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そこで目がさめては

学生の頃は誰しも、教室で授業を受けている最中に居眠りをすれば、決まって先生に叱られたことが少なからずあるのではないだろうか。

当時、私の身の回りで居眠りをしている人間は、クラスに最低でも一人いたことを覚えている。そういう人に限って、常に先生から注意されてはその叱咤が教室中に飛び交うのは日常茶飯事のことであった。

かく云う私も、授業中に一度も居眠りをしたことがないわけではない。思い返せば、地味に回数を重ね続けていたのかもしれない。

そしてある日のこと、居眠りをしている私の姿が先生の目に留まったものの、なぜか怒られるのではなく心配されてしまったことがあったのである。

その日の授業だけは異常なまでの睡魔に襲われていた。前日までコーヒーを飲みながらテスト勉強に集中していたおかげで、いつもより遅くまで起きていたのだった。

それに加え、お昼ご飯を取ったあとの時間は体育や家庭科のように体を動かす授業がない限り、常に机と椅子に拘束されている状態で教科書やノート、それから黒板に目を向けつつ、自分の両眼から直にやってくる睡魔と対峙しなければならない。

やがて、先生の話し声がだんだん子守唄を聴かされている感覚に陥り、目線が下を向くようになってはだんだん体のバランスが保てなくなってしまった。

「ああ、これはもうダメだ…」

皆の視線が先生とその奥にある黒板に集中している中で、ひとり「眠たいから保健室に行きたいです」なんて素直に言えるワケがなければ、そんな理由ですんなり行かせてもらえる筈もない。

これで自分の姿が先生の目に留まったら、素直に怒られてしまおう。そう諦めがついて顔を机に突っ伏してしまった。

それに気づいただろうか、先生がこちらにきて私の肩を叩き顔を覗き込んだ。

「大丈夫?調子悪いのかい?」

正直にいって、間違いなく怒られてしまうパターンだと諦めていた私に取っては、予想外の答えが返ってきてしまったことに内心驚いてしまった。

「保健室に行くかい?」

数十秒前に考えていたことが現実になるチャンスが突然巡り出した。言うなら今のうちだと思えたが罪悪感に苛まれてしまい、結局その場で行くことを断念した。

「大丈夫です」と私は授業を続ける旨の返事をして、意識がぼんやりとしながらもゆっくりと姿勢を正した。先生は心配そうにしながらも、教壇に戻って話を再開した。

その後もまだ眠気は治まっていなかったが、先程の先生に声をかけられる前よりもいくらかマシになり、チャイムが鳴るまでなんとか授業を受け続けた。

先生にとっては、普段から私自身が居眠りする姿を見受けられなかったからこそ、意外だと思ってしまったのだろう。
そして私自身も先生に怒られるつもりでいたからこそ、心配されてきたことには意外なものであった。

授業が終わった直後ですぐさま謝罪の意思を伝えることはできなかったが、もしもどこかで再会することがあったとしたら、とりあえずは一言謝っておきたいと思っている。

あの時はご心配かけて申し訳なかった。体調が悪かったのではなく、単に寝不足で眠かっただけなのだと。


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