ。「また電話しろよと言って受話器置く君に今すぐ電話をしたい」「君の香の残るジャケットそっと着てジェームス・ディーンのポーズしてみる」「思い出はミックスベジタブルのよう けれど解凍してはいけない」





767.山下澄人『ほしのこ』 文藝春秋 2017
父と放浪して小屋に辿り着いた女の子の天。天は父が星に帰る際に、崖から落ちて足が折れてしまい、昆布ばばあに助けられる。雪の日に小屋の前にいたルルという子を家族とし、遠くの山に落ちた飛行機乗りの男を助ける。そして男の夢に色んな人が現れて…。落涙必至の感動作。





766.佳多山大地『新本格ミステリを識るための100冊』 星海社 2021
綾辻行人『十角館の殺人』の1987年から2020年までの新本格ミステリの名作を100冊紹介したブックガイド。第一世代、日常の謎、実験作、歴史もの、先覚者、特殊設定、サイコパス、一発屋、オルタナティブ、そして新世代へと。歴史も学べるので良い。





765.太田靖久『ののの』 書肆汽水域 2020
野晒しに置かれた大量の本から文字が滲み出る町で兄と父の死んだケンジが営業の女性と交流する表題作や、壁の向こうに人の住めない土地がある町で川辺くんの閉塞した青春を描く「かぜまち」や、壁の向こうの町を記録したドローンが主人公の「ろんど」の3篇。物語を掬う物語。





764.小泉綾子「無敵の犬の夜」(in「文藝」2023年冬号)
九州の片田舎に住む中学生の界は右手の小指と薬指の半分がない。そして夢も情熱もない。そこに高校生の橘が現れ、自分のことを侮辱した担任をボコしてくれたので懐くが、ある事情から界は東京のラッパーを殺しに行くことになる。令和の大江健三郎。名作すぎて泣けます。





763.岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』 新潮社 2007
2003年にバーでやっていたパフォーマンスでの直に始まるイラク戦争に対するデモの話を聞いた後にラブホテルで4泊してヤリまくる名作「三月の5日間」と、妻が布団で横になりながら遠く離れた夫の視点を持つ話の2篇。現実とは逆セカイ系かも。





762.松平龍樹『発情期 ブルマ検査』 マドンナ社 1997
某学会に選ばれたトンデモ小説。小学6年生の直旗は同級生の静音ちゃんが好きだったが、実は両想いだったので、それから2人は何回も交わるように。コスプレもしてイベントに行き、Pラグスーツを着たAヤナミになり、そしてEヴァについて熱く語りながらの行為。凄い。





761.安堂ホセ『迷彩色の男』 河出書房新社 2023
会社でNPCと呼ばれるブラックミックスでゲイの主人公はいぶきという同じブラックミックスの男と交わるが、いぶきはファイト・クラブというハッテンバで血まみれになって発見される。主人公は「単一の男」に接触するが…。社会的な偏見を利用した最後のシーンが刺激的だ。





760.丸岡大介『カメレオン狂のための戦争学習帳』 講談社 2009
教員のための寮に入った田中は市の教育委員会からの命で寮内の全てを報告しなければならない。寮は軍隊的な全体主義の空気に満たされ、敵視する教員組合とも戦っている。さらに近くの峠に屯する暴走族も参加して…。政治や戦争論を学校で表した怪作。





759.横田創『(世界記録)』 講談社 2000
横田創と有原悦子との往復書簡という態の実験小説。労働者の貴賤、ある皿洗い職人、戯曲について、坂口安吾のロールプレイ、自閉生活、勝新太郎、寺山修司の短歌、順番を守っての翻訳、ビッグサイトのカフェのK店長、彼女とわたしの裁判、そして序文とあとがき。記録せよ。





758.早川大介『ジャイロ!』 講談社 2002
火のついた球でキャッチボールをして友達の家を全焼させたカツスケはパチンコ屋で用心棒をする。その裏で仲間と闇の賭け自転車レースを主催していたが、そこでかつての恩師が死ぬ事故が起こり、その息子から憎まれるが…。何が起こってるのか不明なほど全て残さず燃やせ!





757.木戸実験『かまいたちの娘は毒舌がキレキレです』 PHP研究所 2012
ラノベを批判する風海きりかに好かれる神前静也は実は中国マフィアの幹部。この街では妖怪の力を持つ能力者が殆どで、静也は仕事上からきりかを殺さなければならなくなるが、それに反発し組織から追われる身に。実は叙述トリック物で感情バグる。





756.滝本竜彦『NHKにようこそ!』 角川書店 2002
大学を中退して4年ひきこもる佐藤達広は脱法ドラッグに耽る毎日だが、宗教勧誘に来たおばさんの後ろにいた美少女・岬ちゃんと出会う。彼女と契約を交わし、そして隣人の山崎とエロゲー作りに勤しむが…。サブカルのオンパレード。陰謀論の行き着く先に感動があった。





755.川野芽生『Lilith』 書肆侃侃房 2020
歌壇賞と現代歌人協会賞受賞の歌集。作者は幻想文学の書き手としても活躍。耽美。「剝き終へて魚卵のごときピオーネを王女のきみにひとつ差し出す」「炭酸水うつくし 魚やわたくしが棲むまでもなく泡を吐きゐる」「こころとは巻貝が身に溜めてゆく砂 いかにして海にかへさむ」





754.石川博品『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』 エンターブレイン 2009
ラノベ奇書。植物を愛するレイチは第八高等学校に入る。クラスには王位継承者のネルリがいる。この世界では活動体連邦と称するソビエト的な共同体国家で成り立ち、本地民は周辺地域の王国民を見下している。主人公の語りのテンションが高すぎて渾沌。





753.円城塔『オブ・ザ・ベースボール』 文藝春秋 2008
年に1度ほどで空から人が降ってくる町・ファウルズにいる人を救うための野球チームの表題作と、ある批評家にR氏と類似した作風と言われたがR氏を知らないので調べていく「つぎの著者につづく」の2篇。メタフィクション的に物を書くことに自己言及する作品好き。





752.才谷景「海を吸う」(in「文藝」2023年冬号)
ひよりの身体に穴が空く。でもいっくんの方が穴は多い。いっくんは恐れず自分の穴に指を入れる。ひよりは穴から海の重さを出したいのに怖い。ひよりの母は父が戻るように神に祈り、ひよりに筒になりなさいと言う。ひよりは他人の海を吸っている。心と身体が筒抜けになった人。





751.扇智史『永遠のフローズンチョコレート』 エンターブレイン 2006
全てを諦めて生きている平瀬基樹の恋人である上條理保は過去に9人殺している女子高生。彼女が10人目に選んだ女性は何をされても死なない体を持つ遠野実和だった。この3人の関係を淡々と描き、嫉妬や満たされなさや衝動にもがき苦しむ傑作。純文学っぽい。





750.佐藤泰志『そこのみにて光輝く』 河出書房新社 1989
達夫は海辺のバラックに住む拓児と出会う。彼の父は寝たきりだが性的に興奮するため拓児の母と姉・千夏が処理している。達夫は千夏と結婚して子供も産まれ、知人に頼んで鉱山で働くことになる。拓児も一緒に行くことになるが…。暗き人生ゆえ光が差してくるのか。





749.舞城王太郎『Jason Fourthroom』 ナナロク社 2022
2001年にデビューした作者が1996年に書いた長篇詩。僕には恋人の彼女がいる。彼女には気になる奈津川くんがいる。僕にもウサギというアザのある女の子がいる。だから彼女は僕から離れる。誰かと別れて傷つかない人間はいない。つい忘れがちだから忘れないように。





748.御影瑛路『僕らはどこにも開かない』 メディアワークス 2005
同級生の香月美紀に「君は魔法耐性がないから私が護ってあげる」と言われた柊耕太。鎖の音が聞こえる不良の谷原雅人と堅物の委員長である秋山秀一。この4人の狂った関係を描く問題作。人格移動や殺人や恋が混在する暗い青春が、心がぶっ壊れるほど感動した。





747.古橋秀之『ブラックロッド』 メディアワークス 1996
ラノベ奇書。異形の街ケイオス・ヘキサを舞台に公安局の感情のない男ブラックロッドが3つの都市を奈落堕ちさせたゼン・ランドーを追いかける。そこに吸血鬼の探偵ビリー・ロンが現れる。エログロ的で仏教とオカルトと近未来を掛け合わせた世界観がヤバいし格好いい。





746.睦月影郎『永遠のエロ』 二見書房 2014
かつて零戦のパイロットだった祖父が入院している部屋に来た治郎は、病室にあった腕時計に触って昭和19年9月にタイムスリップする。治郎は息子を産んですぐに空襲で亡くなった祖母を救うために、女学校の教師や生徒や喫茶店の女主人などと交わることに。ゼロじゃないよ。





745.かじいたかし『僕の妹は漢字が読める』 ホビージャパン 2011
ラノベ奇書。ラノベや萌えが正統派文学となった2202年の日本に住むイモセ・ギンは作家志望である。漢字が消滅した日本だが、ギンの妹は近代文学(平成文学)を嗜むので読める。そんな彼らがひょんなことから平成の世に時空移動する話。文学の未来を考えよう。





744.西野冬器「子宮の夢」(in「文藝」2023年冬号)
子宮投げに参加できなかった16歳の私は時間という名の女性と部屋にいる。時間は股の間に巨大な西瓜が実っている。酔った母は外国に行きたかったが田舎から出られなかったと言う。氷河期の子供と呼ばれた私は同性愛的な傾向にある。時空と性を夢内で交換させて受容したのか。





743.絲山秋子『逃亡くそたわけ』 中央公論新社 2005
躁鬱で精神病院に入院していた花ちゃんが名古屋出身のなごやんと脱走して九州を縦断する話。ボロ車のクーラーが壊れたり、途中で薬がなくなり幻聴や幻覚が現れるので薬をクリニックで補給したり、ヒルに吸われたり、川に流されたりする。愛おしい2人の友情に泣ける。





742.深見真『ブロークン・フィスト 戦う少女と残酷な少年』 富士見書房 2002
ラノベ奇書。高2の空手少女・秋楽は部活の合宿に参加する。そこでは心臓が破壊され転落死に近い死体が2つ出る。しかも密室。秋楽の同級生である武田闘二が推理するが…。青春ミステリだがトリックがヤバい。筋肉は全てを解決する体育会系。





741.大樹連司『勇者と探偵のゲーム』 一迅社 2009
日本問題象徴介入改変装置が導入された町では勇者と探偵が自動的に次々と悪を滅ぼしている。主人公の級友の野井奈緒が単なる事故死をしたことで、その意味のない死を意味のある死に変えるために、クラスの11人が邪神教団を名乗って自ら殺される話。反小説の傑作。





740.志茂田景樹『戦国の長嶋巨人軍』 有楽出版社 1995
練習の一環で自衛隊の演習に参加していた1995年の長嶋巨人軍は急に1560年の戦国時代にタイムスリップした。長嶋や松井や落合や一茂や槙原や桑田たちは織田信長に配下となり、野球を普及させ、戦車や小銃を堺の職人を使って大量生産させる。なぜかみんな前向きだ。





739.村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』 朝日新聞出版 2012
小4の結佳は同じ習字教室に通う雄太をオモチャにして好きなだけキスをする。しかし中学生になりスクールカーストの下層となった結佳は上層の雄太と付き合うことができないままキスだけの関係を続ける。最後の他者の価値観を破るシーンが名作確定。





738.倉橋由美子『ポポイ』 福武書店 1987
元首相の家で切腹した青年の首は機械に繋がれ、元首相の孫娘である舞にプレゼントされる。彼女は首にポポイと名付けることに。同時に元首相は脳梗塞で倒れ、会話はワープロを通して行われる。舞は首の生前を調べるために彼の育った土地を訪れた。首のエジャキュレーション!





737.湯浅真尋『四月の岸辺』 講談社 2021
小学生の時にスカートを履いていた男の子が、中学で「森の子ども」と称する、生活共同体の村で暮らす女の子と出会う表題作と、バイト先のふぐ料理店で交流した男は実はかつてオウム真理教の信徒だったが、今はそこから抜けて自らの生を模索している話の2篇。良い小説だ。





736.岡本賢一『Virgin Crisis それゆけ薔薇姫さま!』 エンターブレイン 2000
ラノベ奇書。怪盗の薔薇姫さまと見習いのヒナコは、銀河中の政治家や皇太子や宇宙海賊といった男たちのお尻を貫いてカメラに収め、また彼らの性癖を握ることで宇宙を裏で支配していた。そこにアンドロメダの大帝王が攻めてきて…。肛虐ギャグSF。





735.藤井悦子編訳『シェフチェンコ詩集』 岩波書店 2022
ウクライナの国民的詩人の10篇の詩集。墳墓は掘り返され、鳥となって草原を飛び、醜い貴族を怨み、コサックの屍の上に建てられた都を見て、天国に入れぬ3つの魂が語り、ウクライナが破壊され抑圧されてきた歴史と、その怒りと嘆きを謳う。胸が苦しいと叫ぶ。





734.軽井沢洋一『宅配コンバット学園』 集英社 2010
ラノベ奇書。7人の高校生がお金ほしさで自A隊の体験合宿に参加する。そこでは特殊任務をすると100万円もらえる。それは1943年のユーゴスラビアに時空移動してチトー率いるパルチザン側からナチスドイツと戦うというものだった。この小説は構成が狂ってて良い。





733.つちせ八十八『ざるそば(かわいい)』KADOKAWA/メディアファクトリー 2015
ラノベ奇書。ざるそばを頼んだ光太郎の元に人類ではなく麺類である姫ノ宮ざるそば(本名)が来る。彼女は魔法少女だがスポンサーを外されたために麺インブラックが現れ、そして甲子園球場が「麺類補完戦争(ソバルゲドン)を起こして世界が麺類化した。エヴァ的。





732.石原慎太郎『湘南夫人』 講談社 2019
巨大企業の社長が急逝し、残された妻の紀子は異母兄弟の志郎と結ばれた。彼女は音楽評論家によりピアノの才を見出されたり、元自衛官の甥と良い関係になったりする。会社ではミサイルの部品製造の情報が漏れている。複数の男達から好かれまくる紀子は…。オチがマジ凄い。





731.湯本香樹実『西日の町』 文藝春秋 2002
10歳の僕と母の元に祖父の「てこじい」がやって来て居候を始める。かつて朝鮮戦争での死体を綺麗にする仕事や馬喰や祖母から金を毟ったりして、そのままフラフラと家を出た祖父に母は複雑な思いを抱いている。だがてこじいが急に倒れて…。そっけない態度を取る愛もある。





730.石田香織『きょうの日は、さようなら』 河出書房新社 2017
幼い頃に離別した義兄のキョウスケと再会したキョウコ。彼女はゲイの知人や会社の人たちや風俗街の変人と仲良くなる。母に捨てられ、今までヤクザ的に生きてきた義兄に、これからはちゃんとした生活をするように言う妹だが…。避けられない別れこそ泣ける。





729.伴名練『少女禁区』 角川書店 2010
数百年に1度と呼ばれる呪詛の才能を持つ少女には親殺しの噂があり、彼女に仕える主人公が呪いの実験体にされながら釘食様の生贄とされそうになる話と、ある財閥の姉弟が父の支配から抜け出し、ナノマシンに記録された自らの体験を配信サイトに売る話の2篇。血の味は甘い痛み。





728.広小路尚祈『うちに帰ろう』 文藝春秋 2010
ある主夫が家では妻にいびられ、死ぬわけじゃないしと思っていると公園でママさん友達に一緒に心中しないかと言われる表題作と、天ぷら屋の男は昔よく通った風俗嬢のことを思い出し、幼い息子と川崎のエロ友達を訪ねる「シレーヌと海老」の2篇。寄り道に命を賭して。





727.夢枕獏『カエルの死 タイポグラフィクション』 光風社出版 1984
活字を組み合わせたアート作品集。筒井康隆の同人誌「NULL」に投稿したものなど16篇。 男女がホテルに行ったり、宇宙を金槌で殴ったり、伝言板の推移を映したり、文字でジャズを表したり、神と人間の楽譜を描いたりする。分裂気質のヤバい絵もある。





726.蘇部健一『六とん4 一枚のとんかつ』 講談社 2010
伝説のアホバカミステリの4作目。ちんこ探偵である小野由一が正社員になるためにいなかっぺ殺人事件や笑っていいとも事件やバイブ5本事件を解決する。ほか日焼けや痴漢やドッキリや悪夢や下着盗みや映画から出てきた男や恋愛小説や漫画などの11篇。感動する。





725.山田悠介『ドアD』 幻冬舎 2007
大学の友達8人は見知らぬ部屋に閉じ込められた。そこではボタンを押している時だけ部屋の扉が開く仕組みで、つまり脱出するには必ず1人が犠牲になる必要がある。そしてさらにはガス・謎の子供・流砂・電気椅子などで人数が減り、最後の1人が見る絶望とは…。デスゲーム系好き。





724.寺尾隆吉『100人の作家で知る ラテンアメリカ文学ガイドブック』 勉誠出版 2020
全100人のラテンアメリカ文学の作家が紹介され、それは21〜19世紀の順で記載される。1人ずつのオススメ小説にも触れられ、たまに邦訳のないものもあるが、ガイドブックとして非常に面白い。他の地域の文学ガイドブックもほしいな。





723.藤崎和男『グッバイ、こおろぎ君。』 講談社 2012
塾の講師である60歳を超えた男性は、トイレの窓から入ってきた1匹のコオロギを飼うことにするが、その際に水漏れして下に住む女に文句を言われる話や、子供の頃の犬の話や、パン屋でのロマンスの話や、別れた妻と娘の話や、蓮田善明の話が挿入される。老境。





722.寺坂小迪『湖水地方』 文藝春秋 2008
妹の恋人である煉くんとは実は姉とも付き合っており、姉はそれを内緒にしながら叔父の家の近くにある湖を見に行く表題作と、亡くなった叔母のためにフランスから日本に帰る女が来ない飛行機のせいで空港で待たされ、謎の女に声をかけられる話の2篇。好きだけど嫌いの葛藤。





721.アーノルド・ローベル『ふたりはともだち』 文化出版局 1972
かえるくんとがまくんの絵本。春が来たけどがまくんがまだ寝てる話や、病気のかえるくんにがまくんがお話を考える話や、がまくんがボタンをなくす話や、がまくんが変な水着を着る話や、かえるくんががまくんに手紙を書く話など5篇。僕も友達がほしい。





720.大岡玲『黄昏のストーム・シーディング』 文藝春秋 1989
主人公の父がいなくなり、父の隠し子である妹が現れたり、従兄とピクニックに行ったり、晃子やネーと呼ばれる女の子と交流したりする「緑なす眠りの丘を」と、離島に来た主人公が無菌豚を育てる天気作りという老人に弟子入りする表題作の2篇。自分探し。





719.松村栄子『至高聖所 アバトーン』 福武書店 1992
ある大学に入学した沙月は鉱物研究会に所属する。寮のルームメイトには多動と入眠を繰り返す真穂がいて、静と動の対比的な2人はすれ違うのだが、真穂が書いた戯曲に出るギリシャ時代の夢治療に用いられた舞台なら分かり合えるのかもと思う。他者の孤独に気づく。





718.荻原魚雷『活字と自活』 本の雑誌社 2010
書評・エッセイ集。高円寺に住んで古本屋をめぐりバイトとフリーライターで食ってきた著者。テーマは河原晉也のこと、天野忠や黒田三郎や田村隆一などの現代詩人、尾崎一雄や佐藤泰志や中井英夫、引っ越しやヒモ願望や貧乏や仕事のなさ。こんな生活もあっていいし夢見る。





717.辺見庸『自動起床装置』 文藝春秋 1991
通信社で仮眠している人を時間になったら目覚めさせる仕事の僕。同僚の聡は植物が好きで、人を起こすコツを知っている。しかし自動覚醒機が導入され、起床が機械化された時、ある守衛が心筋梗塞を起こして…。カンボジアの戦場に行く「迷い旅」併録。毎日ゆっくり寝たい。





716.吉村萬壱『うつぼのひとりごと』 亜紀書房 2017
エッセイ集。ダイビングで深淵に潜りたいのは闇に惹かれるから。自閉症の子が水遊びをしていたのは水に作為がないから。ゴミ捨て場からゴミを拾うのと小説を書くのは同じ。老婆の色気。空虚な穴にこそ魅力がある。自分の部屋を西成のドヤ街と仮想する。憧れます。





715.津原泰水『五色の舟』 河出書房新社 2023
戦時下の見世物小屋の一座が牛と人の合いの子である「件=くだん」を入手しようとする話。5人の家族はそれぞれに欠損や異形を抱えており、それでも強く生きている。そして並行世界へ。本書では宇野亞喜良の挿絵や英訳も収録される。僕は漫画版も好きで、いつも泣けてきます。





714.三木三奈「アキちゃん」(in「文學界」2020年5月号)
小学校のクラスメイトのアキちゃんが憎くて仕方ない主人公。アキちゃんは他の女の子には媚びるのに自分には普通に罵ってくる。幽霊の見える友達のバッちゃんに呪いの方法を教わろうとしたり、アキちゃんの兄に接触したりする。叙述トリック的な仕掛けと前思春期のエロス。





713.中原昌也『こんにちはレモンちゃん』 幻戯書房 2013
ファミレスでレモンちゃんという店員がいる話や、安田正雄に2500万円を与えたい話や、家に母の死体がある話や、2年ぶりにバーに行ったらひひひな話や、喫茶店にキリストが現れる話や、耳鼻科にある椅子の話などの8篇のナンセンスな短編集。悪夢的狂気に共感。





712.村上春樹『村上T 僕の愛したTシャツたち』 マガジンハウス 2020
村上春樹が持つTシャツのコレクションのエッセイ集。サーフィン、酒、村上春樹、レコード、車、企業、マラソン、大学などのテーマに対して4枚ほど紹介。トニー滝谷は1枚のTシャツから生まれた話が好き。僕はシャツを5枚ほどしか持ってないから買います。





711.市川拓司『私小説』 朝日新聞出版 2018
発達障害である作者の1日を描く。妻と平和を愛し、植物に悦び、過敏に生き、食べ物を拒否し、すぐ発作を起こし、家から出ず、家の中でランニングをし、マッサージをし、ゲップが止まらず、乙女なカナリア的心気症を持ち、生まれる前に死んだ姉が心の中にいる。純粋はエモさ。





710.くろだたけし『踊れ始祖鳥』 ナナロク社 2023
第2回ナナロク社あたらしい歌集選考会選出作品。諦観と諧謔。印象的なのは「日常に刺激を求めなくなると冷蔵庫からポン酢が消える」「僕たちがわかりあえたということはどのようにしてわかりあえるの」「ひき肉を牛になるまで巻き戻す科学はなくて今日も戦争」かな。





709.オノ・ヨーコ『グレープフルーツ・ジュース』 講談社 1993
この本に刺激されてジョン・レノンは「イマジン」を生み出したという伝説の詩集。このバージョンでは命令形で綴られる56の言葉に、33人の写真家が様々なイメージを合わせる。死ぬまでに全ての命令に従いたいな。この本を燃やしなさい。読み終えたら。





708.唐十郎『佐川君からの手紙』 河出書房新社 1983
作者がパリ人肉事件の映画を撮ろうとしたら佐川一政から手紙が送られてきた。唐はパリを訪れて事件現場に赴いたり、犯人が読んだという詩を翻訳したりする。彼はオハラという関係者の女と会う。そこで犯行前夜の詳細を聞く。衝撃すぎるドキュメント式の芥川賞受賞作。





707.池澤夏樹『スティル・ライフ』 中央公論社 1988
バイト先の染色工場で出会った佐々井は自然が好きで、たまに飲む仲だが、そんな彼から大量の金を作らないといけないから株の売買を手伝ってくれと頼まれる表題作や、シングルファザーの父と娘が愉快なロシア人と交流する「ヤー・チャイカ」の2篇。星の匂いがする。





706.保坂和志『この人の閾』 新潮社 1995
小田原に住む大学時代の先輩だった真紀さんの家に行って草むしりしたり息子とサッカーの話をする表題作や、玉川上水近くの家に住んで猫を育てる話や、自然教育園という林で植物について駄弁る話や、鎌倉を歩きながら昔を振り返る話の4篇。何も起こらない小説が好きだよ。





705.蓮實重彦『伯爵夫人』 新潮社 2016
戦時下の帝都。二朗は伯爵夫人と知り合いになる。彼女は金玉潰しという技を持っていて、各国で高級娼婦をしており、スパイの側面もあるらしい。二朗は彼女に精を放ち、どこでもない場所に連れてかれる。また従妹の蓬子や男装の麗人や女中にも色仕掛けされる。戦争とぷへー。





704.小林信彦『うらなり』 文藝春秋 2006
夏目漱石の「坊っちゃん」の登場人物である英語教師の「うらなり」を主人公として後日談を描く。 マドンナ争奪戦に負けて宮崎県に転任させられた彼はお見合いを繰り返し、最終的には山にいた若い女と結婚する。随筆を書いてラジオに出演した彼にマドンナから電話がかかる。





703.吉村昭『死顔』 新潮社 2006
結核手術後の安静のために泊まった宿屋の思い出の話や、9男1女の兄弟だったが兄が病死したため残り2人になる話や、保護司の男の元に老老介護の苦から夫を殺した女が来る話や、明治の頃にロシアの運送船が遭難したのを日本側が探す話など5篇の遺作短編集。妻・津村節子の解説も付。





702.星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』 新潮社 2000
日系ペルー人のヒヨヒトは暴走族との乱闘に巻き込まれたので恋人のあなとともに知人の糖子の家に匿ってもらうことに。そこには糖子のパトロンである丸越さんや糖子の前の恋人である蜜夫との子の密生がいた。赤砂漠に囲まれた家に巻き貝の音がしてサルサを踊る。





701.戌井昭人『すっぽん心中』 新潮社 2013
ひどいムチ打ちのせいで首が横に向いたままの男と福岡から上京したが悪い男に捕まりやすい女が2人ですっぽんを捕まえて店に売りに行く話や、男の実家の近くで殺人事件が起こりそれに夢中になるので妻が病気になる話や、蜂蜜を輸入したい男の鳩への怨みの話の3篇。哀愁。





700.鹿島田真希『六〇〇〇度の愛』 新潮社 2005
主婦の女は夫と息子を捨てて長崎に来た。あるホテルでロシアとのハーフの青年と出会い、2人は交わる。女には兄がいたが、アルコール依存の末に自死した。女はキリスト正教会に救いを求めながら、心に落ちた原爆6000度の渇きを充たそうとする。魂を燃やす情交と美。





699.清水博子『街の座標』 集英社 1997
文学部の主人公が卒論に選んだテーマはS区S街を舞台に小説を書く作家について。世田谷区の下北沢に住む主人公は近くにその作家が住んでいることに気づく。知人の柳がその作家の下働きとして勤め、その作家の恋人らしき美容師の男とも話すが、作家とは会えず…。迂遠小説だ。





698.古谷田奈月『無限の玄/風下の朱』 筑摩書房 2018
全国を旅するブルーグラスバンドの父である玄が病で急死するが次の日に蘇ってまたその夜に死んで永遠に蘇る「無限の玄」と、3人しか所属していない大学の女子野球部にいる先輩の侑希美さんは健康的な選手がほしいという「風下の朱」の2篇。究極すぎる男女小説。





697.佐藤友哉『1000の小説とバックベアード』 新潮社 2007
特定の依頼人を恢復させる文章を書く片説家の僕は27歳で会社をクビになる。そこに行方不明となった妹を探してという姉が。顔のない男と探偵。文学クイズと失格者のための地下図書館。やみが紛れる日本文学。小説という名のアドヴェンチャーと絶望と希望。





696.島本理生『リトル・バイ・リトル』 講談社 2003
高校を卒業したふみは整骨院で働く母と父親が異なる妹の3人で暮らしている。たまに行く習字教室には柳先生という優しい男性がいる。そして母から紹介された周というボクサーのボーイフレンドができる。日常の小さな幸せを見せるこの世界がずっと保てるように。





695.久間十義『世紀末鯨鯢記』 河出書房新社 1990
取材のために捕鯨船に乗り込んだ記者の石丸は実は狂っており、イシマエルというもう1つの人格を持つ。彼はスナックで会ったフィリピン人女性と同じ名前のラブドールを船内に持ち込み、そして石丸の書いた小説に登場する反捕鯨団体の人物が現実に現れる。20世紀の白鯨。





694.高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』 河出書房新社 1988
本の中から野球に関する記述を抜き出す男、スランプに陥った選手とライプニッツ、野球の滅んだ未来に野球を教える伯父、日本野球を生み出した神と神話、試合が始まる前のスタジアムの中、阪神が優勝しなかった1985年の並行世界。文学について書かれていた。





693.佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』 新潮社 1991
高校を中退した斎木鮮は父親のわからない生後間もない赤ちゃんを抱えた幹と同棲している。役所にも届けを出していない子を育てるために、鮮は電気工の職に就いたのだが、その時なぜか幹が行方不明となって…。主人公は強いようで脆いから社長の支えが嬉しかった。





692.円城塔『烏有此譚』 講談社 2009
足跡が緑に光りながら天井を這い回る女と結婚した友人は灰が降りやまなくなったので主人公に相談する話と、灰に埋め尽くされた世界の中で主人公がその灰の中にある人型の穴である話の2篇。そしてその物語に対しての注釈の注釈が100以上存在する形而上学的にやりすぎな純文学。





691.岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』 新潮社 2007
1年で50キロ痩せた著者のダイエット方法がここに。レコーディング・ダイエットは食べたものと体重をその度に書く。後にカロリー値も。頭が食べたいものと体が食べたいものを感じ分ける。見た目主義社会の到来。太ってるだけで損。辛かった人生を変えて。





690.三国美千子『いかれころ』 新潮社 2019
大阪の南河内にある一族の、幼児である主人公・奈々子から見た4代記。かつてセイシンを病んだ叔母に来た縁談、本家と分家の問題、巧妙なサベツ、父の学生運動の思い出、シェパードのマーヤ、指輪の紛失、そして身動きが取れない母。家と個人が引き剥がせなかった昭和。





689.清水アリカ『革命のためのサウンドトラック』 集英社 1990
かつて有名バンドのギターをしていたが、今は小さなクラブのDJ兼ウェイターをするシゲルはキリコと出会う。彼女は盲目だがハンディカメラを視神経に繋ぐことで見ることができる。2人は仲良くなるが、突然キリコが何者かに刺され…。サンドストーム。





688.金城孝祐『教授と少女と錬金術師』 集英社 2014
大学生の久野は育毛と油の研究をしていた。教授から紹介された永田という男は自らの薄い頭髪に自作の油を塗ることで自分を魅力的に見せることに成功していた。そこに錬金術師と名乗る男と水を操る女と色が見えない少女が現れて…。能力者バトルっぽい純文学だ。





687.米田夕歌里『トロンプルイユの星』 集英社 2011
イベント事務所で働くサトミの周りで人や物が消え、最初からなかったことになる現象が頻発する。困惑するサトミに、同僚の久坂さんが「それは俺のせいだ」と言う。幼い頃から自分の大切なものが消える体質だったのだ。彼女は覚える努力をするが…。神の手品が。





686.木村友祐『海猫ツリーハウス』 集英社 2010
服飾デザイナーを目指す亮介は青森に戻り、親方と共にツリーハウスを作っている。しかし同じく帰郷した兄に高圧的に命令され、身動きの取れない環境のせいか、自分が首を吊っている幻覚を見る始末。そんな時、親方の娘が同じ孤独を抱えてるのを知り…。南部弁の妙。





685.水下暢也『忘失について』 思潮社 2018
2019年H氏賞受賞の詩集。 さかしまに流れるのを詩集の始めとする「十七」や、真赭の画布に麻酔が効く「王女の死」や、這い寄る蛇に気づく夢の「石蕗と懸巣」や、平仮名だらけの看板を過ぎる「旧十月街」や、沖で龍が跳ねた「やさしい眼の女」など29篇。聖なる喪失の詞。





684.中尾太一『ナウシカアの花の色と、〇七年の風の束』 書肆子午線 2018
2018年鮎川信夫賞受賞の詩集。蟋蟀だった頃の言葉を覚える「二秒詩のころ」や、詩もつまり逆さまの限界だからの「ノヴィ」や、涙を流して君を探す「君だった」や、僕はそれを穢したことがない「文机で眠るぽんきちへ」など20篇。詩の風が吹く。





683.須賀ケイ『わるもん』 集英社 2019
箕島純子は父と母と2人の姉と暮らしている。しかし硝子職人の父が家から消えた。家でダラけてばかりいた父を母が追い出したらしい。純子は父の痕跡を追う中で、父によく似たミシマさんを見つける。彼は仕事熱心で真面目だったのだ。こんな家族もあってもいい。最高の物語。





682.黒名ひろみ『温泉妖精』 集英社 2016
容姿にコンプレックスを抱え、美容整形を繰り返す27歳の絵里。彼女の趣味はカラコンを付けて外国人のふりをして温泉に泊まること。 彼女は、ある温泉ブロガーが勧めるボロ宿で、自称医者の自意識過剰おじさんと出会う。そして彼を見下すのだが…。文字通り裸の付き合い。





681.奥田亜希子『左目に映る星』 集英社 2014
左右で視力が異なる26歳の早季子は、唯一の理解者であった吉住くんをひきずっている。今は特定の恋人を作らず刹那的に交わるが、ある日、合コンで自分と同じく両目の視力が異なる男の噂を聞き、その人に会うと、なんと彼はアイドルオタクだった。他者性を認めること。





680.小池水音『息』 新潮社 2023
若くして自死した弟、会話にならない会話の父と母、そして姉の喘息は再発し、かつて弟と付き合っていた診療所の娘と交流する表題作と、アル中だった父と、喘息だった姉と、山に向かう息子と、癌になった母を描く「わからないままで」を収録。家族の再生と、呼吸する透明な哀しさ。





679.深堀骨『腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)』 左右社 2023
川から流れてきた女の太腿から生まれた腿太郎。実の母親が殺されてバラバラにされたことを聞き、同じ母親の身体の一部から生まれた、腕太郎、苔子、猫という名の犬、ルネ・フロワ・オカモッ、長瀬悲惨太と共に町の権力者を殺していく話。小説界のボーボボ。





678.上村亮平『みずうみのほうへ』 集英社 2015
7歳の誕生日に父が船上から姿を消した男性。大人になり父から教わった想像上の友人サイモンに似た人物を見かけて接触する。そして幼い頃に一緒に下校していた身体が不自由な女の子との思い出を追憶する。魚、海の街、アイスホッケー、月をめぐる怯え。悲しい話だ。





677.織田みずほ『スチール』 集英社 2003
高校生のレイジは男相手に自慰を見せるバイトをしている。学校ではオレっ娘の幼馴染に素っ気ない態度を示し、無感情で過ごすが、ふと貸しロッカーを契約し、その中で夜を過ごし始める。ある日、自分と同じ表情のおじさんを見つけ、なぜか惹かれていく。虚無からの脱出系。





676.高瀬隼子『いい子のあくび』 集英社 2023
これまでいい子で生きてきた女性がふとスマホを弄りながら自転車に乗る男子中学生にぶつかった。なぜ自分が避けないといけないの。その子のSNSを監視し、夫が勤める中学校にいることを知る表題作や、結婚式が気持ち悪い話や、会社でお供えする話も収録。よくわかる。





675.古川真人『ギフトライフ』 新潮社 2023
近未来のディストピアもの。会社に勤める男は銃付きのドローンが墜落したので回収しに九州まで派遣される。そこは重度障害者が自分の意思なく家族の同意だけで生きた身体に実験される施設だった。 安楽死も可決され人間1人ずつにポイント制もある世界で彼が見た真実は。





674.村雲菜月『もぬけの考察』 講談社 2023
あるマンションの408号室では住人が必ず行方不明になる。蜘蛛を飼い殺しながら会社に行けなくなる女性、街でナンパした重い女に付きまとわれる男性、友達から黄金色の文鳥を預かった住人。そして部屋の絵を描いた画家は部屋と同化した?サイレントヒル4的なホラー文学。





673.佐川恭一『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』 集英社 2022
天才高校生が好きな女の子の尿を飲むために科挙ガチる話や、友達の描いたエロ漫画を読むためにマラソンに命を賭ける話や、すばる文学賞三次通過の女の話や、20浪の男が初めて東大A判定をもらった話など9篇の短編集。童貞は無敵だ。





672.朝比奈秋『あなたの燃える左手で』 河出書房新社 2023
日本人のアサトは勤めるハンガリーの病院で誤診により左手を切断することになる。しかし後に手術で他人の腕を接合した。 同時にウクライナではロシアによりクリミアが併合され、アサトの恋人はウ軍の隠れ民兵として活動していた。個人的な肉体と国家の怒りを。





671.藤林靖晃『桂子と。』 角川書店 2005
60歳を超えて妻も母も亡くなり姉と2人暮らしする老画家。姉は自分のことを「兄ちゃん」と呼び、詩を書いたり一緒に海に行ったり個展を開いたりレコードを聞いたりする。貧しいながらパトロンの叔父から援助を受けたり30年ぶりに父と会ったりする。これぞ芸術家の生き方だ。





670.春見朔子『そういう生き物』 集英社 2017
千景とまゆ子は10年ぶりに再開し、一緒に暮らし始める。千景は色んな人と性的に交わりつつ過去にお世話になった恩師の家へと通う。まゆ子はスナックでバイトをしながらその恩師の孫と動物園とかに行く。彼女らの関係には1つの秘密があり、2人の生活がすごく尊すぎた。





669.うえお久光『紫色のクオリア』 アスキーメディアワークス 2009
ラノベ奇書。自分以外の人間がロボットに見えてしまう毬井ゆかり。その能力で左手と携帯電話が合体したその友達の波濤マナブは、ゆかりが超能力者集団に殺されてしまう未来を変えるために並行世界にいる無限の自分たちと協力して自分以外の人間に変身する。泣いた。





668.松本侑子『巨食症の明けない夜明け』 集英社 1987
21歳の大学生・時子は恋人が浮気をしていたために別れ、それから食べ物を大量に食べて20kgも太った。それを自ら巨食症と名づけ、フロイトを読み、フェミニストの友達に相談し、母親との問題に取り組む。最後のオチが問題だと思うけど、それはそれでヤバいぞ。





667.中島たい子『漢方小説』 集英社 2005
31歳の脚本家・みのりは元カレの結婚話を聞き、突如として体が震え出し、救急車で運ばれる。病院では原因不明とされたが、ある若い漢方医から細かい症状を当てられ、いくつかの生薬を出される。それにより調子も戻り、漢方について調べていくことにした。タメになる小説。





666.平中悠一『"She's Rain"』 河出書房新社 1985
1983年の夏、17歳のユーイチはレイコと恋人以上の仲の良い友達だった。大好きだからこそお互いに自由でありたいと思うユーイチなのだが、レイコは次第に彼を男女の関係として好きになり、ユーイチが他の女と仲良くしてるのが許せなくなる。そして…。シティポップな恋。





665.大槻涼樹・虚淵玄『沙耶の唄』 星海社 2018
電波ゲームのノベライズ。交通事故をきっかけに世界が醜い肉塊にしか見えなくなった匂坂郁紀。友達も含め人間は全て化け物に見える中、唯一ヒトの姿をしている美少女の沙耶と出会う。沙耶は人間ではないらしいのだが郁紀は彼女と恋をして…。最後はマジで感動した。





664.川上弘美『蛇を踏む』 文藝春秋 1996
蛇を踏んだために母を騙る蛇が家に入ってきて主人公と世界が混ざる表題作や、姿が透明になる兄と結婚したヒロ子さんが次第に縮む「消える」や、夜が背中に食い込んだり時間が止まったり質量がなくなったりバラバラになった少女を再生したりする「惜夜記」を収録。どろり話。





663.ろくごまるに『食前絶後‼︎』 富士見書房 1994
ラノベ奇書。高校生の雄一は幼なじみの徳湖から受け取った手作り弁当を食べると超人的な能力を得た。実は徳湖は調味魔導の継承者だったのだ。 そして雄一は聴覚を自在に操る落語家や謎の本を読ませて悪い擬似人格を植え付けてくる魔女と戦うことになる。凄ぇ発想!





662.石田夏穂『我が手の太陽』 講談社 2023
溶接工の伊東は自他ともに認める腕利きの職人だったのだが、突如スランプに陥ってしまい、彼にしか見えない幻の検査官にプレッシャーをかけられつつ、初歩的な失敗を多く出してしまう。だが伊東は自らのプライドから更なる仕事を受けたがり…。血と魂を高熱で溶かして。





661.笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』 文藝春秋 1994
夢の中でマグロと恋愛していたら現実で謎の人からの電話でJR鶴見線の海芝浦駅に行けと言われる表題作と、迷い猫を飼い、猫にいた蚤が巨大化し、人間大になった蚤たちが性交し、蚤人魚になった後に、世界が水だらけになる「シビレル夢ノ水」などを所収。





660.桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』 富士見書房 2004
ラノベ3大奇書の1つ。主人公・山田なぎさの中学に転入してきた海野藻屑は、自分のことを「人魚の姫」と言う痛い子で、とにかく嘘ばかりついて、足をひきずっていて、父親からの痣だらけで、そして10月4日にバラバラ遺体になりました。好きって絶望だ。





659.柳美里『家族シネマ』 講談社 1997
主人公・素美の家族は5人いて、とっくに崩壊しているが、妹がこの家族のドキュメント映画を撮りたいと言い、家に本格的なカメラクルーが入る。 形だけの仲よさに辟易する素美は、仕事の関係で老彫刻家を訪ねるが、彼は女の尻を撮影するという変態趣味を持っていた。ヤバい。





658.藤野千夜『夏の約束』 講談社 2000
ゲイカップルのマルオとヒカル。男から女になったたま代。売れない小説家の菊江。不倫で苦しむかおる。OLののぞみ。彼らは差別や嫌がらせを受けた過去を持つ。そして8月になったらキャンプに行こうと約束する。娘がピーポくんを盗む「主婦と交番」併録。少数者の夢と毎日。





657.鈴木涼美『浮き身』 新潮社 2023
女は19年前の大学生時代にマンションの11階にある開業間際のデリヘル事務所に通っていた思い出がある。そこでは嘔吐したり薬物を吸ったりヤクザが来たりピザを食べたり店を命名したり性交したりした。キャバ嬢である自分は風俗嬢ではないため本来は部外者である。そして今は。





656.辻仁成『海峡の光』 新潮社 1997
青函連絡船の客室係だった斉藤は今は少年刑務所の看守をしている。そこに子供時代のいじめっ子である花井が受刑者としてやって来た。立場が逆転した今、斉藤は必要以上に監視し、自らの暗き言動を花井にぶつける。花井も刑期を伸ばすような怪しい動きを見せて…。執着と解放。





655.吉田修一『パーク・ライフ』 文藝春秋 2002
知人の飼うリスザルの世話をするためにマンションの部屋に泊まる男は、電車でたまたま出会った女と日比谷公園で駄弁ることを楽しみにしている。雑貨屋で人体模型を見たり、気球おじさんと話したりする。 同僚の望月元旦という脳なし巨根男が出てくる「flowers」併録。





654.藤沢周『ブエノスアイレス午前零時』 河出書房新社 1998
雪山のホテルで温泉卵を作るカザマは団体客の1人である盲目の老嬢ミツコと出会う。梅毒のために耄碌したとされる彼女のためにタンゴを誘う彼の心は。 スーパーの屋上にある児童遊園地で乗り物を点検する青年がポニーを開放する「屋上」も収録。他者と小宇宙。





653.吉村萬壱『ハリガネムシ』 文藝春秋 2003
高校教師である慎一はサチコというソープ嬢と付き合うことに。 シャブ中で大量のリスカ痕のあるサチコと徳島県への旅行をしながら慎一は彼女という人体に対してひどいことがしたくなってくる。 行きつけのスナックで知り合った男女と旅に出る「岬行」併録。狂作すぎる。





652.温又柔『祝宴』 新潮社 2022
67歳の明虎は台湾で育ったが、会社の都合で妻の玉伶とともに日本に移住し、30年ほどになる。 2人の娘は日本で育ち、次女が結婚式を挙げた夜、長女は同性愛であることを告白する。 明虎はこの家族が「普通」でないことに混乱し、自分の祖先達のことを思い出す。ボーダーを祝おう。





651.尾久守侑『国境とJK』 思潮社 2016
2017年中原中也賞候補の詩集。 君はこれから僕の知らない歌を歌う「海街」や、解けない催眠術を抱きしめたい「夏島」や、戦うための電車に今乗るところの「透明な戦争」や、命のない戦闘機が海を渡る「琴子へ」や、私たちは国境を目指す表題作など21篇。制服とエモさ爆発。





650.野々井透『棕櫚を燃やす』 筑摩書房 2023
34歳の春野は妹と父との3人暮らしだが、その父が癌で余命1年と発覚する。 そして鰆の味噌漬け焼き、鮎の塩焼き、すき焼き、羊羹などを食べる3人の生活を描いた表題作。 町の年配の人達への相談係をする主人公と並木さんの「らくだの掌」も収録。いつかのための悲哀を。





649.児玉雨子『##NAME##』 河出書房新社 2023
かつてジュニアアイドルだった雪那は今は大学生で就活をしている。「両刃のアレックス」という少年漫画の夢小説にハマり、美砂乃ちゃんという友達との思い出や、児童ポルノに対する世間の目をめぐって必死に生きもがく。自分の過去を捨てながら同時に守ることはできるのか。





648.樺山三英『ハムレット・シンドローム』 小学館 2009
ラノベ奇書。演劇中の事故以来、自分をシェイクスピアのハムレット王子であると妄想する男の城の元に人々が集まる。彼らも城のルールでハムレットの登場人物を演じていく。 ミステリやメタフィクションやループ物を孕みながら、5人の語り手から真実を探る。





647.山野辺太郎『こんとんの居場所』 国書刊行会 2023
生物か島かもわからぬ渾沌島を取材する記者として働くことになる純一。乗った調査船で千夜子という女の子と仲良くなるが…。 ハッカーの少年が父親の勤める防衛省の禁断のシステムに触ったため、東京の人が次々と蒸発していくことに…。 僕もパムッと混ざりたい。





646.山本昌代『緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道』 河出書房新社 1994
四肢機能全廃のために歩くことができない鱈子さん、その姉の可季子さん、ウォーキングを趣味とする父である明氏、そして母の弥生さん。この家族の日常を描く。 江戸の歩行術、学生たちの幻聴、囲碁、そして腫瘍。文学を試みる姉妹達の血の夢。





645.田中慎弥『切れた鎖』 新潮社 2008
家の裏にある教会の女に夫を取られて老婆になっても恨み続ける女3代の表題作や、初めて性交した瞬間に親がスーパーで焼け死んだことを引きずった夫が妻の妊娠をきっかけに発狂する「不意の償い」や、カブトムシの幼虫が土の中に引きこもる「蛹」の3篇。内界と外界を混ぜて。





644.R・D・レイン『好き?好き?大好き?』 みすず書房 1978
精神科医の詩集。64篇。2人の堂々巡りの対話を特徴とする。 息子のことを忘れた父と息子を否定する母。ジャックはジルが不倫していると錯覚して信じられなくなる。君はなぜ黙れないのか。君はなぜ僕に君を助けさせてくれないのか。君は本当に私のことが好き?





643.舞城王太郎『阿修羅ガール』 新潮社 2003
女子高生アイコは金田が好きだけど佐野と性交して後悔した。地元ではグルグル魔人が3つ子をバラバラに殺し、掲示板で調布に中学生狩りが発令。アルマゲドンとなる中、アイコはグッチ裕三と逃げ、顔と手足が増殖する化け物に遭遇。彼女の運命は。ゼロ年代の文学神話。





642.福田節郎『銭湯』 書肆侃侃房 2023
知人の知人と待ち合わせしているとその人が目の前で違う人とどこかに行った。代わりに知らない女が来て、居酒屋とカラオケに行く。友達も合流し、なんや駄弁りまくる。 知らない人と友達の尊敬する人を墓参する「Maxとき」併録。頭おかしい人がめっちゃ出るので頭おかしくなる。





641.又吉直樹『月と散文』 KADOKAWA 2023
10年ぶりのエッセイ集。12年後からの手紙やゾンビや大切な花瓶や昭和最後のヒットソングや龍三とのカレーライスや高1の初日の出や命がけの指導や変わった父母やコロナや独り言カルタや喫茶店のメニューやきたろうさんや綾部や豪蔵鬼龍虎や蜂やマクドの探偵など。ナイーヴ。





640.清水良英『激突カンフーファイター』 富士見書房 2001
ラノベ奇書。正義のヒーロー・カンフーファイター1号2号が、悪を司るマリエ&バギーと戦う話。そこに警察組織も加わるのだが、この小説の肝は1頁に3箇所以上もあるギャグ全振り文体である。マジで大量にあるので滑ってるかどうかも判断不能。ヤバい読書体験!





639.白倉由美『ミルナの禁忌』 角川書店 2000
白楽天ミルナは全寮制の千年國學院に在学している少女。旧校舎から死体が出たという噂を聞き、彼女は翼を生やし人類が消えた核戦争後の100年後に跳んだ。 夏目エリス、ユウナ、ミナイ、ネ・ムルナ、嗚菟妃目、選ばれた仔たち。エヴァとデビルマンを越えた永遠の千年紀。





638.磯崎憲一郎『往古来今』 文藝春秋 2013
5篇の短編集。母が車で見送る話や、京都で動物園に行く話や、ドバイのホテルの話や、2度とこの地に戻ってこない話や、元力士が郵便局で働く話や、旅館で下働きする話や、嘘をつく山下清の話や、ハワイへの日本人移住の話など。 1つの短篇に複数の話が絡み、奥行きが凄い。





637.片瀬チヲル『カプチーノ・コースト』 講談社 2022
会社を休職した早柚はその1ヶ月でビーチクリーンに取り組むことに。 様々なゴミが漂着する浜辺を綺麗にする中で、妙な一期一会もあり、知り合いも増えてきて、たまには失礼な人や鈍感な人もいるけれど、最後はとても良かった。ボランティア精神をいつも心に。





636.水沢なお『うみみたい』 河出書房新社 2023
生物を孵化させるバイトをしているうみはみみと同棲しながらむむを作っている。人間を愛さないと誓い、性交以外の人の殖え方を模索し、怪獣のバラードを聴く。 他の短篇では姉弟の愛や光の帯型の人類や火の粉と井戸水の話など。人間の代わりにポケモンになりたい純文学。





635.石田夏穂『黄金比の縁』 集英社 2023
会社の人事部で働く小野は就活生の採用を任されている。しかし彼女は会社を潰すために新卒に対する評価軸を「その人の顔のバランス」のみにする。顔のバランスが良い人はすぐに離職するからだ。だが会社側からは採用が上手とされて…。人が人を選ぶテキトー加減の面白さ。





634.ちゅーばちばちこ『金属バットの女』 ホビージャパン 2015
ラノベ奇書。試験官という13体の化け物が何十億人の人間を殺した。それを唯一倒せるのが美少女の椎名有希で、主人公の幽玄は彼女に家族を皆殺しにされた。有希は英雄だから一般庶民を気まぐれに殺す権利を持っている。2人は惹かれ合う。テン年代のエヴァだ。





633.前薗はるか『痕〜きずあと〜』 パラダイム 1996
伝説の電波ゲーのノベライズ。大学生の耕一はいとこの柏木4姉妹が運営する温泉旅館に泊まる。そこで自分が化け物になって人々を惨殺する夢を見る。そしてニュースでその猟奇事件が流れる。果たして。鬼の血を巡る物語。4姉妹と交わるシーンもあるが、妙にシリアス。





632.若竹千佐子『かっかどるどるどぅ』 河出書房新社 2023
女優の夢を捨てられない女性、介護のために自分を生きられなかった女性、非正規の女性、自死を考える男性。 孤立していた彼女らが集う居場所は、ある女性の誰でも入れるようにしたアパートの1室。政治や戦争について考える市民達の力と繋がりを描く傑作。共助。






631.市川沙央『ハンチバック』 文藝春秋 2023
ミオパチーのために背骨が右肺を押し潰す形で極度に湾曲している釈華は、親の遺産やコタツ記事や18禁TL小説で大量の金を持つ。彼女のTwitterアカを知ったヘルパー田中と1つの契約を結ぶのだが…。 書くことには聖性があり、読み終わった我々の心には胎児が産まれ堕つ。





630.ガブリエル・ヴィットコップ『ネクロフィリア』 国書刊行会 2009
屍体愛好者の日記形式で進む。墓場から老若男女の死体を掘り出してきて腐るまで愛する。腐ったらセーヌ川に捨てる。生者で好きな人がいたら「なぜこの人は生きているのか」と思う思考回路。しかし諸々バレて遠くまで逃げた先でも…。ゴスの哲学者。





629.石田夏穂『ケチる貴方』 講談社 2023
極端な冷え性で悩んでいる主人公は人に優しくしたりお金を使いまくるとなぜか体温が上昇することに気づいて会社で人に優しくしまくる表題作と、太ももがいつまでも痩せないから脂肪吸引で全身を痩せさせる「その周囲、五十八センチ」収録。自分の体を憎み続けて愛に転化。





628.福永信『アクロバット前夜』 リトルモア 2001
横書きだが、1ページの1行目が2ページの1行目に繋がり、最終ページの1行目が1ページの2行目に繋がるという謎の造本。 友達が謎の集団から狙われる話や、マイダイアリーをめぐる住居侵入の話や、五郎の恋の話や、校舎で裸になる話など6篇の短編集。新しい読書体験を。





627.ピエール・ギュヨタ『エデン・エデン・エデン』 ペヨトル工房 1997
性交、陰嚢、糞便、性器、放屁、小便、淫売、臀部、吐瀉、排泄、血液、精液、鼻汁、奴隷、山羊、疥癬、駱駝、嬰児。 複数の人物が乱れて交わる描写が改行少なく270ページほど続くヤバめの奇書。物語は全くない。読者を破壊するテクスト。読む拷問。





626.唐辺葉介『PSYCHE』 スクウェア・エニックス 2008
父と母と姉が飛行機事故で亡くなった男子高校生の佐方。彼は亡くなった家族が家で彷徨ってるのを幻視している。存在しない従姉妹の藍子も彼には見えている。絵を描くのもスランプなので従兄弟の駿兄にもらったモルフォ蝶を食べた。そしてクラスメイトは狂った。鬱小説の白眉。





625.磯崎憲一郎『赤の他人の瓜二つ』 講談社 2011
チョコレート工場で働く男の3代記。だがチョコの起源から始まる。 コロンブスがカカオを西洋に持ち込んだり、メディチ家の侍医が暗殺されたり、青年が看護婦に恋したり、妹が作家になって不倫したり、両親が社宅から追い出されたりする。あらゆる相似と接続せよ。





624.稲生平太郎『アクアリウムの夜』 書肆風の薔薇 1990
ラノベ奇書。高校2年生の主人公は友達の高橋と奇妙な見世物小屋に行く。そこで彼らは近くの水族館に謎の地下空間があると知る。そして新興宗教、コックリさん、地下楽園、狂気、金星人霊体からの通信、殺人事件、蛇人、カメラ・オブスキュラ。残酷な1年が始まる。





623.海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』 イーグルパブリシング 2004
伝説的奇書。主人公が目覚めると12人の少女が暮らす学園にいた。そこでは連続強姦事件が発生していて調査することに。事件の再現のためエロゲーのごとき官能表現のオンパレード。そして殺人事件。犯人は誰。ヤバすぎる展開と窮極のオチ。ゼロ年代の墓標。





622.吉増剛造『怪物君』 みすず書房 2016
震災後の風景や言葉や映像を描く幻の詩集。 本文と注釈が分かれ、手書きの文字や、逆さ文字や、記号や、カラーページや絵も入り、歌のように流れ、括弧で括られ、ルビも大小も自由! アリス、アイリス、赤馬、赤城、イシス、イシ、リス、石狩乃香、兎、巨大ナ静カサ、乃、宇!





621.乗代雄介『それは誠』 文藝春秋 2023
高校2年生の誠は修学旅行の自由行動時に日野にいるおじさんに会うことにした。なぜか同じ班の男子3人もついてくることになる。果たして誠はおじさんに会うことができるのか。 最高傑作だ!後日に書かれたという態のテキストが素晴らしい。誠も吃音があったのかもと考える。





620.真行寺のぞみ『血まみれ学園とショートケーキ・プリンセス』 メディアワークス 1994
ラノベ奇書。女子高生・真行寺のぞみはミッキーに貴方はプリンセスですと言われ、学校が肉の塊に襲われ、ピンクの象に助けられ、原始人に告白され、ケーキ屋になり、スーパーガールとなり世界を救う。アリス的な少女の成長譚。でも変。





619.千葉雅也『エレクトリック』 新潮社 2023
1995年、高2の志賀達也は、黎明期のネットでゲイチャットを開き、地元のハッテン場を覗く。 父は取引先の社長のために古いアンプを安く売ることになり、知人である野村さんにアンプの修理を依頼するのだが…。 電気、三角関係、エヴァ、性、世紀末。ラジカルな接続。





618.大道珠貴『しょっぱいドライブ』 文藝春秋 2003
港町に住む34歳のミホが60代の九十九さんと同棲する話。 ミホは劇団のスターである遊さんが好きで、一緒に寝たこともあるが、遊さんは人気なので他に女が多くいる。 反対に九十九さんは小市民で人に金を貸すほど良い人だ。妻もいる。 愛は激しさよりも平和が1番。





617.玄侑宗久『中陰の花』 文藝春秋 2001
僧侶の則道は自ら予言した日に亡くなった拝み屋のウメさんの死をきっかけに霊やオカルトのことに興味を持つ。 知り合いの幽体離脱の話を聞き、自分もウメさんが光となって近くにいるのをどこか感じる。そして成仏のために色とりどりの紙縒でできた網を作る。救済のあり方。





616.児玉雨子「##NAME##」(in「文藝」2023年夏季号)
主人公の雪那はジュニアアイドルとして活動していたが、今は引退して大学生をしている。 同じアイドル仲間の美砂乃と喧嘩したり、今となって過去の活動を児童ポルノとして他人に指摘されたりする。彼女は漫画「両刃のアレックス」の夢小説を読んだ。男性性=命名を巡る傑作。





615.黒田夏子『abさんご』 文藝春秋 2013
2つの書庫と巻貝状の小部屋のある家庭で育った子供の成長と運命を、カタカナのない妙にひらがなに開いた独特すぎる文体で綴った作品。15のエピソードから成る。 単行本版には最後の鬱展開がヤバい「タミエ3部作」も収録。令和にこういうヤバい文体の小説は出ないのかなあ。





614.モブ・ノリオ『介護入門』 文藝春秋 2004
大麻に耽りながら寝たきりの祖母を介護する29歳の俺。心配だけしてシモの世話すらしない親戚や世にも下らぬテレビ番組ばかり見せるヘルパーに呪詛を吐く謎のラップ文体で我々YO朋輩に語りかける伝説の小説。解説は筒井康隆。善意や生活は口先だけでなく行為に現れるぜ。





613.川上未映子『乳と卵』 文藝春秋 2008
大阪に住む主人公の姉が娘を連れて東京にやってきた。ホステスの姉は豊胸手術のために奔走し、娘は緘黙状態で間もなく来る初潮に対して憎しみを持つ。 3人の女が織りなす独特の大阪弁の文体が女性性をめぐる内容とマッチする。テーマは『かか』や『N/A』へと引き継がれる。





612.柴崎友香『春の庭』 文藝春秋 2014
太郎は世田谷のアパートに住んでいて、同じ住人の西さんは隣に建つ水色の家に興味があった。かつて「春の庭」という写真集があり、その家が舞台だったのだ。2人はその家の住人と仲良くなり、まだ見ぬ風呂場に突入するのだが…。1つの街を上空や地下や過去からスケッチしよう。





611.伊藤たかみ『八月の路上に捨てる』 文藝春秋 2006
30歳手前の敦は自動販売機を補充する仕事をしている。同僚で男勝りの水城さんには離婚経験があり、敦は彼女に恋人の知恵子との出逢いからすれ違い、そして別れまでを話すことになる。敦は離婚届を明日提出しなければならない。包容力のある男にならねばと思う。





610.津村記久子『ポトスライムの舟』』 講談社 2009
29歳のナガセは違う仕事を重ねて金を稼ぐ日々。163万円で世界1周できるプランを見つけて貯金することに。そこに離婚寸前の友人が娘を連れて家に来た。金の支出が気になっていく表題作と、会社の上司にパワハラされる「十二月の窓辺」も併録。仕事と生活の調和を。





609.青山七恵『ひとり日和』 河出書房新社 2007
20歳の知寿は親戚の71歳の吟子さんと一緒に住むことになった。知寿はお婆さんを不思議な生き物と思いながら、失恋し、そして新しい恋を始める。吟子さんもダンス教室のホースケさんと恋してるらしい。うまい年の取り方を吟子さんから教わりたいと思う。成長とは心の移動。





608.長嶋有『猛スピードで母は』 文藝春秋 2002
小4の夏休みに母は家を出て、父の愛人である洋子さんが来て、麦チョコを食べたり、山口百恵の家を見に行ったりする「サイドカーに犬」と、小6の慎のたくましい母は恋人を作り、水族館に行ったり、梯子で4階分を登る表題作。 笑いあり涙あり、これぞ純文学の感動作だ!





607.鹿島田真希『冥土めぐり』 河出書房新社 2012
母と弟の欲望に振り回され、金銭や心を搾取されてきた奈津子は彼らから逃れるために今の夫と結婚した。しかし夫は脳の病気のために今は車椅子生活に。 今、夫婦は保養地のホテルに来た。そこは過去に家族で来たことのある場所。彼女はそこで何を思うのか。聖なる発作。





606.小野正嗣『九年前の祈り』 講談社 2014
35歳のさなえは子供の希敏を連れて実家に帰ってきた。希敏は引きちぎられたミミズのようにパニックを起こすので手に負えない。やがて彼女は9年前に町の人々と行ったカナダ旅行でのみっちゃん姉の聖なる祈りを思い出す。 田舎の良くも悪くも人懐こい隣人に救われる感覚。





605.中村文則『土の中の子供』 新潮社 2005
27歳のタクシードライバーの私は親に捨てられ、養父母に生きながら土の中に埋められた過去を持つ。 暴力を受けることを望み、高い場所から落ちる想像をする。そして同棲する女に優しくしてやりたいと思う。 通り魔になる「蜘蛛の声」併録。死の欲動と暗い小説について。





604.絲山秋子『沖で待つ』文藝春秋 2006
同期だった太っちゃんが死んだので前からの約束として彼のHDDを破壊する表題作や、無職の私が見合いをすると最悪の男が来た「勤労感謝の日」や、政治家で作家でもある男が総理大臣の弁当を食べたので孤島の原発に飛ばされる「みなみのしまのぶんたろう」を収録。感動傑作!





603.垣根涼介『極楽征夷大将軍』 文藝春秋 2023
足利尊氏は波のようにフワフワしながら生きていた。弟の足利直義や執事の高兄弟の助けもあり、北条家を転覆させ、後醍醐天皇も退け、室町幕府を開いた。だがその後には愛すべき弟・直義との因果な戦いが待っていた。 エゴを持たない方が生き延びる、天下を頂く方法。





602.冲方丁『骨灰』 KADOKAWA 2022
自社ビルへのデマを調べるために建物の地下深くに降りた松永は四角い穴のある空間に出た。そこには男が縛られており助けるが、その瞬間に松永は祟られた。 自宅の妻と娘も怪異に苦しみ、彼も亡き父を騙る亡霊に洗脳される。どうしたら助かるのだろうか。浸食。もっと生贄を。川。





601.高野和明『踏切の幽霊』 文藝春秋 2022
妻を亡くした雑誌記者の松田は、とある踏切に出るという女の幽霊を調べることに。 その踏切付近では1年前に殺人事件があり、暴力団が関わっているらしい。彼は真相に近づいていくのだが、おぞましい心霊現象に襲われていく。 謎が解けていく展開が面白すぎた。怖すぎた。





600.石田夏穂「我が手の太陽」(in「群像」2023年5月号)
溶接工の伊東は工事現場での成功率が高かったが、最近はスランプのためにミスが多くなる。 幻の検査官を見るほどに失敗が怖くなり、そして自らの首を絞めるような事件を起こす。 彼はなぜ堕落したか。プライドのせいか年齢のせいか。火を盗んだプロメテウスだったのか。





599.山下澄人『鳥の会議』 河出書房新社 2015
中学生のぼく(篠田)と神永と三上と長田は友達だ。ぼくがまさしから殴られたので仲間が竹内に報復しに行った。神永は父親から暴力を受けているので父親を殺して死体をバラバラにするという夢を見る。ぼくは海辺で大人になった自分と会う。「鳥のらくご」併録。何で泣いとん。





598.月村了衛『香港警察東京分室』 小学館 2023
香港でデモを扇動したというキャサリン教授が日本に来ているので、中国の警察官5人と日本の警察官5人が協力して事件を解決する話。 犯罪組織の抗争に巻き込まれてドンパチするし、国家の陰謀もあって手に汗握る。 キャラが立っていて面白い。ちびっ子管理官が凄い。





597.永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』 新潮社 2023
2年前、芝居小屋の前で美少年・菊之助が博徒・作兵衛を斬った。父を殺めた男への仇討ちである。 そして今、ある人物が芝居小屋の人々にその仇討ちの様子と彼らの人生についてインタビューをし、真相を探る話。 謎は途中でわかったが、悲しい人生ばかりで泣けた。





596.乗代雄介『十七八より』 講談社 2015
ある高校2年生の少女の記録。 体育教師との怪しい関係。姪の逆さ睫毛を抜く叔母。水族館の歴史。読書会での世阿弥。家族と焼肉屋へ。老婦人の受付時間。兎の3本の牧草。 ストーリーは希薄だが、持って回った文学的な言い回しが洒落てて面白い。大人を愛したいティーンに。





595.温又柔『真ん中の子どもたち』 集英社 2017
台湾人の母と日本人の父の元に生まれた琴子は中国語を勉強するために上海に留学する。そこで出会った自分と似た境遇の仲間たちと友情を結ぶ。 中国と台湾の関係や、ハーフに生まれたことの悩みや、母語を巡る言語的な板挟みなど、きわめて越境文学的。愛の子供よ。





594.朝吹真理子『きことわ』 新潮社 2011
貴子と永遠子はかつて親の別荘で出会った。貴子は8歳で永遠子は15歳だった。 それから25年。別荘は取り壊されることになる。33歳と40歳になった2人は再会する。 3億5千年前のデボン紀から時間は流れている。チェスの曲。後ろ髪が引っ張られる。そんな夢を2人は見ていた。





593.石田千『家へ』 講談社 2015
美大生のシンは、母と内縁の夫との間で育った。実の父も近くの島にいて、つまり2人の父親がいる家庭に複雑な思いを抱く。 今は上京して最も尊敬する先生に彫刻を教わっている。将来ドイツに留学したいとの思いを親に伝えるのだが…。 地元の仲間と悩める青春。海辺の町。爽やか。





592.山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』 河出書房新社 2004
19歳のオレと39歳のユリが恋する話。女には夫がいるので不倫なのだが、男の目線で書かれるので青春チック。 2人は美術の専門学校の教師と教え子の関係。絵を描いたり、鍋を食べたり、イチャイチャしたり。 男と女って違うんだなと思った。寂しさの実験。





591.いとうせいこう『想像ラジオ』 河出書房新社 2013
3.11後に樹上から死者に向けてラジオを流す男がいた。DJアーク。彼もまた死者だった。 自分の妻や子供を探すために我々の想像力を媒体にしてオンエアを続ける。 現実でもそのラジオが聞こえる者もいる。そして死んだ妻と会話する作家の存在。 全ての鎮魂歌に捧ぐ。





590.田口賢司『メロウ』 新潮社 2004
エドとパトリシア、アダムとイブとポチ、伝書鳩のサムとカーリーン、ニックとダイアン、シェリルとジェフ、死とマイケル・ジャクソン。 様々なカップルのエピソードと会話がごた混ぜになり、筋という筋がないナンセンスでメロウな物語。無上。 世界中の男女と神のための小説。





589.松尾スズキ『もう「はい」としか言えない』 文藝春秋 2018
初老の劇作家・海馬五郎はフランスの「世界の自由人5人」に贈られる賞を受けるため、ちょいダメのイケメン通訳・聖とパリに向かう。だが海馬の心配性が爆発し、そして賞のヤバい秘密も明かされる。脱力系。 海馬の子供時代の「神様ノイローゼ」も併録。





588.又吉直樹『火花』 文藝春秋 2015
売れないお笑い芸人の徳永は花火大会で出会った芸人の神谷を師匠とした。2人はお笑いについて真剣にぶつかっていく。 しかし神谷が借金などで堕落し、徳永はこれからの芸人としての道を決断しなければならなくなる。 現実はままならないねえ。人生とはシリアスとギャグの配分。





587.戌井昭人『ひっ』 新潮社 2012
作曲家だった叔父のひっさんが亡くなり、甥の主人公は遺品を全て燃やすことにした。 ニートだった彼は叔父のギターを勝手に売った金でネパールを旅したこともある。 叔父の喪に服すために近くのスナックで飲み、気球おじさんに謎の薬を飲まされる。テキトー男の死は泣いちゃう。





586.佐藤厚志『荒地の家族』 新潮社 2023
40歳の植木職人の坂井祐治は辛い人生だった。前の奥さんをインフルエンザで亡くし、今の奥さんには逃げられ、10年前の災厄で仕事道具を全て飲み込まれた。今は母と息子との3人家族。地元に戻ってきた友人には闇が付き纏う。祐治は辛い過去を背負って生きていく。泣いた。





585.松浦寿輝『花腐し』 講談社 2000
新宿・大久保の路地裏にある取り壊し予定の古アパートにまだ住んでいる男がいて、主人公の栩谷がその男に出るよう説得する話。 雨の街の雰囲気と部屋に生えたマジック茸で気怠い中、男は死んだ女を思い出す。 中年・青年・少年時代を往還する「ひたひたと」併録。溶ける死生。





584.大石圭『履き忘れたもう片方の靴』 河出書房新社 1994
19歳の青年ヒカルは男にも女にも身体を売る。どんなプレイにも嫌とは言わない。恐れも意志もない。 性器を残したまま豊胸したシーメールを何人も飼うヒムロという男に言われる。俺の両性具有になれ。調教が始まる。 性を追求するには人間をやめないといけない。





583.嶽本野ばら『ロリヰタ。』 新潮社 2004
ロリータファッションを纏う男性作家は雑誌モデルの女の子と出会う。2人はお互いに惹かれ合い逢瀬を重ねる。それが大スキャンダルになる。 背中に着脱できる天使の羽を表参道の露店で売るロリータの「ハネ」も収録。 嶽本野ばらは学生時代に読んだ作家です。救われる。





582.中村九郎『ロクメンダイス、』 富士見書房 2005
ラノベ奇書。六面ダイスという治療施設に、5人の患者と1人のカウンセラーが住む。 恋をしなければ死ぬ少年と恋をすれば死ぬ少女。二重人格の女と戦場で育った男。妹と死神。主人公は皆を救うことができるのか。 エヴァに近い何か。心理学的。心辺警護。心社会。心。





581.沼田真佑『影裏』 文藝春秋 2017
岩手の地で友人ができた主人公。一緒に釣りに行って魚を食べた。その友人は金の無心に来る。そして東日本大震災で行方不明になった。 文庫本では他の2篇も収録。不思議な結婚話と海で陶片を拾う同性愛の話。 渋い小説だ。ここまで率直なリアリズムは最近ではないかも。影と光。





580.上田岳弘『引力の欠落』 KADOKAWA 2022
ある会社の最高財務責任者だった女性は会社の破産をきっかけにマミヤという男に誘われて1つの部屋を訪れる。 そこでは祈り・壁・エロス・錬金・遠方・効率・運命・斥力・引力という9つある世界のクラスターの担当者たちがポーカーをしていた。 人間からはみ出したい者へ。





579.加藤秀行『キャピタル』 文藝春秋 2017
コンサル会社に7年勤めた男が褒美として1年間の休暇をもらっている時に、先輩の依頼で、入社予定だった優秀な女性がなぜ会社を辞退したのかという不可解な謎を解くためにバンコクに行く話。 ビジネス用語で語られる文体が面白い。双子や図書館やデータセンター的な世界。





578.乙一『GOTH モリノヨル』 角川グループパブリッシング 2008
映画にもなった名作『GOTH』のスピンオフ作品。短篇1つと写真集から成る。 人の残酷さに惹かれる女子高生の森野夜は、7年前に女の死体が発見された山奥を訪れる。そこにはその殺人犯がいて自分の写真を撮ってもらう話。 学生時代の僕がハマってた世界観。冷たさが死的。





577.リンド・ウォード『狂人の太鼓』 国書刊行会 2002
120枚の木版画から物語を読み取る、文字のない小説である。 奴隷商人の男は人々を攫って金を儲けていた。その際、現地の太鼓を奪って家に飾った。 男の息子は本を読む人で、優れた論文で社会的に認められるが、その家族には厄災と死が訪れる…。呪いは子孫まで。





576.磯﨑憲一郎『世紀の発見』 河出書房新社 2009
少年は川の対岸に巨大な機関車を見た。池ではマグロのように大きな鯉を見た。 保健所から帰ってきた愛犬、行方不明の友達、そしてナイジェリアへの派遣。それらの意味は?誰が仕向けた? 川を眺める画家の短篇「絵画」も併録。そのことは誰にも言うなと心の自分が叫ぶ!





575.石黒達昌『平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、』 福武書店 1994
北海道の神居古潭にのみ棲息していたハネネズミは1989年に絶滅した。その当日まで2人の研究者が世間に隠してまで研究をしていた不老不死の謎とは。 C型肝炎と癌告知に関する2篇も併録。医学論文を小説に。





574.ぶらじま太郎『東京忍者 総集編』 富士見書房 1990
ラノベ3大奇書の1つ。内閣の特殊任務を司る東京忍者は人に知られず悪と戦う。 だが東京忍者とライバルのSYADO隊やお嬢様隊も登場し、話は大いに脱線する。 そして作中に時々現れる作者はこの小説を書きたくないので編集者と麻雀に行く。ノリと勢いとメタと破綻。





573.田中慎弥『共喰い』 集英社 2012
17歳の遠馬は彼女の家で性交ばかり。彼の父親は性交する時には女を殴る。だから父親のようになるのではと恐れている。義手の母と今の母の2人の母親。雨の日の祭りが近づいてくる。父に抗うエディプスの物語。 曽祖父のためにチヌを釣りたい少年の話の「第三紀層の魚」も収録。





572.本谷有希子『異類婚姻譚』 講談社 2016
専業主婦の主人公は自分の顔が夫の顔と似てきたと思う。仕事が忙しいらしい夫は家で何もしたくないとスマホゲームばかり。夫の顔が弛緩して人の顔をしなくなったのを見て妻は焦るが…。 粗相する猫を捨てる近所の人や蛇ボールの話も印象的だ。男は棄てられないように。





571.町屋良平『しき』 河出書房新社 2018
高校2年生の主人公は夜の公園でダンスを始めてみた。家では弟が反抗期で、引きこもりの友達には子供ができた。クラスでは男友達と女友達がそれぞれ好きになる。自分はまだこの感情を言語化できない。肉体として処理できない。 町屋良平は身体の使い方がテーマとして素晴らしい。





570.埴谷雄高『不合理ゆえに吾信ず』 月曜書房 1950
詩・アフォリズム集。詩人の谷川雁との往復書簡も付。ぷふい! 「薔薇、屈辱、自同律、つづめて云えば、俺はこれだけ」「大宇宙を婚姻せしめる同質。それを吾々は認めねばならない」「洗いざらいの誹謗の後に何ものかが残っているとすれば、矢張りお前も幽霊さ」





569.高原英理『詩歌探偵フラヌール』 河出書房新社 2022
メリとジュンが古今東西の詩歌にまつわる様々なものを探す連作短編集。 萩原朔太郎、大手拓次、最果タヒ、ランボー、ディキンスン、左川ちか、林檎料理、永遠、きのこ、モダニズム、デンマークの森。 この文体が凄い!このゆるふわ耽美な文体こそ詩的遊歩である!





568.甘耀明『神秘列車』 白水社 2015
台湾作家の6篇の短編集。祖父が乗ったというダイヤにない列車を少年が探す表題作や、土地の神様が夜遊びするので村長が神様のために妾を娶らせる話や、お話好きな祖母のいくつかのエピソードや、アミ族の2人組が商人から鹿を買う話など。全体的に愉快。異国情緒もあって好き。





567.大谷朝子『がらんどう』 集英社 2023
主人公は卵子凍結をしているが、男と手を握ることすら気持ち悪いと思ってしまう。恋愛感情を抱いたことのない自分を変えたいのだが…。 友人は3Dプリンターで亡くなったペットのミニチュアを作っている。主人公は彼女とルームシェアをすることに。色んな人がいてもいい。





566.ジョー・ブレイナード『ぼくは覚えている』 白水社 2012
著者の少年時代を「ぼくは覚えている」から始まる大量の短文で綴った作品。 1950年代のアメリカン・ポップカルチャーや芸能人などローカルなものも数多く描かれる。 さらに語り手はゲイであり、思春期の性の目覚めもあり、1つの自分史として興味深い。





565.新胡桃『何食わぬきみたちへ』 河出書房新社 2023
高校の時に特別支援学級の生徒を虐めていた生徒がいた。主人公の友人はそれを止めた。周りの生徒たちは白けた。 もう1人の主人公には知的障害の兄がいる。不登校になりカウンセリングに通う自分は兄を愛しているか。 他者の痛みを我が事として引き受ける生き方を。





564.乗代雄介『本物の読書家』 講談社 2017
川端康成からの手紙を持ってるらしい大叔父を常磐線で老人ホームまで送る主人公の隣に座る謎の大阪弁の男と文学談義をする表題作と、サリンジャーや宮沢賢治に関する大学のゼミで『南方録』を愛読する間村という美少女と出会う「未熟な同感者」の2篇。本物になりたい。





563.滝口悠生『愛と人生』 講談社 2015
「男はつらいよ」に出演した子役・秀吉だった男が27年後に美保純と旅に出る表題作。寅さんの劇中の話と現実とが交錯するメタ構造。それぞれの人生が味わい深い。 主人公夫婦の近所にいる愉快な人々との交流譚である「かまち」と「泥棒」の連作短編も収録。小説という快楽。





562.上田岳弘『太陽・惑星』 新潮社 2014
違法の赤ちゃん工場を視察する国連調査団と人類の第二形態である田山ミシェルが太陽を金に変える大錬金を行う「太陽」と、全てが観察可の最終結論である私と人類全てを肉の海へと変える最高製品を駆動させるカーソン氏との戦いを描く「惑星」の2篇。未来の新しい人間像。





561.磯﨑憲一郎『終の住処』 新潮社 2009
製薬会社に勤める主人公は結婚したが、妻はいつも不機嫌だった。男は多数の女と浮気をし、妻は娘を出産。家族が遊園地の観覧車に乗った後、11年間、妻は口を利かなくなった。 少年が蛇の抜殻を見つけ、男がボタンを探す「ペナント」も併録。世界の時間そのものが主人公。





560.小山田浩子『穴』 新潮社 2014
夫の転勤に伴って夫の実家近くに移住した主人公。道にいた謎の黒い獣を追って穴に落ちると、引きこもりの義兄と出会った。義祖父が亡くなり、主人公は町の一員となる。 いたちの害に困ったり妻が出産したりする友達との交流を描く連作2篇も収録。日常から異界を覗ける目を持つ。





559.木村紅美『夜のだれかの岸辺』 講談社 2023
19歳の茜は89歳のソヨミさんと添い寝するアルバイトを始める。 茜はかつて好きなバンドのために京都を訪れていたが、あるバーの隣室で男に襲われるとの噂を聞く。ソヨミさんは75年前に別れた同郷の人を見つけようとする。 過去作と似て人間関係の臆病さがテーマだ。





558.ヴィルヘルム・ゲナツィーノ『そんな日の雨傘に』 白水社 2010
46歳の無職の男は支給された靴を試し履きして報告書を出すことで小銭を稼いでいる。そして散歩中には元カノや知人の女性達と出逢うのだが…。自分自身に生きる許可を出せずにいる綿埃と化した人生を男は変えられるのか。失意と希望。最後が好き。





557.鈴木清剛『ロックンロールミシン』 河出書房新社 1998
主人公の賢司は会社に入るが、毎日が虚しくなって辞職する。その一方で友達3人は自分達で服飾のインディーズブランドを立ちあげていた。賢司も手伝いなどをするのだが、そのイケイケのノリについていけない。どうする賢司。デタッチメントからの解放だと思う。





556.宮内悠介『カブールの園』 文藝春秋 2017
過去にイジメを受けたトラウマをVRマシーンで治療する日系3世の女性レイは自分のルーツを探るために日系1世の祖父母が入っていた強制収容所に行く表題作と、父が行方不明となりプロレスラーになった姉と5歳の主人公がNYで生活する「半地下」の2篇。少数者とシャッフル。





555.中原昌也『あらゆる場所に花束が…』 新潮社 2001
小林に脅されて地下で絵葉書を作らされる徹也は寂れたテニス場で殺人のリハーサルを行う。 熱気球が趣味の関根にインタビューするルポライターの岡田は美容室の恵美子と関係を持つ。 血を吸うバキュームカー、ズタズタのノート、園芸。筋のない物語、問題作。





554.ペ・スア『遠きにありて、ウルは遅れるだろう』 白水社 2023
韓国異端作家の長編。3つの物語。1つ目は記憶喪失の女性が巫女に会う話。2つ目は客を招いた女はコヨーテと俳優が共演するゲリラ戯曲を思いつく話。3つ目はMJという人と交流する話。 3人ともウルという名。共通のモチーフ。並行世界っぽい。難解だ。





553.アレハンドロ・サンブラ『盆栽/木々の私生活』 白水社 2013
チリ作家の2篇。恋人のフリオとエミリアはプルーストを読んだふりして交わった話。フリオは大作家の清書作業を任されるが、それは嘘で。そして死。 文学講師のフリアンは妻が絵画教室から帰って来るのを待つ話。娘への愛がある。精神性の強い植物。





552.ロベルト・ボラーニョ『通話』 白水社 2009
チリの作家ボラーニョの14の短編集。 文学賞に応募して知り合った作家との友情の話や、大作家を批判した小説をその作家に褒められる話や、クーデターに関わった2人の刑事が会話する話や、隠居したポルノ男優を好きになる女優の話など。詩人や落伍者の人生に憧れる。





551.ドナル・ライアン『軋む心』 白水社 2016
アイルランド作家の小説。語り手が21人いる。 とある建設会社の社長が社員の保険料を着服していた。リーダーのボビーは自ら会社を立てて尻拭いをする。 しかし同時に町では殺人と誘拐がそれぞれ起こった。犯人は誰なのか。 人間関係に雁字搦めになった人々の交差点。





550.デニス・ジョンソン『ジーザス・サン』 白水社 2009
アメリカ作家の11の短編集。主人公が共通と考えられ、薬中アル中暴力当たり前の男は、ヒッチハイク中に事故に巻き込まれ、銃殺された死体を運び、電線を盗み、なのに病院で働き、浮気する作家。 破滅的な小説だが救いもある。生きることに必死にもがく美。





549.オラシオ・カステジャーノス・モヤ『無分別』 白水社 2012
男はある国の軍隊による先住民虐殺の報告書を校閲する仕事を受けた。だがその凄惨な描写により精神は参り、またその報告書を公開してほしくない軍隊の将校が自分を狙っているのではないかと身の危険を感じる。笑えるシーンもあるが、最後はヤバすぎ。





548.多和田葉子『犬婿入り』 講談社 1993
ドイツに留学した主人公の道子が多数の国に対する偏見によりアイデンティティを失う「ペルソナ」と、町の学習塾にいる風変わりな北村先生の元に太郎という犬男がやってくる表題作の2篇。 色んな外国人が出る日本の小説って少ないから読んでみたい。どちらも風聞が関わる。





547.ハサン・ブラーシム『死体展覧会』 白水社 2017
イラク作家による14の短編集。 死体を並べる謎の芸術家達の表題作や、死者から優れた小説が送られる「軍の機関紙」や、ナイフを消したり出したりする能力の「アラビアン・ナイフ」や、攫われて過激なビデオに出演させられる「記録と現実」など。徹底的な暴力。





546.アティーク・ラヒーミー『悲しみを聴く石』 白水社 2009
アフガニスタン亡命作家によるゴンクール賞受賞作。 頭を撃たれて植物状態になった夫を看病する妻。彼女は夫にこれまでの人生を話し続ける。そして1人の若者が彼女の元を訪れる。 邪魔されずに語ることの力動。話を聴き続けた石は最後に割れるという。





545.柄谷行人・浅田彰など『必読書150』 太田出版 2002
現実に立ち向かう知性のためのカノン(正典)150冊が紹介されている。 それぞれ人文社会科学50冊、海外文学50冊、日本文学50冊のリストがあり、そして更にその他の参考テクスト70冊も付録される。 岩波文庫系が多いが、現代思想やレムや野坂昭如や江藤淳もある。





544.アルベルト・ルイ=サンチェス『空気の名前』 
白水社 2013
メキシコの作家がモロッコの港町にいるファトマという女性の悩みを描く。 彼女は公衆浴場で出会ったカディヤという女性に恋をしていた。カディヤは身を売られ、売春船により各地で働かされていた。そこに2人の男が策略を巡らす。運命のクロスロード。





543.パトリク・オウジェドニーク『エウロペアナ』 白水社 2014
現代チェコ文学の作家が20世紀のヨーロッパをコラージュ的に概観する。 世界大戦が2回行われ、戦車や毒ガスにより人間が最も殺された世紀。 避妊、精神分析、優生学、ジェノサイド、絶滅収容所、原子爆弾、バービー人形、共産主義。21世紀はいかに?





542.ディーノ・ブッツァーティ『モレル谷の奇蹟』 河出書房新社 2015
聖女リータの奇蹟を描いた奉納画という設定の絵が39枚と、その歴史的状況の記載もある。 緑色の鯨、空飛ぶ円盤、火山猫、頭脳蟻、ロボット、小蛇の雲、宇宙人などに襲われる人々を救う聖女。 絵も作者によるもの。UMA的な内容は刺さる人には刺さる。





541.村上春樹『街とその不確かな壁』 新潮社 2023
少年と少女は恋をした。彼女の本体は8mの壁に囲まれた街の図書館で夢読みの手伝いをしている。のちに主人公は夢読みとなる。 そして対となる現実の図書館では謎めいた館長とイエローサブマリンの少年に導かれて主人公は再び恋をする。誰が誰の影なのか考えたい。





540.最果タヒ『グッドモーニング』 思潮社 2007
2008年中原中也賞受賞の詩集。 支配されていたものに戻る「0」や、私の子供が1人昨日減ったの「夏のくだもの」や、生まれた時から表現者だから愛さなくてもいい「苦行」や、未来派の話をしましょうの「世界」や、凶器なんてどこにもないの「愛」など30篇。新感覚。





539.蜂飼耳『顔をあらう水』 思潮社 2015
2015年鮎川信夫賞受賞の詩集。 パレオパラドキシアの回遊の「骨格散歩」や、生者の心はいつも新しい「顔をあらう水がほしい」や、細胞壁を出入りする水に浸される「籠」や、あらゆる主語が迷子になる「貝塚さがし」や、荒地を沃野と読み替える「荒地を」など28篇。太古。





538.川上未映子『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』 青土社 2008
2009年中原中也賞受賞の詩集。 怒られるから蟻を殺さない私ではなく蟻を殺したくない私でいたい「心はあせるわ」や、卵を生む手首は髪の毛の中の「ちょっきん、なー」や、過去に交わった女の名を聞きたい「告白室の保存」など7篇。うっとり。





537.暁方ミセイ『魔法の丘』 思潮社 2017
2017年鮎川信夫賞受賞の詩集。 深海から突き出す噴射孔の「生態系」や、遠い野原では火の手があがる「秋の星」や、恨み言は速やかに液体に変わる「用水池」や、孤独感は同じ所に停滞しない「ワールドドーム」や、恋愛より棚引くのは憧憬の「吉祥」など22篇。マジカル感。





536.和合亮一『AFTER』 思潮社 1998
1999年中原中也賞受賞の詩集。 カム・オン・ルイーズ!の「COME」や、1分後にまた電話をしますの「空襲」や、あの三毛猫が早く死にますようにの「ヌード・ツアー」や、溺死する兄は切手で僕は野球だった「電気病院」や、プフ・アアアノネの「包帯」など16篇。言葉のくねる詩。





535.岸田将幸『亀裂のオントロギー』 思潮社 2014
2014年鮎川信夫賞受賞の詩集。 何も分からないということを徹底して分からないこととして捉える「新しい時代の恋人」や、私たちの所在の灰色性から目を逸らさない「愛情身体」や、時に詩人のように時に勤め人のようにの「一秒」など14篇。詩を意識するための詩。





534.須永紀子『時の錘り。』 思潮社 2021
2021年読売文学賞受賞の詩集。 レビヤタンに追われた君の「きみの島に川が流れ」や、ギュイィーと鳴く鳥を追う「バルバロイ」や、川に属する者に帰還を促す「緑の靴」や、心は狭い径を行きたがる「中庭へ」や、眩暈の先にある未来の「広野」など20篇。心の時間を顧みる。





533.照井知二『夏の砦』 思潮社 2021
2022年中原中也賞候補の詩集。 王権が不意に生き返る「大神」や、野死の先祖を誰が継ぐ「忘れる餓死」や、鉱山の町で日雇の米を食う「川底」や、知らない人を見て逝こうと思う「絶頂」や、どぶろく1杯で鐘を撞く「観音」や、カマキリの首を切る「悦び」など57篇。遠祖の人々。





532.ジェフリー・アングルス『わたしの日付変更線』 思潮社 2016
2016年読売文学賞受賞の詩集。 私の朝はあなたの夜の「時差」や、空白へ改行する「リターンの用法」や、祖母から聞いた「私のアメリカ史」や、私を産んだ母の名前を知らない「親知らず」や、熊と子供がお互い誘う「境界」など34篇。越境する詩集。





531.荒川洋治『北山十八間戸』 気争社 2016
2016年鮎川信夫賞受賞の詩集。 中世の救済院の隣家の明かりが道を照らす表題作や、竹島と側を越えた女の子の「外地」や、羊羹を切る時のように人数を数える「錫」や、4人の子供が切られようとする「赤江川原」や、汚れる雑誌は綺麗な「アルプス」など16篇。歴史と地理。





530.川口晴美『やがて魔女の森になる』 思潮社 2021
2022年萩原朔太郎賞受賞の詩集。 病のために停泊できない「気がかりな船」や、自分を許すために深夜アニメを見る「閃輝暗点」や、原子力発電所が近い海の「遊泳」や、9歳の海外渡航の「ママレード」や、交差点の中心に設けられた「寝台」など17篇。氷砂糖世界。





529.文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』 思潮社 2009
2010年中原中也賞受賞の詩集。 友達と蟻を埋める「戯び」や、人参を料理して食べる「おとこ」や、ランドセルも道連れの「横断歩道」や、靴がなくなって先生に尋ねる「うしなったつま先」や、胎児から詐欺師だった「産声を生む」など24篇。世界への助走。





528.谷川俊太郎『トロムソコラージュ』 新潮社 2009
2009年鮎川信夫賞受賞の詩集。 私は立ち止まらないよの表題作や、問いかけることで答えた「問う男」や、ただ無性に詫びたくなった「臨死船」や、昨日も明日も僕にはない「詩人の墓」や、文様は繰り返すのがいい「この織物」など6篇。作者の長めの詩を集めた本。





527.川田絢音『雁の世』 思潮社 2015
2015年萩原朔太郎賞受賞の詩集。 戦争の匂いは消えてももう遊べない「燕」や、空に白い斑が広がった「孔だらけ」や、口先の挨拶も耐えられない「緑の玉」や、狂った人も頭を休ませる「夜の広場」や、人はどんなやり方をしても救われない「長い橋」など18篇。深く傷つくこと。





526.豊原清明『夜の人工の木』 青土社 1996
1996年中原中也賞受賞の詩集。 僕は生まれて初めて竜を見た「春彼岸」や、僕はいつでも克服しなければならぬ「神戸」や、砂漠化した町で絵が入賞する「飢える子供」や、僕の頭が完全に溶かされた「コスモス」や、詩よりも人生が大事な「低い声」など32篇。登校拒否詩。





525.井戸川射子『遠景』 思潮社 2022
2022年萩原朔太郎賞候補の詩集。 無人島に置く荷物の「水島」や、胸が小さくなっていく「熱は内側から」や、埋立地のアイランドだから人が設置したものばかりの「憂国」や、どんどんクリアになっていく「武庫川」や、誰かの延命を願っている「同じ森」など24篇。遠い場所へ。





524.山﨑修平『ロックンロールは死んだらしいよ』 思潮社 2016
2017年中原中也賞候補の詩集。 10代は溶けて20代は流れ出す「美しい日々」や、全てを台無しにする甘ったれた覚悟の「ぬるい春」や、僕らは初めて出会う「音楽」や、触れれば疼き始める「Bの帰国」や、君といられて嬉しく思う表題作など18篇。リズム。





523.倉石信乃『使い』 思潮社 2018
2019年中原中也賞候補の詩集。 自分のことを言うのは醜いと言われた「ホームシックネス」や、綿を植えた全ての人の「キャラヴァン」や、綱渡りをするが落ちる場所がない「KIOSK」や、腕がちぎれるまで叫べ書けの「使いⅠ」や、祈禱は投石を意味する「使いⅡ」など8篇。敵の血。





522.疋田龍乃介『歯車vs丙午』 思潮社 2012
2013年中原中也賞候補の詩集。 貨物列車は鏡の中に沈む「豆腐冥府」や、立派なすべり台を造れたと思う「犬でもできる。」や、曼荼羅仕立ての蚊帳の穴の「百脚御殿」や、粉でこねられた車道を歩く「蕎麦道拷問」や、輪廻も素直にひと回りの表題作など16篇。ユーモア詩。





521.宋敏鎬『ブルックリン』 青土社 1998
1998年中原中也賞受賞の詩集。 ここでは身分証明も捨て去られる「九月」や、凍りついたペイフォンにコインを入れる「ブリザード」や、関心のない皿に盛られる「銃弾戦」や、2枚の白黒写真の反転の「秘儀」や、日本語学科を消滅させるための「楕円」など30篇。国際的な私。





520.うるし山千尋『ライトゲージ』 七月堂 2021
2022年H氏賞受賞の詩集。 軽石を拾う「浜辺に不良を数えながら」や、未来の大会のポスターを見る「オリンピック」や、猫を轢くと見るべき歌がない「高速船から」や、1万7000円の汚い色の靴の「暮れ方」や、キャパの写真集を返した「返戻」など24篇。シンプルな光。





519.石松佳『針葉樹林』 思潮社 2020
2021年H氏賞受賞の詩集。 fは夏雲の行方を眺める「田園」や、人が輪廻する話を父から聞く「尾ひれ」や、無性のまま妊娠線に触れる「野うさぎ」や、川沿いを走る馬の精神を見たことがある「絵の中の美濃吉」や、汚れた脚はそのまま着水した「浚渫」など21篇。濾過された大気。





518.草野理恵子『黄色い木馬/レタス』 土曜美術社出版販売 2016
2017年H氏賞候補の詩集。 子供は木の箱の中で暮らす「冬/姉」や、きいろい木馬の歌を思う「木馬の足/海岸」や、脚は全ての人を遮断する「夜/公園」や、死んだ僕が死んだ人を悼む「花/束」や、すぐに丸まり動かなくなった「エイ/背中」など25篇。組み合わせの妙。





517.森本孝徳『暮しの降霊』 思潮社 2020
2021年詩歌文学館賞受賞の詩集。 2人の語りを取り戻す「浸種と占星」や、親はいま骨離れが悪いと笑う「豚の首」や、火膨れのした手で印を結ぶ「留具と献体」や、十字の構造から脱出しようとする「写真の水質」や、朝の下血の光の中の「ケムンパス」など19篇。詩の幽霊体。





516.佐々木貴子『嘘の天ぷら』 土曜美術社出版販売 2018
2019年歴程新鋭賞受賞の詩集。 鬼を物置小屋で飼う「飼育」や、望んで生き埋めになる「人柱」や、母とソファを入れ替える「交換」や、トラックに轢かれるループの「台本」や、風は私という物語に泣く「屋上」や、不登校の子の代りになる「備品」など24篇。小説風の詩。





515.佐峰存『対岸へと』 思潮社 2015
2016年中原中也賞候補の詩集。 湾が広がる「連鎖」や、建築が直線を交差させる「影のすむ街」や、鏡の中で膨らむ原色の「眠り支度」や、海原の青い瘤の「硬水」や、舟の上の身体は質量を持たない「背骨」や、あなたでさえ知らない計画に満ちる「捕食」など21篇。廃都を見る。





514.細田傳造『谷間の百合』 書肆山田 2012
2013年中原中也賞受賞の詩集。 孫とトンボの中にいる小人を見る「オニヤンマ」や、孫との戦争が終わる「ぷりちな」や、快楽の谷は近い「年齢を訊く」や、見知らぬ男が孫の代わりに片付ける「かたづけや」や、鹿になると説法が聞けない「転生語り」など34篇。孫と異国語。





513.四元康祐『日本語の虜囚』 思潮社 2012
2013年鮎川信夫賞受賞の詩集。 ちびた鉛筆を握りしめる「他人の言葉」や、ミュンヘンに住む「日本語の娘」や、仮名を1文字ずつだけ使う「新伊呂波歌」や、文字は地上にしがみつく「こえのぬけがら」や、めでたく俺も空に溶けた「虚無の歌」など15篇。言葉遊びの面白さ。





512.岩倉文也『傾いた夜空の下で』 青土社 2018
2019年中原中也賞候補の詩集。 自らの孤独を守る表題作や、仔猫の腸を見る少女の「街の風景」や、無数の廃墟が更地になる「階段」や、路上で僕の唇は裂ける「悪路の先へ」や、色のない植物が占領する「密室空間」や、無残に弾ける夜の「錨」など40篇。怯えと眠気。





511.野村喜和夫『骨なしオデュッセイア』 幻戯書房 2018
幻想小説あるいは長篇散文詩。 ベッドに自らの背骨を置いてきた男の放浪記。女は残された背骨に水をかけて骨栽培をしてメールを寄越す。 男は詩人でもありながら兼業してる雑誌社からリストラされ、ニューハーフの彩香さんと関係する。アルターエゴを探す旅。





510.森本孝徳『零余子回報』 思潮社 2015
2016年H氏賞受賞の詩集。 卜食を見てとる「背走」や、インノコの闕を徽章する「息子と恋人」や、凍籍された時系列に問う「口絵」や、カナカナセミと眦を決する「からかさ連判」や、飴を運んだ折鶴も今は人肌の墓場な「すみつく青山」など15篇。読めないことを目指した詩。





509.永方佑樹『不在都市』 思潮社 2018
2019年歴程新鋭賞受賞の詩集。 感情も人もただの情報である「記号論-春とコバルト」や、複数のルビによって東京の100年を描く「渋谷ディニスクランブル」や、乱歩が朔太郎を回転木馬に誘う「塔と浅草木馬」や、複数の言語が水面を漂う表題作など11篇。古地図のサウダージ。





508.蜂飼耳『いまにもうるおっていく陣地』 紫陽社 1999
2000年中原中也賞受賞の詩集。 夏草の多い廃屋の表題作や、献血と竹林の「アサガオ」や、羊の声とティッシュの「配布の感覚」や、雨戸は誰の物でもない「高菜むすびを」や、浅蜊と椎茸の「午睡」や、我流の五体投地の「となりの火」など15篇。繁茂する詩。





507.三角みづ紀『オウバアキル』 思潮社 2004
2005年中原中也賞受賞の詩集。 虐められて石を積む「低空」や、左手首は傷だらけの「冬のすみか」や、右脳に穴がある「イマワノキワ」や、自傷行為がしたい「妄想癖」や、大量の薬を飲む「ただれた世界」や、弟が超能力者の夢を見る「夜驚」など28篇。メンヘラの美。





506.中村恵美『火よ!』 書肆山田 2002
2003年中原中也賞受賞の詩集。 水銀鉄道が立ち昇る「発熱」や、旅人を待つ義務の「扉」や、リリパットの国に流れる「もう1つの旅」や、ラジウムの「発光」や、コバルトブルーの空の「さかしま」や、ねじ・木と風・鋏・巻くの「〜に関する考察」など22篇。血流と螺旋運動性と。





505.山﨑修平『ダンスする食う寝る』 思潮社 2020
2020年歴程新鋭賞受賞の詩集。 明るい鳥葬の「旗手」や、早く若さを台無しにして来いの「今」や、お前の感情は調度品で終わらない「がさつな帝国」や、君を赦すのは君の「さまようことにした」や、愛は放棄から始まる「未来」など25篇。ポップノイズと光の渾沌。





504.小笠原鳥類『素晴らしい海岸生物の観察』 思潮社 2004
2004年歴程新鋭賞受賞の詩集。 ルビが独特の「私は絵を描いていただけだ」や、ひっひっゼリーの「腐敗水族館」や、緑色の塩味の「怨念が鬱積する」や、鮫と枕草子の「標本は生きている」や、動物は全て動物の「動物論集積 鳥」など15篇。臓物のポエジー。





503.若松英輔『見えない涙』 亜紀書房 2017
2018年詩歌文学館賞受賞の詩集。 逝ったあなたに薔薇の「燈火」や、小さな魂の震えの「楽園」や、言葉は植物に似ている「薬草」や、原爆ドームの「夏の花」や、決して過ぎ去らない日の「見えないこよみ」や、別れは慈しみながら語るがよい「邂逅」など26篇。死者たちへ。





502.山田亮太『オバマ・グーグル』 思潮社 2016
2017年小熊秀雄賞受賞の詩集。 wikiの言葉を並び替えた「現代詩ウィキペディアパレード」や、雑誌ユリイカの目次を切り貼りした「日本文化0/10」や、公園内の文字だけの「みんなの宮下公園」や、オバマと検索したウェブ上の言葉の表題作など14篇。こんな詩もある。





501.大崎清夏『指差すことができない』 青土社 2014
2014年中原中也賞受賞の詩集。 島の新しい健康の表題作や、同じ顔をした娘のカフェの「森がある」や、客に夢の話をする「スナックみや子」や、暗闇を修理する私とあなたの「暗闇をつくる人たち」や、言葉を信じるなの「うるさい動物」など18篇。素敵な詩の影。





500.岡本啓『グラフィティ』 思潮社 2014
2015年中原中也賞とH氏賞受賞の詩集。 人は祈りを持ち歩く「椅子」や、一切れの美しい胸肉の「濃いピンク」や、電線に結んだスニーカーの表題作や、メキシコ中央高原の高い雲の「赤い花」や、灰の落ちそうな一服が美味しい「発声練習」などの13篇。刹那的な酸っぱい風景。





499.蜆シモーヌ『なんかでてるとてもでてる』 思潮社 2021
2022年中原中也賞候補の詩集。 体育後の倦怠と性の「受難」や、間違えれば愛が飛び散る表題作や、全盲の女神とランデヴの「きゃっつあい」や、原爆ドームの脱皮の「カウント」や、なにこれみたいなしーの「ぱり、これ」など28篇。原初的な言葉のろーと。





498.杉本真維子『袖口の動物』 思潮社 2007
2008年H氏賞受賞の詩集。 夜は隠す物があるから暗い「坊主」や、気持ちの悪い愛情で育てる表題作や、切花に水を与えたい「航空写真」や、犬とY原の頭を打つ「果て」や、喉を切られ友情に気づく「貨物」や、許す事は半分殺す「やさしいか」など21篇。詩とは祈りの構図。





497.水無田気流『音速平和』 思潮社 2005
2006年中原中也賞受賞の詩集。 世界が反転し私ハ君ニナル「電球体」や、デボン紀と遠未来の狭間の「ライフ・ヒストリー」や、微分音音楽の「三月道」や、永久落下の道を辿る「烏唄」や、淡水系ヒドラ実験の「音速平和」など22篇。デジタルに名付けられぬものの白い海岸。





496.キキダダマママキキ『死期盲』 思潮社 2006
2007年中原中也賞候補の詩集。 蟹が燃える「見知らぬ男にざくざく」や、内臓の外と外臓の中の「排血」や、生き恥を座布団に「アルミの吊り橋」や、ためらい傷が濡れる「音のない部屋」や、首を折られた鶴の「根にある井戸」など16篇。人は生まれ落ちて言葉の難民。





495.吉増剛造『Voix ヴォワ』 思潮社 2021年
2023年西脇順三郎賞受賞の詩集。 巨魚の心ノ臓と窪窪窪の「とおーく宇宙の窓に」や、石巻の午前の「隅!日和山!」や、隅ッペ!の「桃は桃に遅れ」や、イの姿が顕れる「シシシロシカル」や、利用者さんが入水した「宇宙にゆっくり」など8篇。津波とコロナと裂ける部屋。





494.辺見庸『生首』 朝日新聞社 2010年
2011年中原中也賞受賞の詩集。 言が滑落する「剝がれて」や、言ったら殺される「入江」や、チッタゴンへ旅立つ「夜行列車」や、蟹が臓物を食う「閾の葉」や、黒衣の婆の葬列の「幟」や、矮軀に投石する「ズボズボ」や、36年待った「挨拶」など46篇。反世界からの殺意。神の百年。





493.マーサ・ナカムラ『狸の匣』  思潮社 2017年
2018年中原中也賞受賞の詩集。 小さなお爺さんの「犬のフーツク」や、祖母が蘇る船の「おわかれ」や、砂浜から紙が出る「発見」や、天狗が下着を洗う「石橋」や、池の中の池の「許須野鯉之餌遣り」や、イナゴの「東京オリンピック…」など20篇。日本の風景と異界が。





492.アーサー・ビナード『釣り上げては』 思潮社 2000
2001年中原中也賞受賞の詩集。 メイドインを解放する「タッグ」や、かりんとうを買う「ぼくらの島」や、子供と石飛ばし「自己ベスト」や、墜落死した父の「タックル」や、妻と喧嘩の「辛味」や、耳の聞こえぬ旅行者の「夜の森」など32篇。異国間で移る詩情。





491.長谷部奈美江『もしくは、リンドバーグの畑』 思潮社 1995
1997年中原中也賞受賞の詩集。 双子と有限主義的数学の「タグ」や、バケツ80杯分のアイスの表題作や、狐を阿呆船に乗せる「きつね」や、輸血後に交わる「ボーイ」や、朝子さんと折檻の「臥待」など25篇。 詩人は何も持たず野に倒れる人と作者は言う。





490.須藤洋平『みちのく鉄砲店』 青土社 2007
2007年中原中也賞受賞の詩集。 女性92歳の肩甲骨を触る「貝殻骨」や、血糊のダンベルの「神を追いかける」や、死体を殴る「運動会」や、海に飛び込む23歳の「孤独とじゃれあえ!」や、死者の「いたずら」など20篇。 トゥレット症候群の作者。寂しい暴力性が愛おしい。





489.井戸川射子『する、されるユートピア』 青土社 2019
2019年中原中也賞受賞の詩集。 異国の麺屋に入る「ぼくのビーム」や、子供という怖い時間の「立国」や、ワワワワ界に行く「発生と変身」や、ライトはUFOの「大丈夫、中空で飛ぶ」や、詩があっただけでいい「ニューワールド」など22篇。母から自律する言葉。





488.國松絵梨『たましいの移動』 七月堂 2021
2022年中原中也賞受賞の詩集。 いつもって何の「レモンサワー日和」や、平行世界はセロリの味がする「スロウダイブ」や、最後までユアセルフの「バター」や、先のことは誰にもわからなかった「タイダルウェーブ」など32篇。 海や地底でうるさく鳴るのをそっと覚える。





487.カニエ・ナハ『用意された食卓』 思潮社 2016
2016年中原中也賞受賞の詩集。 人生を台無しにする「名声」や、犬の鎖に繋がれる私の「毬」や、全て祈りは拙い「居留守」や、僅かな生き残りを見る「合羽」や、自らの腸を噛み切る「照明」や、丘の施設内の「枷」など25篇。 切断され拒絶される人類の心を続けて。





486.野崎有以『長崎まで』思潮社 2016
2017年中原中也賞受賞の詩集。 炭鉱の町で生まれた「ネオン」や、スナックに預けられた幼年時代の「繁華街」や、父に連れられた「競馬場」や、喘息に罹っていた「鉄板のかいじゅう」や、新幹線で帰る「長崎まで」など12篇。 長崎と東京を比べる郷愁が良い。ストーリー的だ。





485.暁方ミセイ『ウイルスちゃん』 思潮社 2011
2012年中原中也賞受賞の詩集。 静かに雪は降った「世界葬」や、鞄の中身は死んだ少女の眼差しの「スーイサイド」や、ストレンジャーの「からあるくみち」や、淘汰そして廃線の「リビング」や、黙禱と通過の「埋め火」など20篇。 微生物の液中で息をする人の疾走は。





484.久谷雉『昼も夜も』 ミッドナイトプレス 2004
2004年中原中也賞受賞の詩集。 煮凝りになる女の「イロ目」や、自殺現場を見に行く「フリダシ」や、肉を焦がす匂いと性器の「昼も夜も」や、2001年9月の昼休みの「ランチタイム」や、別れの言葉を言う癖の「ハロー・グッドバイ」など17篇。 高校生の作者の詩。清々しい叫び。





483.日和聡子『びるま』 青土社 2002
2002年中原中也賞受賞の詩集。 8時までに亀は帰る「亀待ち」や、征夷大将軍に選ばれる「駐在」や、酔って乳を触られる「割盃」や、おちぶれもする「平家讃歌」や、難民をテレビで見る「びるま」など39篇。 水色のくまや苗字のある人が多く登場し、妙に江戸的なテーマが新鮮。





482.水沢なお『美しいからだよ』 思潮社 2019
2020年中原中也賞受賞の詩集。 火葬で子宮が残ってた「未婚の妹」や、砂の中の生物が地上に出る1週間の「シェヘラザード」や、手首が透明になる姉の「運命」や、プールを見学する「イヴ」や、父が世界をダメにした「ダナエ」など13篇。 会話が多くある詩体。スター。





481.小島日和『水際』 七月堂 2020
2021年中原中也賞受賞の詩集。 カレーパンと引越しの「広場のある街」や、十日分の荷物と下着の「みずぎわ」や、この椅子とあの椅子の「椅子」や、銭湯で取り間違えた薬指を返す「おかえし」や、弟が美しくなるから父を殺す「父の映画」など21篇。 穴から浸されて痺れる身体性。





480.朝比奈秋『植物少女』 朝日新聞出版 2023
主人公の美桜を産んだ時に脳出血があり、母はそのまま植物状態となった。だから美桜は幼い頃から寝たきりの母を見てきた。 病室には母と同じような患者たちがいた。病院の人や家族の人と仲良くなり、美桜は成長していく。 泣きっぱなしでした。辛いけど素晴らしい家族小説。





479.高山羽根子『パレードのシステム』 講談社 2023
美術家の主人公は祖父の葬式のために帰った実家で、祖父は戦前の台湾で生まれ育ったことを知る。 知人の台湾人が父の葬式のために帰郷するので主人公も台湾まで行くことになるのだが…。 最後の怒涛のイメージ展開は神。顔を巡るテーマも良い。人生のピタゴラ。





478.山下澄人『緑のさる』 平凡社 2012
葬儀屋のアルバイト男が同じ劇団員の男女から裏切られ、海で銃撃事件に巻き込まれたり、鯨を観察する男に出会ったりする話。 これは主人公の1人称なのに、海底の蟹のことや人工衛星のことまで把握し、また夢を多用し描写の時空次元をどこまでも延長する不思議なヤバい小説。





477.篠原一『壊音 KAI-ON』 文藝春秋 1995
薬漬けの少年タキの目には世界が崩れる映像が流れる。主人公のハジメはそれと同調して鳥の卵を探す表題作と、レンとユアンとトキの三角関係の中でカニバリズムの欲をめぐる「月齢」の2篇。 少年同士の結びつきなのでBL的だが、そこに耽美や幻想や廃墟が入り交じる美しさ。





476.山岡ミヤ『光点』 集英社 2018
閉鎖的な町で育った実以子は実家に住んでいるが、母からいつも悪口を言われている。実以子自身は特に感情を露わにしない。 たまに行く裏山でカムトという青年と出会い、神や祈りや妹についての話をする。2人に救いはあるのだろうか…。 神から自分へシフトしたって感じの未来。





475.安部公房『内なる辺境』 新潮社 1971
軍服と軍服のパロディから見る国家の話や、遊牧民と定着民を比べることで国境の在り方を探る話や、カフカから見るユダヤにおける内なる辺境を考察する話など3篇の評論集。 ドナルド・キーンが解説しており、安部公房の無国籍な作風を言及する。内と外は異なるようで同じ。





474.楊逸『時が滲む朝』 文藝春秋 2008
中国の小さな村に生まれた主人公は幼馴染の親友と一緒に都会の大学に入る。 そこでは中国の民主化運動に熱心な先生がいて、主人公も参加していたら天安門事件が勃発。彼らの運命は…。 日本から尾崎豊の音源を入手して聴くシーンがある。切ない。政治的な運動も時とともに…。





473.西村賢太『蝙蝠か燕か』 文藝春秋 2023
藤澤清造の資料を調べるために石川県七尾市に別居を借りる「廻船出航」や、清造の書簡に額を付けようとして大変なことになる「黄ばんだ手蹟」や、清造を再版するために角川や講談社に売り込む表題作の3篇の短編集。コロナ禍の鬱屈や身体の不具合も書かれる。惜しまれる。





472.黒田晶『メイドインジャパン』 河出書房新社 2001
2000年文藝賞受賞作。文藝賞の最大の問題作。 4人の青年がスナッフビデオを見たことにより、仲間のうちの1人を殺そうとする話。 いわゆるスプラッタやグロ系の小説ではあるが、21世紀の開幕前に書かれたのは暗示的。そして日本がテーマってのも興味深い。死と平和。





471.天埜裕文『灰色猫のフィルム』  集英社 2009
母を刺した青年が逃走してホームレスとなる話。 事件はニュースとなっているので、精神的にも追い込まれていくが、猫を飼うホームレスのおじさんがテントを紹介してくれるなど人の優しさに触れる。 エディプス的な感じで、自分のやったことに耐えられるかのテーマ。





470.谷崎由依『舞い落ちる村』 文藝春秋 2009
言葉や数や年齢を絶対視しない村から出てきた主人公は入った大学で文字を重要視する友達ができる表題作はヤバい。 だが併録の「冬待ち」の方が個人的に好き。図書館の司書と仲良くなる話だが、他の登場人物が名前だけ多く出てきて不思議。全体的に精神分析感があった。





469.村上春樹・佐々木マキ『ふしぎな図書館』 講談社 2005
図書館に行った青年は「オスマントルコ帝国の税金の集め方」を老人に尋ねたら、なぜか地下室に閉じ込められることに。このままでは脳みそを吸われてしまうが…。 羊男と謎の少女が出てくるのがいい。最後はもしかしたら母性からの脱出なのかなって思う。





468.阿部和重『グランド・フィナーレ』 講談社 2005
教育映画を撮っていた沢見37歳は実はロリコンで、知り合った女児と関係したり、自分の娘の裸を記録したりしていた。 それがバレて妻に離婚され、接近禁止命令を受け、田舎で無職となる。だがそこで2人の女児と知り合うことに。 20世紀と21世紀を橋架けた作品。





467.遠野遥『浮遊』 河出書房新社 2023
女子高生の主人公は会社経営の男と付き合っていて、彼の家でホラーゲームをする。女性の主人公が東京を歩くが、悪霊に見つかるとゲームオーバー。仲間の男と逃げるのだが、難易度が高く、すぐに捕まってしまう。実は主人公は幽霊で、だから誰からも見えていない。それは現実でも?





466.鈴木涼美『グレイスレス』 文藝春秋 2023
AV業界の化粧師をする聖月。祖母と暮らす西洋建築の家にかつてあった十字架の跡。聖なるものと性なるものの交差に彼女が感じるものとは。 自動車の故障から主人公のルーティンが変わるのが暗示的な感じ。あと女3世代の主人公の家族と、男のための性産業が対比的で良い。





465.新井見枝香『本屋の新井』 講談社 2018
あの新井賞を設立したカリスマ書店員のエッセイ集。 ポップによる売上への影響の話や、売れない時代ゆえに工夫が必要の話や、ひと月に何冊くらい読む話や、トリックやどんでん返しだけではない話や、わからないことは実は面白いことかもの話など。書名も多く出てくる。





464.グレゴリー・ケズナジャット『開墾地』 講談社 2023
ラッセルはアメリカ生まれで今は日本に留学中。就職を日本でするか悩んでいる。実家のサウスカロライナに帰省すると父がいる。父はイランで生まれて今はアメリカに住んでいる。ラッセルはそんな父の姿を見て自らの今後と重ね合わせる。味わい深い越境文学。





463.ダーチャ・マライーニ『ある女の子のための犬のお話』 未來社 2017
イタリアを代表する作家の動物に関する短篇集。 死んだ犬達が集まる月の話や、病気になった犬を安楽死させる話や、1匹で散歩する犬の話や、もらったサーカス馬の話や、人間に狩られるカワウソの話など。実家の犬が死んだばかりだったから泣いた。





462.筒井康隆・蓮實重彦『笑犬楼VS.偽伯爵』 新潮社 2022
文学界のレジェンド2人の共著。 大江健三郎についての対談は勉強になります。また『伯爵夫人』と『時をかける少女』の互いの評が凄すぎる。往復書簡では幼き頃や見た映画や寝たばこや息子の死について書かれる。今まで文学やってて良かったとマジ泣ける。





461.黒あんず監修『韓国文学ガイドブック』 Pヴァイン 2021
昨今のブームである韓国文学の入門書。 ハン・ガンに代表される25人の邦訳された作家の紹介や、韓国の現代史や地理や出版社や文学賞やフェミニズムや SFやK-POPなども併せて解説。 最近は海外文学を勉強中だが、世界文学とは各国の歴史を学ぶこととも思う。





460.円城塔『道化師の蝶』 講談社 2012
銀糸で編まれた小さな捕虫網で着想という蝶を捕らえるA・A・エイブラムス氏と、転居を繰り返し現地の言葉で紙に綴る友幸友幸との不思議な関係の表題作、2人がお互いの翻訳者となり作品を発表し続ける「松ノ枝の記」の2篇。全人類と接続された世界の言葉という概念は現代的。





459.絲山秋子『袋小路の男』 講談社 2004
高校の先輩である小田切孝との12年の関係を描く表題作、その関係を互いの視点から描いた続編「小田切孝の言い分」、そして清掃工場に勤める理系の男と姪との手紙を描く「アーリオ オーリオ」が収録。 結婚しない恋愛関係もあるんだなと思う。地味に泣けてくる。ザ・小説。





458.青山七恵『かけら』  新潮社 2009
父と娘だけで行ったさくらんぼ狩りツアーで父の新しい顔を見る話や、結婚前の男が元カノだった小麦ちゃんのことを思い出す話や、沖縄から来た寡黙な従妹に東京を案内する話などの3篇の短編集。 日常にふと現れる他人の知らない側面。それを拾って大切にすることが生きる意味。





457.平野啓一郎『顔のない裸体たち』 新潮社 2006
中学教師の吉田希美子と公務員の片原盈は出会い系サイトで出会う。彼らはセフレ関係となり、2人の行為はネット空間に投稿され続ける。 モザイクに隠れた顔と性的な肉体が切り離された末に世間を揺るがす事件が起きてしまう。セクシュアルな意識って滑稽且つ真剣。





456.藤野可織『爪と目』 新潮社 2013
主人公は3歳児。二人称で進む。あなたは父の後妻であり、古本屋の青年と不倫をしてる。そもそもあなたは父と不倫をしていたね。私の母がベランダで謎の事故死をした後に家にやってきた。私は全て見ているよ。 この小説は未来から今を見てるとも言えるので視点の試みが面白い。





455.ルイーズ・グリュック『アヴェルノ』  春風社 2022
2020年ノーベル文学賞受賞のアメリカ詩人の2つ目の邦訳単行本。 アヴェルノとはイタリアのアヴェルヌス火口湖のことであり、これは冥界の入り口を指す。 母と娘の闘争をペルセポネやハデスの物語に当てた詩が続く。自然やプレートは動き続ける。では自分は?





454.丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士『文学全集を立ちあげる』 文藝春秋 2006
文学のプロ達が「いま読んでも面白いもの」をコンセプトに世界&日本の文学全集に何を収録するかを考える座談会。 膨大な文学の知識がここに費やされ、海外が133巻、日本の古典が88巻、日本の20世紀以降が84巻となり、最終的に全305巻となる。





453.畠山雄二『英文徹底解読 ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞スピーチ』 ペレ出版 2019
スピーチの文章を英語と日本語訳の2つ載せており、本来は英語学習者のための本っぽいが、途中でノーベル文学賞やボブ・ディランの豆知識が書かれていて為になる。スピーチではシェイクスピアを引用しており極めて文学的だ。





452.埴谷雄高『闇のなかの黒い馬』 河出書房新社 1970
夢についての形而上学的な9篇の短編集。 作者は不眠症だったらしく、夢の中に黒い馬が駆けてきたので尾を掴んで闇の果てにまで行こうとする表題作や追いかけられる夢について語られる。 僕が小説を書いていた時にこのような小説が書けたらいいなとずっと思ってた。





451.越川芳明ほか『世界×現在×文学 作家ファイル』 国書刊行会 1996
1980年以降にも活躍している現代の海外作家を118人紹介するブックガイド。 この本は1996年に刊行されているが、まだノーベル文学賞を取ってないカズオ・イシグロやペーター・ハントケとかもいてヤバい。最近は世界文学を勉強したいのでドンピシャ!





450.莫言『変』 明石書店 2013
2012年のノーベル文学賞受賞者である作者の自伝的小説。 ひょんなことから小学校を除籍・放校され、農村暮らしが嫌で軍隊に入り、車にこだわった人々がいて、従軍中に勉強して作家となる。 現代になってから小学校のかつての友人が作者の元を訪れるシーンは熱い。青春って感じがした。





449.安戸悠太『おひるのたびにさようなら』 河出書房新社 2008
3つの情景がある。①男が近くの病院で音のない昼ドラを見てきて会社の女子2人に粗筋を説明する。②妻が夫の実家を訪れるドロドロとした昼ドラの中身。③昼ドラの主役を演じる女優の忙しい日常。 その3つが反転する企みもあって面白い。さよならは切ないよ。





448.濱田順子『Tiny,tiny』 河出書房新社 2000
高校生3人がバンドを組む話だが、そこに複雑な恋愛が絡む。 奈美と大森と山崎という女1人に男2人で、奈美は他の女子が好きになり、山崎は奈美が好きになる。大森も奈美が好きだが諦めて山崎を好きになることにした。バンドの行方は…。 妙に社会派って感じ。キャラが良い。





447.リュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』 新潮社 2002
本が好きなソーネチカは図書館で働いていたらロベルトと出逢って結婚。ターニャという娘を授かる。 ターニャはヤーシャという元孤児で体を売ってる少女と友達になり、ヤーシャを家族に迎えたい両親は…。 幸せを感じるスイッチが入りやすい人生もいいなあ。





446.藤代泉『ボーダー&レス』 河出書房新社 2009
新入社員同士の僕とソンウ。ソンウは在日コリアン3世。僕はソンウと友達になる。 僕は遠距離恋愛の彼女と別れ、フットサルチームの1人とセフレ関係になる。でも正しくないと思う。全てと向き合わないといけない。 ヤバすぎるほど面白い。文藝賞のベスト3には入ると思う。





445.大鋸一正『フレア』 河出書房新社 1996
キョーコはモトヒコと別れて今はコーイチと付き合っている。モトヒコの子供を勝手に堕ろしたら殴られた。今はコーイチの子供ができた。きっと堕ろすだろうな。 どこにも行けない生活と穴の空いたナメクジを捨てる日々。透明な閉塞感で進む文体。そしてラストに驚く奇妙な作。





444.喜多ふあり『けちゃっぷ』 河出書房新社 2008
引きこもり女子HIROは人前では全く喋れないがブログで言いたいことを話す。ブログのコメントで知り合ったAV男優のヒロシとAV監督の高山はそれぞれヤバいやつだった…。 意外と問題作。ブログ体というサトラレ的な方法論は変で新しい。ダジャレが滑ってるのが逆に良い。





443.都甲幸治ほか『世界の8大文学賞』 立東舎 2016
ノーベル文学賞、芥川賞、直木賞、ブッカー賞、ゴンクール賞、ピュリツァー賞、カフカ賞、エルサレム賞について様々な文学関係者が語り尽くす。 作家や作品名も多く出てきて読むのが楽しい。僕は日本の文学賞が好きなので世界の文学賞をもっと勉強したいと思う。





442.大森兄弟『犬はいつも足元にいて』 河出書房新社 2009
中学生男子の僕は離婚した父の残した犬の世話をしている。公園の繁みに埋められた謎の臭い肉を犬は掘るのが大好きだ。 クラスメイトのサダは学校でやっていけず、僕の犬に噛まれたと慰謝料を求めようとするが…。 少年が悪と不穏の道から救われる方法はあるか。





441.池内紀編『尾崎放哉句集』 岩波書店 2007
自由律俳句で有名な尾崎放哉の句集。晩年には荻原井泉水の紹介した小豆島の寺で住むようになり、その日々を描く「入庵雑記」も併録。41歳没。 「一丁の冷豆腐たべ残し」「犬に覗かれた低い窓である」「芋食つて生きて居るわれハ芋の化物」「線香が折れる音も立てない」





440.谷川直子『おしかくさま』 河出書房新社 2012
49歳のうつ病だったミナミは「おしかくさま」というお金の神様を信じる4人の女に出会う。彼女も信じることにするが…。 ミナミの両親と妹と姪の視点もあり、それぞれお金との距離感が語られる。 作中では人生が辛すぎた人ほどお金を信じている。金は寄り添ってくれる。





439.ミシェル・ウエルベック『ランサローテ島』 河出書房新社 2014
主人公がカナリア諸島のランサローテ島を観光する話。 そこではあるレズビアンのカップルと仲良くなりイチャイチャすることに。すると実は人間クローンを試すカルト宗教が関係してきて…。 作者が撮影した50枚以上の写真付き。岩山とサボテンが目立つ。





438.トーマス・トランストロンメル『悲しみのゴンドラ』 思潮社 1999
2011年ノーベル文学賞受賞の詩人の唯一の邦訳単行本。 ミダス王、ティベリウス、ワグナー、リストなど歴史や音楽に関する物や人を隠喩として用いて、自然と人類史との交歓を描いている。 日本の俳句にも興味を持ち、俳句詩という3行詩もある。





437.丹下健太『青色讃歌』 河出書房新社 2007
石を集めている彼女と同棲するフリーターの高橋は職を探しながら今は家に来なくなった猫も探している。 フリーター友達との付き合いや猫の声が聞こえるというマコちゃんとの交流。大西というヤベー自尊心野郎もいる。 軽めの感情の中にある哀しみが最後に露呈するのが良い。





436.カズオ・イシグロ『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』 早川書房 2018
カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞記念講演の対訳。 5歳で日本から英国に渡った作者は、創作を学ぶ大学院で日本を舞台とした小説を書いた。 世界の全体を正せないなら文学だけは維持しよう。文学は多様なのだから。





435.サン・テグジュペリ『星の王子さま』 岩波書店 1953
砂漠に漂着した飛行士が出逢ったのは遠い星から地球にやってきた少年だった。 大人ばかりの星を経巡った少年は自分の星に残してきた薔薇を思い出す。そして星へと還っていく。 全ての子供には星の王子さまが宿っている。子供に愛されるような大人でありたい。





434.山田詠美『蝶々の纏足』 河出書房新社 1987
幼馴染のえり子に束縛されてきた私は、その女友達という鎖から抜け出ようとし、麦生という男と付き合うことになる。そして16歳にして人生を知り尽くす。 周囲より早い肉体関係は全てから自分を切り離す。だが今度はその男がいなくなれば孤独となる。纏足のような関係へ。





433.青月社編『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』 青月社 2014
村上春樹やクンデラやピンチョンやエーコやラシュディやキニャールやソローキンなど38人を紹介している。 2014年発売なので紹介された何人かは受賞しているし、日本で翻訳がない作家もいて世界文学の奥深さがわかる。みんな翻訳されてほしい。





432.アゴタ・クリストフ『文盲』 白水社 2006
本を読んで話を作ることが好きだった作者が21歳の時にハンガリー動乱でスイスに難民として渡り、母語ではないフランス語で小説を書くことに至る道を語る自伝。 スターリンを偉大な先導者であるとしたソ連的なイデオロギーに翻弄された中東欧についても語られている。





431.スコット・フィッツジェラルド『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』 イースト・プレス 2009
生誕時は70歳で年とともに若返るベンジャミンの人生を描く。 親が子供を産んだことに固執するあまり老人なのに赤ちゃんの遊び道具を渡されたり、結婚した妻が主人公の若返りに嫉妬したりと、周りに振り回される残酷さがあった。





430.オルガ・トカルチュク『優しい語り手』 岩波書店 2021
2018年度のノーベル文学賞受賞者の2つの講演集。 多声的な一人称の語りは極めて現代的な物の見方である。他者を認める文学とは即ち優しい語り手となる。 また中央ヨーロッパの文化や地理的状況はカフカやゴンブローヴィチやカネッティの文学に現れるとも。





429.マーガレット・アトウッド『パワー・ポリティクス』 彩流社 2022
わたしとあなたをめぐる45篇の詩集。恋人から始まって国家間の闘争にまで二者関係は発展する。 政治的な力は恋人にすら関わってくる。つまり対等な立場とはなくて、何かしらの不平等とゲームが発生する。病原菌のように侵食し合う彼らを描く。





428.マルキ・ド・サド『ジェローム神父』 平凡社 2012
人を殺して奪った財産で神父になったジェロームはその教会の地下でもサイコパスのコミュニティに入ってヤバいことをしまくる話。 会田誠の絵がたくさん飾られていて視覚的にもヤバさを感じられる。エログロは作品の中ではなく作品の外に存在していると思う。





427.峠三吉『原爆詩集』 岩波書店 2016
広島でヒバクした作者の詩集。「ちちをかえせ ははをかえせ」から始まる序が有名。36歳で没。 また本書は大江健三郎とアーサー・ビナードのダブル解説が豪華。 戦争とは人権を奪う行為。当時の様子が詩として記録されている。老若男女から無情に奪われたものが書かれていた。





426.佐藤誠一郎『あなたの小説にはたくらみがない』 新潮社 2022
宮部みゆきなどを担当する新潮社の編集者が小説の創作を教える書。 世界で唯一無二の小説を書くのに傾向と対策は合わないとか、エンタメ市場の40年とか、文章・テーマ・物語性・人物造形・同時代性の5大要素とか、7つの大罪や視点についてを語る。





425.パスカル・キニャール『ローマのテラス』 青土社 2001
17世紀の架空の銅版画家モームの1代記。 彼はナンニという女性を愛するが、彼女にはフィアンセがいたために破局。 顔に大火傷を負ってしまい、町からも出奔。その後は放浪しながらも版画家として活動。 彼の作品への言及も多く偽美術史としても興味深い。





424.羽田圭介『メタモルフォシス』 新潮社 2014
証券マンのサトウはSMクラブに通っているが、同じドM仲間の男が川で死体として発見され、自分もマゾの極みを体験したくなり背中が裂けるまで鞭で打たれ黄金を食べ樹海に行く表題作と、男性アナのカトウが通うSM女王様が同じ職場に就活に来る話も併録。奴隷の悦楽。





423.小川哲『地図と拳』 集英社 2022
日露戦争前から第二次世界大戦後までの半世紀、満洲にある李家鎮=仙桃城という町をめぐる群像劇。 戦争と地図と建築をテーマにしながら登場人物が20人以上出てきて、それぞれが主人公となって話が進んでいく。 最後の方はボロボロ泣きながら読んでました。魅力的な歴史浪漫。





422.サミュエル・ベケット『ゴドーを待ちながら』 白水社 1990
エストラゴンとウラジーミルが謎の田舎道でゴドーを待つ不条理劇。 途中でポッツォという男がラッキーという従者の首にロープをつけてやってくるが…。 登場人物の記憶が安定しないために何度も同じことを繰り返す。ゴドーを待つことだけが理性的だ。





421.村上春樹『羊男のクリスマス』 講談社 1985
羊男協会からクリスマスソングを作ってくれと依頼された主人公は中々ソングを作れない。 それは聖羊祭日にドーナツを食べたためにかかった呪いのせいだった。彼はそれを解くために深い穴に落ちていく。 双子の208と209やねじけやなんでもなしがいい。出逢いと別れ。





420.井戸川射子『この世の喜びよ』 講談社 2022
ショッピングセンターの喪服売り場で働く女性が中3の少女やゲーセンの若い男や謎のお爺さんと仲良くなる話。 建売住宅に試しで住む「マイホーム」や叔父さんとキャンプに行く「キャンプ」も収録。 バランス的に生きてきた女性とその影的な話かな。タイトル良すぎ。





419.安堂ホセ『ジャクソンひとり』 河出書房新社 2022
黒人と日本人のハーフであるジャクソンはジムの整体師だが、着ていたTシャツに謎のQRコードがあり、黒人のヤバいプレイが流されていた。 周りの人達に勘違いされ、同じ境遇の3人の男に出会うのだが…。 三人称複数視点がテーマと合致してると思う。マンハウリング!





418.日比野コレコ『ビューティフルからビューティフルへ』 河出書房新社 2022
受験勉強に勤しむナナと男に溺れるように恋する静と友人から影響されやすいビルEの高校生3人は「ことばぁ」という老婆の家で落ちあう。 個人と社会の軸がそれぞれ違う3人は死にたいと思うが、小粋な言葉を用いて生をもがくことがまず美しい。





417.墨谷渉『潰玉』 文藝春秋 2009
法律事務所の青木が駐車場でギャルの亜佐美に股間を蹴られるが、それが癖になり亜佐美の家に行って何度も蹴られたり、カラオケでスポーツ系女子にも暴力を振るわれて嬉しい表題作と、データ魔の女が国が主催する無法の殴り合いを見てハマる「歓び組合」の2篇。ヤバい倒錯系奇書!





416.魚住陽子『公園』 新潮社 1992
ある広い公園に来る人々。少年野球のコーチ、草刈りのボランティア、足を骨折した青年、想像で人を殺しまくる推理小説作家、双眼鏡を持つお婆さん。彼らは毎日公園に来る帽子の女性が気になって仕方ない。目撃される彼女の正体は何なのか。いわゆる群像劇で人生を深掘りする系。





415.一穂ミチ『光のとこにいてね』 文藝春秋 2022
結珠と果遠という2人の女の子が出会う。まずは小学生時。次にお嬢様高校で。そして大人になってから。 出会いと別れを繰り返したお互いはそれぞれの家族の原体験も相まって深い関係には入れなくなる。そして…。 事情はあるにしても幸せを自ら避ける人生は苦しい。





414.舞城王太郎『短篇五芒星』 講談社 2012
流産が気になる男の話や鮎の神様に嫁いだ姉の話や4点リレー怪談の謎を探偵が解く話やヘルシー鍋うどんにバーベル代わりにされた男がアメリカでうどんを作る話やあうだうだうという悪い箱の神様と戦うために動物の遺骸を被る話など5篇収録。舞城って神様がよく出てくる。





413.本谷有希子『あの子の考えることは変』 講談社 2009
自分の胸を生きる柱とする巡谷は体だけの関係の男がいる。そして巡谷と同居している日田はダイオキシンで町がおかしくなってると考えて自己臭恐怖症を抱く。 いわゆる巡谷の一人称だが彼女の方もどこか変。変人が2人いると客観視できて成長できるパターン。





412.松尾スズキ『クワイエットルームにようこそ』 文藝春秋 2005
ライターの明日香はオーバードーズにより精神病院に入院することに。そこでは拒食や過食や自傷や他害をしてしまう人がいて…。 頭髪を燃やしたり皆でパズルしたりミャンマーに飛ばされたり点付け婆がいたり物資の調達屋がいたりする。君は笑えるか。





411.朝比奈あすか『憂鬱なハスビーン』 講談社 2006
東大卒で有名企業に就職した凛子は結婚を機に辞職したが、今はハローワークに通う日々。夫は自分を見てくれない。人生うまくいかないのはどうして? 能力は高いが人間関係の構築が下手でプライドのため失敗も認められない。まずは話を聞いてくれる人を作ろう。





410.諏訪哲史『アサッテの人』 講談社 2007
かつて吃音で苦しんでいたが自然治癒したため再び吃音を取り戻そうとした叔父さんの記録。 ポンパ、チリパッハ、ホエミャウ、タポンテューなどのアサッテ語が頻出し、言葉における音と意味を分割した物語。 変人って憧れる。誰も送ったことのない特殊な人生を送りたい。





409.中原昌也『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』 河出書房新社 1998
馬のエロい絵を見たり得体の知れない臭い動物がいたり臭い台車が走ったりあのつとむが死んだり人間の皮の背広を着たり鳥を生で食ったり物語終了後全員病死したりする読んだ片っ端から忘れる物語ですらないヤバい読み物がこれ。最狂文学of最強文学。





408.鶴川健吉『すなまわり』 文藝春秋 2013
相撲の行司である主人公を描く表題作と仕事を辞めた若い男の虚無を綴る「乾燥腕」の2篇。 単純なお仕事小説というより生きていくことの虚しさが滲んでいる。閉鎖的な世界に時おり現れる他者に幾許かの感情を抱くだけ。 砂のような日常だけど友達とか作ったらいいと思う。





407.田中康夫『なんとなく、クリスタル』 河出書房新社 1981
1980年の東京でモデルの仕事をしている大学生の由利は彼氏がいるけど新しい男と付き合う。 実際のブランド名や洋楽が頻出し、数多くの註釈で彩られた世界はすでに終末を迎えた。 流行とは常に資本主義の支配下にある。「なんとなく生きていくこと」について。





406.村上春樹『風の歌を聴け』 講談社 1979
1970年の僕はジェイズバーで鼠とビールを飲み、小指のない女の子と仲良くなる。ラジオを聞いてシャツをもらい、デレク・ハートフィールドを引用する。 意外に主人公と関わった人で死んでる人が多くて叔父さんとか元カノとか。その代償としての爽やかさって感じがした。





405.金原ひとみ『蛇にピアス』 集英社 2004
ルイはスプリットタンという舌を2つに割る人体改造に魅せられ、ピアスや刺青を入れるようになる。 そして彼氏のアマと彫り師のシバという2人の男を行き来して日々を過ごすが…。 暴力やSM的エロティシズムって虚無を抱いてる人こそハマる気がする。快楽こそ伽藍堂的な。





404.綿矢りさ『蹴りたい背中』 河出書房新社 2003
女子高生のハツはクラスでも部活でもハブかれている。 ある日、同じクラスのオタク男子と関わることになり、彼の家を訪れたり一緒にライブに行ったりするが…。 自分のみじめさを同じ境遇の奴にぶつけて自覚させたいS的な。見下した人間しか愛せないこともあるからね。





403.凪良ゆう『汝、星のごとく』 講談社 2022
瀬戸内の島で暮らす高校生の暁海と櫂は、それぞれ親の呪縛に締めつけられながら大恋愛をする。 だが卒業後、櫂が漫画原作者として上京し金持ちになった一方で、暁海は島に残って薄給の会社員となる。2人の関係はすれ違った末に…。トゥーマッチ感はあったが、切ない。





402.千早茜『しろがねの葉』 新潮社 2022
時は戦国、少女ウメは家族と離別し、石見銀山にて山師に拾われる。 鉱山で働くが、のちに生理が来ることで自分が女であることを自覚する。女と男が早死にしていく山で彼女は何を見るか。 泣いた。生きることへの執着に揺らぐウメの人生はひたすら強く。闇と銀と光を人に。





401.雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』 文藝春秋 2022
老舗の陶磁器店のせがれが殺された。犯人は妻・想代子の元恋人。彼は裁判で想代子が殺しを唆したと叫ぶ。だが証拠はない。 夫を亡くした彼女は店を営む熟年夫婦と住むことになるが、姑は彼女への疑念が晴れない。真実は…。 最後の展開が深い。騙されるな。





400.加納愛子『これはちゃうか』 河出書房新社 2022
Aマッソ加納さんの6篇の短編集。 友達にボケを用意する話や、イトコという距離感を考える話や、最終日マニアの話や、大学の映画部に出る妖怪の話や、駅が生える街に住む話や、変なおっさんと住む高校生の話など。 視点が鋭いと笑えるんだと思った。愛すべき名作揃い。





399.町屋良平『1R1分34秒』 新潮社 2019
プロボクサーの主人公は対戦相手のことをググってしまうと、想像上で友達になってしまい殴れなくなる。 なぜ自分はボクサーなのかと考えつつもウザい新トレーナーのメニューに取り組んでいく。 暴力とエモは『ほんのこども』に受け継がれる。これぞ天からの一撃。痺れた。





398.高尾長良『音に聞く』 文藝春秋 2019
15歳の天才作曲家の妹と翻訳家の姉が音楽理論の大家である父を訪れるためにウィーンに来る。 父に妹を薦めたい姉だが、父との不和や妹のわがままに耐えなければならず葛藤する。 岩波文庫の古いドイツ文学を読んでいる感じ。作中の「言葉か音か」が象徴的な芸術小説の珠玉。





397.宮内悠介『ディレイ・エフェクト』 文藝春秋 2018
2020年の東京では1945年の風景が重なる謎の現象が起こる。 ただ見えるだけで物理的な影響はないが、このままでは東京大空襲を目の当たりにしてしまうため、人々は疎開するのだが…。 ほかバントの話や神社の話などミステリ風味の2篇も収録。歴史はループする。





396.小林エリカ『マダム・キュリーと朝食を』 集英社 2014
放射性物質を光の声として聞こえる母を持つ娘と、その光を食べることで過去にタイムスリップできる猫の物語。 キュリー夫人のラジウム発見やエジソンの電気の発明など人類のエネルギー開発における偉業と犠牲を描く。 希望は確かにそこにあったよハロー。





395.山崎ナオコーラ『美しい距離』 文藝春秋 2016
サンドウィッチ屋を営む妻が40代で癌となり病院で余生を過ごす。夫は看護のために病院に通いつめる。 店の関係者や保険屋がお見舞いに来たりする中、夫は病気に関する既存の物語にあてはめずに最期まで身守る。 人の死は宇宙のちっぽけな喪失だけど美しく人格的だ。





394.吉原清隆『不正な処理』 集英社 2009
犬を探していた少年は当時発売されたばかりのパソコンでプログラミングにハマる。 高校時代では同じ趣味の友達と賞金の出る自作ゲームの応募を目指すことになるが、大人になり働き始めてからは浮かない人生を送る。 失われた青春。人生も間違えてはいけない手続きがある。





393.戌井昭人『どろにやいと』 講談社 2014
元ボクサーの男は万病に効くとされるお灸を行商していた父の仕事を引き継ぎ、顧客名簿を元に人里離れた村に入る。 そこには天狗や蜘蛛女や死んだ犬を埋める男がいたり、バスの時間が合わずに村から出られなくなったりと不思議なことが起こる。魔術的なる日本の風景だ。





392.前田司郎『愛が挟み撃ち』 文藝春秋 2018
結婚して6年目の夫婦は子供を作りたかった。だが調べると夫は無精子症だった。 それでも諦められない夫婦は学生時代からの友人に精子提供を頼むことにするが…。 いわゆる三角関係もの。学生時代のエピソードが切ない。オチは一見ギャグっぽいんだけど逆に深いと思う。





391.夕木春央『方舟』 講談社 2022
謎の地下建築に迷い込んだ10人。地震によって出入り口が岩で塞がれ、地下水が湧き出した。 完全に浸水する前に岩をどける必要があるが、そのためには1人の犠牲がいる。そんな中、殺人事件が…。 久々に読んだミステリだったが、雰囲気がとてもいい。自己犠牲もたまには大事だ。





390.筒井康隆『ジャックポット』 新潮社 2021
世界の山に登る話や漫才で文学をやる話や1つ目の少女の話や作者がDJをする話や民主主義の話や世界中の悪者を殺す話や会長が息子と揉める話や戦場の残虐行為の話や爺が詩を語る話や作者20歳の話や鼈甲の花魁櫛の話やコロナの話やジャズの話や亡き息子の話など。神様。





389.ミヤギフトシ『ディスタント』 河出書房新社 2019
沖縄にいた小学生の頃にクリスとジョシュという兄弟と映画を観る話や、ファイナルファンタジー4と10を遊んだ2つの時代を描く話や、アメリカで50人の男の部屋に行って恋人のような写真を撮る活動の話など3篇収録。 抒情的で心に響く。好きすぎる。泣く。泣かないで。





388.斧田小夜『ギークに銃はいらない』 破滅派 2022
アメリカの陰キャが銃の代わりにプログラミングで革命を起こす話や、好きな夢を見られる機械とトラウマ治療の話や、雪深い山に住む少年が村の長になるために父を殺す話など、SF的作品4篇収録。 原始的な生活とSFって相性がいいのかもしれない。人と神のように。





387.矢部嵩『〔少女庭国〕』 早川書房 2014
卒業式の日に中3女子は何者かに閉じ込められた。開けた扉の数−死んだ人の数が1になれば脱出できると壁紙にはある。部屋には扉があり隣室にも女子がいた。 いわゆるデスゲームものだが実は違う。無限の部屋には無限の少女がいて、中には街を築く者たちもいた。奇想の髄。





386.李龍徳『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』 河出書房新社 2020
日本初の女性総理大臣は嫌韓だった。ヘイトスピーチ解消法は廃止となり、極右そして在日狩りが進む日本で青年達がある暗き作戦のために動き始める。 差別語が横行する未来を描くディストピア小説。差別は暴力でしか無くせないのか?君は差別したいか?





385.河合隼雄『こころの処方箋』 新潮社 1992
僕の尊敬する河合先生の55のメッセージ。 人の心などわかるはずもない。2つよいことさてないものよ。100%正しい忠告は役には立たない。心の中は51対49のことが多い。2つの目で見ると奥行きがわかる。 分かりませんなあ、難しいですなあ、感激しました、を口癖にする。





384.松井雪子『日曜農園』 講談社 2007
父が行方不明となった。残された娘は父が借りていた市民農園で野菜を育てることにした。 父が運営していた農業HPも見つけて、父の綴った畑のコツを試してみることにする。 一方、母は筋トレにハマり、家族各々が父のいない生活に慣れようとするのが泣けてくる。喪失と収穫。





383.石黒達昌『新化』 ベネッセコーポレーション 1997
ハネネズミという種は永遠の命を持つにも関わらず生殖すると死んでしまうのもあって絶滅したのだが、そこに新種のネズミが発見される表題作や、博士がカミラ蜂という大型蜂にストーキングされる話など、生命と科学を繋げる横書き形式の小説2篇。架空の論文ってなぜ面白いのか。





382.北野武『純、文学 北野武第一短篇集』河出書房新社 2019
北野武第一短篇集。文藝に掲載されたラップ小説「ホールド・ラップ」や、O橋K泉や実名の芸能人を描いた私小説「実録小説 ゴルフの悪魔」や、謎すぎる小説「誘拐犯」や、最狂漫才小説「粗忽飲み屋」と「居酒屋ツァラトゥストラ」の5篇。笑いに特化した文学を誰か評価するべし。





381.木下古栗『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』 講談社 2014
不倫相手の身代わりとして謝罪する「IT業界 心の闇」と、日本人と結婚したハワードが世界を終わらせる「Tシャツ」と、失踪した米原を米原本人が捜索する表題作の3篇。 シュールと脱線を繰り返した先に文学があった。まち子が宇宙で光ってる。





380.加藤秀行『シェア』 文藝春秋 2016
元夫から持ってる株を売ってくれと言われる主人公がベトナム人のミーちゃんと違法スレスレの民泊を営む表題作と、金持ちの男友達2人と同棲する主夫の日常を描く「サバイブ」の2篇収録。 どちらも資本主義的には成功した環境なのだが、人生や世界を考えざるをえない人々の話。





379.片瀬チヲル『泡をたたき割る人魚は』 講談社 2012
その島に住む薫は、魚屋の男や絵描きの男など複数の異性と付き合っている。 ある老女が何でも願いを叶えてくれるというので、薫は人魚にしてもらったが、恋をすると泡になると忠告されて…。 恋の切なさや駆け引きや残酷さを描く。自らを試すための恋もある。





378.高山羽根子『首里の馬』 新潮社 2020
沖縄の個人資料館で整理をする未名子は世界の果てにいる人達にオンラインでクイズを出す仕事をしている。 台風が近づく日に1頭の馬が庭に迷い込んできた。クイズの解答者に相談して馬を大切にすることにする。 好きな作品。孤独や他者からの無理解を静かな心で打ち破れ。





377.岡田利規『ブロッコリー・レボリューション』 新潮社 2022
5篇の短編集。今年の三島由紀夫賞受賞作。 美味いパン屋の話や、家に来たラッパーの話や、東京で再会する夫婦の話や、人混みで空中に浮かぶ話や、女がバンコクに逃げた話など。 視点の自由さで複雑な世界を描く。プールの場面はマジで神がかってる。





376.櫻木みわ『コークスが燃えている』 集英社 2022
非正規で校閲の仕事をする主人公は40歳。年下の元カレと恋が再燃するとすぐに子供ができた。 だが恋人は海外に仕事に行くことになり出産には反対。主人公は結婚はせずとも産みたいと言う。 女性たちの連帯の話。社会的な制度や共助にも触れる。横の繋がり大事。





375.遠野遥『教育』 河出書房新社 2022
1日3回以上のオーガズムが成績を上げるとされる超能力学校の話。 手芸部の男、演劇部の彼女、翻訳部の人々、催眠部の女子、先生や上級クラスからの暴力、恐竜とサッカーをする海外小説。 他人の気持ちよりもルール重視の主人公の態度が今の世の中っぽくて恐ろしいディストピアだ。





374.鹿島田真希『レギオンの花嫁』 河出書房新社 2000
10人兄弟の末弟は混血の少女まりんと出会う。彼はまりんを攫って自分の都合のいい言葉だけを教えるが、実はまりんは父の部屋に住む者だと知って…。 神話の世界を描く前衛作品。物語に閉じ込められた者の飛翔と父殺し。難解さとは支配/従属の軸がある。身体を楽に。





373.滝口悠生『いま、幸せかい?「寅さん」からの言葉』 文藝春秋 2019
好きすぎてスピンオフ小説まで書いた著者が「男はつらいよ」映画シリーズ50作から厳選した名セリフ集。 家族や恋愛や女性の生き方や満男へのメッセージなどのテーマがある。 僕は10作目まで観たことがあって早く最後まで観たい。これは人生。





372.温又柔『永遠年軽』 講談社 2022
日本と中国と台湾という3つの国家の狭間で悩む主人公たちの3篇の短編集。 22歳までに日本か台湾(中華民国)かのどちらかの国籍を選ばなければならない友人の話や、大伯父と祖父のそれぞれの台湾を語る話や、入管法の改正に関する妹の考えの話など。日本人が世界を知るために。





371.高橋弘希『高橋弘希の徒然日記』 デーリー東北新聞社 2018
青森出身の作者が徒然草の兼好法師に倣い自らを法師とし、デビューから芥川賞受賞までの3年間を描いたエッセイ集。デイリー東北新聞に掲載。 けものフレンズやコーヒーやラーメンやデスメタルにハマったり、不二家ホテル殺人事件が起こったりする。変で笑えます。






370.中村文則『遮光』 新潮社 2004
事故死した恋人の指を瓶を入れて持ち歩く男。虚言癖があり恋人はアメリカに留学したと友人には伝える。 無意味な暴力を振るったり自分や他人に無関心を貫いたりする。男の感情は腐ってしまったのだろうか。 遠野遥に似ているような気がした。苦しみへの距離を操作したい系の話。





369.小川哲『君のクイズ』 朝日新聞出版 2022
賞金1000万円を賭けたクイズ番組の決勝で相手の本庄絆が1文字も読まれていない問題に正答することができた。主人公はその謎を追いかけていく。 クイズへの熱意に溢れたストーリーはミステリ的な展開もあって面白い。僕は謎を解こうとして色々考えました。最後は切なかった。





368.くどうれいん『虎のたましい人魚の涙』 講談社 2022
23のエッセイ集。表題作は琥珀を表す。 心の中のキートン山田の話や、クリップで額に傷をした話や、芥川賞の候補になって苦しむ話や、恋にノイローゼになる話や、仕事を辞めて遂に専業作家になる話など。 いっぱいいっぱい感が伝わるのがいい。執筆への熱。





367.武田砂鉄ほか『ブックオフ大学ぶらぶら学部』 夏葉社 2020
8人のブックオファーが書いたブックオフ好きのブックオフ好きによるブックオフ好きのための本。 ブックオフ行脚に出る話や、せどりとブックオフの関係の話や、ブックオフあるあるの漫画など楽しすぎる。 僕も15年以上ブックオフに通ってるよ。魔窟。





366.石井遊佳『象牛』 新潮社 2020
インドに生息する象にも牛にも似た動物の紹介に加えて主人公と教授の不倫的な付き合いを描く表題作と、大阪の「比攞哿駄」に存在する家族交換の習わしを描く「星曝し」の2篇。 不思議な異文化を想定することで、そこでの人々の生活が妙に生々しくて面白い。インドにいつか行く。





365.黒田夏子『累成体明寂』 審美社 2010
「abさんご」の著者の幻の名作。 ①幼な子の風景と周辺の物々を描いた「物象篇」②40年以上書き続けた日記や創作物に関する「暦層篇」③絵本や翻訳物などを読むことに対する「書族篇」の3部構成。 カタカナは使用せず、漢字を開きまくる、例の横書き文体はやはり美しい。





364.早助よう子『恋する少年十字軍』 河出書房新社 2020
久しぶりに会う知人から子守りを任されるがその少年が爆弾を作っていた話や、天子様が見える少女が米騒動に巻き込まれる話や、マークされた活動家の両親と各地に引越すモニカの話など7つの短篇集。 幅広い題材の奇想集。どこか日本離れした印象。もっと読みたい。





363.児玉雨子『誰にも奪われたくない/凸撃』 河出書房新社 2021
銀行に勤めながら作曲活動をするレイカはアイドルの真子と仲良くなる。仕事と作曲がうまくいかないレイカは真子の万引きの噂を聞く。論破系の配信をする男の元に16歳の少年が凸してくる話もリアルな生きにくさを描く。変な奴との距離感が取りにくい世だ。





362.佐川恭一『アドルムコ会全史』 代わりに読む人 2022
男がアドルムコ会という宗教による世界征服に巻き込まれる怪作や、朝起きたらキムタクになってた怪作や、市役所の人間関係で虚航船団をやった怪作や、風俗に騙される怪作や、関西弁の外国人たちの怪作など5篇の短編集。来年のノーベル文学賞は佐川恭一に決定です!





361.牧野楠葉『フェイク広告の巨匠』 幻冬舎 2021
悪質アフィリエイト広告を作るのが上手な女を好きになる男の表題作ほか、北斎が蛸の絵を描く話や彫刻家の女と結婚する話やお遍路の話や予知夢を見て喪主になりたい女の話など5篇の短編集。ヤンデレ系の純愛ものってマジでエモくて美しいと思う。解説は中原昌也。





360.石沢麻依『貝に続く場所にて』 講談社 2021
ドイツの学術都市に暮らす私の元に9年前の東日本大地震で行方不明になった知人が幽霊となって現れる。時空間の混ざる街では冥王星の像が出現したり、トリュフ犬が人々の思い出を掘ったりする。遠い宇宙の星座のような透徹した言語感覚で書かれる貝の内側の世界。





359.西崎憲『本の幽霊』 ナナロク社 2022
カタログに存在しない本を購入した話や、スタバの窓から特別な情景が見えた話や、詩人が企画した参加型演劇会の話や、砂嘴の上の図書館の話や、京都まで読書会に行く話や、歌が下手な三田さんの話などの短篇集。日常とは幽霊みたいなもので人々はそれを密かに大事にしてる。





358.佐原ひかり『ペーパー・リリイ』 河出書房新社 2022
結婚詐欺師の娘とその結婚詐欺師に騙された女の2人が幻の谷間の百合を見つけにドライブに行く話。途中で髪が緑色のお婆さんに出会ったり、パチンコしたり、女体嫌いの謎のお坊ちゃんと出会ったりする。ロードノベルって楽しいし、この凸凹コンビが最高でした!





357.青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』 新潮社 2005
チラシ配りの男は創作教室に行く。先生は修道院を舞台にした作品を書いた。男はチラシの裏にメルヘンを書く表題作と、誕生したての人類とそれらを発掘する現代を描く「クレーターのほとりで」の2篇。ストーリーがなくて難解な作品。これが出版される凄さ。





356.仙田学『盗まれた遺書』 河出書房新社 2014
盗撮女に頼まれて万引き男が謎の言語で書かれた遺書を宛先に届ける話や、肉を食うのが好きな女の部屋が肉だらけになる話や、謎の生物であるおっぱいに人々は逆寄生される話や、蛸のおっさんの話や、家族が変態して別生物となった遺族の施設の話など奇想たっぷりの短篇集。





355.山野辺太郎『いつか深い穴に落ちるまで』 河出書房新社 2018
戦後から現在まで続く「日本とブラジルの直線ルート開発」つまり地球に穴を開けるプロジェクト。主人公の鈴木は広報係としてこの事業の経過を記録している。各国のスパイが来たりブラジル側の広報係に恋をしたりと楽しいサラリーマン小説。最後ヤバい。





354.西尾維新『ニンギョウがニンギョウ』 講談社 2005
妹が23人いる私が死んだ妹のために映画を見に行ったり右足が腐敗したので人体交換屋に向かったり熊の少女と脳髄を買いに行ったり右眼に鍵を挿して1番目の妹に会ったりする連作短篇集。シュールレアリズム的な世界観は奇蹟。西尾維新に純文学を書いてほしい。





353.乗代雄介『最高の任務』 講談社 2020
かつてジュニアアイドルだった今は2人の子供もいる2歳年上の従姉に永い恋をしていた男の手紙「生き方の問題」と、大学の卒業式の後に家族で今は亡き叔母の手がかりのある場所に向かう表題作の2篇。やや変態的な描写があるのも妙に面白い。どっちもミステリ的で好きだな。 





352.松波太郎『本を気持ちよく読めるからだになるための本』 晶文社 2020
作家であり鍼灸師でもある著者の自身が持つ治療院での創作日記。鍼や灸などの東洋医学を紹介してくれる。途中で滝口悠生や上田岳弘や町屋良平といった純文学作家などの施術の感想文も入っている。色々と勉強になるし文章も独特で面白い。





351.木下古栗『人間界の諸相』 集英社 2019
下ネタ満載の最狂短編集。14篇所収。半分は菱野時江を主人公とした話で、彼女は熟女AVを見たり鶏の着ぐるみを着て焼き鳥屋に行ったり恥丘の写真展を開いたりオバマ大統領とお茶会をしたり熟女AVを切り貼りして海鮮丼を食べたり牛乳寒天専門店を出したりする。鬼才だ。





350.町田康『私の文学史』 NHK出版 2022
著者が自分の生育史やパンク歌手になった経緯や詩を書く目的や小説に対する想いを話した書。小学生の時に「物語日本史2」に出会って古典に行き着く。北杜夫と筒井康隆を読む。わかるとわからんの4つの軸。土俗・卑俗の真実性と笑い。これからの日本文学とは。サイコーっ!





349.今村夏子『とんこつQ&A』 講談社 2022
ラーメン屋で働く主人公は接客が下手だがメモを使うことで対応が上手くなる表題作や、嘘をつくので虐められる子の家に遊びに行く「嘘の道」や、タム君にさくらんぼをあげる「良夫婦」や、職場のおばさんが料理してくれる「冷たい大根の煮物」の4篇。感動で号泣しました。





348.平山夢明『ヤギより上、猿より下』 文藝春秋 2016
父親からDVを受ける母子の話や、狂女の娘を探す探偵の話や、妙に優しい殺し屋の話や、山の麓の売春宿の話などヤベー4篇の短編集。表題作は3人の50代の娼婦の前にヤギと猿がライバルとしてやってくる。動物に負ける姐さん達。完成度高くて心から涙出るでこれ。





347.楠見朋彦『零歳の詩人』 集英社 2000
ユーゴスラビア内戦に巻き込まれた日本人アキラを中心に複数の語り手やテクストからなる戦争物語。地下に隠れる主人公たちは最初は楽観的に過ごしているが、戦局が悪化していけば次第に敵も味方も殺されていく。戦争とは人の命の価値を下げること。その怖さがわかる本。





346.李琴峰『彼岸花が咲く島』 文藝春秋 2021
記憶喪失の少女が島に漂着。島では「ニホン語」と「女語」という言葉が使われ、少女は「ひのもとことば」を使っている。少女が島で生きるには歴史を司るノロという存在になる必要がある。島の秘密とは何か。実はディストピアもの。マイノリティを排除した悪い歴史は。





345.宝野アリカ『少女遊戯』 愛育社 2022
音楽ユニットALI PROJECTの宝野アリカ様の詩集。2002年刊行。「漆黒の薔薇を抱いて/天使のまま息絶えるのよ」と少女的で眩惑的で堕落的な言葉によって構成される人工世界。血と蜜のように無菌室にはいずれ死の香りが混入する。その瞬間こそ崇高な肌触りの絶頂であると。





344.アニー・エルノー『シンプルな情熱』 早川書房 1993
妻を持つ外国人の男との不倫関係にある女性の1人語り。今年のノーベル文学賞受賞者の自伝的小説。不倫相手が家に来てくれるようにホームレスに小銭を与えて徳を積んだり、急に男が家に来ることになれば家にいる息子を外に出すなど情動的で刹那的で人間的だ。





343.佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』 破滅派 2022
麻紀にサークルをクラッシュされた大学の文芸サークルの部長が就職して結婚して平凡そして素晴らしい人生を送るパートと、サークルのメンバーが書いた「受賞第一作」という小説のパートからなる話。脱線に次ぐ脱線こそ天才作家の証。これ読めて倖せ。





342.西村賢太『苦役列車』 新潮社 2011
埠頭の冷凍倉庫での日雇い仕事に従事する北町貫多19歳は、職場でできた男友達に風俗自慢をするが、相手はすぐに女ができて一方的に怨むことで関係が崩壊する表題作。川端康成文学賞の候補となった40代の貫多がギックリ腰で苦しむ「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」も併録。





341.せきしろ『放哉の本を読まずに孤独』 春陽堂書店 2022
尾崎放哉の自由律俳句50句から発想され生まれた日常エッセイ集。死んだ友人を夢の中で助けたい話や雨の日割引をしてくれない喫茶店の話や会話が聞き取れない老夫婦の話や駐車場に放置された買い物カートの話など。咳をしても1人的な陰キャ的思考法こそ歌。





340.高橋弘希『スイミングスクール』 新潮社 2017
娘をスイミングスクールに通わせる主人公はかつて自分も母親からスイミングスクールに通わされていたと思う。実家のカセットテープに何が入っているのか。愛犬を亡くした静かな物語。母になるとは母を忘れること。娘が脳症で意識不明となる「短冊流し」も収録。





339.川上未映子『わたくし率 イン 歯ー、または世界』 講談社 2007
奥歯に心を詰めて生きる主人公が歯科助手になって虐められて恋人を想ってまだ見ぬ子に日記を残す。文体こそ人の生きる芯であり軸であり奥歯であった。そしてエゴを外在化すれば簡単に捨てられる。意外とどんでん返し的なオチもある。お大事に。





338.矢部嵩『紗央里ちゃんの家』 角川書店 2006
小5の僕が従姉の紗央里ちゃんの家に行くと叔母さんと叔父さんの様子が変。紗央里ちゃんは行方不明。お婆ちゃんは風邪で死んだ。血まみれの床。洗濯機の裏に指が落ちている。臓物が巻きつけられたライト。飯は三食カップ焼きそばだけ。狂ってない。全然おかしくない。





337.村田沙耶香『殺人出産』 講談社 2014
10人産めば1人殺してもよい近未来の話。男でも人工子宮を取り付けることで妊娠は可。主人公の姉がそろそろ10人目を産んで誰かを殺そうとしている。それは誰か。制度に反対する者たちも勿論いる。いわゆるディストピアもの。人類の増加と個人の生存はどちらが大事かな。





336.赤染晶子『乙女の密告』 新潮社 2010
京都の外国語大学に通うみか子は「アンネの日記」をドイツ語でスピーチするゼミに入っている。担当のバッハマン教授に無駄に分けられた黒ばら組とすみれ組には黒い噂が流れる。それはまるでユダヤ人を密告する影のように。シリアスと軽妙さの按配が心地のよい奇跡の作。





335.読売新聞文化部「本よみうり堂」編『キリンが小説を読んだら』 
書肆侃侃房 2021
読売新聞に掲載されていた書評をまとめた本。日本の現代文学を60冊ほど紹介。書評は蜂飼耳や谷崎由依や阿部公彦などが担当。絲山秋子や金原ひとみや川上未映子などの本を取り上げる。こういう純文学の紹介本もっと存在してほしい。





334.高橋源一郎『恋する原発』 講談社 2011
3.11の被災者支援チャリティーのためにアダルトビデオを作る男たちの奮闘記。時空間を操れる宇宙人のADジョージや72歳のセクシー女優や黄金が好きな社長など変人ばかり。不謹慎な小説として有名だが、しかし不謹慎とは誰もが口にしない言葉ゆえに文学にするべきだと。





333.又吉直樹・ヨシタケシンスケ『その本は』 ポプラ社 2022
ある2人の男が王様から「世界中の変わった本の話を聞かせてほしい」と頼まれる、本にまつわるショートショート集。速い本、読むと死ぬ本、栞を食べる本、父の本、交換日記の本、存在しない本、これから生まれる本など。僕はやっぱり本が好きなんでした。





332.井出彰『精進ヶ池へ』 河出書房新社 2006
戦前から生きる120歳の老人は自然の中の廃船で暮らしてきたが、そこに家出してきた20歳の女子が現れて生活が変わる「姥ヶ懐」と50年ぶりに村に帰ったホームレスがかつての幼なじみを探す表題作と他1作。自然と人間と時間がテーマ。エゴと郷愁こそが人間らしさだと思った。





331.上田岳弘『私の恋人』 新潮社 2015
前前世はクロマニョン人、前世はナチスに殺されたユダヤ人、現世はそれらの記憶を全て持つ日本人。彼が10万年前から想像していた恋人が現実として現れた。彼女は「行き止まりの人類の旅」の3周目を辿っていた。人類史を登場人物として擬人化した感じ。特殊能力系純文学。





330.李龍徳『死にたくなったら電話して』 河出書房新社 2014
浪人生の徳山は知人と行ったキャバクラで嬢の初美に見初められる。彼女は猟奇や死に惹かれるヤバ女だったので、最初は従いていけない徳山だが、同棲して良くも悪くも影響されていく…。僕はヤンデレ好きなんですよね。一緒に救いのないことできる人ほしい。





329.片岡義男『窓の外を見てください』 講談社 2019
新人作家の日高は次の短編のために3人の女性に会いに行った。また自分よりも30年ベテランの作家とも対談した。そうして短編を思いつくのだが、なんと彼はその短編をも含めて上記全てを1つの長編にすることにしたのだった。こんな小説が書けたら幸せだろうな。





328.島口大樹『遠い指先が触れて』 講談社 2022
施設で育った一志は今は銀行に就職している。そこに杏という女性が訪れ、私たちは記憶を消されていると言う。彼らは恋人となって自らの幼少期の記憶を所有する大山という男に辿り着くが…。「僕が」と「私が」が1文に混在する特殊な文体は天才。作風、極まれり。





327.平沢逸『点滅するものの革命』 講談社 2022
多摩川の河川敷でピストルを探す父、雀荘を営む鈴子さん、失恋した男子大学生レンアイ、そして彼らの会話を聞く主人公の女児。ひと夏のだらけた日々。ろくでもない大人たち。彼女が世界に参入するにはきっと早いけれど、3段飛びにした階段で、心に色を塗っていた。





326.滝口悠生『死んでいない者』 文藝春秋 2016
ある男の葬式に訪れる30人余の登場人物たち。義理を考えるアメリカ人、不登校の男の子、ビールを飲む小学生、行方不明の夫など、彼らの過去や交流が静かに、そして動的に描かれる。素晴らしき滝口悠生の移人称的な視点がきらりと光る傑作。死者の視点かもしれない。





325.綿矢りさ『インストール』 河出書房新社 2001
女子高生の朝子は近所の小学生男子と一緒にエロチャットのバイトをする。お互いに憂いを抱える彼女らは、アダルトな仕事に参加することで、少しずつ希望を見出していく。思春期の悩みは大事だとは思うが、意外と大人の世界を垣間見て、人々のアホさ加減を知るといい。





324.山野辺太郎『孤島の飛来人』 中央公論新社 2022
自動車会社に勤める男が次に来る移動方法は飛空だと考え、風船で飛ぶ実験の途中で島に落下する。そこは北硫黄島であり、日本からの独立国と自称していた。男はその島で生きるかどうかを考える。漂流もの・偽史ものである。外部を知る者と知らぬものの融和。楽しい。





323.年森瑛『N/A』 文藝春秋 2022
高2の松井まどか様は間違ったカテゴリーに入れられたくない。女性と付き合ってるがレズビアンじゃない。低体重だが拒食症ではない。この小説は一人称小説だけど自分のことを「まどか」と客観的に呼ぶ特殊な文体だと僕は解釈する。肉と血と性を拒んだために自らの言葉にも悩む話。





322.岩城けい『さようなら、オレンジ』 筑摩書房 2013
アフリカ難民のサリマはオーストラリアで肉屋に勤めながら英語を習っている。彼女は夫とともに渡豪してきた日本人の女性と出会う。主人公2人は英語を母語としない外国人である。同時に異国に住む母でもある。彼女らの尊厳を取り戻す苦労と報いに泣けてきます。





321.高原英理『不機嫌な姫とブルックナー団』 講談社 2016
19世紀の作曲家ブルックナーのコンサートを訪れた女性が「ブルックナー団」という3人のオタク達と出会う話。1人はブルックナーの実話小説を書いていて、ブルックナーの変なオッサン思考と権力にへいこらする態度には同情するばかり。僕も非リア充だよ。





320.須永朝彦『天使』 国書刊行館 2010
幻想の掌編集。トランシルヴァニアの吸血鬼や両性具有の天使というモチーフが多い。ババリア国の童話シリーズやスペインの闘牛など舞台が変幻自在であり耽美。生肉と柘榴しか食べない天使に百合男が魅了される話や、男が砂に囲まれた町の講師になる話は、特に血を吸われて虜。





319.伊佐山ひろ子『海と川の匂い』 リトル・モア 2010
小学生のるい子シリーズと大人の女性のエピソードからなる短編集。ペットの犬が亡くなった話やピンク映画の撮影の話や喫茶店でいつもいる女の話や父と母の話など。汽水域のような文体と構成。子供と大人を行き来するるい子はいつでも人間が恋しいのかもしれない。





318.佐川恭一『終わりなき不在』 日本文学館 2012
自分を天才だと信じて小説の新人賞に応募する自己愛ワナビー男と、男のメンヘラ彼女と、男の元カノと、男の元カノの今彼をめぐる話。この凡な感じが癖になる。途中で挿入される男の小説も絶妙すぎる。凡をオーバーフローさせて純にしてる。佐川恭一めっちゃ好きよ。





317.後藤明生『しんとく問答』 講談社 1995
作者が近畿大学の教授となり、大阪の町をぶらぶらする8つの短篇集。能の弱法師でも有名な盲目の俊徳丸は四天王寺で祈願して病が癒えたという。その伝説に纏わる古墳を訪れる表題作など。東アジアの交流祭ワッソや芥川の芋粥を題材にする良きチョイスよ。愉しすぎだ。





316.宮沢章夫『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』 新潮社 2011
2001年9月1日に歌舞伎町で44人死亡のビル火災が起こる。レコード屋の店主は酒でその日のことは忘れていたが、自分が火をつけてしまったのかもと思う。図書館で31年間借りていた『アメリカの鱒釣り』を返しに行く併録作「返却」も良い。





315.いとうせいこう『小説禁止令に賛同する』 集英社 2018
2036年、亜細亜連合の旧日本は小説禁止令を発布。作者のいとうせいこうを思わせる主人公は逮捕され、幽閉されている。彼は独房の中で「いかに小説は読者に害悪なのか」というアンチ小説のエッセイを書き続けるが…。言論統制ディストピアの傑作。伝説。





314.福永信『一一一一一』 河出書房新社 2011
地の文がほぼ存在しない会話劇であり、片方の人物は「そうですね」「ええ」「おそらくは」「そのとおり」など相槌しか打たない変な小説。内容として小動物が兄を失ったり若者達が旅をしたり男が自転車屋に化けたり家族が逃避行したりする。そしてそれらは全て繋がるのだ。





313.青来有一『小指が燃える』 文藝春秋 2017
かつて作者が書いた戦争がテーマの「小指が重くて」という小説を手直しした「小指が燃える」という小説をめぐる思弁的小説。林京子や石原慎太郎との幻聴的な会話や、しがらみ書房という謎の出版社とも連絡しながら、ジャングルの敗残兵に主人公は化身する。ザ・文学。





312.山下紘加『あくてえ』 河出書房新社 2022
20歳のゆめは祖母と母の3人暮らし。祖母は悪態をつき、母は自分を殺すようにケアをする。ゆめはイラつく。父は他の女と子供を作るし、彼氏は自分のことしか考えてない。作家志望なのに小説を書く余裕もない。いつまで世界はしんどいままなんだ。もう悪態をつくしかねえよ。





311.三浦俊彦『これは餡パンではない』 河出書房新社 1994
美大の芸術家カップルが教授に誘われて前衛芸術の展覧会に向かう。そこでは絵の影を見る絵や自分の絵を見させない作者の絵や絵を燃やす絵や電流に触れないと見られない絵や動物を苦しませる絵など謎の芸術があった。終盤は筒井康隆的なエログロだらけで良い。





310.中山可穂『ダンシング玉入れ』 河出書房新社 2022
ある殺し屋の元に「宝塚歌劇団のトップスターを殺してくれ」という依頼が来る。彼は対象を調べるうちに宝塚そのものと殺すべき相手の女性に魅了されていく。言ってしまえば宝塚紹介小説である。僕は以前より宝塚が気になっていて、いつか必ず行くぞと思いました。





309.上田岳弘『塔と重力』 新潮社 2017
大震災で生き埋めになった男が、亡き初恋の女性・美希子を想っていると、友人が美希子に似た女性を何人も主人公に会わせてくるゲームを開始する話。人類が肉の海という個人をなくした塊になった「重力のない世界」や、3つの時代を行き来する「双塔」も収録。パーフェクト!





308.伊藤比呂美『道行きや』 新潮社 2020
著者の日々の生活を描いたエッセイ集・短編集。カリフォルニアで結婚し娘もアメリカにいるが、早稲田大学の教授となったため帰国、現在は熊本と東京を往復する生活に。犬の話や教え子の話や植物の話や外国での話など。オノ・ヨーコに似てる話や「犬の幸せ」は泣かせる。






307.海猫沢めろん『キッズファイヤー・ドットコム』 講談社 2017
あるホストの元に母親不明の赤ちゃんが届けられた。彼はクラウドファンディングで革命的に子育てをすることに決める。併録「キャッチャー・イン・ザ・トゥルース」はその赤ん坊が6歳になったら。厨二病的だが、社会的で先鋭的な作品でもあった。





306.別唐晶司『メタリック』 新潮社 1994
自らの肉体的劣等感から身体を抜け出して脳だけの純粋生存を望む男と、その友達の脳学者が彼の望むままに脳だけを取り出して生かし続けようとする話。2人の語りからなるが、男はメタリックなものへの執着があり、なぜか人工物→人形→ロリ的な嗜癖へと移るのが興味深い。





305.坂上秋成『夜を聴く者』 河出書房新社 2016
鍼灸師の男主人公は中学からの男友達がいる。だけどその友達に彼女ができてから劣等感に苛まれることに。そして友達が鬱的症状で苦しんでいることを聞かされる。併録「パーフェクトスタイル」は衝動的に暴力を振るってしまう映画好きな女子高生と主人公が仲良くなる話。





304.松波太郎『よもぎ学園高等学校蹴球部』 文藝春秋 2009
よもぎ学園の男子たちが女監督の元、サッカー大会に出て青春を謳歌する話。と思いきや途中で女監督の卒論や急に10年後になったりと話が脱線する。併録「廃車」は男が6万円台で買った中古車を外国人にタダであげたらトラブルに巻き込まれる話。脱線が絶妙。





303.北条裕子『美しい顔』 講談社 2019
故郷の町が津波に流された女子高生のサナエ。避難所に「可哀想な人々」を撮りにやってくるマスコミ。それを利用してやると彼女は美しい顔を作るが…。やらない善よりやる偽善。結果が他人のためになるなら動機が不純でもいいと思う。それが許される社会になればいいのに。





302.佐原ひかり『ブラザーズ・ブラジャー』 河出書房新社 2021
父の再婚で新しい母や弟と一緒に住むことになった女子高生のちぐさ。弟は男だけどオシャレからブラジャーをつけていることが判明し、ちぐさは自分には下着のセンスがないことから弟に相談することにするが…。青春・家族ものとして素晴らしい。傷の共有。





301.松田青子『スタッキング可能』 河出書房新社 2013
オフィスビルで働く複数人が「自分は社会に合ってない」と思いながら働く表題作は神。あと化粧品やファッションの違和感を対話する女子達の「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」も凄い。各人の価値観は交わらないのに、でも一緒に働ける「会社」は変すぎるよなあ。





300.大前粟生『死んでいる私と、私みたいな人たちの声』 河出書房新社 2022
DVで亡くなった窓子は幽霊となり、女子高生の彩姫と会って犯罪者を片っ端から殺しまくる。最初は暗い話だと思いきや、途中で話のテンポがバグりだし、窓子が時空間を操れる特殊能力者となり、デスノート的に悪者に天誅を下しだす。奇想すぎ。





299.乗代雄介『旅する練習』 講談社 2021
作家の叔父さんとサッカー少女の姪が千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地まで徒歩で旅する話。田山花袋や小島信夫などの作家の足跡を辿りながら、ジーコやおジャ魔女どれみなどを引用したりもする。天才。お空にひびけピリカピリララ。とんで走ってまわっちゃえ。





298.澤西祐典『フラミンゴの村』 集英社 2012
19世紀末のベルギーで、アダン氏の妻は突然フラミンゴに変身してしまう。アダン氏はそれを秘密にしていたが、実はフラミンゴになったのは彼の妻だけでなく、なんと村中の女全員だった!変身譚には「隠蔽」が付き従う。そして男は何かを秘密にすることが苦手である。





297.古川真人『ラッコの家』 文藝春秋 2019
老女タツコの「意識の流れ」を書く。親戚が彼女の家に来て色んなことを話す中、彼女の意識の半分は離島で海に落ちる映像を見ている。併録の「窓」は名作。全盲の兄を介助する弟は作家になって「障害者を差別する人間の思想を書き換える施設のディストピア小説」を書く。





296.又吉直樹『第2図書係補佐』 幻冬舎 2011
45冊以上の本を紹介するエッセイ集。最後に本のことをポソっと付け加えるのがとても良い。大江健三郎、中村文則、笙野頼子、村上龍など。この中で著者が占い師に「35歳で何か起こる」と予言されるエピソードがある。なんと又吉は35歳で芥川賞を取っているのだ!凄い。





295.山内令南『癌だましい』 
文藝春秋 2011
食べることが好きすぎる中年女性が食道癌になってしまい、食べられないことに苦しむ話。治療は放棄している。併録の「癌ふるい」は主人公が癌になったことを知人100人にメールで公表し、その返信に点数をつける話。人はいつか亡くなるが、死に向かう態度は人それぞれ。





294.町屋良平『青が破れる』 河出書房新社 2016
ボクサー志望の主人公が入院中の友達の恋人を見舞いに行く。それと同時に彼は人妻と逢瀬を重ねている。思考と感傷と肉体と暴力の狭間で気怠い日々を過ごす主人公。この作家が『ほんのこども』を書くのは必然かもしれないな。併録の「脱皮ボーイ」「読書」は実験風味だ。





293.長野まゆみ『少年アリス』 河出書房新社 1989
少年アリスが友人の蜜蜂くんと夜の学校に忍び込むと人の姿をした鳥たちが教室で授業をしていた。ある勘違いから鳥たちの仲間とされたアリスが行方不明となり、蜜蜂くんが犬の耳丸と一緒に探す話。全体的に出てくる言葉やモティーフが耽美的。この雰囲気が好きすぎる。





292.吉村萬壱『クチュクチュバーン』 文藝春秋 2002
宇宙の法則がバグって人間が意味不明なものに変身した世界で、蜘蛛女や巨女やシマウマ男などが終末した風景を視る奇作。併録の「国営巨大浴場の午後」「人間離れ」は宇宙人がやってきて人類を陵辱する話。好き好きバーンすぎて何度も読んでますバーン。バーン。





291.向井豊昭『BARABARA』 四谷ラウンド 1999
本書で早稲田文学新人賞を受賞した著者は青森で育ちアイヌ関係で働いていた。伝説の作家である。3作収録。表題作は中年教師が通勤中に何度も「ゴキッ!」と自分が分裂して25人ほどになる。時空間も捻れる。方言がたまに出るカラス半島出身のオネエが逮捕される話もある。





290.金子薫『双子は驢馬に跨がって』 
河出書房新社 2017
ペンションに幽閉された父と子は、遠くから双子がロバに跨がって自分達を助けに来てくれると妄想する。一方遠くで生まれた双子は自分達の助けを待つ人々を救うためにロバを引き連れて旅に出ることにした。金子薫の作品は抽象的ゆえに既刊本全てが繋がっている。





289.今村夏子『星の子』 朝日新聞出版 2017
中3のちひろは両親が変な宗教にハマっているため教団の売る水を飲んでいる。彼女自身も集会に参加するのが楽しみだ。彼女は宗教を疑ってはないが、学校では差別されたり親戚からも心配されたりする。社会的な問題としても読めるし、思春期の自我の目覚め的な話とも読める。





288.渡辺祐真/スケザネ『物語のカギ』 笠間書院 2022
物語をより味わう方法をレクチャーする本。副題は「読むが10倍楽しくなる38のヒント」。文学だけでなく映画やアニメや漫画なども紹介しつつ、幅広い学問的見地を引用しながら解説する。個人的には「物語のジャンルを意識する」というのは大事だと思ってます。





287.ピスケン『バーストデイズ』 河出書房新社 2000
2000年の野間文芸新人賞の候補作。サブカル雑誌「BURST」編集長であった著者の自伝的短編集。古書店で同じピスケンと呼ばれていた作家の同人誌を買う話やクジラナミに行きたい女の話など。全体的に「昔は良くて悪かった時代だった」的な。ヤンキーと哀愁って合う。





286.服部文祥『息子と狩猟に』 新潮社 2017
息子と狩猟に来ていた男と山に死体を埋めにきた特殊詐欺の男がぶつかって戦うことになる話。互いの視点が交互に映され、狩猟とヤクザの世界が詳しく描かれる。弱いものは食われる世界へようこそ。K2に登山して遭難し人肉を食べざるをえない話「K2」も収録されている。





285.井坂洋子『月のさかな』 河出書房新社 1997
河出書房新社が90年代に出していた児童文学シリーズ「ものがたりうむ」の1冊。中学生のまどかは通学途中に会う男子にときめいたり、飼ってる猫がいなくなって哀しんだりする。思春期特有の神隠し的な不安や距離感が描かれる。子供は「求めているのに不在」に直面する。





284.砂川文次『ブラックボックス』 講談社 2022
自転車便をするサクマは衝動的だ。きちんとしたいと願っているのだが、難しいことから避けてしまう性格。そして逮捕。制度としての日々を過ごすうちに内省していく。主人公の性格をここまで深掘りする小説も最近は少ないと思う。極めて個人的だが極めて社会的だ。





283.小砂川チト『家庭用安心坑夫』 講談社 2022
専業主婦である主人公は自分の父とされたマネキンを東京で何度も見かける。彼女は父に会うために実家の秋田にある尾去沢マインパークを訪れることになる。サイレントヒル的な世界観。途中で実際に炭鉱で働いていたツトムのパートが差し込まれるのも面白い。狂気。





282.西川美和『その日東京駅五時二十五分発』 新潮社 2012
広島出身の主人公が終戦の日を迎える様子を描く。あとがきによると著者の伯父さんの経験を元にしている。通信兵だったので早めにポツダム宣言の内容を知っていたのが特殊だ。戦争とは終わりと始まりが詰まっている。でも終わらずに続く方がいいと思う。





281.筒井康隆『筒井康隆の文芸時評』 河出書房新社 1994
著者の最初で最後の文芸時評。1993年の文学事情が深く語られている。そして断筆宣言と被っているので、その断筆宣言の理由や状況などを記載して終了する。文学が秘教的にならないように取り上げられるのは、大岡玲、村上政彦、小林恭二、山口泉、石黒達昌など。





280.鈴木涼美『ギフテッド』 文藝春秋 2022
もうすぐ病で死ぬだろう母に腕を燃やされたことのある元ホステスは複雑な想いを持ちながら母のお見舞いをする。そしてビルから飛び降りて死んだ水商売の知人が飼っていた犬はどこに行ったのだろう。僕は好きなんです。雰囲気が抜群だし静かな心の葛藤という感じ。大人。





279.宇佐見りん『くるまの娘』 河出書房新社 2022
暴力を振るう父と脳に障害がある母と17歳のかんこの家族の物語。祖母の葬式に出るため車に乗り、既にこの家を出た兄と弟と合流する。かんこはこの家族が嫌いだけど好きだけど。僕から言わせたら僕の家族はこれだったから心にスッと入った。良かったよ。苦しかったよ。





278.宮崎誉子『水田マリのわだかまり』 新潮社 2018
16歳の水田マリが高校をやめて洗剤工場で働く話。自殺した友達の姉が生保レディとして職場に来るし、その友達を虐めてた女子の母親もその職場で働いてる。さらに主人公の母は変な宗教にハマってるけど、でも主人公は変に辛い日常をギャル的に軽く流している。





277.清水良典『最後の文芸時評 90年代日本文学総ざらい』 四谷ラウンド 1999
1992〜98年の文芸時評。文芸時評とは文芸誌に掲載された作品を新聞等で紹介すること。保坂和志、笙野頼子、多和田葉子、阿部和重、町田康など。大江健三郎がノーベル賞受賞。文芸時評を読むのもいいですね。90年代文学って地味だけど好き。





276.友成純一『獣儀式』 二見書房 1986
最狂のスプラッター小説。ある日突然、地獄の鬼たちが現世に現れた。人間は抵抗できずに嬲られる一方だった。世界の終末風景を描く。次第に人間は死ぬこともできないようになる。吉村萬壱の初期の宇宙人ものに通じると思うが、こちらの方が官能的というか変なエロさがある。





275.坂口恭平『徘徊タクシー』 新潮社 2014
徘徊癖のある曾祖母を車に乗せて走らせたらヤマグチと呟いた。ここは熊本だが彼女の頭では山口県らしい。その経験から主人公が徘徊老人を対象としたタクシー会社を作ろうとする話。会社は意外とうまくいかないが、後半のプラネタリウムで神話の世界に入るシーンが神。





274.古澤美佳『毳玉男』 パロル舎 2007
毳根博士という毛のことを研究する男がいた。そこに1人の美男子がやってきた。彼には悩みがあるという。なんと彼の脇毛は1本ごとに最低30センチはあり埋まっているのだ。博士はどうするのか。絵本のようなものだが、全体的にアングラ感というか得体の知れなさがあって良い。





273.ウラジーミル・ソローキン『ブロの道』 河出書房新社 2015
氷三部作と呼ばれるシリーズ1つ目。ツングース隕石を探索する青年が巨大な氷と出会い、自分が宇宙を作った原初の存在であったことに気づく。自分と同じ存在が世界に23000人いることがわかり、氷のハンマーで彼らを覚醒させる話。人間を肉機械と呼びたい。





272.佐々木敦『絶体絶命文芸時評』 書肆侃侃房 2020
2015〜2020年の文芸時評や、今村夏子論、私的平成文学クロニクル、倉本さおりとの対談などが収録。巻末にて著者が批評家から作家として転身する旨が書かれる。主に文芸誌から注目すべき小説の紹介などが書かれており、僕の知らない作家も多かった。全てメモした。





271.村上春樹『猫を棄てる』 文藝春秋 2020
父親についてのエッセイ。かつて父と一緒に猫を捨てにいった。気づけば猫は家に戻っていた、自分達よりも早く。父の生まれ育った環境や戦争で生き残ったことや母との出会いや趣味の俳句などが書かれている。春樹も父と仲が悪いという。僕も父に関する文章を書こうかな。





270.木下古栗『グローバライズ』 河出書房新社 2016
12篇の短編集。エロ・グロ・ナンセンス文学の傑作。文章の途中で謎のフランス人のジェロームが羊とやるシーンが挿入されたり、ひどい名前のNGO団体が出たり、死体が気球となって空を飛んだりする。木下古栗はまだ全ての本を読んでないから読んでいくよ。問答無用。





269.原田宗典『メメント・モリ』 新潮社 2015
作者の自伝的小説。クスリにハマって逮捕されたり、鬱で原稿が10年間進まなかったり、知人や謎のおじさんが死んだりする。後半になると目がタテについた女を連続して見かけることがあり、狂気の世界に入る。エピソードの構成だから大きな筋がないが、これぞ純文学!





268.高橋源一郎・斎藤美奈子『この30年の小説、ぜんぶ』 河出書房新社 2021
1990年代〜2021年までの約30年に発表された日本の小説についての対談。いわゆる平成文学論である。3.11やコロナに関する文学や平成の時代性を読み取れる本を100冊以上紹介。面白すぎた!今まで純文学読んできてよかった。話についていけた!





267.劉慈欣『火守』 KADOKAWA 2021
星を巡る短篇。訳は池澤春菜、絵は西村ツチカ。恋人の病を治すために青年は火守の元を訪れた。全ての人間には空に対応する星があり、宇宙に渡って彼女の星を磨くのだ。太陽に火をつけたり月にロープを引っ掛けたりとすごく美しい世界のありようだと思った。鯨は巨大で神秘的だ。





266.若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』 河出書房新社 2017
70代の桃子さんは若い頃に田舎から逃げるように上京し、結婚した夫に先立たれ、現在は孤独。認知症的に複数の自分の声が聞こえてくる。それでも自分はこのまま生きていくことを決意する。文体がリズミカルでいい。1人なのに複数の音を重ねていて音楽的。





265.芦田愛菜『まなの本棚』 小学館 2019
本好きとして有名な著者の本の本。好きな小説の話や84冊の本のリストや、辻村深月や山中伸弥との対談もある。近代文学やエンタメ作品が多いが、村上春樹の話もあって面白かった。読書芸人ブームってあったけど、もっと芸能人の読書エッセイ本って増えたらいいなと思う。





264.しまおまほ『スーベニア』 文藝春秋 2020
34歳の女性は41歳の映像カメラマンと逢瀬を重ねるが、それはいわゆる不倫。その相談を知人の漫画家にしたら彼からも好かれるがそれも不倫。さらに元カレから連絡があり、彼は結婚してないがDVタイプの男だった!ダメ男には引っかからないように。人生ダメになるよ!





263.蓮實重彦『オペラ・オペラシオネル』 河出書房新社 1994
老諜報員である主人公がパイロットだった男の未亡人や作曲家の妻であった娼婦や組織から逃げる女と出会う話。主人公の職業柄、女に殺される可能性も充分あるため、しつこく疑う必要がある。抽象的な世界観は深読みを求める。もっとこういう小説が読みたい。





262.舞城王太郎『短篇七芒星』 講談社 2022
7篇の異形短編集。足を切断する犯人を当てる探偵、狙撃手の弾がワープして世界中の悪人を殺す、毎夜うるさい飛び降りの音とマジ怖い影、石にストーカーされる青年、サイコパスの少年と入れ替わった背後霊、犬を探す女、子供が生まれてくる前に一緒にいた豚に襲われる。





261.Dain『わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる』 技術評論社 2020
書評ブロガーである著者の読書論。「読みたい本や気になる本を探すには人を探せばいい。どんな本も誰かが読んでいるからだ」と言う。僕は昔ブログで「禁断の劇薬小説・トラウママンガ」のページを見てましたよ。巻末にあって感激!





260.諏訪哲史『りすん』 講談社 2008
会話文のみの実験的な小説。白血病で余命少ない妹と彼女を支える兄との病室での会話。しかし実は隣の患者が自分達の会話を盗聴し小説化していたのだった。それに気づいた2人は「小説」から抜け出すことができるのか。何度読んでも泣いちゃうエモ。『アサッテの人』姉妹篇。





259.夜釣十六『楽園』 筑摩書房 2017
パチンコで稼ぎを潰す30歳の圭太は、会ったこともない祖父から引き継いでもらいたいものがあると呼ばれる。行ってみるとそこは廃鉱の奥地の小さなジャングル。そこには死者を蘇らせる花があると言われ…。記憶の継承がテーマ。老人は大事にせねば。2016年の太宰治賞の受賞作。





258.李琴峰『星月夜』 集英社 2020
日本で日本語講師をする台湾人の女性と新疆ウイグル自治区出身のその生徒の女性は恋人同士になる。しかし2人を不安にさせる要因が多くあり、彼女らは哀しくすれ違っていく。国家という残酷な壁・言語や文化の差・家族の不和。皆好きな人同士で結ばれてほしいよ。花と月と星。





257.山田詠美『ベッドタイムアイズ』 河出書房新社 1985
軍隊から逃げた黒人のスプーンに恋した日本人のキム。いずれ逮捕されるだろうスプーンを匿う彼女は激しい情動の中で日々の営みを脳に刻みつける。村上龍→山田詠美→金原ひとみという文学的な倒錯路線ってあって、病的なまでに歪みきった他者への愛憎劇が好き。





256.鹿島田真希『一人の哀しみは世界の終わりに匹敵する』 河出書房新社 2003
5篇の短編集。聖書を女子校的な世界観に新訳させた著者らしい奇書。キャンプで財布管理係が盗んでもいない罪を告白して裁かれる話や、クォーターであるがゆえに異端者の男子に惹かれる話や、愛してない男に身を捧げた女が子を授かる話など。





255.星野智幸『植物診断室』 文藝春秋 2007
植物診断という自身を植物に変身させるイメージ療法を受けている独身男は、離婚したばかりの女性に頼まれる。それは父のいない男児に「良き大人の男」として接してもらい、共に子育てしてほしいというものだった。他の家族と接しながら自分も育てる。カウンセリング的。





254.村田沙耶香『信仰』 文藝春秋 2022
8篇の短編集。特殊設定というかSF的な作品が入ってる。表題作は夢に浸る他人に現実を見せようとする主人公が自らカルト宗教にハマる話。他には自らのクローンを家具にする話や、滅んだ地球で最後の展覧会を開く話や、生存率に支配された世界の話や、野人になる姉の話など。





253.吉本ばなな『私と街たち(ほぼ自伝)』 河出書房新社 2022
特殊な環境で育ったのもあり、作家になるしかなかった著者のエッセイ集。父の葬式の話やサイキック能力を持つ友の話や犬の死の話や元カレの話や変な人しか来ないバーの話や中上健次の酒乱の話や文壇に居場所がなかった話や山田詠美が家に来た話など。感動。





252.穂田川洋山『自由高さH』 文藝春秋 2010
バネ会社の廃工場を借りて板に柿渋を塗り続ける男。知り合いの女性も呼び、オーナーの老夫婦もやって来て、1つの空間で彼らの人生が交わっていく。淡々とした塗装の描写と登場人物のこれまでの人生が重なっていく。失敗したり意味を失ったりもするけど生きるしかない。





251.高橋弘希『朝顔の日』 新潮社 2015
結核と診断されて隔離病棟で療養する妻のために主人公はサナトリウムに足繁く通う。症状悪化により妻は話すことを禁じられて想いを紙面に綴る。2人の死を目の前にしながら恋していく姿がエモくて辛い。昭和16年が舞台であり、現代では完治する病気で失われた命を悼みたい。





250.谷川俊太郎・俵万智『言葉の還る場所で』 春陽堂書店 2022
詩人と歌人の対談。結婚や引越しの話や谷川さんから俵さんへの33の質問があったりする。個人的には詩と短歌の違いが面白かった。短歌は諳んじることができるが現代詩はできないとか、短歌は音楽的な要素があるとか、ポエムとポエジーをどう捉えるとか。





249.ジョルジュ・ペレック『パリの片隅を実況中継する試み』 水声社 2018
作者が1974年10月18日〜20日の3日間、パリの街を観察して、目にしたものをただ羅列しただけの文章。極めて実験的なものであり、冒頭の40ページは翻訳者の解説が占めている。これは小説ではないけど小説を書く時に役立つような気がした。





248.神栄二『涅槃刑』 河出書房新社 1999
ハッテンバの映画館で女装した男から聞かされる、インドからの留学生に恋をした仏教科の院生の話。仏教と同性愛が絡まった不思議な悲恋は次第に現実を歪めていく。この本って個人的には謎で、作者の情報を調べても全く出てこないんですよね。1999年に出版された、隠れた名作。





247.尾崎世界観『祐介・字慰』 文藝春秋 2016
売れないバンドマンの祐介は金がなくて水道も止められてスーパーでバイトしてピンサロ嬢に恋してAVのパッケージを盗んで意識高い系のライブハウスの男を絡まれて女に殴られて裸になり小学生のブルマを盗む。白井恵の字に恋する「字慰」併録。他責を自責に切り替える話。





246.大前粟生『おもろい以外いらんねん』 河出書房新社 2021
高校生の咲太は滝場とお笑いコンビ「アジサイ」を組むことになるが、同時に転校生のユウキが滝場とコンビ「馬場リッチバルコニー」を組む。そして10年が経って馬場リッチがテレビで活躍するのを見る咲太。コロナ禍が迫り…。3人の関係と各お笑い観が沁みる。




245.マンディアルグ『城の中のイギリス人』 白水社 1982
モンキュ氏の持つ城に招かれた主人公がその城内で繰り広げられるエログロな宴を目にする話。ゲテモノ料理を食ったり犬やタコとやったり赤ちゃんにエゲツないことをしたりするアンモラルさが凄い。モンキュ氏のサイコっぷりが度を超えていて怖いが痺れる。





244.絲山秋子『海の仙人』 新潮社 2004
3億円の宝くじが当たって美しい海辺の敦賀で隠居する河野の元にファンタジーという神様が現れて居候することに。河野に片想いする元同僚である片桐妙子と愉快な旅に出かけたり、たまたま出会った会社員のかりんとは恋人になったりする。そして運命とは残酷ゆえに美しく…。





243. 川上弘美『神様』 中央公論社 1998
熊に誘われて散歩に出かけたり、三匹の梨の妖精が現れたり、死んだ叔父が空豆を食べたり、河童から夜の相談をされたり、壺から悲しい女が現れたり、えび男くんが憂いたり、飲み屋の女店主が恋したり、人魚に魅入られたりする9篇の異界短編集。凄く幻惑的なのに心が温まる不思議。






242.岡本学『架空列車』 講談社 2012
社会になじめず東北の地に逃げてきた男が始めた趣味は、地図上に線路を敷いて自転車で運行することだった。途中で巨大なカタストロフが訪れるが、男は心の電車をもっと動かすことにした。とても好きな作品。人は架空を拠り所にして生きている。自閉的な活動こそ世界を救う。





241.日上秀之『はんぷくするもの』 河出書房新社 2018
毅は母と仮設の店舗で小さな商店を営んでいる。この辺りは津波で流されている。店はカツカツであり、3413円のツケがある客から早く金を回収したいがそいつは逃げ回る…。強迫神経症や妄想が爆発する作品。目の前の小さなことだけを見て生活を「正常に」営む方法。





240.滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』 新潮社 2015
旅をしていた19歳に原付ごと田んぼに落っこちた主人公は高校時代には美術室で裸になる教師に恋をする。それらの記憶を14年後の主人公が語り、3.11も9.11も内包して今は結婚している。そしてギター。人間関係が濃い10代の頃って麗しい宝だな。





239.高尾長良『肉骨茶』 新潮社 2013
女子高生の主人公は160センチ35キロの拒食症。母親から逃げるためにツアーを抜け出しマレーシアの友人宅へ。友人はお手伝いさんや他の人たちと肉骨茶パーティーをする予定。主人公は食から逃げたいのに。孤独のグルメよろしく人に無理やり物を食わせることは人権の侵害だ。





238.古川真人『背高泡立草』 集英社 2020
奈美は母や親戚らととも長崎の島に行く。それは実家の納屋が雑草にまみれているため草刈りをしないといけないからだった。そして奈美の話と並行して島に関する江戸から現代までの他の人々のエピソードが挿入される。個人的に好きな小説。今回も最後の1文で泣きました。





237.横山悠太『吾輩ハ猫ニナル』 講談社 2014
中国と日本のハーフである主人公はビザの関係で1人で日本に行かなければならない。友人の頼みで東方のフィギュアを求めて秋葉原に行くと「猫」になってしまった…。日本語を学ぶ中国人を読者とした小説。漢語とカナを織り交ぜた文体は唯一無二。混合言語の面白さ。





236.羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』 文藝春秋 2015
転職活動中の健斗28歳は祖父87歳が早く死にたいと言うので、過剰な介護により肉体を衰えさせて楽に逝かせてあげる計画を立てる。同時に健斗は筋トレで自身をビルドアップさせていく。地の文が中立ではなくどこか思想を含んでいて笑わせてくるのが良い。





235.金子薫『鳥打ちも夜更けには』 河出書房新社 2016
架空の港町には固有の蝶がおり、町はその蝶を名物にするために、蝶を漁りに来る鳥を毒の吹き矢で殺す3人の鳥打ちを雇う。10年間鳥打ちをしていた1人がノイローゼで鳥を殺せなくなり辞職したいと言いだして…。金子作品のテーマは迷宮と働くことの相似性だ。名作。





234.河﨑秋子『絞め殺しの樹』 小学館 2021
1935年10歳のミサエは北海道の親戚の家に引き取られて半ば奴隷としてこき使われる。成長して保健婦となり結婚しても夫は支配的。仲間はほぼいない。そして彼女は子供を産むが…。僕はこの本は辛すぎてトラウマを思い出して父親と大喧嘩しました。救いはないのですか!





233.永井紗耶子『女人入眼』 中央公論新社 2022
源頼朝と北条政子の娘である大姫を天皇に嫁がせる計画のため、京都から主人公の周子が派遣される。しかし大姫本人は心を閉ざしており消極的、周子が働きかけるのだが…。政略結婚の話なので一見難しいが、シンプルに拗れた母娘の話。親から理解されないのは哀しいよな。





232.窪美澄『夜に星を放つ』 文藝春秋 2022
5篇の短編集。アボカドの種を育てる双子の恋愛の話や、16歳の男子が海で人妻に恋をする話や、事故で亡くなった母が幽霊となる話や、離婚した男がシングルマザーと関わる話や、少年と新しいお母さんと弟との関係を描く話など。人間関係は星座のようだ。距離感が難しいよ。





231.呉勝浩『爆弾』 講談社 2022
酒で暴れて逮捕されたスズキという中年男は霊感によって東京に仕掛けられた爆弾の在処がわかるという。クイズ形式でその在処を仄めかしながら、対面した警官の倫理観をえぐってくる。スズキのキャラが良すぎ。僕は彼の言ってることに共感できるなあ。みんな心に爆弾を抱えてた。





230.深緑野分『スタッフロール』 文藝春秋 2022
戦後の映画界で奮闘した特殊造形師と現代のCGクリエイターの2人の女性の話。時間が50年過ぎて映像技術も育っていく中、怪物Xという伝説のモンスター映画をリメイクする話が来て…。何度も泣いちゃったなあ。キャラもストーリーも良すぎ。好きという気持ちを大切に。





229.乗代雄介『パパイヤ・ママイヤ』 小学館 2022
女子高生のパパイヤとママイヤは世界に懐疑的だ。だけど2人は出会った。黄色いものばかりを集めるホームレスと話したり自転車に初めて乗ったり絵の入った瓶を探したりとアオハルを彼女らは謳歌する。とても良かった。気の合う友達がいるだけで世界は海になる。





228.いしいしんじ『書こうとしない「かく」教室』 ミシマ社2022
前半では作者の来歴、後半では創作教室の内容が綴られている。東京、三崎、松本、京都と移りながらの作家生活。様々な人との出会いと死別。創作ノート。パートナーや子供の誕生など。『港、モンテビデオ』の話が良かった。まるで奇跡みたいな人だ。





227.山下澄人『君たちはしかし再び来い』 文藝春秋 2022
腹膜炎で腸が破裂し緊急手術をした山下澄人の超感覚を描く。腹に犬が現れたり目の病気になったり白鯨を読んだり地震を思い出したりトゥスィクゥと会ったりコロナが流行ったりする。句点がなく冒頭なのに1字開けない自由な文体。神が読んでいる小説である。





226.磯﨑憲一郎『肝心の子供』 河出書房新社 2007
ブッダ3世代の偽史。ブッダは妻と息子が可愛くて出家。息子のラーフラは完全記憶能力者であり出家するが奴隷の娘を孕ませる。孫のティッサ・メッテイヤは虫が好きだったが徴兵。主人公はブッダではなく時間そのもの。時間の流れによる変化は全て聖なるものだと感じた。





225.高橋弘希『指の骨』 新潮社 2015
太平洋戦争で南方に出征した主人公は野戦病院で治療を受けている。仲間達は絵を描いたり将棋を打ったり原地民と仲良くなったりマラリヤに罹って死んだりする。亡き戦友の指の骨を預かり日本に戻りたいと思うが…。最近はこういうセンチメンタルな戦争ものが読みたいんです。





224.島本理生『夏の裁断』 文藝春秋 2015
作家の女は編集者の男をフォークで刺した。女は子供の頃に乱暴されたことがあり、今でも男性からの暴力を断ることができない。彼女は祖父の遺品である大量の本を断裁しなければならなくて…。男のコミュニケーションが気持ち悪すぎて震える。人間関係を完全に断ち切れ!





223.今村夏子『むらさきのスカートの女』 朝日新聞出版 2019
町で噂の「むらさきのスカートの女」と友達になりたい女は半ば彼女のストーカーと化す。挙句の果てに自分が働くホテルの清掃の仕事に呼ぶ。2人の関係はどう発展するのか?透明な神の視点を主人公の空気のなさでごり押す面白さ!落とし方にいつも感動する。





222.ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』 水声社 2018
映画監督が昔ペンタゴンでイラク戦争を指示していた老人を訪ねて彼の映画を撮りたいと説得する為に砂漠の町に20日以上一緒に生活する話。序と終に映画「サイコ」を12倍に引き伸ばした映像を延々に見る男の描写が挿入。人生の深い時間を意識して生きたいな。





221.鹿島田真希『二匹』 河出書房新社 1999
明と純一は幼馴染の高校生。クラスでは明は除け者、純一は人気者。しかし明は知っている。純一は狂犬病に罹っていることを。保健所に連れていかれる運命だが、その前に明は純一に噛まれてしまい…。昔はこの小説の良さがわからなかった。再読してみて感動した!難解だけど!





220.ジャン・エシュノーズ『1914』 水声社 2015
第一次大戦でフランスの片田舎の男達はみな出征。徴兵された主人公は仲間とともにふざけているが、戦闘が激化し兄を失う。一方残された女は妊娠しており婚約者の帰りを待つが…。野営地からフラフラと歩いてた男が憲兵に見つかり軍法会議で処刑される所が印象的。





219.高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』 講談社 1982
詩の学校で詩を教える主人公と恋人の「中島みゆきソング・ブック」と猫の「ヘンリー4世」の話。人々はお互いに名前をつけたり、市役所から死の告知を受けたり、ギャングは顔を潰されない限り死ななかったりする。哀しみで泣けるポストモダン。詩と銃。





218.エリック・ファーユ『長崎』 水声社 2013
長崎に住む50代の男は悩む。1人暮らしなのに冷蔵庫からヨーグルトがなくなっているのだ。自室にカメラを設置して職場から監視してみると、なんと同じ50代の女が自室に侵入していた…。後半の男と女の心理描写がとても良い。意外と「君の名は。」的な出会いの物語。





217.石井遊佳『百年泥』 新潮社 2018
インドで日本語教師をする女は100年に1度の洪水で溢れた泥の中から失った自身の思い出の品を見つける。泥は100年分の人々の記憶を呑み込んでいるので他人の人生も混ざり込む。インドという魔術的異国。忘れがたき記憶や忘れたい記憶ってたまに掘り返すと愉しめるのかもね。





216.砂川文次『戦場のレビヤタン』 文藝春秋 2019
傭兵としてイラクの紛争地帯に身を投じる日本人が主人公の表題作と、自衛隊の100キロ行軍に参加する主人公の俗世への迷いを描く「市街戦」の2篇。どちらも芥川賞受賞作「ブラックボックス」に通底する日々のやるせなさからの逃避と直面がテーマとしてある。傑作。





215.ジョルジュ・ペレック『美術愛好家の陳列室』 水声社 2006
1913年に絵画収集家ラフケが提供する絵画展でキュルツの「美術愛好家の陳列室」が初公開。その絵には100を超す絵が模写されており、さらにその絵自身すらも模写されていた。そして美術評論家が現れる。メタフィクションを突き詰めた形。マジ凄い!





214.岡本学『アウア・エイジ(our age)』 講談社 2020
かつて働いていた映画館で出会った女。彼女の母親との思い出である塔を一緒に探すことになる主人公。当時は見つからなかったが20年後にその女と母親のデータを集めると1つの真実が浮かび上がる。好きなんですこの小説。エモい。青春してるじゃないか充分さ。





213.高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』 講談社 2022
会社員の男は同僚で天然な料理上手の女と付き合いながら、同じく同僚で自身の感情に敏感な女と居酒屋に行く。人と食べる料理の気持ち悪さを描く。誰かが会社にお菓子を持っていくと食べなくちゃいけないみたいな強制が嫌だ的な。HSP時代の傑作。





212.松波太郎『ホモサピエンスの瞬間』 文藝春秋 2016
介護施設に通う鍼灸師は五十山田さんというお爺さんに施術している。首や肩を比喩的に説明していると相手の戦争時の辛い記憶が思い出されて…。鉤括弧と地の文が交互に書かれる特殊な文体により2つの想いを並行的に書いている。東洋医学についても勉強できる。





211.吉村萬壱『流しの下のうーちゃん』 文藝春秋 2016
作者の漫画作品。52歳で教員を辞職した作者である主人公がひょんなことから謎の労働施設に連れてかれる話。兎のうーちゃんや顎が球になってる男や巨女などの登場人物が素敵。不思議の国のアリス的だけど現実とも陸続きなのが面白い。漫画だけど枠線がないよ。





210.宇佐見りん『推し、燃ゆ』 河出書房新社 2020
発達障害を抱える女子高生と推しである男性アイドルと世界との三角関係の話。推しがファンを殴ったことで炎上し、今まであった世界が崩壊していく。主人公は自分を見つめ直す必要が出てくる。人が燃えると発生する死や骨などは再生の意味もあるから生き抜いてほしい。





209.小川榮太郎『作家の値うち』 飛鳥新社 2021
現役作家100名の505冊の小説が100点満点で評価される。大江健三郎や高橋源一郎などの純文学作家50人と伊坂幸太郎や東野圭吾などのエンタメ作家50人で分けられる。大御所でも低い点数はある。こういうタイプのブックガイドで褒めまくるタイプの本ってないのかな〜。





208.古川真人『四時過ぎの船』 新潮社 2017
認知症を患う島のお婆ちゃんと今は関東に住む孫の兄弟の話。お婆ちゃんは今は亡くなっており、盲目の兄を介護するという理由から無職である弟は島に帰ってくる。2つの時間をパラレルに描くことで、本来は出会うことのない人たちを結びつける。最後の1文で泣けてくる。





207.佐藤友哉『青春とシリアルキラー』 集英社 2022
作者がシリアルキラーについて考察しながら日常を過ごす小説。少年Aや京アニの事件や映画「ジョーカー」の話題も。バンドしたり少女と会ったり妻や子供も出たりする。殺人鬼は非リア充であるという論考は面白い。永遠の厨二病・ユヤタンにしか書けない傑作。





206.けんご『ワカレ花』 双葉社 2022
あの小説紹介TikTokerけんごさんの小説です!8篇の連作短編集。電車で小説を読む男子に恋した女子高生。白血病で入院する女の子に恋した男の子。新しい先生に恋した女子高生。ツッコミ所は多いけど青春が眩しかったですね。恋愛して人間的に成長できる登場人物が羨ましい。





205.いとうせいこう『鼻に挟み撃ち』 集英社 2014
4篇の短編集。表題作はある男が橋のたもとで演説するシーンから始まるが、なんと途中で作者が現れ、自身のパニック障害や芸能的な活動について語り出す。ゴーゴリの『鼻』と後藤明生の『挟み撃ち』という2つの作品を引用することで時空間を行き来する最高傑作。





204.松波太郎『カルチャーセンター』 書肆侃侃房 2022
3つの章から成立。1つ目はマツナミタロウ君がカルチャーセンターで小説講座を受けている。2つ目は同じ講座のニシハラ君の作品「万華鏡」の全編。3つ目はリアル作家など16人の本作の書評。凄いものを読んだと思った。この構成がとてもエモい。文学しかできぬ技。





203.猫田道子『うわさのベーコン』 太田出版 2000
伝説の奇書。亡き兄の残したフルートを人にあげた主人公は音楽をするのか恋愛をするのかで人生を考える。本作は「ルビブリザード」と呼ばれる誤字脱字文法の誤り等の小説として到底認められない文章をしている。だがそれが良い。リアルと小説の輪郭が曖昧になる。





202.遠野遥『破局』 河出書房新社 2020
高校のOBとして後輩にラグビーを教える主人公は公務員試験を受け、今の恋人と別れて新しい彼女を作った。全ては順調に進んでいるようだが。自分の意見や感情よりも世間的な「〜しなければならない」を重んじる思考回路の変さがある。完璧な理念が崩れた瞬間に真の自己が現れる。





201.佐川恭一『ダムヤーク』 RANGAI文庫 2021
6篇の短編集。「ダムヤーク」という言葉により人類の文化が崩壊する表題作や、いじめられっ子の心を描く「聖人」など。天才的手法がもたらす怪作。「超有名人と、それにぶつかって割れてしまう微妙な芸能人がいるなら、わたしはつねに、微妙な芸能人の側にたつ」(p.130)





200.舞城王太郎『畏れ入谷の彼女の柘榴』 講談社 2021
命を生み出すビームを放つ子供の表題作、人と話せる猿と蟹の「裏山の凄い猿」、後悔と失敗を巡る「うちの玄関に座るため息」3篇。舞城って論理の通じない人が出てくる。どうやって伝えたらいいのかわからない。ディスコミュニケーションにこそ他者性がある。





199.川上未映子『春のこわいもの』 新潮社 2022
コロナ禍の物語6篇。美人パーティーの面接に行く「あなたの鼻がもう少し高ければ」、なくした手紙を探す男女「ブルー・インク」、過保護な母娘の話「娘について」など。川上未映子はいつも現代って感じがする。面白い程にエゴが曝される。お菓子のような死の甘さ。





198.山下紘加『ドール』 河出書房新社 2015
ラブドールを買った男子中学生。彼はイジメから自分を守るために友達を売ったり、無関係な女子に憎しみを向けたりする。しかし心の支えである人形が汚される事態に…。主人公が僕のように思えてならない。僕もひどくいじめられてたから。鬱屈した彼の性格は何よりも美しい。





197.岸政彦『リリアン』 新潮社 2021
音楽をやめようと思うジャズのベーシストの男と水商売の女は大阪で出会う。2人は万博公園で夜を過ごしたり焼肉に行ったりする。でも会わなくなった。不器用な愛っていいよな。相手を気遣いすぎて別れることも。町を海中に喩えるのが良かった。大阪に水は欠かせないですから。





196.桜庭一樹『少女を埋める』 文藝春秋 2022
文壇史に残る禁断の作品。作者の父親が亡くなる私小説「少女を埋める」とその作品の批評をめぐる「キメラ」と後日談の「夏の終わり」。僕はよく桜庭一樹の作品を読んでました。あの頃の誰からも理解されない少女のキャラに会いたくなった。苦しかったよなあ、お互い。





195.永井みみ『ミシンと金魚』 集英社 2022
認知症を患う老女のカケイさんは介護を受けている。ヘルパーや老人ホームの人や息子の嫁と話す中で、彼女の壮絶な一生が語られる。自分の人生がどれだけ悲しいものでも本人が死んでしまえばそっと消えていくのがいい。可哀想な人っているし、老人の語りって好きだな。





194.尾崎世界観『私語と』 河出書房新社 2022
歌詞詩集。クリープハイプの楽曲が載っている。僕はアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』と『吹き零れる程のI、哀、愛』は死ぬほど聴いてたんですよね。別れの曲が多いのが特徴。ラブソングは別れを含んでこそラブソング。永遠の愛より大人の恋の方が良くね?





193.太田克史編『新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか?』 星海社 2022
かつて講談社にいた伝説の編集者である宇山日出臣への追悼文集。50人以上の作家が彼のために文章を書いている。また綾辻行人らの京都のミステリ4兄弟の座談会などがあって面白い。新本格ミステリの歴史がわかる。皆読むべし。





192.綿矢りさ『あのころなにしてた?』 新潮社 2021
2020年1〜12月のコロナ日記。流行りだした時の生活感が如実に書かれてる。著者の絵や写真が挿入されていてユーモア満載。作家ゆえに現代を舞台に書く時はもう今の状況を想像してしまうというのがリアル。あの時の全国の感染者数は200人くらいだったんだなあ。





191.王谷晶『ババヤガの夜』 河出書房新社 2020
暴力に惹かれる新道依子。ひょんなことからヤクザの組長の娘・尚子のボディガードとして働くことに。2人は価値観が全く異なるが、徐々に心を通わせる中、行方不明だった組長の奥さんが見つかって。仕掛けがあって驚いたし、単純に面白い。シスターハードボイルドもの!





190.松浦理英子『ヒカリ文集』 講談社 2022
大学の劇団NTRに所属していたヒカリという女性。周りの人間と次々に恋愛関係になる。そんな過去を振り返って元劇団員たちはヒカリに関する文集を編むことにした。サークルクラッシャー感はあるが、そうはならない深い人間関係がある。誰からも好かれる人間は苦労する。





189.川端康成『少年』 新潮社 2022
川端康成が旧制中学の時に仲良くしていた後輩の少年に恋をしていた話。当時の手紙類を発掘した50歳の川端がそれを振り返る構成。性行為はないが腕や胸や唇などを触れ合ったりしてる。相手も嫌がらず両想い。イチャイチャ。しかし相手はある宗教団体に所属していた。神かBLか。





188.佐々木中『しあわせだったころしたように』 河出書房新社 2011
2年も記憶喪失して別人として生きた男が亡くなった姉の遺されたノートを読む話。姉は作家だった。姉のノートには他者からの嘲罵や愛情に関することが書かれていた。そして親友のことも。蓮根を包丁で切ろうとして指を切る描写がいい。ひと夏だった。





187.宝野アリカ『血と蜜』 愛育社 2003
ALI PROJECTの宝野アリカ様の歌詞詩集。2003年に出版なので有名な「聖少女領域」「亡國覚醒カタルシス」よりも前のものが収録。たまにコラムがあって純粋に楽しい。僕は15年ほどアリプロは追いかけてるんですよね。ゴスロリ的な世界観はマジで好き。腐った花の方が綺麗だ。





186.山下澄人『月の客』 集英社 2020
トシは10歳で犬とほら穴に住むことに。足が不自由で太ってるサナも同じ穴に住むことに。それぞれが成長して見世物小屋に出たり警備員になったり弟が死んだり他人が死んだりする。句点を全く使わない文体。現代っぽいけどやたらと人が死ぬ。野生児にしか感じえぬもの。自然。





185.朝吹真理子『流跡』 新潮社 2010
偽の神官、渡し舟の船頭、煙突を幻視する父親、島の女、と変身していく話。全てを流していく液状の文体は言葉そのものを前衛化する。文庫本併録の「家路」は男が気が付いたらイタリアにいる話。堀江敏幸との対談もあって、四方田犬彦の解説もあり、文庫版はやたらと豪華だ。





184.磯﨑憲一郎『眼と太陽』 河出書房新社 2008
男が仕事でアメリカに渡り、シングルマザーの女性と付き合う話。仕事仲間と日本食の飯屋に行ったり、車の事故に巻き込まれたりする。日常話が続く。主人公が話の中心にいながらも実は本当の主人公はもっと外にいる。宇宙そのもの、時間そのもの、描写そのもの、がそれ。





183.金子薫『アルタッドに捧ぐ』 河出書房新社 2014
主人公の書いていた小説の主人公が意図せず死んでしまって、彼の友達であるトカゲのアルタッドと幻覚症状を持つサボテンを主人公が引き継ぐ話。つまり小説内小説のキャラが1つ前のフィクション次元に移動してる。そして小説を書くこととトカゲを飼うことは似ていた。





182.島口大樹『オン・ザ・プラネット』 講談社 2022
終わった世界が舞台の映画を撮るために4人の若者が鳥取砂丘まで車で行く話。深刻な過去を持つ4人で世界や虚構や記憶にまつわる議論をする。世界が終わることの救いと世界が終わらないことの救いが両立している感じがあって綺麗。この小説を好きだと言いたい。





181.最果タヒ『さっきまでは薔薇だったぼく』 小学館 2022
43篇の詩集。タヒはディスコミュニケーションがひどくうまいよ。しんどさの水が伝わってくる。傷だらけになる少年だ。「激流」の無関心。「猫戦争」の純粋。「水色」の光。「本棚」の浅さ。「短命歌」の変身譚。「雨になる」の銃。「あとがき」の奇跡。





180.宮内悠介『黄色い夜』 集英社 2020
カジノ立国であるアフリカのE国にある日本人がやって来る。彼は高額ギャンブルに挑みE国を乗っ取ろうと考えていた。まるで福本伸行作品のよう。ギャンブルゲームも6〜7個あり、機転を利かせて勝利する姿は爽快。規模の大きな賭博物語として良く、思想の部分も好きだった。





179.千葉雅也『デッドライン』 新潮社 2019
主人公は哲学を専攻し、ゲイとしてハッテン場に向かう大学院生。友人の映画制作に付き合いながら修論のテーマがなかなか決められない。アカデミックなものとゲイの生々しい性描写とのギャップが面白い。作者の『オーバーヒート』は続編になってるので併せて読むべし。





178.石田夏穂『我が友、スミス』 集英社 2022
アラサーの女性主人公がボディビル大会に出る話。しかし次第にボディビル大会における「女性らしさ」に違和感を覚えていく。その界隈に詳しくなれる。マッチョイズムに身を置くゆえにジェンダー的なものが浮かび上がる構造的仕組みが面白い。究極の見た目の問題だ。





177.澤大知『眼球達磨式』 河出書房新社 2022
2021年の文藝賞受賞作。男は眼球のような自走式カメラを購入し、近所を走らせていると、猿とロボット犬の冒険にいつしか加わっていた。視点の工夫に唸らされる作品。途中から現実離れする展開とオチには驚いた。みんな目が増えて遠くを見れるようになると平和になるかも。





176.宮崎誉子『少女@ロボット』 新潮社 2006
9篇の短編集。表題作は17歳JKの主人公がパパ活をし、いつも臭いクラスメイトが自殺未遂をする。でも全部どうでもいい。軽いPOP文体はファッション自我をうまく描く。気持ち悪い大人が出てくるが主人公も実は同じ人種って感じ。だから物語も相手から見ても同じとなる。





175.高原英理『観念結晶大系』 書肆侃侃房 2020
1章は結晶に魅了された人物を紹介。ニーチェやユングやノヴァーリスや現代の無名青年など。2章は石や鉱物を利用して社会を構築した異世界の人類を描く。3章は現実の世界で石化症が流行り出す。自己完結と未完結を行き来する幻想小説の極。ディストピアの正十二面体。





174.町屋良平『ぼくはきっとやさしい』 河出書房新社 2019
大学生の岳文は同じ大学の女子と付き合うが「君は何も持ってない」とフラれ、インドでは「霊性を持っている」と好かれた女の子にフラれる。相手を好きな心と相手を理解する心は異なる。過剰な言葉と女心は反目する。男子的な世界から脱するには水に落ちる事。





173.荻世いをら『公園』 河出書房新社 2006
ある男が歌舞伎町→伊豆→ニューヨークと移動する話。集団リンチやヤバいおっさんの集会やグラウンドゼロの観光化に遭遇する主人公は空虚であり、全てをどうでもよいと思っている。シリアスになれない人っているよね。だから世界の外見をなぞるのかもしれない。自分対世界。





172.市原佐都子『マミトの天使』 早川書房 2019
まずい弁当屋で働く女性の「虫」、子供時代に犬を飼っていた「マミトの天使」、自分は妖精であるふりをする「地底妖精」の3篇。肉体の違和感をそのままコミュニケーションに変換させる書き方。虫や犬やモグラなどの他者を受け入れるために。これは面白すぎた。拍手。




171.李龍徳『石を黙らせて』 
講談社 2022
ある男が過去に強姦したことを思い出し、婚約者や家族などに打ち明けていく話。共に犯したかつての友は政治家になっていたり幸せな家庭を築いていたりする。主人公がそのことを言及したら過去は過去だろと開き直る。現代では罪の懺悔はしにくいのかもしれない。悔しい。





170.大前粟生『きみだからさびしい』 
文藝春秋 2022
24歳の圭吾はランニング中のあやめさんに恋をして告白するも彼女はポリアモリー(複数愛)だった。圭吾は悩んでいる中、同性から告白されたり、師匠を応援したり、BL同人作家の悩みを聞いたりする、登場人物の多さはそのまま性の多様性に繋がる。恋はやるせない。





169.倉阪鬼一郎『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』 講談社 2009
三崎にある黒鳥館と白鳥館という2つの建物に呼ばれるファインアート研究会の人々。彼らは1人ずつ殺されていく。このミステリを読まずにしてミステリ通を名乗るべからずと言わしめる伝説の書。その正体は最狂のバカミス。こんな本が世の中にはある。





168.辛島デイヴィッド『文芸ピープル』 講談社 2021
最近は日本の小説が海外の文学賞を受賞したり候補になったりすることが増えた。本書は日本文学を翻訳する人に話を聞いたり海外の様子を尋ねたりする。ポスト村上春樹として村田沙耶香や松田青子や多和田葉子や小川洋子や小山田浩子や川上未映子が挙げられる。





167.北村紗衣『批評の教室』 筑摩書房 2021
副題は「チョウのように読み、ハチのように書く」。批評を①精読する②分析する③書くの3段階に分けて説明する。批評とはある切り口を決めて何かを語ること。ごんぎつねを美食文学として捉え直すこともできる。自分の邪な性癖には意識しようとあって気をつけたい。





166.早川書房編集部『ハヤカワ文庫JA総解説1500』 早川書房 2022
最近はSFを読みたいなと思っていたので、というかハヤカワ文庫JAを大量に買っているので、僕にドンピシャの本だと思って読みました。1冊ずつに著名な方々が紹介コメントを書いていて勉強になる。日本SFを鳥瞰できる感じ。いずれ全コンプ目指します。



165.乗代雄介『皆のあらばしり』 新潮社 2021
ひょんなことから謎の大阪弁の男と一緒に『皆のあらばしり』という未発見の本を探し出そうとする男子高校生の話。歴史的事実から本にまつわる全ての考察や、2人の騙し合いばかしあいが面白すぎた。僕もこんなオモロい大人の人と会っていたら青春は変わってたなあ。





164.藤田貴大『季節を告げる毳毳は夜が知った毛毛毛毛』 河出書房新社 2020
5つの短編。コアラの袋詰めをしたり、聞いたら人体がドロドロに溶けてしまう声を聞いたり、綿毛のような髪の毛にしたら体が飛んだり、冬毛の静電気で世界を壊したり、蛙のぬめり成分を配合したクリームで産毛を生やしたりする。表現がエモい!



163.今村夏子『あひる』 書肆侃侃房 2016
ペットのあひるを見るために近所の子供達が続々と家にやってきた。父と母は彼らのためにお菓子やケーキを用意する。それを見てる娘は自室で勉強しなければならない。「おばあちゃんの家」と「森の兄弟」は森とおばあちゃんという同一のモチーフで童話風味。泣けちゃうなあ。



162.菊池良『タイム・スリップ芥川賞』 ダイヤモンド社 2022
副題は「文学って、なんのため?と思う人のための日本文学入門」。博士と少年がタイムマシンで有名な芥川賞作品が生まれた時代に遡る。石原慎太郎や中上健次や村上龍や80年代や90年代や又吉直樹に密着する。とても読みやすくて文学初心者にはオススメです!



161.佐川恭一『無能男』 南の風社 2017
凡人の男子大学生が感情ぐちゃぐちゃの恋人に振り回される話。「愛や恋や友情は一時の人間関係であり本当の絆なんてものは存在しない」と誰でも思い付くことを語る主人公の一般人っぷりが2周して愛着が湧く。『舞踏会』もそうだったが自意識の問題を扱うと佐川恭一は一級。



160.九段理江『Schoolgirl』 文藝春秋 2022
芥川賞候補作となった表題作は14歳の社会派ユーチューバーと昔のDVに苦しむ母の話。対比的な彼女らは憎しみながら求め合う。文學界新人賞の受賞作「悪い音楽」は偉大な音楽家の父を持つ中学の音楽教師の娘の話。聴こえる人と聴こえない人はいる。鈍感な方が幸せかもね。



159.錦見映理子『恋愛の発酵と腐敗について』 小学館 2022
商店街のパン屋の男をめぐる女3人の話。年上の奥さんもいるのに他の女を魅了する男がいて、何股もするその男の存在が商店街にある事件を起こす。商店街という狭い社会に濃い人間関係が出るのが面白い。まともな男が出てこないんです。腐れた恋が好き。



158.山尾悠子『山の人魚と虚ろの王』 国書刊行会 2021
主人公と若い妻が新婚旅行に行く話。伯母は山の人魚団という舞踏団の主宰だったが亡くなったので旅行中に葬式に向かう。幻想的というか夢的。語り方も時間的に後のことでも先に話すこともあり一見複雑。亡き母も現れたり、列車や宮殿や大火や眼球など幻視的だ。





157.瀬戸内寂聴『その日まで』 講談社 2022
最期の長編エッセイ。96歳からの随想が綴られている。自身でも歳のことに言及され、同世代の作家が亡くなられたことを悼んでいる。河野多惠子や大庭みな子や田辺聖子や里見弴や石牟礼道子や江藤淳や石原慎太郎や津島佑子や三島由紀夫や萩原健一との思い出が滋味深い。





156.福永信『コップとコッペパンとペン』 河出書房新社 2007年
4編収録。表題作は失踪した父を探す娘が温泉で刑事と会う話。「座長と道化の登場」は試着室に入ってこなかった子供に出てきなさいと言う男と男子トイレの隣の人に結婚しろと言う男の話。「人情の帯」「2」は駅の電話ボックスを観察する話。死ぬほど文学的。



155.古川日出男『平家物語 犬王の巻』 河出書房新社 2017
盲目の琵琶法師である友魚と異形として生まれた能楽師である犬王の物語。それぞれは障害を負った体だが、自身のやるべきことを求めた末に出会い、物語を紡ぐ側へと進んでいく。5月に湯浅政明監督でアニメ映画化するので見に行きたいと思う。面白すぎたからね!



154.岡本学『再起動』 講談社 2017
友人と新興宗教「リブート教」を立ち上げる話。人をパソコンと見立て、不必要な機能をオフにすることで、生きやすくなるという独自の教義が次第に暴走して…。自作の相撲ゲームに神を発見する「高田山は、勝った」も収録。僕は友人側の立場かな。どんなことでも人間は悟れる。



153.木村友祐『野良ビトたちの燃え上がる肖像』 新潮社 2016
ホームレスの柳さんを中心とした川辺に住む人々の話。空缶を集めたり猫と戯れたり新参者に仕事を教えたりする。だが周りのタワマンに住む人々から「ノラビト」と差別され、施行された「不景気煽動罪」によりホームレスにの人権が失われることになる。



152.佐々木中『神奈備』 河出書房新社 2015
主人公の男が奈良にある霊山・三輪山に2回登る話。1回目は巫女体質の女と登り、2回目は学者体質の女と登る。最近ハマってる佐々木中さんの小説。詩的で幻想的で流麗的な文章は大学時代に知りたかった。先日読んだ『九夏前夜』の対をなす短編「九夏後夜」も収録。良かった。



151.南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』 皓星社 2021
著者が36人の古本マニアにインタビューした記録。作家や編集者ではなく、あくまで一般人、市井の書痴というのが面白い。コレクションしたり資料をまとめて本を作ったり知られざる作家を追求したりしていて、僕もまだまだだなあと思う。もっと高みを目指したい。



150.朝比奈秋『私の盲端』 朝日新聞出版 2022
大学生の涼子は手術して人工肛門となる。オストメイトとしてトイレの少なさや飲食店でのバイトなどで悩むことになる。漁村に移り住んだ医者の虚しさを描いた林芙美子文学賞の受賞作「塩の道」も併録。一種のマイノリティ文学。人と繋がりたい欲と内臓感覚はリンクしてる。




149.高山羽根子『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』 集英社 2019
主人公が立ち寄ったバーで出会った女性はある種のカメラマンで、デモの様子を撮っているが、そこで主人公の昔の知り合いが女装しているのを見つける。何度か繰り返されてきた因縁を止める話のように思えた。自分をヘルメットで守れるように。



148.加賀翔『おおあんごう』 講談社 2021
お笑いコンビ「かが屋」の加賀翔の初小説。父親は約180cmの金髪の坊主で、上半身裸で大声をあげながら店に入ったりする。酒浸りでDV的になる父親を持つ小学生の主人公は友を作ったり芸人に憧れたりする。父が嫌いなのは僕も同じで読んでて辛くてね…。エディプス的な。



147.飴屋法水『彼の娘』 文藝春秋 2017
作者の自伝的小説。作者の飴屋法水は演劇や動物商をしてきた。そして45歳で娘のくるみちゃんが生まれる。娘と対談して世界のあり方を考えたり、平行世界的に年老いた彼が現代に現れたりする。1つのテーマとして死を軸に置いているが、どこかカラッと晴れていて清々しい。



146.木下古栗『いい女vs.いい女』 講談社 2011
3篇収録。本屋にいつも低俗な雑誌を立ち読みに来る男の「本屋大将」、かつての教え子が自作のポルノビデオを送り続ける「教師BIN☆BIN★竿物語」、そして全裸の男の夢を見たのでいい女を探す中で6人の全裸サークルの見張り番にさせられる表題作。小説の最極北です。



145.小林エリカ『トリニティ、トリニティ、トリニティ』 集英社 2019
放射能を放つ物質が好きになって仕方がない「トリニティ」という病気が流行り出す世界。母がその奇病になったのではと不安視する主人公。そして2020年の東京オリンピックが目前に迫る。放射能には不思議な魅力がある。人類は永遠に虜となる。




144.大前粟生『岩とからあげをまちがえる』 ミシマ社 2020
みちこちゃんとケルベロスの日常を100の絵と100の小説で綴っている。絵本に近いけど塗り絵もあるよ。子供の読み聞かせに抜群だと思う。泣けちゃう話も多い。子供はいつも宇宙の視点を持っている。みんながしあわせになるシールが地球に貼られてる。平和。



143.宇佐見りん『かか』 河出書房新社 2019
うーちゃんのかか(母)は頭がおかしくなったと家族に主張する。寂しいと泣き叫ぶ。うーちゃんはかかが憎いけど愛もある。だからかかの手術日に熊野に旅に出る。母性が密になって発狂寸前の家族をどうかするには切断の力がいる。だから物理的に距離を離して仏に会いに行った。



142.木村紅美『あなたに安全な人』 河出書房新社 2021
かつて教え子が死んだ女教師と、警備員時代に人を突き飛ばした男は、人から「お前は人を殺した」と言われる。2人とも被害妄想的になるが、彼らが出会うことで何かが起こる。前作『雪子さんの足音』と共に不思議な距離感の取り方をする、独特な読み心地。ぞわり。



141.鴻池留衣『ナイス・エイジ』 新潮社 2018
未来からやってきた自分の孫と称する男と同棲のAV女優は「2112年の未来人だけど質問ある」の掲示板で住所を特定されて凸撃される。ネットに強い弁護士などのネットミームに詳しい人なら爆笑必至。併録の「二人組み」は思春期もの。切なすぎた。オチに感嘆す。傑作。



140.山下紘加『クロス』 河出書房新社 2020
妻がいるけど浮気もしてる男主人公は女性装にハマりだす。女装している自分を抱くことが好きな男とも関係を作るのだが、自分がいかなる性なのかわからなくなる。女装に嫌悪感を持つ人たちと女装のコミュニティの両方が出てくるのがいい。僕も痩せたら女物の服を着てみたい。



139.磯﨑憲一郎『金太郎飴』 河出書房新社 2019
著者の2007〜2019年のエッセイ・対談・評論・インタビュー集。時間や具体性を大事にして書かれた小説群。象徴解釈を無効化する描写。一瞬にして10年が経過する技術。小説内にある現実。普遍性と突き抜けるもの。小島信夫・保坂和志・磯﨑憲一郎の流れをもっと読みたい。



138.高瀬隼子『水たまりで息をする』 集英社 2021
夫が風呂に入らなくなった。日々臭くなる。義母から文句を言われる。会社での地位が下がる。妻はどうするかという話。主人公は自分や他者の感情にひどく敏感で、ゆえにどこか他者中心になってる気がする。それにより少しばかり不利益があるような。静かな窒息。





137.重里徹也・助川幸逸郎『教養としての芥川賞』 青弓社 2021
対談形式で主要な23の芥川賞作品を戦後、政治、土俗、自由、虚無、逃走などの観点から読解する。所々に村上春樹が顔を覗く。他の作品と比較するための春樹はとてもわかりやすい。僕のあまり読まない昭和文学の解説がおもろかった。勉強なりました。





136.黒川創『ウィーン近郊』 新潮社 2021
ウィーンで自死した兄に会いにきた妹とその周辺を描いた作品。どうして兄は四半世紀も住んだオーストリアで死を選んだのか。何があったのか。1人の人が外国で死ぬとはどういうことか、その事務的なものを含めた哀しみがある。エゴン・シーレの「死と乙女」の表紙が良い。



135.砂川文次『小隊』 文藝春秋 2021
ロシアが日本に戦争を仕掛けてきて、北海道が攻められ、自衛隊が陸上戦を強いられる話。現代が舞台なのでツイッターやアマゾンギフトカードが出てくるのも特徴的。2020年9月に発表された作品であり、昨今の世界情勢を先取りしていたわけだ。オススメ。5月に文庫化されますよ。



134.グレゴリー・ケズナジャット『鴨川ランナー』 講談社 2021
高校生の時に日本に興味を持ち、日本語を勉強して、京都の公立中学で英語を教えることになる主人公。しかし異国では外国人として観察され続けることに違和感を抱く。アメリカ人が日本語で書いた越境文学。二人称の文体により常に自己を意識させる。


133.佐々木中『九夏前夜』 河出書房新社 2011
かつて祖父が買ったという今では廃屋となった別荘に移り住む男の話。まずは草むしりやドブ掃除をしなければならず、足に大きな傷をする。実は佐々木中という作家を知らなかった。面白かった。改行の少ない文体と難しめの言葉選びがとても大好き。これからも読もうと思う。



132.高原英理『日々のきのこ』 河出書房新社 2021
きのこが蔓延した世界を描く。人類も胞子を吸い込みすぎると人体の輪郭を失う異形体「綴じ者」となる。空を飛ぶきのこや時をかけるきのこもある。きのこ人間と性的関係になる話が美味。菌のように分散された連作形式が心地の良い錯乱。小説がきのこに寄生されていた。



131.大鋸一正『O介』 河出書房新社 2014
7篇の短編集。どこまでも切ない感じ。人が空に溶けて消える感じ。赤ちゃんについてる10桁のIDタグを盗む表題作や、イタズラされてた猫を拾って育てる「関係-未来」や、鳶職から針子に転職する「スパンコール」など。特に好きな「日食」は船で遭難する兄弟の話。タコ食べたい。





130.藤原無雨『その午後、巨匠たちは、』 河出書房新社 2022
葛飾北斎、レンブラント、モネ、ダリ、ターナー、フリードリヒの6人がある神社に蘇った。それは歳を取らない巫女サイトウによって新たな神として祀られるためであった。世界中の神話を混ぜてメタ次元の神話を作るような物語。注釈文学。終わり方が綺麗です。





129.今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』 角川書店 2019
6篇の短編集。マジで面白かった。全て奇想度500%!特に「せとのママの誕生日」が好きで、老いぼれたスナックのママの誕生日を祝うために1度も会ったこともない女性たちが集まるのだが、そのことが彼女たちの失われた体を一部を取り戻すことに繋がっていく。


128.李龍徳『愛すること、理解すること、愛されること』 河出書房新社 2018
自殺した後輩の妹に導かれてW カップルの男女4人はある別荘に辿り着く。そこで繰り広げられる激しい会話とその数年後を描く。そこにエゴい人間性を見る。人の醜さを描かせたら李龍徳が1番だと思う。愛1憎9でも愛って言えるのかな。愛かなあ。


127.八木詠美『空芯手帳』 筑摩書房 2020
職場の誰もしない雑用をしなくてはならない主人公がそれに嫌になって「妊娠したので無理です」と嘘をついたことをきっかけに偽装妊娠を貫き通す話。嘘なのにマタニティエアロビのコミュニティに入るのが面白い。40週が過ぎ去る時に何が起こってるのか。何しろオチが凄い。




126.筒井康隆『人類よさらば』 河出書房新社 2022
最近なぜか力を入れている河出文庫の筒井康隆の短編集。いつもいい仕事をしてくれます。ショートショート作品がほとんどだが、更利萬吉シリーズがバチクソ面白い。あと「信州信濃の名物は。」が入ってるのが天才的。伝説的なクソゲー「四八(仮)」のとろろの話である。



125.前田司郎『夏の水の半魚人』 扶桑社 2009
11歳の魚彦は海子が気になる。友人関係を大事にしてたけど、ひょんなことで友達を殴ってしまう。海子も女子に除け者にされてるらしい。青春の前段階ってきっとあると思う。人間には小学生の時にしか感じ得ない何かがあると思う。そしてそれは忘れられてしまう必ず。



124.高良勉編『山之口貘詩集』 岩波書店 2016
貧乏、借金、結婚願望、沖縄などをテーマにした詩集。庶民的な詩と思いきや地球レベルへと移行したり、娘も詩に登場したりと身近なものをレンズにして遠くを眺めている。夫は鮪と原水爆を繋げてビキニ環礁の灰を連想するが、妻は焦げた鰯の灰を想う「鮪に鰯」が名作。




123.松尾スズキ『矢印』 文藝春秋 2021
テレビ業界の師匠が自殺した日にスミレと出会った。彼女は年上の夫と離婚した直後だった。主人公はスミレと結婚した後に太って痩せて7000万円を手に入れた。そしてアル中に。破滅的なドタバタコメディ。行き当たりばったりの矢印的物語にまともな人間が1人も出ないのが救い。



122.山家望『birth』 筑摩書房 2021
自分と同じ生年月日と名前が書かれた母子手帳を拾った主人公は自分の幼少期を思い出す。施設で育てられた彼女は母との思い出が殆どない。そして喉をひどく痛める。失踪した親戚の家で見つけた鼠を飼う「彼女がなるべく遠くへ行けるように」も併録。日常の不穏さと冗長さが秀逸。





121.吉村萬壱『死者にこそふさわしいその場所』 文藝春秋 2021
6編の短篇集。不倫相手がわざと苦悩してるように見える男や、かつて露出狂だった老夫婦や、アパートの扉を開けっ放しにする裸男や、朝が起きられず謎の病院に連れてかれる女や、マゾの宗教家が出てくる話。しかも彼らが一堂に会します。狂文学の妙諦。





120.筒井康隆『懲戒の部屋』 
新潮社 2002
新潮文庫の「自選ホラー傑作集1」であり、カルト的な10の短編集。「走る取的」は相撲取りに追われる怪作。「顔面崩壊」は気圧の低い星で豆を煮たら顔面がぐちゃぐちゃになる話。「蟹甲癬」は頬っぺたを取り外せるようになって中にある白いペーストを食べる話。地獄の才能。



119.村田沙耶香『コンビニ人間』 文藝春秋 2016
恋愛経験なしの36歳・古倉恵子。コンビニバイト歴18年。コンビニの仕事こそが彼女の生き方なのであるが、縄文時代に拘りのある男が現れてからアイデンティティが崩れだす。主人公は良くも悪くも俗がない。仏の人かもしれない。聖なる愚者的な観点でも読めると思う。




118.大槻ケンヂ『ステーシー』 角川書店 1997
15〜17歳の少女が突然死してゾンビ化する世界。ステーシーと呼ばれる彼女らは165個以上の肉片としてバラさなければ動きを止めないため、再殺部隊は今日もチェーンソーを手に取る。ゾンビものだが世界再生後の記述もあって個人的にそこが奇想。悪趣味の中の美学が好き。




117.木崎みつ子『コンジュジ』 集英社 2021
小学生のせれなは父と2人暮らし。彼女は今はもう亡きイギリスのロックスター・リアンに恋をする。そして父から性的虐待を受ける。父とリアンという2人の男との関係、そして彼らが混ざっていく流れが秀逸。存在しないものから襲われるシーンはきつい。色々と涙が出る。



116.羽田圭介『三十代の初体験』 主婦と生活社 2021
著者が31〜34歳までにした46の初チャレンジについて書く。女装、俳優、もの壊し、ケーキ作り、VR、人間ドック、狩猟、瞑想、ユーチューブなど。初めてやったことに対して「もうしなくてもよいだろう」的なこともはっきりと書く乾いた文章が良い。でも人間みもある。





114.川上弘美『このあたりの人たち』 スイッチ・パブリッシング 2016
26の掌編集。どこかの田舎を舞台に謎の語り手が町と人の移り変わりを10年単位で描く。30年成長しない子供や3種類の言葉しか話さないお兄さんや人形の脳みそやスナック愛のおばさんや影が2つある老人などが登場する。この不思議世界は現実に似ている(だが違う)。





115.池澤春菜『乙女の読書道』 本の雑誌社 2014
声優でもあり、日本SF作家クラブ会長でもあり、お父さんが池澤夏樹である著者の書評集。海外系のハヤカワ文庫や創元推理文庫が多く、僕はあまり読んでこなかったジャンルだったので新鮮。キラキラ文体だがディープすぎる。マジもんの書痴には勝てないなあと思います。



113.山崎ナオコーラ『手』 文藝春秋 2009
おじさん全般に対して疑惑と可愛げを抱く25歳の寅井サワコは仕事のしんどい時はこっそり盗撮したおじさんの写真を見たりする。彼女は若い男と年取った男の2人と付き合っていて「男って不思議だな」って思っている。「人を愛する時はまずは手から」っていう視点が面白い。





112.高橋文樹『アウレリャーノがやってくる』 破滅派 2021
代理詩人である美形のアマネヒトは破滅派という同人グループに所属することになるが、とある女性に横恋慕して現実がそっと寄ってくる。3篇ともにポップとシリアスの程よき宙ぶらりん。天才が凡人に堕することは青年が文学を諦める哀しみによく似ていた。



111.マックス・エルンスト『百頭女』 河出書房新社 1974
エルンスト初のコラージュ・シュルレアリスム小説。切り貼りされて作られた1枚の絵に題が印じられている。147枚ある。無意識こそが芸術なのだと僕は思いたい。肉体を剥いたあとの最後に残った幽霊。それが動き出す。金属の塊が宙に浮く。惑乱、私の妹、百頭女。



110.尾崎世界観『母影』 新潮社 2021
母が違法マッサージ店で働く少女の視点の物語。学校ではいじめられ、貧困の問題もあるけれど、カーテン越しに映る母の影に自分を重ねていく彼女の憂いと成長がある。優しさと悪意は実は同じ人間から発せられているのだと知ることが大人になることだ。とても良い小説ですよ。




109.李琴峰『生を祝う』 朝日新聞出版 2021
妊娠9ヶ月目の胎児に「この世に産まれたいか」と聞かなければならない世界。胎児の許可なく産んでしまうと罪となる。同性婚も安楽死も認められた近未来の日本で主人公は妊娠する。彼女は「合意出生制度」に葛藤していくという話。制度を享受する庶民側の視点というのが良い。




108.佐川恭一『舞踏会』 書肆侃侃房 2021
妻と娘から嫌われた夫が家を閉め出された末に淡い抵抗としてネカフェで暮らす話や、10歳になる少年が世界を憎む話や、売れない作家がギャルに片想いをする話など全5篇。俗人が劣等感にまみれる側の小説は未だに淘汰されていなかったのだと感動した。非リアこそ令和の文学だ!




107.キム・チョヨプほか『最後のライオニ 韓国パンデミックSF小説集』 河出書房新社 2021
6つの短編集。人類が捨てた星と残されたロボットの話、鯨の背中で暮らす人類の話、コロナで崩壊した街から過去にワープする話、ウイルス免疫を持つボランティアの話、特定の言葉がなくなった22世紀の話。巨大な蚊のいる地球の話。



106.高橋弘希『日曜日の人々』 講談社 2017
2017年の野間文芸新人賞の受賞作。死んだ親戚の女性が生前に所属していたというレムと呼ばれる会。そこには生きづらい人や盗癖や拒食症を持つ人たちがいた。彼らの声を聞く。感情や記憶はやがて忘れられたとしてもいずれ別の形で人生を蝕む。血の味や匂いがしながら。




105.岸政彦『図書室』 新潮社 2019
50歳の主人公が地元の公民館の図書室で出会った男の子と世界が滅亡した後に2人でどうやって生き延びるのかを画策したことを思い出す話。併録されている大阪の町を紹介する短編「吸水塔」も良くて、どちらも大阪愛にあふれたノスタルジー満載の作品だ。次は昭和に生まれたいな。



104.佐伯一麦『アスベストス』 文藝春秋 2021
アスベストに関する4篇。作者自身も20代にアスベストの被害で肋膜炎にかかっている。うなぎ屋を出す直前で中皮腫を発症して余命1年になる話が悲しすぎる。幼い頃にクボタの工場の近くに住んでいただけなのに。フロンもそうだけど「奇跡の素材」って人類に有害っぽい。



103.小川公代『ケアの倫理とエンパワメント』 講談社 2021
「個の自立」とは対照的な「ケア」の概念をコロナ禍の今だからこそ説く必要性がある。他人と共に苦悩する力をブロンテやウルフやワイルドや三島や多和田といった文学者の作品を引用してフェミニズム的にクィア的に多国籍的に考えていく。弱きに共感を!



102.崔実『pray human』 講談社 2020
8年ぶりに会うかつては同じ精神病院に入院していた女は白血病になっていた。いつも横柄な彼女の元に通って主人公は自らの過去話を吐露する。心身の不安定な女性たちの物語といえば簡単だが、聖と狂と救と獄の世界は一筋縄ではいかない。仲は良くない腐れ縁モノめっちゃ好き。



101.今村夏子『こちらあみ子』 筑摩書房 2011
2011年の三島由紀夫賞の受賞作。知的に遅れのある主人公あみ子の小学生時代から中学卒業までが描かれる。あみ子のほんわか視点と家族崩壊のギャップ。僕にこの話はきつい。僕にも弟がいたけど死んだから。あと殴られて育ったから。子ども系の話はしんどくなるが傑作。



100.山下澄人『しんせかい』 新潮社 2016
2017年の芥川賞受賞作。富良野塾に参加した19歳のスミトは谷で役者の勉強をして農作業もする。恋人との手紙のやり取りや先生と仲間たちとの交流、そしてもう1人の自分を見る。幽体離脱的に視点が空を飛んで神となる。文体が子供らしく真っ白い。自我が生まれる前の文学。




99.宮下遼『無名亭の夜』 講談社 2015
トルコ文学の翻訳者が書いた小説2篇。2015年の野間文芸新人賞の候補にもなっている。16世紀頃のオスマン帝国が舞台で、ある少年は詩の魅力に取り憑かれ、近衛歩兵をしつつ当代一の語り手となる。当時のトルコと現代の東京を行き来する構成&異国的な情緒にとてもメロメロ。



98.西村賢太『無銭横町』 文藝春秋 2015
2015年の6篇の短編集。北町貫多が布団とともに引っ越したり、煙草を巡って秋恵と喧嘩しそうになったり、夜の桜並木を散歩したり、友人の文庫解説を書いたり、激怒したり、金欠に困ったりする。僕は老人となった北町貫多が読みたかった。人をどやしながらも愛される老人の。



97.津村記久子『現代生活独習ノート』 講談社 2021
人々の生活を描く8篇の短編集。見たことのないTV番組をただ見るだけの話や、女3世代の冷蔵庫の国境線の話や、悲惨な晩御飯の写真を撮るだけの話や、マイクラと架空の地図作りの話など身近すぎるテーマが秀逸。戦争やSF物もあるがやはり生活を描くので新鮮だ。



96.佐々木敦『半睡』 書肆侃侃房 2021
Y・Yという老翻訳家が書いた小説『フォー・スリープレス・ナイト』のあらすじと、主人公がMとNという2人の女性と交際した記録が10日間の主人公の手記を通して語られる。不眠がテーマであり、眠れぬ理由を探すことはまるで小説を書くことのように思えた。そしてそれは死に近い。



95.田中慎弥『ひよこ太陽』 新潮社 2019
2019年の泉鏡花文学賞の受賞作。母の友人の息子が行方不明になったので東京に住む主人公の元に探してほしいとの連絡を来るのだが…。自殺癖のある作家の日常というか書くことの業や憎悪の如きものが刻々と描かれる。空が物理的に割れたりと不条理な世界がぬるりと現出。



94.村上春樹『パン屋を襲う』 新潮社 2013
カルト的な短篇「パン屋襲撃」と「パン屋再襲撃」が収録。メンシックの挿絵バージョン。かつて相棒とパン屋を襲ったことのある主人公がのちに結婚してかつてない飢餓ゆえに妻と再びパン屋を襲いに行く話。呪いは時間と共に巨大化する。それを祓う系のストーリー好き。



93.福永信『三姉妹とその友達』 講談社 2013
「〜してくれ」「〜しないでくれ」と連呼する4人の男達を演ずる3姉妹の戯曲と、そのノベライズが収録されている。携帯電話を捨てて貝殻を耳に当てろと言う長男や同窓会に参加する次男など一見バラバラの舞台設定がノベライズによって種明かしされる感じ。変な本だ。




92.豊﨑由美『正直書評。』 学研プラス 2008
2008年に出版された書評集。およそ100冊の本を、金・銀・鉄の3段階で評価する。つまり面白いものは誉めて、貶すものはきちんと貶す。僕はその正直さを見習わないといけないなと思う。読書を純粋に楽しむ姿勢を!あと海外文学はあまり読まないからかなり勉強できました。



91.小田原のどか『近代を彫刻/超克する』 講談社 2021
彫刻の意義や日本の彫刻の歴史が論じられる。彫刻は政体の象徴となり、思想を持って公共に飾られ、そして破壊されること自体にも意味がある存在。差別や主張にも大きく関わってくる。ロダンに私淑した高村光太郎のこともあり興味深い。彫刻やってみたい。



90.舞城王太郎『私はあなたの瞳の林檎』 講談社 2018
表題作と「ほにゃららサラダ」と「僕が乗るべき遠くの列車」の3篇。駅で助けたことのある林檎ちゃんを好きな主人公はいつも告白するが振られる。そこでバイト先で自分を好いてくれる人がいたのでそちらに移ろうかと迷う話。恋はエゴと甘酸っぱいのカクテル。



89.高橋源一郎『さよならクリストファー・ロビン』 新潮社 2012
2012年の谷崎潤一郎賞の受賞作。6篇所収。クマのプーさんが主人公の表題作は、おそらく現実世界で物語を作る人がいなくなり、次第に物語そのものが消えていく哀しみを描く。そのほか戦争や死者やアトムなどを用いて物語のための物語を描き出す。



88.町屋良平『ほんのこども』 講談社 2021
作者の同級生だったあべくんのお父さんは妻を殺す。のちにあべくんも恋人を殺して自殺する。そんなあべくんが書いた小説を作者が引き継ぐ話。ナチスの大量殺戮をも組み込んだ永遠の私小説。メタ的で難解だが文学論としても一級。今年のベストかも。泣くわこんなん。



87.小佐野彈『車軸』 集英社 2019
大学生の真奈美は友達の紹介でゲイの潤と出会い、お互いに好きなホストの聖也を共有することに。そして彼らは3Pすることになるが…。ドンペリで150万円も使ったりする夜の世界を描き、けれど愛に向かわない物語が良い。聖性と本物を求め続けた真奈美の最後の展開がカッコイイ。



86.上田岳弘『ニムロッド』 講談社 2019
2018年の芥川賞受賞作。ビットコインを採掘する主人公に送られ続ける「駄目な飛行機コレクション」。そして作家になりたい鬱の知人と子を堕胎した恋人との悲哀。GAFA時代における虚無。その無から生み出される金と人類。塔と飛行機の隠喩。ドライだが強かな小説だった。




85.古市憲寿『平成くん、さようなら』 文藝春秋 2018
安楽死が合法化された日本を舞台に29歳の平成くんは平成の終わりとともに安楽死したいと言う話。死をテーマにしながらも平成という1つの時代に溶け込んだ日本(人)を切り取るカメラワークが楽しい。僕は作中にある安楽死のアミューズメント施設に行きたいな。



84.笙野頼子『二百回忌』 新潮社 1994
1994年の三島由紀夫賞の受賞作。4篇収録。表題作は故郷の家で伝統的に行われる二百回忌の話。200年分の祖先たちが蘇り、生者とともに激辛スープを飲んだり蒲鉾になった家を食べたりする。時空間や生死すらも超越する土着的な作風はマジ奇夢。「アケボノノ帯」は特に傑作。



83.柳美里『JR上野駅公園口』 河出書房新社 2014
2020年の全米図書賞(翻訳文学部門)の受賞作。1933年に福島で生まれ、今は上野駅でホームレスをする男。出稼ぎのために上京したが、妻も子も亡くなり再び上京し路上生活者となる。天皇とともにある日本の影を描く。人は抱えきれないほどの悲哀を背負うために生まれる。




82.崔実『ジニのパズル』 講談社 2016
在日韓国人として生まれたジニは東京からハワイそしてオレゴンとたらい回しにされる。問題児だから。そして東京の朝鮮学校にいたことを語る。感受性の強い子は哀しい人だ。誰も助けてくれない民族間の迷子として自身に違和感を抱くならばなおさらに。差別を憎みたくなる。




81.羽田圭介『滅私』 新潮社 2021
ミニマリストの主人公は、かつては女性を堕胎させたり、ある人の眼球をくり抜けと指示したりと不良だった。30代となり彼の過去を知る人物が現れて…。僕は本を集める人だけどその為にテレビを捨てたりとある意味では捨て魔。君は何かの為に金も記憶も人間関係も捨てられるか。




80.吉田修一『オリンピックにふれる』 講談社 2021
香港・上海・ソウル・東京を舞台にしたオリンピックを巡る4編。ボート選手として期待されたが年とともに衰える男や、自身の結婚前に今や失われた故郷を思い出す青年など。アジアの街で郷愁を抱えて生きる主人公たちはどこか切ない。コロナ禍の東京に希望は。



79.小野正嗣『歓待する文学』 NHK出版 2021
文学を「歓待」の点から解説した案内書。国内から海外までの幅広い小説を取り上げる。例えばクッツェーやハン・ガンやゼーバルトや小川洋子や村上春樹や村田沙耶香など。文学はAとBを結びつける装置として働く。僕の永遠に救われない魂を文学が受け入れてくれた過去。



78.小川洋子『遠慮深いうたた寝』 河出書房新社 2021
エッセイ集。日々のふと思ったことを綴っている中、作家としての覚悟のようなものも垣間見える。書評や読書に関する記述もあって楽しい。海燕新人文学賞の授賞式のあとに中上健次や色川武大に会った話や、自身の芥川賞受賞式の二次会に行く道中の話が好きでした。




77.鴻池留衣『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』 新潮社 2019
80年代のバンド「ダンチュラ・デオ」のギタリストの息子と称する男とバンドを組んだ主人公は、CIAに抹殺されたらしいそのバンドの虚実に迫るのだが…。wikipediaの頁を模した文体は新鮮。闇組織の抗争により真実が隠されて上書きされる。何が嘘だ。



76.金子薫『道化むさぼる揚羽の夢の』 新潮社2021
閉鎖空間で模造の蝶を作る集団と彼らを棒で殴り続ける監督官。あまりのディストピア感に道化の人格を生み出した主人公はサーカス団を立ち上げるのだが…。ピエロになれば何も怖くない。なぜなら笑いの力は死や狂気すらも笑いとするから。令和のドグラマグラ。



75.最果タヒ『パパララレレルル』 河出書房新社 2021
26の掌編集。最果タヒは人のエゴを煽るのがとても上手い。人間の気色悪さが詩的に表されて自分が俗であることを味わえる。ネットで検索しても出てこないポップな吐き気がマジで文学すぎる。めっちゃ褒め言葉ですよ。拳銃を持つ歌手の話と昔話シリーズが良かった。



74.ルイーズ・グリュック『野生のアイリス』 KADOKAWA 2021
2020年にノーベル文学賞を受賞した詩人の初邦訳の詩集。植物のイメージが多く現出する。人間の抱く愛憎を草や花にぶつけることで魂の浄化を試みる夕べの祈り。園庭は只動かずにそこに在る。詩も同じく。神にずたずたにされても何度も蘇る雑草の美しさ。



73.兼近大樹『むき出し』 文藝春秋 2021
EXITの兼近さんの自伝的小説。衝動的で自己中心的だった幼少時代。中卒で不良となり働く場所も居場所もなくなる。売春斡旋で逮捕されて留置所で又吉直樹の本と出会う。ヤンキー的な立場から書かれた小説ってなかった気がする。加害者として内省した時に文学が立ち上った。




72.吉村萬壱『哲学の蠅』 創元社 2021
作家生活20年の初の自伝的エッセイ。幼少期は母の体罰により変態的行為に目覚め、爛れた恋愛と文学的懊悩の果てに40歳で作家デビューする。精神病患者の引用が頻繁にあり、読者に世界没落体験を味わわせる。頭がココココココココッ。作家の人生は素晴らしい創作論である。



71.長嶋有『ルーティーンズ』 講談社 2021
緊急事態宣言が発令している中、保育園が休園となったので、作家と漫画家の夫婦は2歳の娘の子育てに忙しくなる。作者の日録的な作品。さすがサブカル作家だ。特撮やプリキュアやサクラ大戦が出てきて生活感ありすぎて素晴らしい。自転車とロレックスの話も味わい深い。



70.今村翔吾『塞王の楯』 集英社 2021
今期の直木賞候補作。戦国時代に活躍した石垣作りの職人集団「穴太衆」の副頭である匡介の前に鉄砲職人の国友衆が現れる。彼らは関ヶ原の戦いの前哨戦である大津城の戦いにて衝突する。戦のシーンがハラハラした。いかに石を自在に操って敵の攻撃を阻止するのかが面白い。



69.米澤穂信『黒牢城』 KADOKAWA 2021
今期の直木賞候補作。織田信長に反旗を翻した荒木村重は自身の有岡城に立て籠るが、人心を揺るがす4つの謎が発生し、牢中の黒田官兵衛に助けを乞う。個人的にはミステリの部分よりも史実に則った時代小説の側面が楽しめた。籠城戦のために衰微する城内の様子が興味深かった。



68.山崎ナオコーラ『カツラ美容室別室』 河出書房新社 2007
高円寺に越してきた淳之介は桂美容室別室に髪を切りに来た。そこはカツラを被っている桂孝蔵さんとエリちゃんと桃井さんがいて、淳之介はエリちゃんと良い関係になるが、桂さんが福岡に行くことになり、次の店長を誰にするかの問題が起こり…。恋は面倒な面も。



67.逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』 早川書房 2021
今期の直木賞候補作。第二次世界大戦の独ソ戦における女性だけの狙撃隊の話。故郷の農村がドイツに全滅させられた主人公のセラフィマは他の女性とともに狙撃手として実戦に投入される。戦争の論理と女性の抑圧を描く。100年も経っていない殺し殺されること。




66.村上春樹『バースデイ・ガール』 新潮社 2017
この話めちゃくちゃ好きなんです。改めて読んだけど良いね。メンシックの挿絵版。20歳の誕生日を迎えた主人公が自身のウェイトレスをしているイタリア料理店のオーナーに会って願い事を叶えてもらう話。僕も一風変わった願い事をしてみたい。小説になるような。





65. 絲山秋子『イッツ・オンリー・トーク』 文藝春秋 2004
蒲田に住む橘優子は男と性的に交わる方が楽。そこに大学の友達だったEDの議員の本間、セフレのような関係の痴漢のk、居候のいとこの祥一、そしてうつ病のヤクザの安田昇が現れる。馬術大会で馬を安楽死させてしまい悔やむ「第七障害」併録。酸いも甘いも。





64.田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』 文藝春秋 2008
野球部で虐められて部屋に閉じこもった息子に壁越しで語る男。男の父は早く就職したために野球ができずバットで豚を殺した過去を持つ。そして男は野球をせずに今の妻となる少女と「ゴドーを待ちながら」を演じることに。そして奇跡が…。男3世代もの好き。





63.島本理生『シルエット』
講談社 2001
16歳の冠くんと付き合うが、彼には父親に刺されて寝たきりになった母がいて、彼自身も女性の体を嫌悪するという、そのシリアスさから別れ、遊び人の男と肉体関係を持ったのち、今の恋人のせっちゃんがいる女子高生のわたしは、冠くんが引っ越すと聞いて…。若さゆえの罪。




62.柚月裕子『ミカエルの鼓動』 文藝春秋 2021
今期の直木賞候補作。ミカエルと呼ばれる手術用ロボットを操る主人公の前にドイツ帰りの天才医師が現れる。他のミカエル使用者が謎の自殺をし、裏でジャーナリストが暗躍しており、その理由を探る主人公は、ある真相に辿り着く。BJの本間先生のように命を巡る対話。



61.彩瀬まる『新しい星』 文藝春秋 2021
今期の直木賞候補作。かつて合気道をしてた4人組が大人になり、それぞれの人生の困難に挑む連作短編集。子供の死、ひきこもり、癌など主人公は悩んだり混乱したりする。でも信頼できる友人に相談して先に進む。8篇あるが最後の2つが特に良かった。僕も人生を頑張りたい。




60.上田岳弘『異郷の友人』 新潮社 2016
何度も生まれ変っている主人公は前世や前前前世などの記憶を持っているが、なぜか遠く離れた他人の見ている風景を感知することも可能。オーストラリア出身のハッカーJと淡路島の新興宗教の教祖Sが交わることで「大再現」が起こるのか。暇を持て余した神々の遊びの文学。



59.高橋弘希『送り火』 文藝春秋 2018
2018年の芥川賞受賞作。東北の村に引っ越してきた中3の歩。その中学にはリーダー格の晃と半分いじめられている稔がいる。ナイフを盗んだり硫酸をかけたり首を絞めたりと徐々に過激になる花札ゲームの末路…そして。その土地の伝統だから誰も止められない暴力って結構ある。



58.村上龍『限りなく透明に近いブルー』 講談社 1976
19歳のリュウは見る。米軍基地の町で退廃的な生活を送る若者らの刹那を。性とドラッグと暴力の果てを。改めて読むとこれはどこか怖い小説だと思えた。感覚的な生々しい描写が虚しすぎる世界と直面させてくるから。腐ってるものもよく出てきて逃れられない。



57.金原ひとみ『ハイドラ』 新潮社 2007
物を食べることに罪悪を感じる女性主人公は写真家と同棲しているが最近は関係が良くない。そんな時にバンドマンの男を好きになって。金原ひとみらしい作品。人との繋がりのみをアイデンティティにしているとその人と別れた場合に無になってしまう。ダメンズがいいよね。




56.蜂飼耳『ひとり暮らしののぞみさん』 径書房 2003
絵本。ひとり暮らしののぞみさんの元に大きな鳥と小さな鳥がやってくる。大きな鳥は料理が得意で小さな鳥は習字が好き。誰かにそばにいてほしいし同時に1人がいい。ひとり暮らしの妙な心かな。でも誰かが立ち去ってしまうのが僕はとても寂しいし怖いな。




55.日和聡子『絵草子 波風露草玉手箱』 講談社 2021
ヒグチユウコの絵が挿入されている2篇の短い話。失踪した浦島太郎をその妹が捜しに行く「うらしま」と、自分自身を持たない即氏という人物の不思議な日々を描く「蓬萊記」。平安貴族の揺蕩うような自我意識の即氏が羨ましかった。毎日きっと何も怖くない。



54.古川真人『縫わんばならん』 新潮社 2017
長崎の島を舞台に吉川家という4世代の人間と来歴を描く。2016年の新潮新人賞受賞作。お婆さんの夢や過去の入り混じる意識が訴える物語は決して嘘ではなくて、その人が今生きている現実だ。時空の歪みが綺麗だ。ここにアナログの良さがある。僕は早く歳を重ねたい。




53.リービ英雄『天路』 講談社 2021
今年の野間文芸賞受賞作。アメリカ出身の東京に住んでいる作者が、中国の友達と日産のブルーバードでチベットへと向かう。いわゆるロードノベル。チベット仏教の寺に行ったりと異文化交流をする作者の心には母の死に対する悲哀が浮かんでいる。そこに切なくなって辛くなる。



52.中原昌也『待望の短篇集は忘却の彼方に』 河出書房新社 2004
7篇と変な写真が挿入。大量の鉢植えを売るために巨大なお婆さんを訪れる話。中原昌也に85万件の個人情報を売ろうとする話。とある作家の小説を読みたくないから夏のボーナスで買い取って燃やす話など。この破綻が素晴らしい。中原昌也しか創れない構成。




51.紗倉まな『春、死なん』 講談社 2020
70歳の主人公は息子と2世代住宅に住んでいるが居場所がない。時おりアダルト雑誌を読むが亡くなった妻のことを思い出す。そしてたまたま昔の後輩の女性と出会って…。併録「ははばなれ」も熟年恋愛の話。どんな年齢の人間でも恋愛はする。そして性に発展することもある。



50.石原燃『赤い砂を蹴る』 文藝春秋 2020
去年の芥川賞候補作で1度雑誌で読んだが今回は単行本で再読。過去に母と弟を亡くしている主人公と母の友達で過去に夫を亡くした女性の2人でブラジルの故郷の村へと向かう。家族の亡くなる描写が多くあり、故に異国の地での喪の作業に従事する2人の友情的な関係が救い。



49.井上真偽『その可能性はすでに考えた』 講談社 2015
先日ミステリを久々に読もうと、とあるミステリ好きな人にライブの時に教えて頂いた作品です。10年以上前に起こったカルト宗教での集団自決事件をめぐる多重解決もの。登場人物や展開がマジで奇蹟的すぎた。やたらと拷問が出てくるよ!



48.小川洋子『ブラフマンの埋葬』 講談社 2004
2004年度の泉鏡花文学賞の受賞作。創作者たちが集まる施設で働いている青年の元にある1匹の小動物が現れる。怪我をしていたので看病し飼うことにした。ブラフマンと名付けて。透明な文体と物語。さらに動物が出るなんて感動するしかない。碑文彫刻師が良い人だ。



47.李龍徳『報われない人間は永遠に報われない』 河出書房新社 2016
同じ職場の34歳女と遊びで付き合うことにした主人公。別に感情的にどうでもいい彼女に対して嗜虐心から彼女を唆し本気にさせる。相手を見下げきった恋愛は絶妙に美味しいし、意味もなくずるずると続いていく恋愛はさらに芳しい。そして崩れる姿も。





46.宮下奈都『静かな雨』 文藝春秋 2016
行助は美味しいたい焼き屋を見つける。その店主のこよみさんと親しくなるが、彼女は事故に巻き込まれ、記憶が1日しか持たなくなる。彼女を助けるために同棲した行助はこよみさんの逞しさを知る。子供ができて生活が辛くなる「日をつなぐ」も収録。恋と恋人との生活は違う。





45.高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』 集英社 2020
性交を避けてきた主人公に、他の女に金を払ってセックスしてできた子供を、彼氏が一緒に育てないかと言う話。性と愛の距離感は人それぞれ。生理的に人それぞれ。小説に出てくる彼氏って空気が読めない人が多いと思うのは僕が男だからだろうか。女性とは?



44.村田沙耶香『丸の内魔法少女ミラクリーナ』 角川書店 2020
4篇所収。36歳でも魔法少女ごっこを社会に生きるコツとして遊んでる話。初恋を殺すために相手を監禁する話。性が排除された高校の話。若い子から怒りが失われた話。マイノリティな感情って持ってもいいんだよ。いくらでもマジョリティに勝てるから。



43.遠野遥『改良』 河出書房新社 2019
芥川賞作家のデビュー作。女装が趣味の青年はデリヘルで女を呼んだりブサイクな女友達と仲良くなったりする。性別や美醜にまつわる言動がふんだんにあって、それらを破壊しつつ再生させようとしてる感じ。『破局』でおなじみ遠野節があって面白い。イケメンで生まれたかった。



42.くどうれいん『氷柱の声』 講談社 2021
前回の芥川賞候補は単行本では読んでいなかったので再読する。3.11を巡る10年間、主人公は自分の中にある様々な想いに気づいたり吐露したり封じ込めたりもした。文学ではどんな言葉も許される。震災への言葉を我々世間が掬いあげる覚悟さえあれば。ざぼん食べたい。



41.谷川俊太郎『自選 谷川俊太郎詩集』 岩波書店 2013
岩波文庫から出ている自選の詩集。様々な自著からの選りすぐりには感動すら覚える。この人の詩には愛があってそして憎しみがある。だから人は詩を読んで大人になって子供に戻れる。名詩「なんでも◯◯◯◯」で泣くとは思わなかったなあ。たけし感にグッときた。



40.千葉雅也『オーバーヒート』 新潮社 2021
芥川賞候補作の表題作と川端康成文学賞受賞の「マジックミラー」が所収。哲学の教授である主人公はゲイであり若い彼氏もいる。大学の関係から東京から大阪に引っ越しており、バーに行ったり、実家に帰ったり、ツイッターしたり、男を買いに行ったりする話。好きだ。



39.津島佑子『半減期を祝って』 講談社 2016
3篇収録。表題作は作者の絶筆作品。30年後のニホンを描くディストピア小説。原発事故を起こしたニホンは軍事独裁国となり、純粋なヤマト人種だけが優遇され、愛国少年団が結成され、ほとんど鎖国し、世界から非難される。そんな時にセシウム137の半減期が訪れる。



38.戌井昭人『さのよいよい』 新潮社 2020
1984年に僧侶が妻を日本刀で斬りつけ寺に火を放った事件があった。主人公がそれを認知症の祖母から聞いて詳しい事情を調べていく。嫌なことは燃やして踊ればいいというメッセージが心に響く。火がテーマで神がかりの占い師が出たりして、僕も何かを信じたい気がする。



37.前田司郎『恋愛の解体と北区の滅亡』 講談社 2006
宇宙人が東京に降り立って数年、北区の人間が宇宙人を刺したため宇宙人が記者会見する夜、SMクラブに主人公が行く表題作。そして〈世にも奇妙な物語〉でも映像化された「次世代排泄物ファナモ」が収録。人って環境がどれだけ変わっても無関心でいられる。



36.今村夏子『木になった亜沙』 文藝春秋 2020
「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」の3篇収録。幼い頃から自分が作った料理やお菓子を誰にも受け取ってもらえない亜沙は木に生まれ変わって割り箸になる。奇想系の話で面白かったし僕は泣けた。子供が出てくる寓話化された話に弱いんだよな。



35.滝口悠生『長い一日』 講談社 2021
作家の滝口やその妻や八朔さんや天麩羅ちゃんなど愉快な友人たちと酒を飲んだり花見をしたりと日常風景を丁寧に描いた33章。登場人物の語りが混ざる書き方で、パッと時間も空間も超えられる独特のパワーが面白かった。登場人物全員に味があり、僕は窓目くんが好きでした。



34.吉村萬壱『流卵』 河出書房新社 2020
中学2年の男子主人公はオカルトにハマり、シンナーを吸い、自分を魔女だと思い、母親の欺瞞を破り、父の弱さを知り、友人に失望し、プールで溺死させられそうになり、森で裸になり、金を盗み、自身の性の倒錯に気づき、男友達に欲情し、狂女を見て、テレポートを試みる話です。



33.村上春樹『ねむり』 新潮社 2010
眠れなくなって17日目になる主人公には歯科医の夫と小学生の息子がいる。彼女は眠れない時間を『アンナ•カレーニナ』を読むことに使うが…。自然と不自然がテーマかなと思った。一見幸せな家族生活だが、実は少し違和感がある。その代償が眠れないことかと。最後が秀逸だ。



32.会田誠『げいさい』 文藝春秋 2020
作者の自伝的作品。新潟から上京した主人公は東京藝術大学に入るために美術系の予備校に通っている。1986年「げいさい」と呼ばれるタマビの学園祭で、仲間達と熱く芸術について徹底的に語る話。当時の芸大や芸術系予備校のあれこれ、または芸術観についてわかる青春小説。



31.木村紅美『雪子さんの足音』 講談社 2018
主人公の薫は人付き合いが億劫な男子大学生。アパートの大家さんから一緒にご飯はどう?と誘われるが断り、同じ下宿の同年の女性からも好かれるが断ってしまう。うーむ。若い時は仕方ないんじゃないかな。僕も27歳ほどで人付き合いがうまくなったような気がします。



30.いとうせいこう『夢七日 夜を昼の國』 文藝春秋 2020
意識不明で12層ある夢世界を彷徨う君に〈目覚めよ〉と呼びかける「夢七日」。 歌舞伎で有名な〈お染・久松〉が現代に転生して何度も心中するループから抜け出そうとする「夜を昼の國」。 どちらも死ぬほど面白い!脱現実!僕はこういう小説を読みたかった!



29.みうらじゅん『「ない仕事」の作り方』 文藝春秋 2018
 マイブームやゆるキャラの生みの親の仕事術は変なビジネス書よりも役に立つし面白い。みうらじゅん思想の真髄。 僕のみうらじゅんブームは7年程ですがマジでこういう人になりたい。何かを極めることの面白さと大変さと認められなさと変態さが伝わってくる。




28.羽田圭介『Phantom』 文藝春秋 2021
株に夢中の主人公にはオンラインサロンにハマる彼氏がいる。彼氏がサロンの運営する村に泊まるので奪還しようとするが…。 金への執着がテーマだが、後半カルト宗教じみた世界観になるのは脱帽。資本主義やコスパ重視との適切な距離を取って洗脳されないために。




27.小野正嗣『踏み跡にたたずんで』 朝日新聞出版 2020
36の掌編集。不穏な雰囲気とともに神や精霊を思わせる自然との邂逅を美麗に描く。作家や詩人もよく出てくるから話がドッと深くなる。 心がざわつくというのは、いかにも人間らしい感覚だと思う。どこか自己中心的とでもいうのかな。もっと人間は泣いてもいいよ。



26.村上春樹『図書館奇譚』 新潮社 2014
主人公はオスマン・トルコの収税政策を調べようとして図書館の地下に閉じ込められる。少女と羊男の助けで脱出を試みるが…。 羊男って色んな作品に出てきますが、あれって同一人物なんですかね。または僕たちの心の中にいる普遍的な羊男たちのそれぞれって感じですかね?



25.ミヒャエル・エンデ『鏡のなかの鏡』 岩波書店 1985
30の短編・掌編が入っている。ただしシュールレアリスム的な話で難しい。『モモ』のような児童文学というより美術系って感じ。 全て面白かったですが、その中でも好きだったのは、部屋が砂漠になっていて、恋人に会うために何十年も歩き続ける話かな。天才!




24.山下紘加『エラー』 河出書房新社 2021
主人公はフードファイターの女性。今まで無敗だったのだが「鉄仮面•水島」により初めての敗北を知る。そして修行を重ねて雪辱を晴らそうとする話。 食することの美しさと汚らしさ、プロとしての矜恃、テレビ番組の裏、空気を読まない彼氏、色んな要素がいじらしくて泣けた。



23.李琴峰『五つ数えれば三日月が』 文藝春秋 2019
表題作は台湾から日本に来た女性が日本から台湾へ渡った女性に恋する話。漢詩でラブレターを書くのがロマンチック。 「セイナイト」も異国間のレズビアンもの。絵とダンスと言語を混ぜることでお互いの差や距離を表現している。 マイノリティ文学は面白くて困る。





22.温又柔『空港時光』 河出書房新社 2018
空港を行き来する人々の短編集。台湾と中国と日本の歴史的背景や越境する者たちの心理が描かれる。 空港は確かに『真ん中の子どもたち』などの作者にはうってつけのテーマで、言語や文化的アイデンティティについて考えさせられた。 僕は海外には行かないが、小説では行ける。



21.小林エリカ『最後の挨拶』 講談社 2021
作者の父である小林司の伝記。医師でありエスペラント語話者でありホームズの翻訳家でもあった。 僕は小林エリカのことは知っていたがホームズの翻訳家の娘とは知らなかった。なので読みながら描かれていることが事実であることに気づいた。そして泣いた。ワトスン君!



20.上田岳弘『旅のない』 講談社 2021
4篇収録。コロナの蔓延する2020年を舞台に、テーマに死や滅亡を含めながら主人公たちの想いを描く。 どれもかもが傑作すぎて感動した。特に弟夫婦の子供たちを預かって鬼滅の刃のドンジャラをする話は完成度が高くて脱帽。 この小説にはコロナの1つの側面が描かれている。



19.新胡桃『星に帰れよ』 河出書房新社 2020
去年の文藝賞の受賞作。モルヒネと呼ばれる女子と裏でパパ活する女子と無垢なサッカー男子の高校生3人の話。 変に味方になってほしくないひねくれたモルヒネは世界で1番正しい。9割の人間は余りにも愚直だよ。だから心から話せる人がいたらどれだけ助かるか知ってほしくて。



18.島口大樹『鳥がぼくらは祈り、』 講談社 2021
今年の群像新人文学賞の受賞作。高校生4人組の物語。 自傷やヤクザの抗争や友人の父の自殺などしんどい話が多いが、濁り&清らかな青春を描く。 高校生ものでここまでシリアスで文体も人称も工夫されてるのは天才。漫才的な絶望と未来はかなり苦しくてグッと来た。


17.稲葉真弓『半島へ』 講談社 2011
主人公の女性が東京から三重の半島へ移り住む話。半島はいわゆる田舎で山と海が広がる自然豊かな地。そこでの日常を淡々と描く。 土地の聖性を感じた。死と生が混在する地で人が暮すことを知る。僕は離島で生活したいと思っていた時々を思い出した。綺麗な文章はまるで宇宙。



16.井戸川射子『ここはとても速い川』 講談社 2021
今年の野間文芸新人賞の受賞作。「ここはとても速い川」「膨張」の2作収録。 児童養護施設に暮らす男の子の話とアドレスホッパーの話。どちらも独自の文体で描かれる。 辛いなあって思う。弱者と括るとすり抜ける個別性の感情がいい。味方のいる大阪弁が好き。



15.町田康『バイ貝』 双葉社 2012
鬱を振り払うために草刈り鎌や宝くじや中華鍋やカメラを買うだけの話。 でもそこにはユーモアしかないというか、ギャグめいた主人公の1人語りが延々に続くのには逆に凄みを感じました。 金と鬱とモノという三角関係をグルグル回してる人間という動物を戯画化した傑作。笑えた。




14.岸政彦『ビニール傘』 新潮社 2017
社会学者である作者が大阪を舞台に描いた芥川賞候補作。貧困が背景にある無限の若者は今日も生きていかなければならない。 僕は大阪に住んでるので嬉しかったですね。町の表現がうまかった。妙に貧乏臭い西大阪に住んでいた時こそが僕の1番幸せだった頃かもなあって思った。



13.藤原無雨『水と礫』 河出書房新社 2020
2020年文藝賞受賞作。上京したが仕事で失敗し故郷である砂漠の町に帰ってきたクザーノが誰も行ったことのない北の砂漠へラクダと向かう話。 クザーノを中心に男5世代を『夢の木坂分岐点』の如く微妙にズラしたパラレル世界で描く。誰もこの発想には勝てやしない。そして泣く。



12.田中慎弥『完全犯罪の恋』 講談社 2020
作家である田中は高校生の時に付き合っていた女性の娘と出会う。10代にあった奇妙な三角関係について娘は田中へ問い質していく。 田中慎弥の小説はこじれている。そしてこのこじれの結末に感動してしまった。作家の自殺がテーマでもあり、ジーンと心を振盪させられた。



11.高山羽根子『居た場所』 河出書房新社 2019
かつて古代遺跡の壺に入っていた黄緑色の液体を舐めた女性と結婚した主人公が、いつか女性が住んでいたという今では地図から消えた町に旅しにいく話。 人は無色透明なものと混ざる時、それは本人にはわからなくとも、必ず変化が起こっている。融合SFに近い純文学の傑作。



10.中原昌也『子猫が読む乱暴者日記』 河出書房新社 2000
短篇7篇収録。あらすじは説明不可能ですこれ全部。変な省略が多すぎて小説というか論理が破綻してるのよね。でもこれが中原昌也的でいいんです。 「闘う意志なし、しかし、殺したい」は名作だと思いました。これが評価される社会で良かった。脳汁ばんばん出る。



9.金子薫『壺中に天あり獣あり』 講談社 2019
無限の部屋があるホテル迷宮からの脱出を試みる光が出口の代わりに見つけたのは有限の部屋を持つホテル。光はそこでそのホテルの支配人になることにした。 僕はこういう抽象的な文学が好きなんです。我々の心から脱出しようとする我々みたいでどこか切ないんです。



8.筒井康隆『筒井康隆、自作を語る』 早川書房 2018
僕は筒井康隆を知って、この業深い読書道に落ちていくことになる。大学時代のことだ。だから筒井先生の本は山ほど読んだが、この本を読むとまだまだだなあって思う。 日本SFが第1世代から書かれていて興味深かった。僕は筒井康隆を一生読むだろう。涙出てきた。



7.西村賢太『棺に跨がる』 文藝春秋 2013
連作の4篇が所収。カツカレーを食ってる様子を「豚みたい」と言われて彼女である秋恵の肋骨にヒビをいれた貫多は、秋恵と別れたくないから一緒にプロ野球を見に行ったりカレーを作ったりする話。 西村賢太の小説って安心します。三人称の語りがやや貫多寄りなのが好きだ。



6.四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』 講談社 2015
2015年の野間文芸新人賞の候補作。 詩人である作者の自伝的作品。中原中也を愛した主人公がアメリカに渡り、海外の詩を趣味で翻訳してたらそれをオリジナルとして発表してしまった!どうなる? 僕も詩を書くことあるから詩論としても興味深し。面白すぎた!



5.川上弘美『神様2011』 講談社 2011
1993年に書かれた「神様」と2011年に発表された「神様2011」の2篇が所収。 くまに誘われて散歩に出かける主人公。魚を獲ったり川原で涼んだりする。 そして18年後、ちょっとした短篇が福島原発事故により奇妙に変貌する。3.11もコロナもそうだけど、人と物語は移ろった。





4.砂川文次『臆病な都市』 講談社 2020
役所組織の主人公が鳥を媒介とする新型感染症に対して適切に処理していく話。 ただしそんな病気は存在しなかった。だがそれを世間が許さず、国や役所は病気を実在するものとして扱わないといけなくなる。 コロナ騒動の前に書かれた感染症文学。カフカ的な不条理の極地。





3.佐藤厚志『象の皮膚』 新潮社 2021
今年の三島由紀夫賞の候補作。アトピーで悩んでいる書店員の女性主人公が異常すぎるほど冷たく憎悪に満ちた人間関係社会で生きていく話。 渡る世間は鬼ばかりすぎて読むのが辛かった。僕も家族にトラウマを抱えているので心臓が壊れそうになった。君は不幸なのは好きか?





2.山下澄人『コルバトントリ』 文藝春秋 2014
主人公の子供は時空間を跳躍して色んな視点で語れる。それは事実というより1つの小説技法ではあるのだが、こんなに切ないのはなんで? 最後の1文で泣いちゃいました。神の視点ってホントは悲しいね。もしかしたら誰も死ななくていいのかもしれないね、とふと思った。





1.久栖博季「彫刻の感想」(in「新潮」2021年11月号)
今年の新潮新人賞の受賞作。北海道を舞台に3世代の話。いい話だった。泣いちゃいましたね。歴史とともに消えるものと残るもの、それぞれの代の記憶と出来事、このクロスオーバーが良かった。 古川真人さんに似てる気がした。新潮が好きそうな感じもある。これぞ名作だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


これからもどんどん読書していきたいですね。
理想としては僕が死ぬその瞬間までに
この読書記録・一覧を続けていきたいですね。
マイナーである純文学をもっと布教したいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?