政治講座ⅴ698「中国の情報戦(プロパガンダ)の号砲」
演出の上手さは香港映画のようである。先日、ファンであったジャッキーチェンが共産党員に入党したという報道記事を見た。「虚」を「実」に見せ、「実」を「虚」に見せるのは、映画界の得意とするところである。
「証言」と事実が沢山報道されて国連でも取り上げられて問題になっていることを白々しいとはこのことであろう。プロパガンダと思える報道記事を掲載するので幅広い情報を集めて判断いただきたい。文中の「実際には、60年余りの間に新疆のウイグル族の人口は220万人から約1200万人へと大幅に増加」は新疆に漢民族を移住させて、人口をふやした結果であり、ウイグル族の女性を避妊手術させて、民族の消滅をさせる浄化政策を実施していることは報道されている。このように「虚」に「実」を織り交ぜて喧伝するのは中国共産党の常套手段である。眉唾として話半分に読むのがよいであろう。そして、米国の歴史を俯瞰すると中国共産党と50歩100歩であることに気が付く。 報道記事を掲載するのでご覧あれ!
皇紀2682年12月18日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
新華社とは
新華社は中国中央電視台などとともに『中華人民共和国国務院、事実上の中国共産党中央宣伝部直属の機関』であるため、日本のメディアで「新華社によると」といった伝え方をした時は、中国政府及び中国共産党の公式見解を発表報道していると見做されている。
2006年9月、新華社は国務院(内閣)の決定に従って、外国通信社の中国国内における配信を新華社管理下に置き、配信内容に制限を設けることを定めた「外国通信社中国国内配信記事管理弁法」を発布。同日から施行された。同法では、外国通信社やそれに類するニュース配信機関が国内ユーザーと契約する場合、新華社系代理店を通すことを義務付けた。また配信記事、写真、図表について、国家統一や主権領土の完全性を損なうなどの10項目の内容を禁止。これに違反すれば、警告ののち、通信社の資格を取り消す場合もあるとしている。国内メディアが外国通信社記事を使用する場合も同様の規制を設けた。
新疆に関する米国のうそ、アラブ世界が信じないのはなぜか
新華社
【新華社北京12月17日】終わりのない対中宣伝戦の中で米国は最近、中国の新疆ウイグル自治区に関する問題を新たな標的に選んだ。人々を驚かせたのは、米国が新疆のウイグル族に対する「ジェノサイド」や「強制労働」という根拠のない告発だけに基づき、中国に制裁を科し、世界のサプライチェーンを混乱させたことだ。
いつものように、米国のうそは少数の西側同盟国によって繰り返されただけで、国際社会全体、特にアラブ世界は水を打ったように静まり返っている。
過去の経験によると、欺瞞(ぎまん)は米国が支配的地位を実現し維持するための常套手段である。米海軍大学校(Naval War College)で国家安全保障問題を担当するスティーブン・ノット教授をはじめとする多数の米研究者が「米国は秘密とうその上に成り立っている」との結論を出した。
アラブ諸国は米国の偽情報による攻撃に抵抗し、断固として中国の側に立ち、中国の新疆政策を支持している。米国の告発が事実であれば、新疆の数多くのウイグル族人と同じ宗教的信仰を持つアラブ諸国は、決して座視することがないはずだ。コーランは「信仰者たちは皆兄弟である」としている。
アラブの専門家は新華社の取材に対し、「新疆問題における米国の事実捏造は通用しない。ますます多くのアラブ人が米国の矛盾や皮肉に満ちた主張に気付き、米国を信頼する気持ちを完全になくしているからだ」と表明。多くのアラブ代表団が直接新疆を旅行した経験を持ち、新疆の状況を目の当たりにしていると述べた。
▽中国に対する偽情報戦
昨年10月、米国とその同盟国が国連人権理事会第51回会議で提出した新疆に関する反中国の動議が否決された際、ジュネーブのパレ・デ・ナシオン会議場には大きな拍手が沸き起こった。アラブ諸国は投票で一貫して中国を支持した。
エジプトのコラムニストで、エジプト外交問題評議会のメンバーでもあるカマル・ガバラ氏は、アラブ世界が常に中国の正義の事業を支持しているのは当たり前だとし、「一部の国が中国の発展を阻害しようとしていることを、アラブ人民はよく知っている」と指摘。その上で、新疆問題は「新疆の人々を貧困と無知に陥れようとする西側が引き起こした政治問題だ。西側は新疆を緊張とテロリズムの焦点に変え、中国の発展に影響を与えたいと考えている」との見方を示した。
より多くの国に投票を促すため、米国と西側同盟国は決議草案を「政治的動機のない中立的な手続き上の問題」に見せかけようとした。中国に対する米国の他の偽情報戦略は、それほど緻密なものではない。
米国が公然といわゆる新疆の「ジェノサイド」問題について流布したうそを取り上げてみよう。米国の政治家やメディアは、このいわれのない非難を売り込み、中国のイメージを汚してきたが、実際には、60年余りの間に新疆のウイグル族の人口は220万人から約1200万人へと大幅に増加し、1人当たりの平均寿命は30歳から74.7歳に伸びている。
ガバラ氏は「人口が増加しており、政府が人民の経済と社会の発展を改善しようとしている新疆では、ジェノサイドが起きるわけがない」と指摘。人口増加は、住宅、保健、教育の改善に向けた中国政府の大きな努力によるものだとした。
イラク・クルディスタン共産党中央委員会のカワ・マフムード書記は、一部の西側政治家が中国に無実の罪を着せているのは、明らかに彼らが自国の黒歴史を見て見ぬふりをしているためだと批判した。
同氏は「ジェノサイドのアーカイブを開けば、植民地主義こそジェノサイドだ」と指摘。「米国やカナダにおける先住民の大量殺害はジェノサイドだ。彼らは(先住民に)何らかの権利や特権を与えることでこの問題を解決しようとするかもしれないが、これらの人々に犯した恐ろしい行為を記憶から消すことはできない」と強調した。
また、中国に対する「ジェノサイド」などの告発は根拠なく理不尽なもので、米国の中国に対するイデオロギー宣伝の一部だと述べた。
シリアの政治学者、政府ジュネーブ和平交渉代表団の元メンバーであるオサマ・ダヌラ氏は、中国に対する米国のこうした非難について、「他国の地理的、政治的、民族的団結を破壊する」ことと、「他国の内部分裂を促す」ことを目的とした米国の体系的な戦略の一環だと述べた。
同氏はまた、「直接的な戦争の代替選択肢として、米国は民衆、宗教、社会とその他の民族的、人種的構成要素間の憎悪と分断を扇動しようとしている。特にベトナム、イラク、その他の国で何度か軍事的冒険に失敗した後、米国の伝統的な戦争を発動する力は低下している」と語った。
▽毒とうそ
アラブの専門家は新華社の取材に対し、アラブの人々は新疆問題に関する米国のうそに簡単にだまされることはないと述べた。アラブ世界は米国の欺瞞をあまりにもよく知っているからだ。 イラク侵攻から約3週間後の2003年4月9日、米軍はイラクの首都バグダッドでサダム・フセインの像を撤去した。この戦争が数十万人の命を奪い、中東を混乱に陥れたこと、そして公然としたうそに基づいていたことは、今や世界中が知っている。 「同僚の皆さん、今日私が発表した全ての声明は、信頼できる情報源によって裏付けられている」と、当時の米国務長官コリン・パウエル氏は03年初めに国連安全保障理事会で述べた。 パウエル氏は「私たちが皆さんに提供しているのは、信頼できる情報に基づいた事実と結論です」とイラク侵攻を擁護しながら、フセイン大統領を「大量破壊兵器(WMD)を保有する、世界の主要な脅威」と称した。同氏はその時、白い粉の入った小瓶を掲げ、米国には戦争を始めるしか選択肢がないことを世界に伝えた。その小瓶には、フセイン大統領が保有した炭疽(たんそ)菌が入ったとされていた。 何年にもわたって続いたこの戦争では、数十万人のイラク人が死亡し、数百万人が行き場を失い、町が破壊された。占領とそれに伴う混乱や不安は、イスラム国を含むテロ組織の発展に重要な機会を提供した。イラクでは今に至るまで、化学兵器や大量破壊兵器の痕跡は一切見つかっていない。 米国がうそをついてアラブ諸国に軍事介入するのはこれが初めてではない。「米軍が1998年に、化学兵器生産を口実にスーダンの工場を爆撃した後、クリントン大統領が後に誤爆だったと明言したことは依然として、人々の記憶に残っているだろう」。アルジェリアのフランス語日刊紙「ジュヌ・アンデパンダン」のニュースディレクター、カマル・マンサリ氏は「うそに基づいて、米国人はスーダンの人々とアフリカ大陸全体のために医薬品を生産する工場を破壊した」と振り返り、アラブの人々にとって米国の信頼性は絶えず低下し続けていると指摘した。 また、米国がイスラム教の評判を傷つけ、西側社会にイスラム恐怖症の空間を創出し、イスラム社会への人種差別主義を助長し、イスラム教への恐怖を起こさせるために多大な努力をしてきたと付け加えた。 ガバラ氏は「米国とその同盟国の信頼性が疑問視されており、中東の人々から全く歓迎されていない」とし、「米国は中東情勢のエスカレートを助長し、挑発したことに責任があることを知っている」と述べた。
▽百聞は一見にしかず
今年8月、アルジェリアのラベヒ駐中国大使は新疆を訪問した際、新疆の各民族人民の権利が良好に保障されていることに深い感銘を受け、「ここの果物は甘い。ここの人々の生活と同じだ」と述べた。 近年、100以上の国と組織から2千人以上の政府関係者、宗教関係者、記者が新疆を訪問しており、その多くはアラブ世界の人々だった。 マンサリ氏は「新疆の状況に関する西側の宣伝を聞くと、そこは『地獄のような』地域だという印象を受けるだろうが、事実は全く逆だ。なぜなら、ジャーナリストや政治的ではない個人、そして北京駐在のアルジェリア大使が新疆を訪問し、そこでの情勢についての見解を発表したからだ」と述べた。 マフムード氏は以前新疆を訪問した際のことを振り返り、「そこで起きている発展に驚いた」とした上で、「今、この地域に戻れば別の進展が見られると思う。あらゆる分野で復興が見られるだろう」と述べた。 2021年、新疆の域内総生産(GDP)は1兆6千億元(1元=約19円)近くに達し、12年の2倍になった。この10年間、新疆の財政支出の70%以上は民生の改善に使われている。 ガバラ氏は10年と19年に新疆を2度訪れ、モスクの数と信教の自由さを身をもって感じた。「10年のラマダン中に新疆を訪れたが、イスラム教徒には宗教儀式の完全な自由があるのを見た。誰もが信教の自由を持っており、モスクは毎日、休日でも開いている」と語った。 新疆には現在、2万4400のモスクがあり、イスラム教徒530人に1カ所のモスクがある計算になる。これは、米国、英国、ドイツ、フランスにあるモスクを全部合わせた数の2倍以上だ。 ガバラ氏は「これは、中国政府がいかに新疆の文化的・宗教的アイデンティティーの保護を重視しているかを物語っている。政府が新疆の宗教儀式に干渉するのではなく、テロやその他の不安定要素から新疆を守っていることを示している」と評価した。
▽開発と安全保障は不可分
不安定、テロリズム、外部からの軍事侵略に悩まされている地域から訪れたアラブの専門家は、「アラブ世界は新疆の安定と安全を促進する中国政府の取り組みを支持しており、中国に対する米国の偽情報による宣伝は、アラブ世界にとって信用できるものではない」と強調した。 マンサリ氏は「安定と分裂主義はどの国にとっても重要な問題であり、どの国も自国の領土の分裂を容認できない」と指摘。「従って、新疆の問題は不安定化と分裂主義への対抗の問題であり、人権問題ではない。新疆の発展からは人権状況が見て取れる」と強調した。 ガバラ氏は19年の2度目となる新疆訪問の際、「破壊組織がテロ攻撃によって地域の発展を破壊した」10年当時とは治安状況が全く異なっていたことに気付いたと強調。「現在の治安情勢と中央政府の努力により、全てがより良くなった」と語った。 中国に対する中傷の一環として、西側は新疆の職業教育訓練センターがいわゆる強制収容所であり、100万人のウイグル族人を収監しているといううそをまき散らしている。 実際、米調査報道ニュースサイト「グレーゾーン」によると、この理論はもともと、米政府が支援する米NGO「中国人権擁護者(CHRD)」が提起し、流布したものだ。同団体は、ただ8人のウイグル族人へのインタビューと大ざっぱな見積もりに基づき、このでたらめな結論を導き出した。 ガバラ氏は、現地の人たちが中国語や法律、各種職業について学んでいるこれらのセンターを見学したことがあり、「これらのセンターを卒業した人々は将来、テロリストの潜在的リクルートになるのではなく、社会の発展に参加する資格がある」と述べた。 マフムード氏は、米国と西側同盟国の中国に関する言説について、「事実が明らかにされていないため、数年前から流布されてきた。しかし、米国がテロと人権の問題でダブルスタンダードを取った事実が明らかになってから、事態ははっきりした」と指摘した。 さらに、人権侵害が暴露されたグアンタナモ収容所など、他国に大量の強制収容所を設置しているのは米国だけだと語った。
「デジタルの牢獄」と化したウイグルの恐ろしい実態…収容所送りにされた少女「メイセム」の証言
2022年01月17日
来月4日、北京冬季五輪が開幕する。ただしアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ政府は既に「外交ボイコット」を表明済みだ。その最大の理由に挙がるのが、中国政府による新疆ウイグル自治区への人権弾圧。現地で何が起きているのか。顔認識や音声認識など、最先端技術を駆使した「統治」の実態を長期取材、『AI監獄ウイグル』(新潮社)を上梓した米国人ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏が寄稿した。
***
新疆ウイグル自治区で生まれ育ったメイセムは、高校を優秀な成績で卒業、中国の一流大学に進学した。その最中の2014年から、中国政府はウイグル住民に独裁的な魔の手を伸ばすようになる。大量の監視カメラが町中に出現し、ショッピングモールやガソリンスタンドへ入るときにも、IDカードの提示が要るようになった。
北京で生活するメイセムにとっても、大学生活はつらいものだった。国を動かしているのは漢族であり、「ウイグル人は時代遅れで、過度に信仰心が篤く、少し頭の悪い存在」と見下されていたのだ。教室で挙手しても、教授たちに日常的に無視される。ただしメイセムは努力を惜しまず勉強に励み、トルコの大学院に進む。
「外の世界を見てみたかった」――だがこの選択が、メイセムが海外に住んでいるという事実が、彼女と家族の日常を狂わせることになる。最初の予兆は2016年、夏休みに故郷カシュガルに戻ったときのことだった。
「信用できる」基準を満たしていない
取材力に定評のあるアメリカ人ジャーナリスト・ジェフリー・ケイン(写真:Chale Chala) (他の写真を見る)
メイセムの実家の扉を、また親切なガーさんがノックした。家々は10世帯ごとのグループに分けて管理されており、グループ内の住民は互いに監視し合い、訪問者の出入りや友人・家族の日々の行動を記録することを求められている。ガーさんは、10世帯のグループの班長として、最近派遣されてきた礼儀正しい女性だった。
彼女は、メイセムの家の居間に政府のカメラを設置する必要があると説明した。
「ご不便をおかけしてほんとうに申しわけありません」とガーさんは丁寧に言った。
「でもこの決定については、わたしにはどうすることもできないんです。あなたの家で何か怪しいことが行われている、と地元の警察から通知があったものですから」
ガーさんから手渡された1枚の紙には、当局の支援を受けて監視カメラを設置する方法が書かれていた。メイセムと家族は、この命令が下された理由をはっきりと認識していた。メイセムは海外に留学中だった。さらに留学先はイスラム教の国だ。そのせいで彼女が“容疑者”とみなされたのだ。2015年のある時点で中国政府は、アフガニスタン、シリア、イラクなどの国が含まれる「26の要注意国」の公式リストにトルコを指定することを決めていた。
「自分は“信用できない”と判断されたんじゃないか、政府はわたしをもう信用していないんじゃないかと不安になりました」
彼女の直感は正しかった。ガーさんは、政府が定めた「信用できる」の基準をメイセムが満たしていないようだと説明した。カメラを設置して信用できる人間だと示さなくてはいけない、と。
居間にカメラ、さらに家族全員の“検査”
「選択の余地などありませんでした」とメイセムは振り返った。
「わたしたちにできることなんてなかった。当局に抵抗すれば、逮捕されるだけですから。みんながみんなを監視して、密告し合っていた。誰も信用なんてできません。わたしたちは地元の電気店に行って、適切なカメラを探しました」
電気店に行ってみると、多くの店で品切れ状態になっていることがわかった。最近のおもな顧客である警察が、あらゆる製品を買い占めていたのだ。適切なカメラを見つけるのは簡単ではなかったが、一家はやっとのことで見つけだした。
購入後、技術者が家にやってきて、壁に埋め込まれたプラスチック製のケースのなかにカメラを設置した。そのためカメラを勝手にいじったり、電源を切ったりすることはできなかった。居間だけでなく、小さなマンションの広い範囲が映り込んだ。くわえて、音声も記録された。
「母とわたしにとって、それは絶望的なことでした」とメイセムは言った。
「むかしから家はわたしたちみんなにとって、望むことはなんでもできる場所だった。本を読み、会話し、本音を語ることのできる場所だった」
メイセムと母親は居間を使いつづけた。しかし、いつものように本を並べたり、文学や世界情勢についての率直な議論をしたりするのは避けた。
だがこれでは足りなかった。その1ヵ月後、政府からの新たな通知をもってガーさんが戸口にやってきた。家族全員で地元の警察署に出向き、“検査”を受けろ。一家が怪しいと判断されたため、こんどは家族全員への“検査”が義務づけられたのだった。
そこで身体検査に加えて、採血、声と顔の記録、DNAサンプルの採取が行われた。
「役所に来てください」
「ある日、地区の当局から携帯電話に連絡がありました」とメイセムは振り返った。陳全国という人物が新疆のトップに就任してからおよそ1週間後、2016年9月のことだった。
「役所に来てください。今日は大切なお話がありますので」と職員は言った。
「ふだんなら役所には母といっしょに行くのですが」とメイセムは私に語った。
「でもその日は母の体調が悪かったので、ひとりで行ったんです」
「外国からの帰国者は全員、再教育センターに行ってもらいます」と職員は言った。
「大切な会合がありますので、出席してください。その場所で1ヵ月にわたって勉強することになります」
職員は“その場所”がどんなところなのか具体的には説明しなかった。
「1ヵ月?」とメイセムは声をあげた。
「大学院に戻らないといけないんですけど!」
予定では、2週間後にトルコに戻って修士課程の最終年をはじめることになっていた。
ガーさんも庁舎内におり、出入りする全員に眼を光らせていた。彼女が親切にしてくれているのか、あるいは脅そうとしているのか、メイセムには判断がつかなかった。ガーさんはいつも礼儀正しかったが、信用できない人物だった。
「よかった、まだ中国にいたのね。もう離れてしまったんじゃないかと思っていたんです。大きな変化があるようですよ。これがわたしの指示じゃないってことは理解しておいてくださいね。陳全国の指示なんです。彼は大きな計画を立てているっていう噂ですよ。つぎに何が起きるのか、わたしにはわかりません。でも、再教育のまえにあなたにお伝えしておきたくて」
「すべての市民の義務である」
メイセムは、再教育センター行きの車の後部座席に乗り込むよう命じられた。1ヵ月分の服を取りに家に戻る機会は与えられなかった。
1時間ほどたつと、目的の建物が視界に入ってきた。メイセムは、口から心臓が飛びだしそうなほどの緊張に襲われた。
「銃をもった迷彩服の軍人がいました。特殊部隊の黒い制服を着た警察官もいた。たくさんの人が、アサルト・ライフルや巨大な棒をもっていました」
のちに彼女はその棒が、スパイク付きの電気ショック警棒だと知ることになる。
「車を降りました。眼のまえにあったのは高校の建物でしたが、明らかに改装されて新しい施設に変わっていました。警察官たちがわたしを待っていました。金属探知機で体をチェックされたあと、ふたつの黒い鉄扉の奥へと連れていかれました」
メイセムは扉の上の看板の文字を読んだ─―「わが国家の防衛は、すべての市民の義務である」
戸口を抜けると、体のうしろで扉が急にバタンと閉まった。
廊下の突き当たりにまた扉があった。突如として扉が開き、警察官が飛びだしてきた。
「入りなさい」と彼は命じた。
扉の奥には、受付係がひとりいる不気味なロビーがあった。部屋の四隅には監視カメラが設置されている。
「どうして地区当局はわたしをここに送り込んだんですか?」とメイセムは訊いた。
「何をしなくちゃいけないんですか?」
「質問をしないでください。座って待っていてください」と受付係はぴしゃりと言った。
「拘留センターに連れていけ」
警察官のひとりが静かにしろと叫んだ。
「この部屋には問題がある」と彼はまわりの人々に向かって説明した。
「この場所はずいぶんと汚れている。掃除しなくてはいけない。誰か、掃除をしてくれる人は?」
「おまえ!」と警察官のひとりが言い、50人ほどの人々のなかからメイセムを引っぱりだした。
「どうやら、おまえがここでいちばん年下のようだ。おまえは窓を拭け」
「それが新たな問題のはじまりでした」と、メイセムは当時の様子について振り返った。
「わたしはいちばん年下だったので、追加の仕事を押しつけられたんです。『政治について勉強する、と言われてわたしたちはここに連れてこられました。窓拭きをするなんて聞いていません』とわたしは抗議しました」
看守たちは苦い顔をした。「おまえはセンター長と面談だ」と看守のひとりがメイセムに言った。
メイセムは、すぐ近くにある再教育センター長の部屋に連れていかれた。センター長はぶっきらぼうに尋ねた。
「地位の高い親戚は?」
「きみは窓を掃除しなさい」とセンター長は無表情で言った。
「われわれは、きみを助けようとしているだけだ」
メイセムは拒否した。するとセンター長は机から書類の束を引っぱりだし、それから誰かに電話をかけた。
「若い娘がいてな、窓を拭きたくないというんだ。なので、そちらでしばらく教育してくれないだろうか?」
看守に導かれ、メイセムは廊下を抜けて外に出た。部屋を出るとき、ほかの被収容者たちが職員に訴えかけた。
「大目に見てやってくださいよ」とひとりの女性は言った。
「まだ若い女の子なんだから」
建物の外にパトカーがやってきた。
「拘留センターに連れていけ」とセンター長は運転手に指示した。“拘留”という言葉がはるかに大きな意味をもつことなど、そのときのメイセムは知る由もなかった。
「そっちのほうが、彼女に合っているはずだ」
メイセムを乗せた車はすぐに、ふたつ目の収容所に着いた。看守たちが「拘留センター」と呼ぶその施設は、大きな鉄扉がついた大規模な建物で、さきほどよりも多くの特殊部隊員がまわりを警備していた。
「性悪女!」「売春婦!」
「なかに入ってください」と看守が言った。うしろで扉が閉まると、自分が長いセメントの廊下の端にひとり立っていることにメイセムは気がついた。およそ10メートルおきに設置されたカメラのレンズが彼女のほうに向けられていた。
メイセムは中庭へと連れていかれ、待つように言われた。頭は真っ白で、ただただ戸惑っていた。10人の看守がまわりを取り囲むように立った。
「ここでは誰が偉いのか、この女に教えてやろう」と看守のひとりが叫んだ。
ふたりの男がメイセムを地面に押し倒し、靴を脱がせ、脚をもって体を外へと引きずりだし、隣の小さな中庭に引っぱっていった。そこには、不機嫌そうな表情をしたべつの数人の男女がいたが、彼らも意に反して連れてこられたのは明らかだった。
「この尻軽女が」と看守たちは叫んだ。
「性悪女!」「売春婦!」
メイセムはなんとか逃れようと手足をバタバタさせた。数分後、看守たちは笑いながらうしろに下がった。
すでに正午ごろになり、8月の灼熱の太陽が空高くに昇っていた。看守たちはメイセムの体をもち上げ、手錠と拘束具がついた鉄の椅子に引っぱっていき、腕と足に手錠をかけた。
「とんでもなく不快な気持ちでした」と彼女は私に言った。
「それはタイガー・チェアでした。そう、誰もが噂で耳にしたことのある拷問椅子です。あの人たちは、そうやって見せしめにする。体を捻じ曲げて苦しめるんです」
炎天下で8時間放置
ほかの囚人たちもその様子を見ていた。
「彼らはまるで患者でした。自動車事故で負った頭の外傷から回復し、人格を失った患者みたいに」とメイセムは言った。
「考えることも、質問することも、感情をあらわにすることも、話すことさえできないようでした。みんな虚ろな眼でこちらを見るだけ。しばらくすると彼らは、建物のなかへと追い立てられていきました」
看守たちは、炎天下の中庭にメイセムを8時間にわたって放置した。彼女の肌は真っ赤になり、熱傷を起こしてひりひり痛んだ。
熱傷を起こした皮膚の痛みが、彼女を現実へと引き戻した。それから数時間、自宅での暮らしについての朦朧とした夢と無意識のあいだを行ったり来たりした。
看守はメイセムにたいし、両手を上げた姿勢をもとに戻すように言った。それから、彼女は監房に連れていかれた。一般的な住宅の居間と同じ30平方メートルほどの室内には、20人ほどの女性がおり、2台のカメラが設置されていた。
メイセムの眼には、女性たちが放心状態にあるように見えた。座っている人も立っている人もみな、ぼんやりと遠くを見つめていた。
「わたしは誰にも話しかけなかったし、彼女たちもわたしには話しかけてきませんでした。誰もお互いを信用していなかった」
メイセムの直感は正しかった。
その夜、メイセムは一睡もできなかった。彼女の2段ベッドの横にはバケツが置かれており、女性たちが夜どおし代わる代わるやってきて排尿・排便した。室内にはひどい汚臭が充満していた。
床にセンサー、シャワー室にカメラ
その日からメイセムは、強制収容所の監視システムについて多くを学んだ。誇らしげな党の幹部が、自分たちの“能力”について囚人に向かって自慢げに話すこともあった。彼らは、囚人をたんに脅そうとしていただけではない。ひねくれた方法ではあるものの、そこには相手を感心させようとする思惑もあるようだった。
カメラは、女性用トイレやシャワー室にも設置されていた。メイセムによると、男性の看守たちが制御室からこれらのカメラの映像を見て、音まで聞いていたという。メイセムがそれを知ったのは、制御室の開いた戸口から室内をこっそりのぞき込んだときだった。壁一面に、収容所のカメラの映像を映し出すモニターが並んでいた。
「わたしたち囚人が生きるも死ぬも、それは政府次第」
そう思い詰めて過ごすメイセムだったが、幸いにも方々に手を尽くした母親の献身が奏功し、この拘留センターを出ることに成功する。再び「再教育センター」に連れていかれたメイセムは故郷を離れる決意を固めた。ただそれを実行するために、彼女は恐ろしいほどの代償を払うことになる。
愛する母親と別れる瞬間、母親はこうメイセムに伝えた。
「これで、きっとしばらく会えなくなる。でも、あなたに与えられた贈り物のことを忘れないで。あなたが経験したことは、贈り物なのよ。だって、あなたは安全なところに行き、そこで成長できる。ここで何が起きているのか、やがて世界は知ることになる」
***
ウイグル自治区研究の第一人者でドイツ出身の人類学者、アドリアン・ゼンツによれば、2016年から2017年にかけて新疆の学校、警察署、スポーツセンターがつぎつぎに拘留施設へと改修され、くわえて地域の治安維持の予算が92.8%増加していた。
「収容されている人数は最低でも10万人、最大で100万人強にのぼると考えられます」とゼンツは私に説明した。100万人強というのは、ウイグル人住民1100万人の約10分の1に相当する。
これはゼンツが調査をはじめたばかりの早い段階の数字、のちに彼は推定値の上限を引き上げ、2017年の春以降、拘留施設に収容された人数は最大で180万人にのぼる可能性があると訴えている。
ジェフリー・ケイン Geoffrey Cain
アメリカ人の調査報道ジャーナリスト/テックライター。アジアと中東地域を取材し、エコノミスト誌、タイム誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多数の雑誌・新聞に寄稿。2020年発表のデビュー作『Samsung Rising: The Inside Story of the South Korean Giant That Set Out to Beat Apple and Conquer Tech』(『サムスンの台頭』[未訳])はフィナンシャル・タイムズ紙とマッキンゼー社が主催するビジネス本大賞候補に選ばれた。現在はトルコ・イスタンブールに在住。本書執筆のために168人のウイグル人の難民、技術労働者、政府関係者、研究者、学者、活動家、亡命準備中の元中国人スパイなどにインタビュー取材を行った。Twitter:geoffrey_cain
濱野大道(はまの・ひろみち)
翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)卒業、同大学院修了。訳書にロイド・パリー『黒い迷宮』『津波の霊たち』(早川書房)『狂気の時代』(みすず書房)、グラッドウェル『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』(光文社)、レビツキー&ジブラット『民主主義の死に方』(新潮社)などがある。
新疆の内部資料が大量流出 収容所の「衝撃的」実態浮き彫りに
2022年5月25日 5:44 発信地:北京/中国 [ 中国 中国・台湾 ]
中国・新疆ウイグル自治区テケス県の収容所で行われた訓練の様子を写したとみられる写真。米NPO「共産主義犠牲者記念財団」が公開(撮影日不明。2022年5月24日公開)。(c)AFP PHOTO/THE VICTIMS OF COMMUNISM MEMORIAL FOUNDATION
【5月25日 AFP】中国当局から流出した新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)に関する数万点の内部資料が24日、米団体により公開された。資料には数千枚の写真や公文書が含まれ、同自治区でウイグル人などの少数民族が暴力的な手段で収容された実態が改めて浮き彫りとなった。
資料は、匿名の人物が新疆の公式データベースをハッキングして入手し、米NPO「共産主義犠牲者記念財団(Victims of Communism Memorial Foundation)」に所属するドイツ人研究者アドリアン・ツェンツ(Adrian Zenz)氏に提供。ミチェル・バチェレ(Michelle Bachelet)国連人権高等弁務官による新疆訪問を控え公開された。
活動家によると、新疆ではイスラム教徒を中心とするウイグル人ら少数民族100万人以上が収容所や刑務所に収容されてきた。一方、中国政府はこれら施設を職業訓練所としており、強制収容の事実はなく、過激な宗教思想の根絶を目的とした施設だと説明している。
だが、公開された写真や文書からは、収容が自発的なものではなかったことや、習近平(Xi Jinping)国家主席をはじめとする政権上層部が厳しい取り締まりを呼び掛けていたことが示されている。
資料によると、同自治区の陳全国(Chen Quanguo)共産党委員会書記は2017年の演説で、収容所から脱走を試みる者は射殺するよう命じ、地元の役人に「宗教信者を厳重に管理する」よう要請。趙克志(Zhao Kezhi)公安相は18年の演説で、習国家主席が収容所の増設を指示したことに言及したとされる。
さらに、警察から流出した被収容者の写真2800枚以上も公開された。こうした被収容者の中には、違法な演説を聞いたとして拘束された17歳や、別の被収容者の親族だという理由で拘束されたとみられる16歳も含まれている。
AFPが先に入手した警察の名簿でも、一度に数百人の住民が捕らえられ、一つの世帯から多数の人が拘束されることも頻繁にあったことが示されている。今回の資料の一部は、英BBCや仏紙ルモンド(Le Monde)などの報道機関によって信ぴょう性が確認された。
資料からは、収容所内部の様子も浮き彫りとなった。訓練の場面とみられる写真には、被収容者の姿をした人々が頭を袋状の物で覆われて手錠をかけられた状態で、警棒を持った警察官によって拘束され、迷彩服を着て銃を構えた他の警察官に囲まれる様子が写されている。
英国のリズ・トラス(Liz Truss)外相は、流出した資料の内容は「衝撃的」だと非難。中国を訪問中のバチェレ氏が現地の状況を的確に把握できるよう、「完全かつ制限のない」視察を許可するよう中国側に要請した。
一方、中国外務省の汪文斌(Wang Wenbin)報道官は、流出資料を「新疆を中傷する反中国勢力」による「寄せ集めの資料」と断じ、報道機関が「うそとうわさを広めている」と非難した。(c)AFP
【5月25日 AFP】中国当局から流出した新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)に関する数万点の内部資料が24日、米団体により公開された。資料には数千枚の写真や公文書が含まれ、同自治区でウイグル人などの少数民族が暴力的な手段で収容された実態が改めて浮き彫りとなった。
資料は、匿名の人物が新疆の公式データベースをハッキングして入手し、米NPO「共産主義犠牲者記念財団(Victims of Communism Memorial Foundation)」に所属するドイツ人研究者アドリアン・ツェンツ(Adrian Zenz)氏に提供。ミチェル・バチェレ(Michelle Bachelet)国連人権高等弁務官による新疆訪問を控え公開された。
活動家によると、新疆ではイスラム教徒を中心とするウイグル人ら少数民族100万人以上が収容所や刑務所に収容されてきた。一方、中国政府はこれら施設を職業訓練所としており、強制収容の事実はなく、過激な宗教思想の根絶を目的とした施設だと説明している。
だが、公開された写真や文書からは、収容が自発的なものではなかったことや、習近平(Xi Jinping)国家主席をはじめとする政権上層部が厳しい取り締まりを呼び掛けていたことが示されている。
資料によると、同自治区の陳全国(Chen Quanguo)共産党委員会書記は2017年の演説で、収容所から脱走を試みる者は射殺するよう命じ、地元の役人に「宗教信者を厳重に管理する」よう要請。趙克志(Zhao Kezhi)公安相は18年の演説で、習国家主席が収容所の増設を指示したことに言及したとされる。
さらに、警察から流出した被収容者の写真2800枚以上も公開された。こうした被収容者の中には、違法な演説を聞いたとして拘束された17歳や、別の被収容者の親族だという理由で拘束されたとみられる16歳も含まれている。
AFPが先に入手した警察の名簿でも、一度に数百人の住民が捕らえられ、一つの世帯から多数の人が拘束されることも頻繁にあったことが示されている。今回の資料の一部は、英BBCや仏紙ルモンド(Le Monde)などの報道機関によって信ぴょう性が確認された。
資料からは、収容所内部の様子も浮き彫りとなった。訓練の場面とみられる写真には、被収容者の姿をした人々が頭を袋状の物で覆われて手錠をかけられた状態で、警棒を持った警察官によって拘束され、迷彩服を着て銃を構えた他の警察官に囲まれる様子が写されている。
英国のリズ・トラス(Liz Truss)外相は、流出した資料の内容は「衝撃的」だと非難。中国を訪問中のバチェレ氏が現地の状況を的確に把握できるよう、「完全かつ制限のない」視察を許可するよう中国側に要請した。
一方、中国外務省の汪文斌(Wang Wenbin)報道官は、流出資料を「新疆を中傷する反中国勢力」による「寄せ集めの資料」と断じ、報道機関が「うそとうわさを広めている」と非難した。(c)AFP
「新疆公安ファイル」流出の衝撃 弾圧の実態示す決定的証拠
2022年6月10日
日本ウイグル協会副会長 レテプ・アフメット氏に聞く
中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害問題に関し、中国当局が少数民族ウイグル族を強制収容していた残酷な実態を裏付ける内部資料「新疆公安ファイル」が先月下旬流出し、世界中のメディアが一斉に報じた。2万人以上の収容者リストや約2900人の顔写真、中国共産党幹部の弾圧指示発言など、中国当局が行っていた弾圧があらわになった。衝撃的な資料の流出を受け、日本を含む国際社会はどう対応すべきか、日本ウイグル協会副会長のレテプ・アフメット氏に聞いた。
(聞き手=村松澄恵、辻本奈緒子)
国際社会は中国に圧力を
日本企業は道徳的責任果たせ
ー今回流出した内部資料はどのような意味を持つか
中国当局が徹底した情報遮断を行う中で、入手可能な最大限の決定的証拠だ。今までは衛星写真などで撮影した建物の外観や運良く海外に逃れた生還者たちの証言しかなかった。
証言者は「武装した警官が立ち会う中で注射を打たれた」「常に手足が鎖でつながれていた」などと話していたが、世の中は「さすがにそこまでしないだろう」と信じてくれなかった。「新疆公安ファイル」により、これまでの証言を裏付ける証拠が出てきた。
ー中国当局は強制収容所を「職業技能教育訓練センター」「学校」などと称し、ウイグル人が自主的に入っていると主張している
流出した写真のような非人道的な扱いを受ける場所に、誰も喜んで入るはずがない。そんなに立派な場所なら習近平国家主席自身が入って1年くらい過ごしてみろと言いたい。
写真に映る人たちの目を見れば、恐怖におびえ、泣き崩れそうなのが感じ取れるはずだ。私の父と弟を含む親族12人が2017年7月に「学校」に行ったとの連絡があった。それからどうなったのか、5年間一切連絡がない。だからこそ、「自分から望んで入っている」という中国当局の話は許せない。
ーロシアによるウクライナへの蛮行は世界中から非難を受け、制裁が加えられた。これに対し、ウイグル問題への国際社会の対応は不十分だ
中国は都合の良いメディアや外交官を対象としたツアーを組み、事前に準備したきれいな場所だけを見せる芝居をしていた。ロシアのウクライナ侵攻は自由に各国のカメラが入れるかどうかが違うだけで、どちらも虐殺が行われている点では一緒だ。
だが、新疆ウイグル自治区にはカメラが入れないために、国際社会は「本当にそんなことが起きているか確認できない」として、中国に制裁を加えることができなかった。日本を含む世界各国の親中派学者に「欧米の陰謀だ」と非難させたことも、各国政府が疑念を抱き、制裁を科せなかった理由の一つだ。
ー内部資料の流出は、ちょうど国連のミシェル・バチェレ人権高等弁務官の調査チームが訪中するタイミングだった
国連の担当者が新疆ウイグル自治区を2日間視察したが、結局何もできなかった。中国は国際社会を芝居でだまして時間稼ぎをしている。
強制収容所のような劣悪な環境下に数年置かれれば誰もが弱る。収容所ができて約5年が過ぎた今、既に多くの人が亡くなっているはずだ。さらに4~5年すれば、「皆、自然と死んでいった」とする中国の説明を聞くことになるだろう
本当に悪いことをしていないと言うならば、中国は尾行も制限も設けず、海外のウイグル人も同行した調査チームを受け入れるべきだ。国際社会は現場を見せろと強く主張してほしい。
ーバイデン米政権のウイグル問題への対応をどう見る
バイデン政権はトランプ前政権とはやり方が異なるが、新疆ウイグル自治区でジェノサイドが起きているという認識を何度も示している。
米国では今月21日に、「ウイグル強制労働防止法」が施行される。これによって、強制労働の関与の疑いがある製品の輸入が原則禁止となり、多くの企業が商売できなくなるだろう。米国はこの動きに同盟国を加わらせようとしていると思うので、ぜひ加速させてほしい。
ー
中国重視の経済界に伝えたいことは
今回出てきた証拠などにより、サプライチェーンの見直しなど今までより厳しい態度に少しは変わるだろうが、最終的には経済利害関係の問題になる。人間として道徳的、人道的な責任を果たしてほしい。お金のためなら責任を放棄していいのか。何のために企業活動をしているのか考えてほしい。
いずれウイグル問題の全容が明らかになる日が来る。目先の利害関係を優先し、今回のような証拠を無視して商売を続けていた企業は社会的責任が問われる時代になるのではないか。
ー日本の対応はどうか
米国のように中国に対して制裁を科すとともに、衆議院で通った対中非難決議を参議院でも採択してほしい。
ただ、今回、決定的証拠が出てきたにもかかわらず、公明党が後ろ向きな姿勢だと聞く。日本にも中国の人権侵害を深刻に捉える議員もいるが、全体ではまだまだ足りないと感じる。
ー日本の一般市民ができることは。
ジェノサイドを止めさせるために、個人でできることがあることをまず認識してほしい。例えば、強制労働に関与していると指摘される企業の製品を買わない、そしてこれら企業に投資しないことなどだ。
他にも、自分の住む自治体に陳情をしてほしい。現在、私が把握しているだけで96の地方議会が意見書を採択して、国に積極的な調査と対処を求めている。この動きが広がり、さらに多くの自治体から正式な声が届けば、国民の声として無視できなくなるだろう。
中国のウイグル人権侵害、国連で非難 日米英など50か国
2022年11月1日 9:25 発信地:国連/米国 [ 米国 北米 中国 中国・台湾 ]
トルコ・イスタンブールの中国領事館近くで、家族の解放を求めてデモを行うウイグル人(2021年2月22日撮影)。(c)Ozan KOSE / AFP
【11月1日 AFP】国連総会(UN General Assembly)の人権問題を扱う第3委員会の会合が10月31日に開かれ、日米英など50か国が、中国による新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)での「深刻かつ組織的な」人権侵害を非難する声明を出した。
カナダの国連大使が代表して声明を読み上げ、「中華人民共和国における人権状況、特に新疆ウイグル自治区で起きているウイグル人らイスラム教徒の少数民族に対する人権侵害への深刻な懸念」を表明した。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月、同自治区に関する報告書を発表し、ウイグル人らへの人権侵害が人道に対する罪に相当する可能性があると指摘した。中国政府はこれを否定し、テロ対策や地域の開発計画を実施していると主張していた。
50か国は声明で「深刻かつ組織的な人権侵害をテロ対策の下で正当化することはできない。OHCHRの評価の重大性を踏まえ、中国が報告書に基づく議論をこれまで拒否してきたことを懸念している」と述べた。
声明はさらに中国に対し、OHCHRの勧告に従って新疆ウイグル自治区で拘束されている人々を解放するとともに、行方不明者に関する情報を直ちに明らかにするよう求めた。
声明にはフランス、オーストラリア、イスラエル、トルコ、グアテマラ、ソマリアなども署名した。(c)AFP
トルコ・イスタンブールの中国領事館近くで、家族の解放を求めてデモを行うウイグル人(2021年2月22日撮影)。(c)Ozan KOSE / AFP
【11月1日 AFP】国連総会(UN General Assembly)の人権問題を扱う第3委員会の会合が10月31日に開かれ、日米英など50か国が、中国による新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)での「深刻かつ組織的な」人権侵害を非難する声明を出した。
カナダの国連大使が代表して声明を読み上げ、「中華人民共和国における人権状況、特に新疆ウイグル自治区で起きているウイグル人らイスラム教徒の少数民族に対する人権侵害への深刻な懸念」を表明した。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月、同自治区に関する報告書を発表し、ウイグル人らへの人権侵害が人道に対する罪に相当する可能性があると指摘した。中国政府はこれを否定し、テロ対策や地域の開発計画を実施していると主張していた。
50か国は声明で「深刻かつ組織的な人権侵害をテロ対策の下で正当化することはできない。OHCHRの評価の重大性を踏まえ、中国が報告書に基づく議論をこれまで拒否してきたことを懸念している」と述べた。
声明はさらに中国に対し、OHCHRの勧告に従って新疆ウイグル自治区で拘束されている人々を解放するとともに、行方不明者に関する情報を直ちに明らかにするよう求めた。
声明にはフランス、オーストラリア、イスラエル、トルコ、グアテマラ、ソマリアなども署名した。(c)AFP
アメリカ同時多発テロ事件20年~「テロとの戦い」何を生んだ?
2021年9月10日 17時59分
「アメリカが安全になったとは思わない」
「最悪中の最悪のテロリスト」とアメリカ政府が呼んだ人々が拘束されてきたグアンタナモ収容所。そこで14年間にわたって捕らえられていた人物が語った言葉だ。
拷問などを理由に国際社会から批判を浴びてきたこの施設。収容されたおよそ800人のうち、起訴に向けた手続きまで進んだのは10人余りにとどまっている。
ほとんどがテロとの関わりは立証されず釈放されていった。
世界に衝撃を与えたアメリカ同時多発テロ事件から20年。
アメリカは安全になったのか。(ワシントン支局記者 辻浩平)
「テロとの戦い」の象徴
「レディース&ジェントルマン、グアンタナモへようこそ」
グアンタナモ基地に着陸したアメリカ軍のチャーター機で機内アナウンスが流れる。
この夏、基地内の収容所の取材が許可された。アメリカ同時多発テロ事件をきっかけに始まった「テロとの戦い」を象徴する施設だ。
グアンタナモ基地はカリブ海に浮かぶキューバの南東部に位置している。アメリカが100年以上にわたり租借している土地だ。同時多発テロ事件後、アメリカの国内法が適用されないこの特殊な場所にグアンタナモ収容所は設置された。
アメリカ政府が「最悪中の最悪のテロリスト」と呼んだ、テロ組織との関係が疑われた外国人800人近くがこれまでに拘束されてきた。無期限の拘束や拷問が行われているなどとして国際社会からは批判が相次いだ。
だが、そうした事前知識とは裏腹に基地内の風景は拍子抜けするほど平穏だった。基地内には他のアメリカ軍基地でも見かけるファストフード店にショッピングモール、ボーリング場などが並ぶ。
しかし、いったん撮影に入ると、取材は厳しく制限され、現在使われている収容施設の撮影や収容者へのインタビューは許可されなかった。
公開されたのは20年近く前に最初に建設された収容施設だった。今は使われておらず、雑草が伸び放題となっていた。
撮影した映像は基地を出る前にすべてチェックされ、セキュリティーを理由にその多くが消去を求められた。アメリカ政府が今も神経をとがらせているのがうかがえる。
施設内で何が行われていたのか。
元収容者が取材に応じてくれることになり、私たちはバルカン半島に位置するセルビアの首都ベオグラードに向かった。
「私は20代というものを知らない」
インタビューに答えてくれたのは、中東 イエメン出身のマンスール・アダイフィさん。14年間にわたりグアンタナモ収容所で拘束された人物だ。母国が内戦中であることを理由に、釈放後もアメリカ政府が帰国を認めず、受け入れに同意したセルビアで暮らしている。
2001年、テロ組織に関する研究活動を手伝うために訪れていたアフガニスタンで地元の軍閥に捕らえられ、その後アメリカ軍に引き渡された。アメリカのCIA=中央情報局などがテロ組織との関係が疑われる人物と引き換えに支払っていた報奨金目的で引き渡されたと見られている。
アダイフィさんはグアンタナモで一から学んだという流ちょうな英語で語り始めた。
アダイフィさん
「同時多発テロ事件にもあらゆるテロ組織にも一切関与していませんでした。何もわからないままグアンタナモに連れて行かれました」
収容所では、アダイフィさんを国際テロ組織アルカイダに関わりがあるエジプトの元軍人だと思い込んでいた取調官から繰り返し尋問されたという。
取調官
「ビンラディンはどこにいるんだ?」
「核施設の標的はどこだ?」
「次の標的は何だ?」
テロとの関わりを否定し続けるたびに、アダイフィさんは「嘘をつくな」と暴力を振るわれ、取り調べには拷問のような虐待が加わっていったという。
結局、テロとの関わりは立証されず、5年前に釈放。
アメリカ政府から謝罪や補償はなかった。
14年にわたった拘束。釈放された時には33歳になっていた。20代のすべてをグアンタナモで過ごしたアダイフィさんは失われた時間についてこう語った。
アダイフィさん
「私は20代がどういうものかわかりません。20代で経験したのは拷問だけです。普通の20代はどう過ごしますか。大学に行き、仕事を見つけ、結婚し、子どもや家庭を持つでしょう。そのどれも経験することができませんでした」
「グアンタナモは失敗だった」
グアンタナモではアダイフィさんのようにテロとの関与が立証されないケースが相次いでいる。それはなぜなのか。訴追に関わっていた当時のアメリカ軍関係者が実情を語った。
収容者たちを裁く特別軍事法廷で検察官を務めたスチュアート・カウチさん。
友人を同時多発テロ事件で亡くしている。
同時多発テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込んだ旅客機の副操縦士が海兵隊時代の親友だったのだ。
テロ行為に憤りを感じていたカウチさんは、「テロリストに法の裁きを下す」と当初、大きな責任と誇りを感じていた。
しかし、訴追に向けた資料集めのためにグアンタナモを訪れた際、カウチさんは収容者が置かれていた状況を目の当たりにすることになる。そこでは真っ暗にした部屋にフラッシュライトが点滅し、大音量でヘビーメタルがかけられる中、収容者が手錠と足かせで身動きできない状況で、尋問にかけられていたという。
カウチさん
「それを見た瞬間、怒りがわき起こり、吐き気すらしました。拷問が情報を引き出すのに効果的ではないと知っていたからです。アメリカは法の支配を信じる国です。にもかかわらず政府の中に(国際条約で禁止されている拷問を行い)法を曲げてもいいと許可した人物がいたことに怒りを感じたのです」
拷問によって得られた自白は信頼性に欠けるため、裁判で証拠として使うことはできない。そう考えたカウチさんは次々と訴追を断念していった。
カウチさん
「罪を犯した人間が自由の身でいられることより悪いことが1つだけあります。それは無実の人間が刑務所に行くことです。グアンタナモで起きたことは控えめに言って失敗で、最悪のケースでは無関係な人の拘束もありました」
グアンタナモに収容された779人のうち、同時多発テロ事件に関与したなどとして起訴に向けた手続きまで進んだのは10人余り、有罪となったのはわずか2人にとどまっている。ほとんどの収容者はテロとの関わりは立証されず釈放されていった。
「最後に笑う者が最も笑う」
グアンタナモはアメリカや世界をより安全にしたのだろうか。
アダイフィさんは今、大学に通いながら他の収容者が釈放後にどのような経過をたどっているのかを調べ論文にまとめている。その中には再び、アメリカとの戦闘の場に戻っていった人もいる。
アダイフィさんは、グアンタナモが反米感情をあおることにつながったと考えている。
ことし8月、それを裏付けるようなことが起きた。
武装勢力タリバンが再び権力を掌握したアフガニスタン。首都カブールが陥落したその日、大統領府に入ったタリバンの戦闘員たちを撮影したとする映像にグアンタナモの元収容者が映っていたのだ。
アダイフィさんと同じ建物に収容されていた人物だった。
かつてアメリカが拘束していた人物らがアメリカが支援してきた政権を崩壊に追い込み、アメリカ軍が混乱を残したまま撤退する事態。
映像を投稿した別の元収容者はツイッターに、アメリカをあざ笑うかのような言葉をつづっていた。
「彼はグアンタナモでアメリカ兵にこう言っていた。『戦いはまだ終わっていない。最後に笑う者が最も笑うのだ』」
今週、タリバンが発表した暫定政権の閣僚らの中には、グアンタナモの元収容者が4人も含まれていた。アメリカ政府がおととし機密解除した文書によると、グアンタナモから釈放後、テロ行為に関与したりテロ組織と接触したりした元収容者は全体の17%にのぼるという。
アダイフィさんはこう指摘する。
アダイフィさん
「グアンタナモはイスラム過激派組織のプロパガンダに使われています。アメリカがイスラム教徒にどのような仕打ちをしたのか示すのに利用されているのです。グアンタナモがアメリカを安全にしたとは思わない」
過激派組織IS=イスラミック・ステートがアメリカ人など外国人ジャーナリストを殺害する映像では、犠牲者はいつもオレンジ色の囚人服を着せられていた。
これはグアンタナモ収容者の囚人服の色に由来するプロパガンダで、まさに反米のシンボルとなってきたのだ。
オバマ元大統領も在任時、「グアンタナモ収容所はアメリカの安全保障を強化するどころか損なうことになった」と認めている。
「私自身が選択できる」
私はアダイフィさんに取材の最後にこう尋ねた。
「アメリカ政府に対して今も憤りを感じていますか」
アダイフィさん
「もちろん怒りや憎しみ、怨念すら持ち続けていました。でも、怒りにとらわれたまま生きるのか、それとも憎しみを過去のものにして前に進むのか、それは私自身が選択できるのです。失われた時間を取り戻し、結婚し、家庭を持ち、子どもを育てる。そんな当たり前の人生を送りたい。憎しみを抱き続けた段階を経て、ようやくそうした心境になりました」
取材のあいだ中、アダイフィさんは常に明るいオレンジ色のスカーフを身につけていた。グアンタナモの囚人服の色だ。つらい日々を思い出してしまうことはないのかと聞くとアダイフィさんは笑いながら答えた。
アダイフィさん
「オレンジという色自体に罪はありません。この色を嫌いになってしまうことこそが怒りにとらわれることなのです。過去を乗り越えて前に進んで行く、そう自分に言い聞かせるためにもオレンジ色のスカーフをしています」
20年の戦いで得られたもの
アメリカのバイデン政権はグアンタナモ収容所を閉鎖する方針を示している。しかし、その道は平坦ではない。オバマ元大統領も閉鎖を公約に掲げたが、議会の反対などによって実現できなかった。
アメリカ同時多発テロ事件から20年。
今も世界各地でテロの脅威は消えず、国際テロ組織が企てる組織的なテロから過激な思想に染まった単独犯や過激な地域組織によるテロ活動に形を変えるなどして残っている。
「テロとの戦い」によってアメリカは安全になったのか。
答えが明確にならない中で、グアンタナモ収容所では今も39人の拘束が続いている。
ワシントン支局記者
辻 浩平
鳥取局 エルサレム支局
盛岡局 政治部を経て
2020年から現所属
参考文献・参考資料
新疆に関する米国のうそ、アラブ世界が信じないのはなぜか (msn.com)
「デジタルの牢獄」と化したウイグルの恐ろしい実態…収容所送りにされた少女「メイセム」の証言(抜粋) | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)
新疆の内部資料が大量流出 収容所の「衝撃的」実態浮き彫りに 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News
「新疆公安ファイル」流出の衝撃 弾圧の実態示す決定的証拠 | The Sekai Nippo DIGITAL (worldtimes.co.jp)
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