やさしい物理講座ⅴ106「天の川の中心」
人間の知的好奇心は際限なく広がる。我々が物体として認識できるのは、光(電磁波)を介して、初めて目に入り、認識出来るものである。今ではその目に入るもの(可視光線)以外の幅広い振動数(波長)の電磁波をキャッチして物体の存在を認識できるようになった。七夕に見上げる天の川も天体観測により実像が分るようになった。
今回はそのような報道記事を紹介する。
皇紀2684年7月19日
さいたま市桜区
理論物理研究者 田村 司
天の川銀河の中心には何があるのか?太陽質量の約10億倍の大質量の天体「クェーサー」とはなにか!?
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授) によるストーリー
時空の歪みとして捉えられた謎の重力波の存在。世界に衝撃を与えたこの観測事実から宇宙誕生に迫る最新の宇宙論を紹介する話題の書籍『宇宙はいかに始まったのか ナノヘルツ重力波と宇宙誕生の物理学』。
わたしたちは天の川銀河の中に暮らしています。では、天の川銀河の中心にはなにがあるのでしょうか?この問いを起点に、宇宙に存在する大質量天体について見ていくことにしましょう。
*本記事は、『宇宙はいかに始まったのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
天の川銀河の中心には何があるのか?
天文学者、ラインハルト・ゲンツェル(ドイツ)とアンドレア・ゲズ(米国)はそれぞれの観測チームを主導し、天の川銀河の中心に太陽400万個分に相当する巨大な質量が集中していることを観測で明らかにしました。これが「いて座Aスター」です。
もちろん、太陽400万個分もの明るい天体はその領域で見つかっていません。よって、大質量のブラックホールの証拠だと考えられています。実際、彼らの観測では、銀河系中心を運動する恒星の軌道観測から、その大質量が推定されています。
銀河系中心にある「S2」と名付けられた星
銀河系中心における代表的な観測対象は「S2」と名付けられた星です。ただし、その星の銀河系中心までもっとも近くなる距離でさえ、およそ120天文単位(太陽と地球の間の平均距離の120倍)もあります。
この中心天体がブラックホールだとすれば、そのシュバルツシルト半径は約1200万キロメートルにもなりますが、天文単位に換算すれば1天文単位に少し届かない程度です。
つまり、S2のブラックホールへのもっとも近づく点は、シュバルツシルト半径の100倍以上もあり、S2の運動はニュートンの万有引力を用いても説明できます。
銀河系中心の大きな質量は、巨大ブラックホールが担っていると考えられています。しかし、そのブラックホールの表面はおろか、その強い重力による一般相対性理論の効果も明確に検出されていません。
2020年、ゲンツェルとゲズのノーベル賞受賞に対して、ノーベル賞選考委員会の受賞理由の中では、「超大質量ブラックホール」ではなく、「超大質量のコンパクトな天体」という言い回しが用いられています。これは選考委員会としての公式な見解であり、多くの天文学者は彼らが発見した天体は巨大ブラックホールだと信じています。
一方、多くの物理学者は、より慎重な言い回しである「巨大ブラックホール候補」という呼び名を好みますが、ここでは、簡単のため、たんに巨大ブラックホールとよびます。
太陽質量の約10億倍の星「クェーサー」
実は、我々の所属している銀河である天の川銀河の中心が、人類が初めて巨大ブラックホールを発見した領域ではありません。
1960年、「3C273」という電波天体の正確な方向が判明しました。その天球上での位置が決定された直後、オランダの天文学者マーチン・シュミットが光学望遠鏡を用いてその電波源を観測し、そこに13等級の恒星状の天体(点として見える天体)を発見しました。
この恒星状の天体は、のちに「準恒星状天体」(Quasi-stellar Object)と名づけられ、今日では英語名を略して「クェーサー」とよばれます。
その天体からの光のスペクトルを測定することによって、3C273は、地球から約20億光年も離れた天体であることが判明しました。
そんな遠くにある点のような領域から莫大な熱エネルギーが放出される結果、太陽の2兆倍もの明るさで輝いているのです。発見当初、その天体の正体に関する論争があり、その結果、それは巨大ブラックホールだと結論づけられました。
また、この天体の質量は、約8億8600万太陽質量と見積もられており、巨大な質量をもつといわれています。
その後も、次々とクェーサーが発見され、それらの中心には巨大ブラックホールが存在すると考えられるようになりました。
では、このような巨大ブラックホールはどのように作られたのでしょうか。じつは、その形成メカニズムはまだ解明されていません。そこで次の記事では、巨大ブラックホールがいかに誕生したのか、現在考えられているそのモデルを紹介します。
中国の科学者、天の川銀河が想像より大きいことを発見
新華社 によるストーリー
天の川銀河を外側から見た想像図。(昆明=新華社配信)
【新華社昆明7月16日】中国の科学者がこのほど、天の川銀河の広域調査APOGEE(アパッチポイント天文台銀河進化観測実験)の近赤外恒星分光サーベイデータを利用して、初めて天の川銀河の内から外に向けた恒星の完全な半径方向密度分布を再現することに成功し、測定により「天の川銀河はこれまで想定されていたよりも大きい」という結果を得た。研究成果は国際的な学術誌「ネイチャー・アストロノミー」に掲載された。
論文の筆頭著者である雲南大学中国西南天文研究所の連建輝(れん・けんき)副教授によると、研究チームは恒星の新たな面密度分布に基づき、天の川銀河の半光度半径(銀河の全光度の半分を含む半径)がこれまでの推計のほぼ2倍(約1万9千光年)で、近隣にある同質量の銀河と半径が基本的に一致していることを発見し、銀河の大きさから見て天の川銀河は典型的な円盤銀河であることが示されたという。
人類のふるさとである天の川銀河について、研究者による大量の識別可能な恒星の観測を通じて、その進化の歴史を詳細に分析できるようになった一方で、天の川銀河全体の構造に対する明確な認識は長きにわたり不足してきた。天の川銀河の構造を研究する上での主な難題の一つは、太陽系が天の川銀河の円盤平面上にほぼ位置しており、ちりによる減光が天の川銀河主要部(円盤の内側と銀河の中心)方向の観測に深刻な影響を及ぼし、「いかなる光学バンドによる天体観測も無効」になってしまう点にあった。
連氏は「ちりによる減光が波長の長い光子に与える影響は急速に小さくなるため、近い赤外線光学バンドによる観測がこの難題を大きく改善しうる」と述べ、ここ数年の天文観測技術の進歩、特に大型近赤外線恒星分光サーベイの実施に伴い、難題解決に向けてかつてないチャンスがもたらされたと説明した。
研究チームは世界初の大型近赤外線恒星分光サーベイプロジェクトであるAPOGEEをベースとし、APOGEE観測の不均一性やちり、恒星の特性について総合的な分析を行うことで、天の川銀河を構成する各年齢の星による、バルジ(銀河中心部)から外側円盤までのリアルで完全な面密度分布の体系的な再現に初めて成功。研究の結果、天の川銀河の円盤構造は外側区域で典型的な指数分布に一致した一方で、内側区域では恒星の密度がほぼ平坦に保たれており、外側の指数分布とは明らかに異なることが示された。
連氏は「これまでは指数関数的な円盤の仮説を踏まえ、天の川銀河は半光半径が約1万光年と同質量の銀河よりも小さいコンパクト銀河であるとされてきた」と述べた上で、今回の研究はこの仮説を覆すものであり、天の川銀河全体の物理性質測定や、天の川銀河と他の銀河との相互比較研究に新たな次元を開き、天の川銀河関連研究に大きな影響を及ぼすとの見方を示した。(記者/許万虎、厳勇)
3億2600万光年先の「ペンギン」、くちばしでは新たな星を形成…NASAが画像公開
読売新聞 によるストーリー
【ワシントン=冨山優介】米航空宇宙局(NASA)は、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したペンギンのように見える銀河の画像=NASAなど提供=を公開した。
この銀河は、地球から3億2600万光年離れたうみへび座の方角にある。画像は、天体が発する赤外線を捉えたもので、ペンギンのように見える縦長の銀河の左側に、卵のような 楕円(だえん) 形の明るい銀河がある。
NASAによると、ペンギンの尾やくちばしのように見える領域では、星が新たに形成され、星の材料となるちりがオレンジ色に輝いている。
画像は、同望遠鏡の本格運用から今月で2年となるのに合わせて公開された。NASAのビル・ネルソン長官は「ウェッブは最初の観測画像の公開以来、宇宙の謎を解き明かし続けている」と述べた。
参考文献・参考資料
天の川銀河の中心には何があるのか?太陽質量の約10億倍の大質量の天体「クェーサー」とはなにか!? (msn.com)
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