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人の振り見て我が振り直す

二週間前、会社に新人社員が入ってきた。

その当日初めて顔合わせして、私が「おはようございます」と挨拶するも、返事は弱々しく声量が小さいうえに、顔は少々目が泳いでいる様子だった。彼は積極的なタイプではない、というのを表情で認識した。

その後の自己紹介もぎこちないうえに、今まで自分がどういった業界に勤めていたかの経緯と、これからこうしていきたいという決意はどうも覚束ない印象だった。逆に私は、なぜ上層部はこの子をどういう基準でもって採用したのか、直談判したいぐらいの気持ちでいた。

その後、彼に改めて経緯を聞いてみた。学校を卒業後、就職して一年ほど在籍していたが、その後は派遣会社に就いて各社を転々としていたそうだ。
そして、ここに内定が決まるまで数十社ほど受けていたが、すべて断られてしまったという。

彼はすでに20代後半を迎えていて、彼なりに色々と苦労してきたのだろう。しかし、話を聞き進めるなかでどうも同情する気にはなれない。
横で聞いていた仲のいい先輩も、私と同じ反応を示していた。

後輩が入社してきてから二週間が経過した。今もなお、相変わらず挨拶や返事においても声が小さい。しかも積極的に質問することや仕事を取りにいこうとする意思があまりなく、こちらから指示がかかるのを待っていることが多い。

二週間とはいえ、まだ業務の流れを把握しきれていない部分があるのは仕方のないことだが、分が悪いことに、先輩たちは彼と一緒に仕事したくない雰囲気を醸し出していた。

仕事の面でも会話の面でも不満や愚痴をこぼしているのを耳にしていて、私自身も同じ気持ちを抱いていた。大目に見てやりたいところだが、このまま同じ姿勢では自分のため彼のためには先が思いやられる。そうひしひしと感じていた。

休みの日、過去のことを思い出していた。私が彼と同じ歳だった頃、どんな姿勢で先輩ないし上司、そして仕事に対してどのように取り組んでいたかを。

振り返れば、私は最初から積極的に物事を進めるような人間ではなく、常に消極的で受け身の姿勢をずっと貫いていた。「長い物には巻かれろ」という諺があるように、ただ上の立場の人間の指示に黙って従っていれば良いと。

その姿勢がいずれ必ずダメにする。おそらく彼は、過去の私と同じ境遇を辿ることになるかもしれない。しかし、感情的に抑えつけることをしてはならない。

かつて私が嫌いで仕方なかった一つ前の会社の上司と同じ行動をすることになるからだ。かといって、いつまでも優しく接してばかりでは彼のためにもならないし、成長やきっかけもつくれない。

ならば私は、私なりのやり方で彼に今一度接してみることにする。”人の振り見て我が振り直す”ように。

最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!